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【連載】

東海岸インターネットビジネス最前線

第20回:無料電子メール/ディレクトリサービス企業
――NeoPlanetのインキュベータ:Bigfoot

http://www.bigfoot.com/

 米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)


Leonard Barshack
Leonard Barshack共同設立者兼CEO
 先週シリコンアレーを大きく騒がせたニュースに、Razorfish(本連載第2回参照)によるi-Cubeの買収があった。1995年に若者2人で始めたスタートアップ(新興)企業は、6億7,700万ドルでマサチューセッツ州が本社のi-Cubeを買収し、現在では世界11カ国で社員1,000名を抱える強力なWebコンサルティングのパワーハウスにのし上がった。このようなシリコンアレー企業の著しい成長ぶりに対して、Bill Gross氏率いるidealab!もニューヨークに支社を設立する予定がある(「@NY」1999年7月8日付)など、インキュベータや投資家達の注目が集まっている。

 この中で、Razorfishと同年に設立され、未だに独立を保っているのが、無料電子メール/ディレクトリサービス企業のBigfootである。インターネット体験を容易にするという目的で、Leonard Barshack氏とJim Hoffman氏により設立された同社は、電子メールディレクトリ、および無料の電子メール転送サービス「Bigfoot for Life」を提供している。

 同社は1997年、データ管理サービス企業の大手であるAcxiomから400万ドルの投資を受け、電子メール・ダイレクトマーケティングの「E-mail Campaign Management(ECM)」サービスを開始した。また同年、Webブラウザーのアドオンソフトウェア「NeoPlanet」を開発するなど、次々に新たなビジネスに乗り出し、各分野で成功を収めている。

 昨年から、Bigfoot Internationalという親会社のもと、Bigfoot for Life、ECM、NeoPlanetの3種類のビジネスを展開している同社は、今年1月のNeoPlanetのスピンオフに見られるように、インキュベータとしての役割を強めている。同社の成功の秘訣と将来の展望を、Leonard Barshack共同設立者兼CEOに尋ねてみた。



●生涯使える電子メール:Bigfoot for Life

View
Bigfoot本社からの眺め。マンハッタンの
コロンバス・サークル
 Barshack氏は、Bigfoot for Lifeを「生涯使える無料電子メールアドレス」と表現する。同氏は「もし、ISPを替えたいと思っても、電子メールアドレスの変更を友人に知らせたり何かと面倒だ。しかし、Bigfoot for Lifeのアカウントを利用すれば、同アカウントに送られた電子メールを自動的に現在使用しているISPに転送するので、会社やISPを何度替えてもアカウントの変更を知らせる必要がなくなる」と語る。

 現在150万人の定期ユーザーを抱えるBigfoot for Lifeは、その他にも、最大5人にまで同じ電子メールを自動配信するサービス、ユーザーが指定した特定のメールやスパムメールを排除するフィルタリングサービス、祝日や誕生日を知らせるリマインダーサービス、休暇などで長期間メールをチェックできない場合に自動的にメールを返信する「Auto Responder」サービスなどを無料で提供している。

 Bigfoot for Lifeは、Juno Online Services(本連載第17回参照)やHotmailなどのように広告による売上は一切得ていない。その代わり、複数の電子メールアドレスに送られたメールを統合するプレミアムサービスを年間19.95ドルで提供している。また、昨年5月、ベル系地域電話会社のBellSouthがWebベースの無料電子メールサービスを開始する際、同社のバックエンドプロバイダーになる契約を結んだ。これにより、Bigfoot for Lifeは、プレミアム料金の他にも、アウトソーシングによる収入源を確保した。

 同社はまた、Bigfoot for LifeのWebサイトバージョンとも言える「PermaWeb」を提供している。これは「http://www.bigfoot.com/~自分の名前」というURLを作成し、このURLにリンクを張れば、自動的に指定したWebサイトに転送するサービスである。さらに、2,500万人という最大規模の電子メールディレクトリサービスも提供している。



●“オプトアウト”サービスも提供:ECM

David Finkel
David Finkelビジネス開発ディレクター
 Bigfootが特に力を入れているビジネスとして、電子メール・ダイレクトマーケティングのE-mail Campaign Management(ECM)が挙げられる。Barshack氏は「ECMは、インタラクティブ・ダイレクトマーケティングの包括的なソリューションを提供する数少ない企業である。新たな巨大市場であるこの分野には多数の企業が参入しているが、ある企業は電子メールの配信のみ、ある企業はコンサルティングのみに携わり、包括的なサービスを提供しているケースは少ない」と語る。

 NetCreations(本連載第15回参照)との違いに関しては、同氏は「彼らは電子メールリストのブローカーであり、リストを購入したい場合はNetCreationsが最適だろう。我々は、マーケティング/コンサルティング、電子メール配信、リアルタイムトラッキング/リポーティングをすべて提供している」と語る。また、ユーザーがメール受信を断わる意思表示を行なった場合、リクエストに対して確認のメールを自動返信し、そのユーザーのアカウントを電子メールリストから自動的に削除する“オプトアウト”サービスも提供している。現在、クライアントにはEddie Bauer、InteliData、Iomega、Microsoft、Symantec、The Learning Companyなどが名を連ねている。

 BigfootはECMの立ち上げ時にAcxiomから400万ドルの投資を受けており、さらに昨年6月にはAcxiomやConstellation Venturesから再び1,100万ドルの投資を受けている。BigfootのDavid Finkelビジネス開発ディレクターは「AcxiomはFortune 500社のデータ収集分析などを行なっている最大のデータベース企業であり、彼らとの提携は我々にとり非常に重要だ」と語る。



●デスクトップポータル:NeoPlanet

NeoPlanet
ユーザーから提出されたスキンの一例
 Bigfootを一躍有名にしたのが、Internet ExplorerのアドオンソフトウェアであるNeoPlanetだ。これは、Webブラウザーのデザインや色(NeoPlanetでは“スキン”と呼ぶ)を自由に変更できるほか、たとえば“ゲーム”や“スポーツ”などのトピック別の“チャンネル”をブラウザー上に作成できる。しかも、ユーザーは自分で作成したスキンやチャンネルをNeoPlanetのサイトに掲載することができるので、他のユーザーとスキンやチャンネルを共有することが可能になる。

 Barshack氏は「Yahoo!やLycosなどのポータルサイトは、包括的なデスティネーションサイトになろうとしているが、真のソリューションはクライアントに常駐するブラウザー環境を構築することだ。NeoPlanetは便利で使い易いブラウザー環境を提供しており、新たなポータルになる可能性を秘めている」と語る。つまりNeoPlanetは、ユーザーが瞬時に他のサイトに移動できるWebサイトポータルではなく、デスクトップに常駐する“デスクトップポータル”として定着することを狙っている。

 NeoPlanetのユーザー数は、バージョン2.0が発表された昨年11月には10万人程度だったが、今年5月には130万人に増加している。今年1月、Network Associatesの投資を受け、NeoPlanetはBigfootからスピンオフし、4月にはオフィスを通称“シリコンデザート”と呼ばれるアリゾナ州フェニックスに移転した。移転の理由としてBarshack氏は「フェニックスは優れたプログラマーが多いが、シリコンバレーのように競争が激しくないという利点があるからだ」と語る。元Intelでコンテンツ技術ディレクターを務めたDrew Cohen氏が、NeoPlanetの社長兼CEOに就任している。



●Bigfoot設立のきっかけは妻の一言

SkinDownload
スキンの名前、作者の過去の作品を掲載。
気に入ればダウンロードできる
 Barshack氏は、オハイオ大学のThe Honor Tutorial Collegeで数学を専攻し、1978年にはコンピュータソフトウェアの販売会社、A Bit Betterを設立した。その後、ロンドンが本社のSmith New Courtで4年間、Salomon Brothersで10年間働いた経験を持つ。

 Bigfoot設立のきっかけになる電子メールディレクトリのアイデアを思いついたのは、妻の言葉だったという。同氏は「インターネットが市場に登場して以来、私はすっかりネット中毒になってしまった。ある日、私はオフィスに遊びに来た妻に『インターネットではどんな情報でもすぐに得られるよ』と得意気に言った。すると彼女は『友人のキャシーに電子メールを送りたい』と言い出した。私はキャシーの電子メールアドレスを必死で探したが、どこにも見あたらなかった」と語る。

 そこで、同氏は電子メールのディレクトリサイトを作成するアイデアを思いついたという。また、人々がインターネットで最初に使用したいと考えるツールは電子メールであり、その電子メールアドレスは常時変わるということから、生涯使える無料の電子メールアドレス、Bigfoot for Lifeを考えた。NeoPlanetに関しては、Barshack氏は「当時我が社で働いていたデベロッパーのJim Friskel氏がアイデアを出し、開発を進めた。Jimは非常に優れた人物だった」と語る。

 Bigfootという社名の由来を尋ねると「ビッグフット(日本では雪男、カナダではサスカッチ、ヒマラヤではイエティなどと呼ばれる伝説の野人)を探すという物語が、人々を探すという我々のコンセプトにぴったりだからだ。それに覚えやすいだろう」と同氏は説明した。



●将来はCMGIを目指す?

ChannelList
ユーザーから提出されたチャンネル一覧
 Bigfootは、今年1月のNeoPlanetのスピンオフに見られるように、インキュベータとしての役割を強めている。David Finkel氏は「たとえばNetwork AssociatesはNeoPlanetに、AcxiomはECMに興味を持っているように、投資家は特定のビジネスに興味を持っているため、別会社にした方が投資の対象になり易い。したがって、それぞれ異なる目的を持っているビジネスはスピンオフするのが自然だ」と語る。

 これは、複数のインターネットビジネスを構築し、それぞれのビジネスに興味を持つ投資家達のポートフォリオを集めるというCMGIのビジネス戦略と似通っている。将来は、CMGIのようなインキュベータとしてBigfoot Internationalのもとに多様なインターネット企業が集まることを目指しているのかもしれない。Barshack氏は、これに対してはノーコメントだった。

 Bigfoot for Lifeの買収に数社が名乗りをあげているという噂に関しては、Finkel氏は「最近、数社から買収の誘いがあったことは事実だ。しかし、IPO、提携、買収のどれを選ぶかはまだわからない」と語った。Barshack氏は、将来的な展望として「3社ともまったく異なるビジネスモデルを有しているので、それぞれ異なる戦略を考えている」とだけ語った。

('99/8/20)

[Reported by HIROKO NAGANO, NY]


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