米国でのインターネット業界では、メーカーやソフトハウスの集まった西海岸「シリコンバレー」だけでなく、最近ではコンテンツやビジネス面で東海岸「シリコンアレー」(シリコン通り)が注目を集めています。この連載ではそうしたシリコンアレーから登場していく注目の企業を紹介していきます。(編集部)
この中で、Razorfishと同年に設立され、未だに独立を保っているのが、無料電子メール/ディレクトリサービス企業のBigfootである。インターネット体験を容易にするという目的で、Leonard Barshack氏とJim Hoffman氏により設立された同社は、電子メールディレクトリ、および無料の電子メール転送サービス「Bigfoot for Life」を提供している。
同社は1997年、データ管理サービス企業の大手であるAcxiomから400万ドルの投資を受け、電子メール・ダイレクトマーケティングの「E-mail Campaign Management(ECM)」サービスを開始した。また同年、Webブラウザーのアドオンソフトウェア「NeoPlanet」を開発するなど、次々に新たなビジネスに乗り出し、各分野で成功を収めている。
昨年から、Bigfoot Internationalという親会社のもと、Bigfoot for Life、ECM、NeoPlanetの3種類のビジネスを展開している同社は、今年1月のNeoPlanetのスピンオフに見られるように、インキュベータとしての役割を強めている。同社の成功の秘訣と将来の展望を、Leonard Barshack共同設立者兼CEOに尋ねてみた。
Bigfoot本社からの眺め。マンハッタンの コロンバス・サークル |
現在150万人の定期ユーザーを抱えるBigfoot for Lifeは、その他にも、最大5人にまで同じ電子メールを自動配信するサービス、ユーザーが指定した特定のメールやスパムメールを排除するフィルタリングサービス、祝日や誕生日を知らせるリマインダーサービス、休暇などで長期間メールをチェックできない場合に自動的にメールを返信する「Auto Responder」サービスなどを無料で提供している。
Bigfoot for Lifeは、Juno Online Services(本連載第17回参照)やHotmailなどのように広告による売上は一切得ていない。その代わり、複数の電子メールアドレスに送られたメールを統合するプレミアムサービスを年間19.95ドルで提供している。また、昨年5月、ベル系地域電話会社のBellSouthがWebベースの無料電子メールサービスを開始する際、同社のバックエンドプロバイダーになる契約を結んだ。これにより、Bigfoot for Lifeは、プレミアム料金の他にも、アウトソーシングによる収入源を確保した。
同社はまた、Bigfoot for LifeのWebサイトバージョンとも言える「PermaWeb」を提供している。これは「http://www.bigfoot.com/~自分の名前」というURLを作成し、このURLにリンクを張れば、自動的に指定したWebサイトに転送するサービスである。さらに、2,500万人という最大規模の電子メールディレクトリサービスも提供している。
David Finkelビジネス開発ディレクター |
NetCreations(本連載第15回参照)との違いに関しては、同氏は「彼らは電子メールリストのブローカーであり、リストを購入したい場合はNetCreationsが最適だろう。我々は、マーケティング/コンサルティング、電子メール配信、リアルタイムトラッキング/リポーティングをすべて提供している」と語る。また、ユーザーがメール受信を断わる意思表示を行なった場合、リクエストに対して確認のメールを自動返信し、そのユーザーのアカウントを電子メールリストから自動的に削除する“オプトアウト”サービスも提供している。現在、クライアントにはEddie Bauer、InteliData、Iomega、Microsoft、Symantec、The Learning Companyなどが名を連ねている。
BigfootはECMの立ち上げ時にAcxiomから400万ドルの投資を受けており、さらに昨年6月にはAcxiomやConstellation Venturesから再び1,100万ドルの投資を受けている。BigfootのDavid Finkelビジネス開発ディレクターは「AcxiomはFortune 500社のデータ収集分析などを行なっている最大のデータベース企業であり、彼らとの提携は我々にとり非常に重要だ」と語る。
ユーザーから提出されたスキンの一例 |
Barshack氏は「Yahoo!やLycosなどのポータルサイトは、包括的なデスティネーションサイトになろうとしているが、真のソリューションはクライアントに常駐するブラウザー環境を構築することだ。NeoPlanetは便利で使い易いブラウザー環境を提供しており、新たなポータルになる可能性を秘めている」と語る。つまりNeoPlanetは、ユーザーが瞬時に他のサイトに移動できるWebサイトポータルではなく、デスクトップに常駐する“デスクトップポータル”として定着することを狙っている。
NeoPlanetのユーザー数は、バージョン2.0が発表された昨年11月には10万人程度だったが、今年5月には130万人に増加している。今年1月、Network Associatesの投資を受け、NeoPlanetはBigfootからスピンオフし、4月にはオフィスを通称“シリコンデザート”と呼ばれるアリゾナ州フェニックスに移転した。移転の理由としてBarshack氏は「フェニックスは優れたプログラマーが多いが、シリコンバレーのように競争が激しくないという利点があるからだ」と語る。元Intelでコンテンツ技術ディレクターを務めたDrew Cohen氏が、NeoPlanetの社長兼CEOに就任している。
スキンの名前、作者の過去の作品を掲載。 気に入ればダウンロードできる |
Bigfoot設立のきっかけになる電子メールディレクトリのアイデアを思いついたのは、妻の言葉だったという。同氏は「インターネットが市場に登場して以来、私はすっかりネット中毒になってしまった。ある日、私はオフィスに遊びに来た妻に『インターネットではどんな情報でもすぐに得られるよ』と得意気に言った。すると彼女は『友人のキャシーに電子メールを送りたい』と言い出した。私はキャシーの電子メールアドレスを必死で探したが、どこにも見あたらなかった」と語る。
そこで、同氏は電子メールのディレクトリサイトを作成するアイデアを思いついたという。また、人々がインターネットで最初に使用したいと考えるツールは電子メールであり、その電子メールアドレスは常時変わるということから、生涯使える無料の電子メールアドレス、Bigfoot for Lifeを考えた。NeoPlanetに関しては、Barshack氏は「当時我が社で働いていたデベロッパーのJim Friskel氏がアイデアを出し、開発を進めた。Jimは非常に優れた人物だった」と語る。
Bigfootという社名の由来を尋ねると「ビッグフット(日本では雪男、カナダではサスカッチ、ヒマラヤではイエティなどと呼ばれる伝説の野人)を探すという物語が、人々を探すという我々のコンセプトにぴったりだからだ。それに覚えやすいだろう」と同氏は説明した。
ユーザーから提出されたチャンネル一覧 |
これは、複数のインターネットビジネスを構築し、それぞれのビジネスに興味を持つ投資家達のポートフォリオを集めるというCMGIのビジネス戦略と似通っている。将来は、CMGIのようなインキュベータとしてBigfoot Internationalのもとに多様なインターネット企業が集まることを目指しているのかもしれない。Barshack氏は、これに対してはノーコメントだった。
Bigfoot for Lifeの買収に数社が名乗りをあげているという噂に関しては、Finkel氏は「最近、数社から買収の誘いがあったことは事実だ。しかし、IPO、提携、買収のどれを選ぶかはまだわからない」と語った。Barshack氏は、将来的な展望として「3社ともまったく異なるビジネスモデルを有しているので、それぞれ異なる戦略を考えている」とだけ語った。
('99/8/20)
[Reported by HIROKO NAGANO, NY]