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東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏
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アジア最大規模のデジタル総合展「WPC EXPO 2003」が17日、千葉県千葉市の幕張メッセで開幕した。開幕初日の17日、東京大学大学院情報学環教授の坂村健氏が「ユビキタス・コンピューティング環境の実現に向けて」と題した基調講演を行なった。
坂村教授は現在、ユビキタスIDセンターの所長を務め、RFIDチップの開発や、それを用いたユビキタスコンピューティングの実証実験、プロトコル標準化などに取り組んでいる。坂村教授は冒頭に「RFIDのような極小チップは組み込み機器から発展したもの。“ユビキタス”という言葉こそ思いつかなかったが、私はもっとも早い段階から、状況認識・協調分散システムを極小チップで実現するということを考えていた」と、“ユビキタスの元祖”であることをアピールした。
坂村教授が描くユビキタスコンピューティングとは、あらゆるモノにRFIDタグを付け、チップのリーダ/ライタと、個別のモノの詳細情報を格納したサーバーを組み合わせた統合的なシステムを社会基盤として普及させることだ。これが実現すれば、食品や農産物、薬品などの品質管理や在庫管理、さらには体温をモニタリングし、その結果をエアコンに反映させるなどさまざまな分野で応用できる。
坂村教授は、「RFIDが開発できたからといってすぐには実現できない。インフラとして社会基盤として確立しなければならないからだ。このようなユビキタスコンピューティングを実現するには10年はかかる」と述べた。さらに、実現のポイントとして「トータルアーキテクチャの重要性」「産官学の連携」「ローカリティの重視」「使用する電波の考え方」「セキュリティ・プライバシー」「知的所有権の問題」の6つを挙げた。
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ユビキタスコンピューティング普及のポイント
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「ユビキタスの元祖」とアピール
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まずは「トータルアーキテクチャの重要性」だが、坂村教授によれば、チップの開発だけでなく、情報サーバーやリーダ/ライタ、さらにインターネットとの連携など、環境として揃えていくことが重要だという。これが実現すれば、「インターネットのWWWのような世界がリアルな世界で実現できる。現実のモノとモノ、さらにはモノと仮想社会(インターネット)と繋がるようになる」。
2つ目の「産官学の連携」では、坂村氏はアメリカや韓国、ヨーロッパなど諸外国と比較しながら、日本政府の対応の悪さを批判。「ユビキタスというインフラ構築のために、国家が積極的に援助する必要性がある」と強く訴えた。
さらに「ローカリティの重視」については、「インターネットはグローバルだというが、ユビキタスはローカルなレベルのもの。例えば今だったら、重要なのは幕張の天気。RFIDからロンドンの天気や湿度がわかってもあまり意味はない」とした。また、「アメリカでは主に流通経路の商品盗難を防ぐために、物流関連企業が監視用のRFIDを望んでいるが、日本で考えたら、まったく違うニーズがあるだろう」と語り、ローカルに根付いたユビキタスコンピューティングの普及が望ましいとの考え方を示した。
4つ目の周波数帯についての話題では、いろいろな周波数帯を用途によって、柔軟に使い分けるべきとの考え方を示した上で、「アメリカが900MHz帯をRFIDに割り当てているからという理由で、900MHzがいいと主張している人が多い。アメリカは、20年前以上に900MHz帯、と一度決めたからそれに従っているだけ。アメリカという国は未だに国際基準のメートル法を使わずにフィートとインチを使っている国。そのような国に従わなければならないのもナンセンスな話だ」と900MHz推進派を一蹴。このほか、「複数の周波数を用いてもデータを統一方式で扱えるような仕組みが重要」「国益を熟慮した上で、国家が主導的な立場を取るのが望ましい」「人体への影響を考慮して、ある程度タグを近づけないと認識しないくらいがいいのではないか」といったコメントを付け加えた。
また、知的所有権の問題についても、「基本的にはオープンソースに賛成だが、Linuxのあるディストリビューションが、意識せず知的所有権を侵害し、問題になっていることを考えると、オープンソースといえども慎重にならなければならないだろう」と語った。
セキュリティに関しては、マサチューセッツ工科大学、慶応義塾大学らが中心メンバーとなるAuto-ID Centerの取り組みについて、「決してケンカをしているわけではないが」と断った上で、「Auto-ID Centerは、流通の過程でモノがなくなることが多く、物流企業がそれを防ぐシステムを要求したことがきっかけ。目指すところはバーコードの置き換えだ」と語り、現在、ビジネス分野にターゲットを絞って活動しているAuto-ID Centerと、社会インフラとしての環境作りを目指すユビキタスIDセンターとの方向性の違いを指摘した。
さらに、プライバシーの問題から、Auto-ID Centerの活動に強硬に反対している米国の消費者団体、CASPIAN(Consumers Against Supermarket Privacy Invasion and Numbering)が、Auto-ID Centerのサーバーをハッキングし、プライバシー軽視の証拠となる情報を公開したことに触れ、「相次いで実験の予定が中止になり、すでに行なわれているものについても、RFIDの通信機能を殺して実験せざるを得なくなった。RFIDが通信できないのでは意味がない」と痛烈に批判。時間をかけてでもセキュリティを重視した環境作りをしなければならないとの考え方を示した。
最後に坂村教授は、Auto-ID CenterのKevin Ashton氏と、坂村教授が推進する「T-Engineプロジェクト」のロゴの前で握手をしている写真をスクリーンに表示し、「ごらんの通り、Auto-ID Centerとは技術協力を含め、仲良くやっているので誤解しないでいただきたい」と会場の笑いを誘い、講演を締めくくった。
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Auto-ID CenterとCASPIANの対立
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Auto-ID Centerと「決してケンカをしているわけではない」と坂村教授
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関連情報
■URL
WPC EXPO 2003
http://arena.nikkeibp.co.jp/expo/2003/
ユビキタスIDセンター
http://uidcenter.org/japanese/japanese.html
( 伊藤大地 )
2003/09/17 19:49
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