神奈川県厚木市にあるNTT先端技術総合研究所で29日、同研究所の傘下である5つの研究所の取り組みを中心に、NTTが研究・開発している最先端の技術を公開するイベント「NTT R&Dフォーラム2003 in 厚木」が開催された。NTT先端技術総合研究所の特徴は、NTTがビジネス計画に基づいて取り組んでいる範囲に止まらず、そのスタンスとはまったく価値観の異なる分野も手がけている点にあるという。今回のイベントでは、通信会社という枠組みには収まりきれない“破壊的イノベーション”とも言える技術を含め、5~10年先の事業化につながるという50テーマ以上の基礎技術が紹介された。
● 歩く方向を意識下で操れる人間コントローラ
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右側にある電極ユニットを首の後ろに装着する。コントローラの操作に応じた電流を流すだけの至って簡単な仕組みだ
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NTTコミュニケーション科学基礎研究所の人間情報研究部が取り組んでいる「前庭感覚刺激による身体誘導技術」は、両耳の後ろに電極を取り付け、そこに数ミリアンペアの微弱電流を流すことで、人間の歩く方向を左右にコントロールしようという技術だ。重力の方向を感じる人間の前庭の感覚が、電極の向きに応じて変化することを応用している。具体的には、プラス側に重力がシフトして感じるため、無意識のうちにその方向に曲がってしまうという仕掛けだ。今のところ左右方向の誘導となっているが、これよりは弱い反応ながらも、同じ原理で前後方向への操作も確認されているという。
展示では、電流をラジコン用のコントローラで遠隔操作するデモが行なわれた。実際に体験した人の話では、マッサージ器のような微弱な電流を感じるとともに、頭を横から引っ張られるような感覚になるという。素直に曲がってしまう人がいる一方、首を斜めにしたまま真っ直ぐ進み続ける人もいるなど、反応には個人差がある。また、肌の水分量によって効き具合も異なるため、電流の量で調整する。
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体験者の中には、逆に酔ってしまうのではないかとの声も
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前庭への電気刺激によって重力の感じる方向が変化するという原理は、これまで医療分野で平衡感覚の検査などに用いられていた例があるらしいが、これを人間の誘導技術に応用しようというのは初めてではないかとしている。例えば、これまでは実際に人間が乗り込む大きな箱を揺らすことでリアリティを出していた体感ゲームが、家庭用ゲーム機でも実現できるようになる。
また、NTTではこの技術を「意識下で人間を行動させるインターフェイス」と位置づけている。これは、IT化で情報量が増加する中で、情報を受け取った人間が意識・判断して行動することの負担を減らそうというものだ。例えば、後方からクルマが近づいてきたのをセンサが検知し、これを回避する方向に誘導したり、携帯電話のGPSと連動させることで小さい画面を見ながら歩かなくてもよいようにするといったことが考えられる。また、老人の転倒防止や、船酔いの防止などにも応用できるのではないかとしている。
関連情報
■URL
NTT R&Dフォーラム2003 in 厚木
http://www.ntt.co.jp/forum/2003atsugi/
NTTコミュニケーション科学基礎研究所人間情報研究部
http://www.brl.ntt.co.jp/cs/human/index-j.html
関連記事:「NTT R&Dフォーラム2001 in 厚木」レポート
http://internet.watch.impress.co.jp/www/article/2001/1015/nttrd.htm
( 永沢 茂 )
2003/10/29 19:15
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