NET&COM 2004の初日となる4日、「弁護士と徹底Q&A」と題された2つのセッションが開かれた。まず午前中は、インターネット上の諸問題に詳しい弁護士の岡村久道氏が「オープンソースの知的財産権問題を理解する」と題し、いわゆるGNU GPL(General Public Licence)に代表される各種オープンソースライセンスの解釈を中心に、オープンソースソフトウェアを利用する際の法的リスクについての現状を解説した。
GPLは著作権法上の概念で解釈できるはずだが…
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弁護士の岡村久道氏
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岡村氏はGPLの解説において、まずGPLの解釈でよく問題となる“プログラム派生物”の範囲について「GPLで規定される“derivative work under copyright law”とは米国著作権法に定められている『二次的著作物』に他ならず、同法に定められる翻案権と複製権をハイブリッドするとちょうどGPL上の定義とピタリと合う」と述べた。
「だとするとGPLで制約される権利概念は著作権法的な考えだけで考えればすっきりするし、米国著作権法における"Fair Use"の概念や、日本の著作権法での例外規定(引用、時事評論の取り扱いなど)もそのまま適用されると考えるべきではないか」との見解を示した。
また、この“under copyright law”が示す著作権法がどの国のものなのかという問題についても、同氏は「そのプロジェクトの主な構成員や、ソフトがターゲットとしている国などを総合的に組み合わせて判断すべき」との考え方を示し、「少なくとも日本人が日本国内のユーザーを主なターゲットとして開発している場合は、日本の著作権法を適用する前提で検討すべきではないか」と述べた。
さらに同氏は、GPLの適用範囲でよく問題となる「GPLベースのライブラリと動的リンクするソフトはGPLの制約を受けるのか」といった問題について述べた。
「米国著作権法においては、HDDなどの記憶媒体からプログラムを実行するために一時的にメモリにプログラムをロードすること自体が複製権の侵害となるという解釈が一般的なため、たとえファイルが別のプログラムであっても、動的リンク等によりプログラムがメモリ上で渾然一体となった段階で複製権に引っかかる可能性がある」と指摘。「日本法ではメモリへの一時的なロードは複製権の侵害に当たらないため、少なくとも日本では動的リンクは全てセーフとなる可能性が高いのではないか」との見解を披露した。
同氏は、「静的リンクの形で実行ファイル自体が1つにくっついてしまっている場合は二次的著作物として扱われるのも理解できるが、個人的には、実行ファイルが分かれていて別プログラムとなっているものがなぜ二次的著作物となるのか全く理解できない」、「前述の“メモリ上で一体化する”理論を取ると、例えばWindows XP上で動作するプログラムは全てマイクロソフトの著作物の二次的著作物ということになってしまうが、そんな解釈はあり得ない」と述べ、米国法においても動的リンク等は二次的著作物としての制約の対象にならないとの個人的見解を示した。
しかし、一方で「現実にFSFはこれとは異なる解釈を取っており、裁判所が全く別の解釈をする可能性もある。このため、リスク回避という観点では動的リンクはもちろんのこと、ライセンス条件を巡る混乱を避ける意味で、ソフトの配布の際に同じディレクトリにGPLソフトとそれ以外のソフトを混在させることも極力避けた方が良い」といったアドバイスを行なっていた。
一部では、Free Software Foundation(FSF)がこの点について明確な見解を示さないことについて「Richard Stallman的にはこのあたりをあいまいなままにしておいた方がProprietaryな(独占的な)ソフトを増やさないで済むため、フリーソフトウェア運動の政策上都合がいいということで放っておいているのではないか」との声も上がっていると指摘。「(GPLプログラムと組み合わせた場合でもGPLの適用対象外となる)『標準インタフェース』とは具体的に何を指しているのか、FSFとStallmanにははっきりして欲しい」との不満を漏らしていた。
SCOには結局勝ち目はない?
また、同氏はGPLの解釈の紹介を行ないつつも、いくつか具体的な事例についても触れた。
まず、昨今話題のSCOによるLinuxライセンス訴訟問題について、同氏は「あくまで報道で伝えられているものをベースとした推測に過ぎないが…」と前置き。続いて、そもそもSCOが著作権を主張しているコードはBSD由来のコードでありSCOが著作権を主張できない可能性があること、また同社の前身であるCaldera社がGPLの元でLinuxディストリビューションの配布を行なっていたことから、現在のSCOの主張はいわゆる禁反言(estoppel)に当たり無効である可能性があることなどを問題点として挙げた。
また、仮にSCOの著作権を侵害したコードがLinuxのソースコードに存在したとしても「侵害箇所が特定できさえすれば、その部分のコードを差し替えれば少なくとも将来に向けての不安要素はなくなる」として、「SCOの勝ち目は薄いのではないか」との見解を示した。
国内においてGPL違反が話題になったケースとしては、同氏はエプソンコーワとプロジーの2つの事例を挙げ、どちらのケースでも、GPLには「GPLに違反した場合は自動的にプログラムに対する権利が失効する」と書かれているものの、実際には最初にユーザーからのGPL違反の指摘があった段階では権利は失効しなかった(=指摘に対して適切な対応を行なわなかった場合に初めて権利失効の可能性が出てくる)ことを同氏は重視し、実務上「GPL違反があった場合は、その指摘に対し素早い対応を行なうことが重要だ」との意見を述べた。
またGPLからはやや離れるが、同氏は昨年「東風フォント」を巡る著作権問題から同フォントの配布が中止に追い込まれた事件についても触れ、「日本の著作権法ではフォントの書体に対する著作権の保護は及ばないし、最高裁判例でも印刷用の書体に著作権の保護を認めた例はない(ただし下級審判例では書体を商品と認めた例がある)」と述べた。フォントの配布差し止めを求めたメーカーの態度は「そもそも無理があったんじゃないのか」との見解を示した。
関連情報
■URL
NET&COM2004
http://expo.nikkeibp.co.jp/netcom/index.shtml
( 松林庵洋風 )
2004/02/05 12:29
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