幕張メッセで28日から開催されているNetWorld+Interop 2004 Tokyo(N+I)では、30日からの展示会・基調講演に先立って、ネットワーク技術者を対象としたチュートリアルやワークショップが行なわれている。ここでは、29日に行なわれたワークショップ「P2P帯域制御の最新状況」の内容を紹介する。
ワークショップでは、P2P型アプリケーションの中でも特にファイル交換ソフトの流行によるトラフィックの増大に対して、技術的にどのようなアプローチが可能であるかという観点から発表が行なわれた。
機器メーカーの側からは、米P-CubeのOran Raboy氏とカスピアンネットワークスの柳橋達也氏から、それぞれP2P帯域制御を実現する機器についての紹介が行なわれた。P-Cubeでは、ハードウェアレベルで流れるパケットの内容を解析することで、P2Pアプリケーションの帯域を制御する専用装置を開発しており、日本のISPにも導入され効果を発揮している例などを紹介。カスピアンネットワークスからは、アプリケーションが行なう通信のパターンに注目し、1セッションあたりの通信時間や利用する帯域などの特徴からP2Pアプリケーションによるトラフィックの制御を可能とするルータ製品が紹介された。
一方、ISPの側からは日本テレコムの今村純一氏により、トラフィック観測結果に基づくP2Pの利用状況が紹介された。ユーザーの平均トラフィックの観測では、ADSLユーザーのトラフィックは1セッションあたり平均20kbps前後であるのに対して、FTTHユーザーの場合は100k~400kbpsと大きな違いが見られるという。また、FTTHユーザーの平均トラフィックでは、下り方向(ISP→ユーザー)よりも上り方向(ユーザー→ISP)のトラフィックが上回っており、P2P型ファイル交換ソフトの影響が大きいとしている。
専用装置によるパケット内容の分析結果では、トラフィック全体のうちファイル交換ソフトによるものが全体の50%以上を占めており、深夜にはP2Pによるパケットが全体の70%近くとなる時間帯も観測されたとしている。利用されているファイル交換ソフトはほぼWinMXとWinnyに限られており、通信の相手先はほとんど国内に終始しているという。
ユーザーのデータ転送量による分類によれば、トラフィック全体の84%がデータ転送量の多いユーザー上位20%によって使用されているという結果となっている。転送量上位20%のユーザーのパケットは60%がP2Pによるもので、残り80%のユーザーの場合にはP2Pによるパケットは35%となる。ただし、ヘビーユーザーについてはP2P型ソフトだけでなく、その他のアプリケーション(観測装置でアプリケーションを特定できなかったパケット)によるトラフィックの増大も多く観測されたという。
日本テレコムでは、現時点ではP2Pに対して帯域制御などは行なっていないということだが、どのISPも一部のP2P利用者のためにバックボーン増強などの設備投資を行なっているというのが現状であり、帯域制御などの措置を行なう場合にもやはり機器の導入などでコストの増大が避けられないという問題があることから、このままでは定額制ベストエフォートモデルでのサービス提供が厳しくなるのではないかという見解を示した。
こうした状況を踏まえた今後のISPの方針としては、今村氏は私見であるとしながらも、ISPの本音としてはP2Pトラフィックだけを排除したいわけではなく、フェアネス(公平性)を保った利用料金に見合う通信品質を提供したいという希望を述べた。ただし、データ転送量に応じた従量課金制を導入するといった対策は営業的には困難であり、なるべく多くのユーザーにとって公平な形での帯域制御の技術を検討していきたいとした。
また、ネットワーク面では、現在のISPのネットワークは東京のIXを頂点とした一極集中型の構造となっている点を問題として挙げた。現在はすべてのトラフィックが東京を経由する形となっているが、P2P型の通信については地域IXなどによりなるべく短い距離で終始させる形に変えていくことで、バックボーン全体のコストが下げられ、IP電話のような遅延に厳しいアプリケーションについても有効であるという見解を述べた。
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ADSLユーザーのトラフィックは1セッションあたり20kbps前後
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FTTHユーザーのトラフィックは1セッションあたり100k~400kbps
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トラフィック全体の50%以上はP2Pの通信によるもの
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転送量上位20%のユーザーがトラフィック全体の84%を占める
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関連情報
■URL
NetWorld+Interop 2004 Tokyo
http://www.interop.jp/
( 三柳英樹 )
2004/06/29 21:17
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