13日に開催された「WIP国際シンポジウム~ユビキタス・ネットワーク社会で変わるライフスタイル~」の基調講演で、情報通信研究機構(NICT)で情報通信部門の研究主幹を務める久保田文人氏が「モバイル・インターネットからユビキタス・ネットワーク環境へ──技術と課題」と題し、主に日本国内における各種技術の開発動向について語った。
● 携帯電話を2G/3Gというジェネレーションで語るのは危険
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NICTの情報通信部門で研究主幹を務める久保田文人氏
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まず久保田氏は「我々の開発したものが社会的にいろいろなインパクトをもたらしており、それは決していい方向ばかりではない」と述べた上で、「事前にそれ(=社会的影響)を計り知ることは難しいが、その方法を勉強するのは非常に重要であり、その意味で社会科学的観点から研究されている方とのコラボレーションは興味深い」「(WIPが発足した)当時はちょうどインターネットユーザーの変節点であり、この時期でないと取れないデータが多数あると思って協力してきた」と語り、WIPの一連の調査にNICTとして協力してきた背景について説明した。
その上で久保田氏氏は「ちょっと反省も込めた話」と前置きし、「日本ではだいたい10年周期で情報通信の波が来る」として、1980年代のニューメディアブーム、1990年代のマルチメディアブーム等について触れた。久保田氏は「1980年代はまだネットワークとして電話線しかなかった状態だったが、1990年代になるとインターネットが1つの基盤となったことで、MPEGなどの画像符号化技術が大きく進展したほか、ケータイ文化も花開いた」「今はユビキタスがブームといえる状況だが、その中ではモバイルアクセス分野が大きく発展しているほか、RFIDも(ユビキタスの)象徴の1つとなっている」と語った。
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日本における情報通信の波
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いわゆる2G/3Gなどの技術とは、また別にサービスとしての流れがあるとする
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ここで久保田氏は携帯電話の発展について触れ、「よく我々は2G/3Gといった分け方をするが、実はサービスという観点では携帯電話をジェネレーションで語るのは危険かもしれない」と語った上で、「3Gも伝送速度が上がったという以外は2Gとサービス内容としては基本的に変わらない」と指摘。「サービスの観点からは、iモードの登場で携帯電話の新しいジェネレーションが誕生したといえるのではないか」と述べた。
また、今後については「技術屋としては時速100kmで走行中の車にハイビジョン映像を送りたいという目標があり、そのためには50Mbpsぐらいの伝送速度が欲しい。しかし、技術的にはそれが可能だが、コストがかかるようなシステムになってしまった場合、果たしてそれがいいといえるのかというと問題だ」と語り、社会的な利益を念頭に置いたシステム開発を行なう必要性を訴えた。
● 技術開発は専門家だけでなく社会のコンセンサスを経ていく必要
このほか久保田氏は、現在NICTの新世代モバイル研究開発プロジェクト「MIRAI+」で研究中のシームレスローミング技術や、UWB技術の標準化動向、インターネットITSといった技術を紹介。また、同じくNICTで取り組んでいる成層圏無線プラットフォームに関する研究について、「どうやって飛行船を飛ばすか、どのように成層圏で飛行船を静止させるかなど課題は多いが、日本のように災害の多い国では、地上の通信網が破壊された際のバックアップとして有望だ」と語り、同プロジェクトへの期待をにじませた。
久保田氏はまた、「ユビキタスで問題なのは、企業ネットワークではなくホームネットワークだ」と指摘。「ホームネットワークには無線LANやBluetooth、UWBなどさまざまな技術が混在し、決してどれか1つに統一されるということはないため、それを前提にどのように異なる方式間のインターオペラビリティーをとるか、また(家庭内と外を結ぶ)サービスゲートウェイをどうやって作っていくかが問題となる」と語り、その一環としてNICTのけいはんな情報通信融合研究センターに設置された「ユビキタスホーム」のテストベッドを紹介した。
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「MIRAI+」のイメージ図
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成層圏無線プラットフォームのイメージ
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NICTのけいはんなオープンラボに置かれた「ユビキタスホーム」のテストベッド
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同じくテストベッドの写真
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さらに久保田氏は、「NICTとしては個人に合ったサービス環境の提供を目指す」と語る一方で、「ひとりひとりがバックグラウンドで要求しているものや、そのレベルはそれぞれ異なる」と指摘。「WIPの調査データを見ると、日本ではインターネット上の情報に対する信頼性が(他国に比べ)非常に低い」として、この信頼性の問題がユビキタスネットワーク社会実現のための課題となるとの認識を示した。
久保田氏は最後に、「まずは信頼性を確保することが最優先で、その上で夢のようなコンテンツが実現できればいい」「技術屋としては新しいこともしているが、それが社会にどう受け入れられるか、専門家だけではない社会のコンセンサスを経ていく必要がある」と語り、一般ユーザーにも容易に受け入れられるような形での技術開発を進めていきたいとの意向を示し講演を締めくくった。
関連情報
■URL
WIP国際シンポジウム
http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/gnrl_info/news/list04/12.htm
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( 松林庵洋風 )
2004/07/14 16:57
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