東京ビッグサイトで開催されたイベント「Wireless Japan 2004」で23日、情報通信研究機構(NICT)においてUWB(Ultra Wide Band)技術研究開発プロジェクトのリーダーを務める河野隆二・横浜国立大学教授が講演し、UWB技術の標準化動向やNICTの研究プロジェクトの成果などを紹介した。
● UWBは次世代の無線通信で不可欠な基礎技術
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NICTでUWB技術研究開発プロジェクトのリーダーを務める河野隆二・横浜国立大学教授
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河野氏はまず、UWBは無線によるユビキタスネットワーク環境の構築に必要不可欠な技術であり、センサーネットワークやRFIDのコアとなりうる技術であるだけでなく、現在は別の技術を用いている無線通信システムでも次世代ではUWBを使いたいとしているものも多いと説明。しかしその一方で、W-CDMAやIEEE 802.11bで使われているDS-SS方式など既存のスペクトル拡散方式の無線通信技術の延長線上にUWBがあることも示し、決してUWBが突飛な技術ではないことも強調した。
その上で従来のスペクトル拡散方式と比較したUWBのメリットとして、河野氏は「超広帯域に信号を拡散することで、1ナノ秒未満の単パルスを作り出す技術さえあれば、スペクトル拡散のような2次変調の必要がない」と語った。また、「本来OFDM変調は、FFT処理の部分で非常にCPUの計算能力や消費電力を必要とするため、UWBのシンプルかつ低消費電力という特性と相反する部分があり、少なくとも携帯機器には(OFDM変調は)ふさわしくない」「センサーネットワークやレーダーなどの分野ではImpulse Radio(インパルス無線)型のUWBが使われることが有力だ」とも述べ、ワイヤレスUSBなどが採用したMB-OFDM(MultiBand OFDM)方式に否定的な見解を示した。
さらに河野氏は、UWBが無線LANなどの通信分野だけでなく「コンクリートの向こうの人の動きを察知できる」セキュリティセンサーや車載レーダーなど幅広い分野に応用が可能であることを示した上で、「将来的にはUWBを衛星通信にも使おうと考えている」との見解も示した。ただ、一方でUWBは微弱とはいえ非常に広い帯域に電波を発することから、既存の電波を利用する技術の中にはUWBの影響を受ける分野がどうしても出てきてしまう。河野氏は、GPSや電波天文といった分野でUWBが干渉して問題を起こしてしまう可能性があることもあわせて指摘し、今後これらの問題の解決が課題になるとも語った。
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UWBの利点
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UWBの問題点
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● NICTのUWBプロジェクトは着々と成果を挙げつつある
後半は河野氏がリーダーを務めるNICTのUWB研究プロジェクトの紹介に移り、「UWBに詳しい研究者であれば、大学だろうが企業だろうがとにかく雇うという方針をNICTが示したために実現したが、こういったことは日本だからこそできる」「日本にはメガ家電メーカーが複数存在しており、これらがアライアンスを組めば海外のメーカーに十分勝てるようになるし、さらにIPRを持つ大学の研究者が参加すれば無敵の存在になる」などと、産学官が共同したこのプロジェクトが日本にとって非常に強力なプロジェクトであると訴えた。
このプロジェクトではFCC(米連邦通信委員会)がUWB用の帯域として定めた3.1~10.6GHz帯(マイクロ波帯)を用いたUWBの研究のほか、車載レーダーなど22GHz以上の帯域(ミリ波帯)を使ったUWBの研究もあわせて進めており、河野氏は「マイクロ波帯については短期決戦を目指したところ、発足からわずか1年ちょっとで米国を追い越し、世界初のCMOSによるUWBチップの開発に成功するに至った」「ミリ波帯はもう少し長いスパンで研究開発を行なっている」とその現状を説明した。
河野氏によれば、米国ポートランドで先週行なわれたIEEE 802.15.3aの標準化会合において、IntelやTexas Instrumentsらが支持するMB-OFDM方式とMotorolaやNICTらが推すDS-CDMA(Direct Sequence CDMA)方式の2方式の間での投票の結果、DS-CDMA方式への支持が75票を獲得。MB-OFDM方式の74票をわずか1票ながら上回ったとのことで、従来標準化で優勢とされていたMB-OFDM陣営が逆に劣勢に追い込まれつつあるという。河野氏はこの点について「NICTは中立な研究機関として一人勝ちが起きないような技術の提案を目指しており、今やこれだけいい勝負をするようになるとIntelやTexas Instrumentsも我々の存在を無視できなくなっている」と語り、同プロジェクトの開発成果がIEEEのUWB標準に取り込まれることに自信を示した。
ただし、NICTとしてはMB-OFDM方式を排除するつもりはないとのことで、MB-OFDM方式やDS-CDMA方式を含む、IEEEに標準化提案が出された23種類の方式を全て包含することが可能な「Soft-Spectrum Adaptation(SSA)」という技術を別途提案しているという。今回は時間の都合上、SSA技術の詳細な解説は省略されてしまったが、こちらも参加者の間から好評を得ているということで、NICTの研究成果がUWBの標準化における議論をリードしていることを河野氏は訴えていた。
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NICTで開発したCMOS UWBチップとそれを実装した試作モジュール
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Soft-Spectrum Adaptationの概要
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ミリ波帯の研究に関しては、特に車載レーダーについて「従来の77GHz帯を利用した車載レーダーは高価すぎて高級車にしか乗せられなかったが、24GHz帯を利用するUWBレーダーは普及車にも搭載が可能な価格になる見込みだ。そうなると、量産による雪崩効果でさらに値下げも期待できる」「UWBレーダーなら前にある構造物のプロファイルまで測定することが可能だ」とUWBを採用することの優位性を語った。また、「1社による単独開発なら数年かかるものを、このプロジェクトでは非常に短期間に実現できたほか、行政当局の規制との調整も容易になった」として、産学官が共同したことの成果が早くも現われていることを強調していた。
関連情報
■URL
WIRELESS JAPAN 2004
http://www.ric.co.jp/expo/wj2004/
■関連記事
・ 通信総合研究所、CMOS-MMICを搭載したUWB用伝送モジュール開発(2004/03/17)
( 松林庵洋風 )
2004/07/23 17:30
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