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著作権情報センター(CRIC)の依田次司氏(左)とJASRACの菅原瑞夫氏(右)
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デジタル時代の著作権のあり方について、著作権や著作隣接権を持つ権利者側の団体が一堂に会して啓蒙・普及を行なうことを目的とした「著作権フォーラム」(東京都行政書士会主催)が、17日に東京・有楽町のよみうりホールにて開催された。フォーラムの後半ではパネルディスカッションが開かれ、日本音楽著作権協会(JASRAC)や日本レコード協会(RIAJ)、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)、日本漫画家協会など数多くの団体の代表者が著作権や著作隣接権の権利強化を求めてそれぞれの主張を行なった。
● 音楽配信の普及に伴う諸問題が今後の課題
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RIAJの高杉健二氏(左)とACCSの久保田裕氏(右)
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まず音楽業界からは、JASRAC業務本部副本部長の菅原瑞夫氏と、RIAJ法務部長の高杉健二氏がそれぞれ現状を説明した。
菅原氏は、音楽配信の際のメディアがレコードやCDといった固定媒体から、データ配信などの形で媒体から切り離されたデータのみの流通の形に移行しつつあることについて、「CDではジャケットの情報を見ることで容易に権利者が誰かを確認することができるのに対し、音楽データだけが流通するようになると誰が権利者かという情報がわかりにくくなる」と述べ、今後音楽配信が普及するにつれ、それらの二次利用の際に容易に権利保有者の確認ができるような仕組みづくりが重要だと語った。
また、インターネットの普及により「著作権の保護期間は国によって多少の差があるため、ある国ではまだ権利が残っている曲を、すでに権利期間が終了している別の国から配信するといった行為が可能になっているが、これは文化に対する破壊的行為だ」と述べ、これらの問題をどう解決するかも今後の課題となると語った。菅原氏は、JASRACの正規ライセンスを受けてWebページなどで音楽を使用しているユーザー数が6,000人を超えていることにも言及し、今後ユーザーへの啓蒙活動などを通じてさらに増やしていきたいとの意向を示した。
高杉氏はCD輸入権問題について、「RIAJとしては輸入CDを阻害するつもりはない」と従来の主張を繰り返した。「還流防止措置に関するガイドラインが10~11月頃にできあがるが、おそらく欧米のCDはそれに該当しないのではないか」「RIAA(全米レコード協会)も現在の経済状況に鑑み、CD輸入を禁止するとは考えにくい」とこれまでの同協会の見解を改めて語った上で、「法律が円滑に施行されるようにご協力をお願いしたい」と参加者に協力を求めた。
● 権利期間のさらなる延長を求める芸団協・漫画家協会
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芸団協の大林丈史氏(左)と、漫画家の松本零士氏(右)
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これ以外にもさまざまな団体の代表がパネリストとして主張を行なったが、中でも強く権利強化を訴えたのが、日本芸能実演家団体協議会(芸団協)の大林丈史専務理事と、この日は日本漫画家協会常務理事として登場した漫画家の松本零士氏の2人だ。
まず大林氏は実演家の代表として、「我々は著作隣接権者にあたるが、2年前にようやく人格権を著作権法上認められたばかり」と述べ、著作権者に比べ実演家に対する著作権法上の保護が不十分である状況を訴えた。ここ数年は前述の人格権の問題など徐々に改善しつつはあるものの、まだ権利保護としては不十分であるとして、実演家の持つ数々の不満を語った。
大林氏は、「我々の世界ではよく『姿が見えると権利が消える』と言っているが、例えばクラシックの演奏の模様を録音したものについては実演家が権利を持つのに、同じ模様を録画したものは著作権法上『映画の著作物』に該当してしまうため、その権利は制作者側のものになってしまう」「テレビドラマについても同様で、放送局が直接制作したものについては現在は多少再放送時にもお金が入るようになったが、制作会社が作ったものについては1社を除いて全くお金が入らない」と述べ、現行の著作権法で映画の著作物について認められている「ワンチャンス主義」を撤廃するよう訴えた。
また、現行の著作権法では著作隣接権の保護期間は実演や放送が行なわれてから50年ということになっている点についても、「例えば10代でデビューしたような女優さんだと、最近では存命中に先に権利が切れてしまうことも珍しくない」と述べ、これももっと期間を延ばすべきだと主張した。
続いて登場した松本氏は、「裁判は双方がうつ病的症状を呈するケースが多い上、そもそも作家や漫画家を志望するような人はデリケートな人が多い」と語り、そのようなデリケートな人の感性を守るためにも著作権を保護することは重要であるとの見解を示した。そして松本氏が実際にインターネット上でマンガの連載を行なった際の経験などを語りつつ「(インターネットの持つ)双方向性も大事だが、著作物の基本を大事にしなければいけない」「孫子の世界まで自分の著作物を守りたいというのが心情だ」と述べ、そのためにも現行著作権法では「作者の死後50年」となっている保護期間を「本音は死後120年ぐらいにいっぺんに延ばしてくれればいいが、そんな無茶は言えないので、まずは速やかに死後75年に延ばして欲しい」と主張した。
また松本氏は、「自分が描いたマンガの中で自分が苦労して編み出した言葉、いわば『創作造語』とでも言うべきものが簡単に盗用されてしまう」「というより、現在はそれの盗用を著作権法上防止する規制がないの江、盗用という意識すらない」と語った上で「このような『創作造語』についても早急に著作権で保護するような制度を整備して欲しい」とも主張していた。
● 一度権利が切れてしまった写真の権利復活を~写真家ユニオン
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日本写真家ユニオンの丹野章氏(左)と、東京都行政書士会の福島信氏(右)
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前の2人とやや毛色の異なる主張を行なったのが、日本写真家ユニオン理事長の丹野章氏だ。丹野氏は「写真の著作物の著作権は数年前にようやく死後50年まで保護されるようになったばかりで、旧著作権法の時代は『発表から10年』だった」と述べた上で、「著作権法の改正の途中で著作権が一度切れてしまった作品が現実に多数存在し、それらについて一度切れてしまった権利は法改正後も復活しないため、土門拳やロバート・キャパなど著名な写真家の作品の多くが勝手に使われても文句が言えない状態になっているし、また無名の写真家の良い作品がこれが原因でゴミとして処分されてしまうケースもかなり出てきている」と語り、一度権利が切れた写真についても、現行著作権法の規定の範囲内で権利を復活できないかという要望を訴えた。
また丹野氏がもう1つ訴えたのが「展示権」の創設。同氏は「現在の著作権法では、写真を買った人がその写真を使って有料の展示会を開いたとしても、写真家の側はそれに対して何も文句を言うことができない」「そのため、自分達の撮った写真を気軽に譲るということが事実上できなくなっている」と述べ、有料展示の実施などに対して作者側がある程度のコントロールを行なえるような権利を設けて欲しいとの意見を述べた。
● 短いディスカッションの中でもいくつか気になる発言も
このように各参加者が熱い主張を長時間に渡り語ったことから、パネルディスカッションの終了時間は急遽1時間延長されたが、それでもディスカッションの時間は30分足らずしかなく、ほとんど議論らしい議論は行なわれなかったが、その短い時間の中でもいくつか注目すべき発言があった。
まず丹野氏は、所属する日本写真家ユニオンで若手の写真家が中心になって電子写真集の出版準備を進めていることを明らかにした上で「従来の紙の写真集であれば1部数千円するものが珍しくなかったが、今準備中の電子写真集では同じ内容のものを1部800円程度で販売できそう」という見通しを示した。そして「そういったものを安全に普及させていくためにも、ネット上での著作物の取り扱いに関するルール作りをもう少し熱心に行なっていくべき」と語った。
大林氏は「著作権法で定められている私的録音録画補償金の対象機器は政令で定めることになっているが、今や日本国内で販売されるパソコンの大半にテレビ録画機能がついているのに、その政令でパソコン等が対象から外れているのは問題ではないか」と述べ、早急にパソコン等を同補償金の対象機器として指定することを求めた。
そして、主催者側を代表して東京都行政書士会知的財産・経営会計部長の福島信氏は、「行政書士として最も大きな問題は著作権の利用許諾であり、そこが非常にわかりにくい構造になっているため、一般の方はそれを理解できない」「勝手に著作物を使いたくはないが、現実には勝手に使わざるを得ない状況がある」と語り、「いかに著作物を正規に利用しやすい形を作っていくかが重要だ」と語った。
関連情報
■URL
著作権フォーラム
http://www.chosakuken.soudancenter.com/forum/forum.html
東京都行政書士会 著作権相談センター
http://www.chosakuken.soudancenter.com/
( 松林庵洋風 )
2004/09/21 14:30
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