Internet Watch logo
記事検索
イベントレポート
【 2009/06/12 】
ひろゆき氏&夏野氏が講演「日本のネットは決してダメじゃない」
[18:57]
携帯ゲーム機のような見た目のNGN対応回線品質測定器
[14:28]
ISAO、IPデータキャストを利用したサービスイメージを展示
[11:33]
【 2009/06/11 】
アナログ停波後の周波数帯域を利用したマルチメディアサービス
[18:50]
日テレが「ニュース検索API」などを紹介、国内の地上波放送局初
[18:36]
UQ Com田中社長、高速&オープン志向「UQ WiMAX」のメリット語る
[17:45]
主催者企画コーナーでは「ServersMan@iPhone」のデモも
[11:13]
国内初のデジタルサイネージ展示会、裸眼で見られる3D映像など
[11:12]
【 2009/06/10 】
CO2排出量が都内最多の地域、東大工学部のグリーンプロジェクト
[20:01]
IPv4アドレス枯渇で「Google マップ」が“虫食い”に!?
[19:29]
UQ Com、7月の有料サービス開始に向けて「UQ WiMAX」をアピール
[19:20]
「Interop Tokyo 2009」展示会が開幕、今年はひろゆき氏の講演も
[14:53]

CCCDやWinnyなどコンテンツの保護や流通のあり方について東大でセミナー


 デジタル時代のコンテンツの保護と利用のあり方について議論する著作権セミナー「デジタルコンテンツの保護と利用」が3日、東京大学先端技術研究所において開催された。デジタルコンテンツに関する権利保護を行ないながらいかに流通を促進するかという点に主眼を置きながら、議論はコピーコントロールCD(CCCD)やCD輸入権問題、Winny事件などのさまざまな話題まで及んだ。主催は、子供向けのワークショップなどを企画・運営している団体のCANVAS。イベント「GO! GO! 大学へ行こう!@東京大学」の一環として開催された。


音楽配信の普及によりCDの売上も回復する

社団法人音楽制作者連盟顧問の上出卓氏
 前半は3人のパネリストが、それぞれ自分の属する専門分野から見た著作権問題についての認識を語った。

 社団法人音楽制作者連盟顧問の上出卓氏は、最初に日本国内におけるCD売上額がこの5年で約3分の2に減少してしまったことについて触れ、「確かにCDの不正コピーの問題は見過ごせないが、問題はそれだけではない。携帯電話の普及などエンターテイメントが多様化していることに加え、音楽業界がなまけているためにユーザーの嗜好の変化についていけていない」とその理由を分析。一方で日本音楽著作権協会(JASRAC)の著作権収入は、着メロ、着うたや演奏権収入の増加を背景に右肩上がりで伸びていることから「ユーザーの音楽離れが進んでいるとはいえない」と現状をまとめた。

 上出氏はまた、欧米では2004年に入りCDの売上額が回復傾向にあることを挙げた上で、その理由として「iTunes Music Storeなどの音楽配信サービスで曲を購入したユーザーが、よりよい音質の音源を求めてCDを購入しなおしているのではないか」と指摘。実際、各種のアンケートでもそれを裏付けるような数字が現われつつあることも紹介した上で、今後の音楽業界の動向について、「DVD-AudioやSACDの普及、DVDとCDが一体になったデュアルディスクの登場などパッケージメディアも変化しつつあるが、音楽配信をパッケージの副産物としてではなくビジネスの主流として見る必要がある」と述べ、欧米の4大メジャーもその方向に動きつつあると語った。


一方的な保護の強化は業界の縮小につながる

総務省情報通信政策研究所主任研究官の今川拓郎氏
 続いて総務省情報通信政策研究所主任研究官の今川拓郎氏は、創作者を保護するためにどのような方法があるかについて経済学的な見地から単純なモデルによる考察を行なった。今川氏は、コンテンツの販売段階を最初の1人に売る段階(第1段階)と2人目以降に売る段階(第2段階)の2つに区分した上で、「特に規制を加えない場合、第1段階はともかく第2段階では競争が発生するためにコンテンツの価格は限りなくゼロに近づく」と説明。第1段階でコンテンツの制作費用が回収できないような場合には創作者がコンテンツの制作をためらうようになり、社会として不利益を被ると分析した。

 このような状況を防ぎ、創作者にコンテンツの制作を促すには、第2段階である程度の保護を加えることによって制作費用が回収できるようにする必要があると今川氏は述べた上で、その方法としては「複製行為そのものを規制する(=独占販売)」「複製は認めるが、再販価格に下限を設けるなどの規制を行なう」「複製を自由に認める代わりに、政府が創作者に補助金を出す」という3つの類型が考えられると述べた。ただ、このうちどの類型が規制として望ましいかについては言及を避けた。

 ここで話は変わって、今度は行政の立場から今川氏は「以前総務省で放送行政に携わっていたとき、放送番組の権利情報に関するデータベースを構築しようとしたら、業界関係者から『番組が流通する仕組みを作ること自体がけしからん』と反対されたことがある」との裏話を披露。せっかく日本には放送番組などの良質なコンテンツがあるにも関わらず、制作者側がそのコンテンツを積極的に流通させようとしないため、そこから収入を得るチャンスを逸し、コンテンツ産業全体における大幅な輸入超過を招いていると指摘。「(コンテンツを)出さないで守るのではなく、まずは流通を経験してもらうことが大事だ」と語った。

 また、日本でも最近、米国の影響を受けて著作権や著作隣接権の強化に向かう動きが強まっていることについても「米国はすでにさまざまなコンテンツについての販路とマーケットがある中での保護の強化であり、(そもそもコンテンツ流通の仕組みが未整備な)日本とは事情が異なる」「マーケットがない中で一方的に保護を強化するのは業界全体の縮小均衡につながる」と述べ、保護の強化よりもユーザーにコンテンツを使ってもらえる環境整備を優先すべきとの考え方を示した。


複製が自由に行える環境での価格の変化 創作者保護のための3つの類型

サイバー犯罪の大半は実は古典的な問題に過ぎない

東京都立大学法学部助教授の亀井源太郎氏
 3番目に登場した東京都立大学法学部助教授の亀井源太郎氏は、専門が刑法・刑事訴訟法であるということで、刑事裁判によるデジタルコンテンツの保護のあり方について解説した。

 ここで亀井氏が主張したのは、「サイバー犯罪として新しい類型のように語られている問題の多くは、実は法律の世界における古典的な問題が形を変えて出てきたに過ぎない」という点。例えばWinny事件を巡っては、作者がソフトの開発を継続したという行為が幇助にあたるかどうかという点が争点の1つになっているが、亀井氏は「刺殺事件で包丁を売った店員が幇助犯に問われるか、といった『中立的行為による幇助』という概念は古くからドイツ法や日本法の研究者の間で議論の対象となっていた点」と指摘した上で、「個人的には、このような特殊なカテゴリーを設ける必要はなく、犯行を容易にすることを認識しているかどうかなど一般的な幇助犯の成立要件を満たしているかどうかを考えれば足りると思う」と語った。

 また、著作物の保護に刑事裁判がどのように関わるべきかという点については、一般的に刑法的制裁が“Ultima Ratio(最終手段)”として考えられている点について、「個人的にはやや疑問なところがある」と語った。亀井氏は「基本的に刑法による制裁は避けるべきだと思うし、制裁の強さも議論のあるところだが、民事制裁にかかるコストを考えると刑法的制裁が前に出たほうが社会全体のコストは安くなる可能性がある」と述べ、民事裁判では権利者自身が訴訟コストを負担しなければいけないのに対し、刑事裁判では国がその部分を負担するため、社会全体で見た場合には刑事裁判をメインにしたほうが利益が大きくなる場合があると指摘した。


ビジネス側の都合だけで規制を強化することは望ましくない

NHK企業内弁護士の梅田康宏氏
 続いて行なわれたパネルディスカッションでは、先程の3人に加えて、NHKで企業内弁護士を務める梅田康宏氏が参加して議論が進んだ。議論の内容は多岐に及んだが、主に話題になったのはコンテンツ流通の問題と不正コピーに対する規制問題の2つ。

 まずコンテンツ流通の問題については、今川氏が「韓国などでは国内マーケットが小さく、それだけではやっていけないという問題があったために積極的にアジアにコンテンツを販売するという姿勢が生まれた。しかし、日本では特に放送局の存在感が大きく、彼らは国内で十分な利益が上がっており、国内だけでビジネスが回っていたために海外へのコンテンツ販売に目が向かなかったのではないか」と述べた。梅田氏も「日本の放送局の場合は放送前から(受信料やCMなどの形で)番組制作資金の回収のめどがついているのが一般的なため、初回放送時に視聴率が上がることだけを重視してしまい、放送後に一生懸命(番組流通を)展開しなくてもよかった」と語り、そのような背景から現在のような業界慣行が生まれ、今になってコンテンツ流通の阻害要因になっているとした。

 これに対し上出氏は、「そうは言っても、最近の番組では制作時からその後の販売等を考慮しているはずだが、結果的に二次利用が進まないのは(権利者との)契約が未だはっきりした形でなされていないからだ」と指摘。「音楽ではすでに(二次利用時に権利者に適切な収入配分を行なう)システムができている」と述べ、今後放送業界でも業界慣行を適切な形に改めていく必要性を訴え、今川氏らもこれに同意した。

 一方、不正コピー問題については、いわゆるCCCD問題について上出氏が「受益者としての消費者を軽視しすぎたための悲劇だ」との認識を示した。上出氏は「すでに着メロや着うた、DVD-AudioやSACDにはコピーコントロール機能が入っているが、消費者はそれを受け入れている」と述べた上で、「たまたまCDに関しては、消費者がそれ(コピーコントロール機能の存在)を予定していなかったのに強引に導入してしまったのがミスジャッジとなった」と説明。「消費者が楽しむことが次のクリエーションにつながるということを意識しなければならない」「消費者がCDに対して持っているイメージを崩してはならないというのが教訓になったのではないか」と、ビジネスの観点からの規制が先走ることの危険性を語った。

 今川氏も、「現在ファイル交換ソフトを利用しているユーザーの中には、コンテンツに対価を払うことに同意する人もいるわけで、『ビジネスとして成り立たないから』というだけの理由では規制はかけにくい」と述べた。さらに亀井氏は、「著作権全体に新たな規制をかぶせる必要はなく、各論的な権利の整備を行なうだけで十分ではないか」と語り、ビジネス側の都合で権利強化を行なうという流れに異論を唱えていた。


関連情報

URL
  イベント概要
  http://www.canvas.ws/jp/project_ws~go_univ.html


( 松林庵洋風 )
2004/10/04 16:38

- ページの先頭へ-

INTERNET Watch ホームページ
Copyright (c) 2004 Impress Corporation, an Impress Group company. All rights reserved.