CEATEC JAPAN 2004の4日目となる8日、基調講演に可視光通信コンソーシアムの会長を務める慶應義塾大学の中川正雄教授が登場。すでに本誌でも展示レポートとして取り上げた「可視光通信」のこれまでと今後の可能性について講演した。
● じつは歴史の古い可視光通信、鍵を握るのは素子の反応速度
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慶應義塾大学理工学部の中川正雄教授
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中川氏が中学生時代に遊びで作ったシステム
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可視光通信とは、LEDから出る光の点滅や強弱など、眼に見える光を利用してデータを伝送しようというもの。中川氏によれば、実は可視光通信の歴史は1880年にまで遡ることが可能なのだという。この年、電話の発明者として有名なグラハム・ベル氏が太陽光を利用して180m程度の音声伝送に成功。当時ベル氏はこれを「Photophone」と名付けたものの、その後は有線通信の方に力を入れるようになり、この技術は一時廃れることになってしまった。ただ、可視光を利用したモールス信号による通信などは古くから軍艦同士の通信に使われていたりするため、可視光通信という概念そのものは細々とではあるが生き続けていたと考えられると中川氏は語る。
このほか、中川氏が中学生時代にたまたま手に入った光電素子を利用して、マイクの音声を光伝送するような回路を遊びで作ってみたことがあったというエピソードも披露された。このときは発光素子に白熱電球を利用していたために反応速度が遅く、スピーカーからは出る音は「もがもが言っているだけでぜんぜん使い物にならなかった」と語った。
このエピソードからもわかるように、可視光通信の鍵を握るのは発光素子の反応速度ということになるのだが、この点で可視光通信に不可欠なのがLED。中川氏は、最近LEDの応用範囲が単なる発光素子としてだけでなく、照明器具などのさまざまな分野に広がりつつあることを指して「LEDはまさにユビキタスな素子」と表現した。実際、慶應大で市販の白色LEDの反応速度を測定したところ、LEDの電力などによって多少特性は異なるものの、約80Mbpsまでの伝送が可能であることが確認されているほか、他の色のLEDを使った場合はさらに高速な通信が可能だという。
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光を電波の一種として考えると数百THzの電波となる
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白色LEDの応答特性の測定について
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● 可視光通信は安価なインフラ、かつ高精度で位置特定が可能
他の通信手段に比べて可視光通信が有利な点はいくつかあるが、今回の講演ではその中でも特に「照明は安価に利用可能なインフラであり、屋内でも非常に高い精度で位置の特定が可能」という点が強調された。
中川氏は、「ある意味では照明も立派なインフラの1つである」と語った上で、街の隅々で細々とした情報を得たいと思ったときに照明を可視光通信のインフラとして活用すれば、非常に高精度かつ経済的に情報を得ることができると述べた。精度の高い位置情報を得る手段としては世間ではGPSがおなじみだが、中川氏は「GPSはあくまで米国のものを米国の好意でお借りしているだけで天然インフラではないし、屋内での利用が難しい上、精度も約数m程度」と指摘。これに対して照明を利用した可視光通信は、屋内でも利用可能な上に精度もより高いとして、可視光通信の有利さを訴えた。特に最近では、照明にLEDを積極的に採用する動きが活発化していることから、今が可視光通信を大々的に導入するチャンスだという。
さらに可視光通信を電力線搬送通信(PLC)と組み合わせると、既存の照明インフラの設備を活用しながら、個々の照明ごとに異なる情報を送ることも容易になるとした。さらに、その光信号を受ける機能も、開発が進めば携帯電話などに内蔵できる程度に小さくできるとも述べた。照明にLEDアレイを使っていれば、2次元受光素子を使って自らの位置の特定も容易に可能になるとして、「特にこの位置特定の機能は、自律動作するロボットにおいて非常に大きなメリットとなる」と語った。
これ以外にも中川氏は、信号の出所が眼で見えるためになりすましが難しいこと、並列伝送が容易に可能なことから光素子をアレイの形に並べることで、単一素子の数百から数千倍の速度での通信も可能だと考えられること、見た目で信号が出ているかどうかを確認しやすいためセキュリティの複雑な仕組みを導入しなくてもよいこと──などを可視光通信のメリットとして挙げた。
● モバイルでは必ずしも有利とは言えない
このように種々のメリットがある可視光通信だが、モバイルでの利用ということになった場合、他の通信手段と比較した際に有利かというと、必ずしもそうとは言えないという。
中川氏は、幅が約20mの部屋のそれぞれ別々の隅にある端末同士が10Gビットのデータを伝送すると考えた場合にどのような方法が考えられるかを列挙した上で、「可視光通信は最高数Gbpsの通信が可能だが、端末を数cmの距離に近付けなければならない。一方、UWBや無線LANならそれほど端末を近付けなくても済む代わりに伝送に数分かかる」と述べ、時と場合によって他の手段の方が有利になることもあるとの見解を示した。
とはいえ、可視光通信自体は非常に可能性を秘めた通信手段であり、国際的にも注目を浴びていると中川氏は語り、今後も積極的に開発に取り組む方針を示した。
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NECと共同で開発した、携帯電話に受光素子を載せたテストモデル
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モバイル環境における各伝送方式の比較
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関連情報
■URL
CEATEC JAPAN 2004
http://www.ceatec.com/
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( 松林庵洋風 )
2004/10/08 20:30
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