26日に開催された「JASRACシンポジウム 2004」の後半では、「音楽コンテンツ流通の現状と未来」と題したパネルディスカッションが行なわれ、主に音楽のネット配信サービスについて議論が交わされた。
● レコード会社、アーティスト、リスナーの立場から見るネット配信
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247Musicの代表取締役を務める丸山茂雄氏(左)と、社団法人音楽制作者連盟理事長の糟谷銑司氏(右)
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ソニー・ミュージックエンタテインメントやソニー・コンピュータエンタテインメントの役員を歴任し、現在は「247Music」の代表取締役を務める丸山茂雄氏は、1960年代に当時のCBSソニーレコードに入社した頃から「レコード会社とはいったいなんだろうか」と思っていたと語り、これまでの音楽業界の流れと現状を紹介した。
丸山氏は「レコードという複製可能な録音物ができてから100年ほど経っているが、レコードが産業になったのはLPレコードが売れるようになった1960年代からだろう」として、その頃からレコード会社の影響力が大きくなったと指摘。音楽というビジネスはその後、ウォークマンやCDの登場、さらにはネット配信の開始といった形でメディアが変わっていく中で、冒頭の「レコード会社とはなにか」という疑問には、「原盤を作る会社であるとしか言いようがない」と語った。
こうした考えに至った背景としては、「レコードというビニールのメディアは、他に使い道もなかったのでレコード会社が工場を持って生産していた。これがCDになると他にも用途があるので多くの会社が生産に参入し、レコード会社は工場を持つ必要がなくなった。さらにネット配信の時代になると、流通や営業といった部門もいらなくなり、結局のところレコード会社の仕事は『いい音楽を作る』ことしか残らないのではないか」と語り、音楽というコンテンツの原盤を作成することこそがレコード会社の本質であり、レコード会社が原盤の権利を持つことにこだわってきたとした。
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ライターの津田大介氏(左)とレーベルゲート代表取締役社長の高堂学氏(右)
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社団法人音楽制作者連盟理事長の糟谷銑司氏は、1980年代に貸しレコード業が増えたことから「貸与権」という法律ができたことを振り返り、デジタル時代にはどのように制作者や演奏家の権利を守っていくのかを検討しているとして、現時点では制作者と実演者に権利が与えられている「送信可能化権」を重要視しているとした。また、「配信する側から言えば、売れる音楽は『キラーコンテンツ』ということになるのかも知れないが、アーティストの側からはネット配信を『キラーメディア』として使う方法も考えていきたい」として、制作者側がどのようにネット配信を利用していくかが重要になってくるだろうと述べた。
ライターの津田大介氏は、「音楽ファンの立場からすれば、我々はCDそのものを買っているのではなく中身である音楽を買っている」として、「できれば買った音楽は一生聴き続けたいと思うが、LPやCDなどの物理的なメディアでは不可能だった。デジタルであればメディアが変わっていっても一生聴くことができる権利を買うことも現実的に考えられるようになってきた」と語った。また、「音楽配信のデジタル技術が進歩しても、コピー制限や違法行為への対策といった方向にばかり向かっていて、たとえば著作権料を適正に権利者に配分するといったことに使われていないのが残念だ」と、著作権管理の現状に対して懸念を示した。
レーベルゲート代表取締役社長の高堂学氏は、「メディアや配信方法が変わっていく中でも、きちんと制作者側に対価が戻らなくてはいけないと感じている。そうした観点からレコード会社もCCCDのような仕組みを導入したのだと思うが、ユーザーと企業がギクシャクする結果となってしまったのは不幸なことだ」と述べた。また、「たとえば音楽を友達にちょっと貸すという行為と、ネット上に大量にばらまくといった行為は区別すべきであり、現在はまだ保護の仕組みは試行錯誤の段階だと感じている」と語った。
● ネット音楽配信はCDには無いメリットを
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パネルディスカッションの司会を務めた成蹊大学法科大学院教授の安念潤司氏
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パネルディスカッションの司会を務めた成蹊大学法科大学院教授の安念潤司氏からは、「これまでのCDのようなメディアから、媒体を持たないネット音楽配信のようなモデルにはいつ変わっていくのか」という質問に対して、高堂氏は「CDとネット配信はいつ逆転するのかと質問されることは多いが、CDはこれまででもっとも強力なメディアであり、そう簡単には逆転しないと考えている」として、「ネット配信ならではのメリットが増えてくればユーザーにも浸透していくと思うが、ネット配信がそれほど普及していないということは、まだ配信側がユーザーのニーズに応えられていないことなのではないか」と述べた。
津田氏は「なぜ音楽配信が盛り上がらなかったのかと言えば、CDが一番便利だったから。カセットテープやMDにもコピーできるCDに比べて、これまでの音楽配信サービスは制限も多く、CDと比べて安くもなかった」と指摘。「月9.99ドル支払うと自由にストリーミングで音楽が聴けるサービスが始まった時に初めて『これはCDよりも便利だ』と感じた。ネット配信も、AppleのiTunes Music Storeが始まって、ようやく誰にでも簡単に使えてCDよりも便利だと感じられるサービスになった」と語った。
糟谷氏は、制作者側の立場からはメディアの形態は何であっても構わないとしながらも、「いままでのレコード・CDというビジネスが崩れてくると、音楽の制作時にいままでのような予算をかけられなくなる可能性はある」と指摘した。また、丸山氏は「ネットが出てきて音楽業界の人が戸惑っているのは、これまでと同じように利益を上げられなくなると恐れているということだと思う。自分もソニーにいた頃には、巨大音楽レーベルとしてネットは脅威と感じてどのように防御するかを考えてきたが、現在はインディーズレーベルの立場に変わったことで、むしろネットワークやテクノロジーを使って新しいことをやっていきたいと考えている」と語った。
今後のネット音楽配信の課題として丸山氏は、「レコード会社の側には、これまで育ててきたアーティストを他の会社が努力もせずに配信ビジネスに利用しているという思いがあるのでは」として、ネット配信を行なう企業の側も新人を発掘し育てていくといった観点が必要だとした。
新人を育てるという観点からは、津田氏は「たとえばAmazonの売上の多くをアフィリエイトが占めているように、ネットワークで音楽を『おすすめする』というパワーは使えるのではないだろうか」とした。また、高堂氏も「ネットワーク配信のメリットの1つは多くの楽曲を提供できることであり、現在は10万曲程度を提供しているが、これをさらに増やしていきたい。レコード店でも店側が推薦する『レコメンド』の影響力は大きいが、ネット配信では10万曲提供しているうちの10万曲目であっても誰かが推薦しているという形にできるのではないか」と語った。
関連情報
■URL
JASRACシンポジウム2004
http://www.jasrac.or.jp/culture/schedule/2004/1126.html
( 三柳英樹 )
2004/11/26 22:50
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