甲南大学情報研究所は21日、「米国通信政策最前線」と題して、米連邦通信委員会のロバート・ペッパー氏による講演などのセミナーを開催した。
● ユニバーサルサービス基金は「ユーザーのため」という視点を
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甲南大学経済学部の佐藤治正学部長
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セミナーでは、甲南大学経済学部の佐藤治正学部長が「日本の通信政策動向」と題して、日本の通信政策の現状を米国との比較を中心に講演した。佐藤氏は、日本でも通信のユニバーサルサービスを維持するために基金を設けているが、この基金制度について「海外ではユニバーサルサービス基金は、事業者の競争だけでは対応できず困っている人に対してサービスを提供する、補助を行なうという位置付けになっている」とした。一方、「日本では新規事業者の参入によりNTTの営業が苦しくなるので、それに対して補助を出すといった議論の流れがある」として、「こうした議論の流れを変えて、誰のために補助を行なうのか、そのためのコストは誰が負担するのかといったきちんとした議論が必要だと思う」と述べた。
また、基金の仕組みを米国と比較した場合には、「今後は地方でも技術的に競争の可能性があり、たとえば無線などの新しい技術を使って地方で通信サービスを提供しようという業者が現われたとしても、現状の制度ではこの事業者は基金を受け取れない」という問題点があると指摘。「そうなると、基金を受け取っているNTTと受け取っていない新規事業者が戦うという構図になってしまう。米国の仕組みであれば、既存の地域通信事業者に対して新しい技術で参入してきた事業者についても、その事業者がユーザーを獲得すれば基金を受け取れる。米国の基金は競争について平等であり、基金があっても競争が成り立つという仕組みを考えていくべきだ」と語った。
また、日本では光ファイバなどのネットワークを敷設するためのコストが高く、事業者が独自にネットワークを敷設しようと思っても新規参入障壁が高く、事実上困難となっていることから、光ファイバなどのアンバンドル化により他事業者に提供することは重要であると語った。
● 通信は今後VoIPからE(verything)oIPへ
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米連邦通信委員会(FCC)に通信政策局長を務めるロバート・ペッパー氏
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続いて、米連邦通信委員会(FCC)の通信政策局長を務めるロバート・ペッパー氏による、米国の通信政策に関する講演が行なわれた。ペッパー氏はまず古い前提として、「これまでは音声サービスがビジネスの中心で、通話を『分』という単位で料金を決め、接続料金を算定するといったことを行なってきた」とした。ただし、「現在でも音声サービスは通信事業者の収益の大きな部分を占めているが、ブロードバンド時代には音声は単なるアプリケーションの1つになる」として、FCCも規制当局として異なった考え方が求められていると語った。
ペッパー氏は米国の通信事業者の状況として、新興の地域電話会社は全米で3,000万回線を保有するなど大きな勢力となっていることを紹介した。ただし、この成功は法人向けの回線によるところが大きく、個人向けのサービスとしてはCATV業者による電話サービスや、携帯電話サービスの影響力が大きいとした。
また、VoIPサービスの登場により、米国の通信事業者の収益構造はこの5年間で大きく変わり、長距離通話からの収入が激減する一方で、携帯電話からの収入が急増しているというデータを紹介。米国の大手通信事業者は、傘下の携帯電話事業者が収益の柱となってきているとして、この状況は日本と同様であるとした。
こうした状況の中で、ユニバーサルサービスを提供するための基金は重要な役割を果たしており、低コストでサービスが展開できる地域では競争が激しくなる一方で、サービス提供が高コストとなる地域に対しては補助を行なっていくことが重要だとした。米国では通信料金の請求書にはユニバーサルサービス基金にどれだけ拠出されたかといった項目があり、基金を受け取りたいという事業者が申請を行なう仕組みなど、基金は透明性を持った競争に対して中立なものであることが必要であると語った。
現在の米国のブロードバンド事情については、CATVインターネットとADSLサービスが米国の90%の世帯で利用可能になってきているとした。両サービスを合わせたブロードバンドサービスの加入数は3,100万世帯で、世帯普及率は約30%となっているという。日本との違いとしては、CATVインターネットがブロードバンドサービス全体の約60%を占めており、先行するCATVインターネットをADSLが追いかける形で価格競争が起こり、1999年以降に一気に普及したという状況になっている。
さらには、地域では無線を利用したWISP(Wireless ISP)が登場し、全米で5,000を超える小さな事業者が登場してきているとした。IEEE 802.11bなどの許可の必要ない無線を使うことで、いままで電話サービスもなかったような地域に通信サービスを提供する例も増えているということで、今後はこうした新たな技術によるブロードバンドサービスも一定の割合を占めていくだろうとした。
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セミナーを後援したブロードバンド推進協議会の理事長を務めるソフトバンクの孫正義氏
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ペッパー氏は今後の通信サービスについて、「現在はVoIPが話題となっているが、VoIPは単に今までの電話サービスを置き換えるだけに止まらない」として、より大きな通信サービスの変化の一部であることを強調。「これまでの通信事業者は音声とそれを運ぶための回線を保有してきたが、ダイアルアップ接続の時代になってその上にインターネットが乗るようになった。しかし、VoIPの登場により音声はインターネットアプリケーションの1つに過ぎなくなり、収益構造も含めて再検討が迫られることになる」と語った。
また、今後は音声(Voice)だけでなく、映像などあらゆるもの(Everything)がIP上に乗る「EoIP」に向けて通信事業者は挑戦していくことになるだろうとして、FCCでもこうしたサービスに向けてボトルネックとなるものが何であるかを理解し、「放送」や「ケーブルテレビ」といった概念も今後は変更を迫られることになるだろうという見解を述べた。
講演の終わりには、セミナーを後援したブロードバンド推進協議会の理事長として、ソフトバンクの孫正義社長が紹介され、孫氏は「通信はもはや1国の政府や機関だけで議論されるものではなくなってきており、米国でも開かれた通信政策のために様々な議論を行なってきたように、日本でも開かれた通信業界となり競争状態が進展することを期待している」と講演の感想を述べた。
ペッパー氏は、「電気通信事業においては、どこの国でも透明性と公正な競争の確保が求められており、そのことによって各国は経済的なメリットを享受できる。日本でもADSLなどにおいて政府が有効な政策を打ち出し、企業が有効な投資を行なったことで、ブロードバンドの分野においては成功を収めている。こうした成功例から世界各国も学んでいきたい」と語った。
関連情報
■URL
ブロードバンド推進協議会
http://www.bbassociation.org/
■関連記事
・ FCCのPepper局長「ブロードバンドで誰でもどんなサービスでも提供できる」(2003/12/05)
( 三柳英樹 )
2004/12/21 21:32
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