P2Pに限らず、コンテンツ配信には必須といわれるDRM(デジタル著作権管理技術)。しかし、現状では規格が乱立し、コンテンツのやり取りの障壁になる場合もあるという。また、DRM自体が著作権より優位になってしまう見方もあり、一部では“DRM不要論”も取り沙汰されている。財団法人デジタルコンテンツ協会(DCAj)のシンポジウム「P2Pコミュニケーションの可能性と法的課題 ―コンテンツ産業はP2Pといかに向き合うべきか―」では、こうしたDRMの抱える問題も指摘された。
P2P技術を配信ビジネスに活用するにはDRMが不可欠~松下電器の井藤氏
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松下電器産業の井藤主任技師
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松下電器産業AVコア技術開発センターの主任技師である井藤好克氏は、P2P技術を「既存の流通チャネルから独立した次世代の流通経路」と位置付ける。しかし、この次世代の流通経路を配信ビジネスに活用するには「対価徴収の仕組みとしてDRMが不可欠だ」という。
井藤氏によれば、DRMは「再生制御技術」と「コンテンツ認証」で構成されている。「Windows Media Technology」などが有名な再生制御技術では、コンテンツやコンテンツの利用条件を暗号化したり、利用者側端末の「耐タンパー(盗み見されにくいこと)」化や、コンテンツの利用条件を設定する。一方のコンテンツ認証では、コンテンツのデータから抽出した固有の「ハッシュ値」を認証に用いる「電子指紋」と、人間が識別しにくい状態で埋め込まれた情報を用いる「電子透かし」がある。こうした電子指紋/透かしをデータベースに登録することによって、インターネット上のコンテンツの不正利用を監視することも可能だという。
DRMの活用と今後の課題
DRMとP2Pを活用したケースとして、井藤氏はNTTコミュニケーションズの「NetLeader」を紹介した。NetLeaderでは、Windows Media Technologyを活用し、広告閲覧によるライセンス発行機能を備えている。閲覧時に広告を表示させてライセンスが発行されるため、コンテンツをメールに添付したり、P2Pネットワークに流通させてもビジネスとして成立するという。
一方、「DRMの課題は個人情報の管理だ」と解説する。DRMで認証を行なう場合に、IDやパスワード、そのほかのメタデータなど利用者にひも付いた情報の入力が必須だからだ。井藤氏は「今後、情報管理を強化する必要がある」と力説する。
また、DRM技術が乱立する現状を「異なるDRM技術が、ユーザー間のコンテンツ交換やメディア変換の障壁となる」と危惧。「互換性を目指す『Coral』や『OMA-DRM』といった団体も設立されているが、そうした団体までも“乱立”してしまっている」と嘆いた。
ドイツで開催された「DRM Coference」ではDRMの限界が議論
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ジョーンズ・デイ法律事務所の石新智規弁護士
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こうしたDRMの問題点を、国際的な潮流から解説したのはジョーンズ・デイ法律事務所の石新智規弁護士だ。石新氏は、1月13~14日にドイツで開催された国際会議「第3回 DRM Conference」に出席しており、会議の模様を「そもそも議論の出発点として、DRM技術の限界が指摘された」と伝える。
会議ではDRMをめぐり、1)技術は進展するため、DRMを破る技術とのいたちごっこが終わらない、2)技術としてのDRMが法律で認められている以上に著作権の範囲を制限してしまい、著作権そのものより優位な存在になってしまう、3)技術的な義務付け(Technology Mandate)の問題――の3点が議論されたという。
3)の義務付けに関しては、いったん義務付けられてしまうと、義務として採用されたDRMより高性能なDRMが採用されにくくなってしまうのでははないかという危惧のほかに、DRMを権利者とメーカーのみで決定することになりかねず、ユーザーにとっての視点、例えば米国でいう「フェアユース」の側面が考慮されなくなるなども心配されているようだ。
“DRM不要論派”は「補償制度」を提案
こうしたDRMに懐疑的な、いわば“DRM不要論派”が提案する制度が「Levy System(補償金制度)」だ。Levy Systemについて石新氏は「論者によってさまざまな見方があり、集約されていない」と前置きした上で、テキサス州ロースクールのNeil Netanel教授とハーバード大学のWilliam Fisher教授の意見を紹介する。
「Netanel教授はP2Pファイル共有サービスに強制ライセンスの導入を、Fisher教授は著作の『Promises to Keep(守るべき約束)』の中で、一般的な著作権法の代替制度として税金をベースにした補償金制度をそれぞれ提唱している。」
このような補償金制度の発想には、何百万というユーザーが意識せずに著作権侵害を行なってしまい、それに対して著作権者が訴訟を起こしている現実が背景にある。石新氏は「一般ユーザーの感覚で違法とは思えず、普通に行なってしまう行為は、違法にするべきではないという考えがある」と説明する。
EU諸国にはLevy Systemを問題視する声も。将来の制度設計は!?
とはいえ、すでに補償制度を先んじて導入しているドイツやオランダなどのEU諸国では、Levy Systemの問題を指摘する声もある。石新氏は、アムステルダム大学のP.Burnt Hugenholtz教授が「Levy Systemに懐疑的だ」とし、Hugenholtz教授の意見として「ラフな課金とラフな分配によって権利者とユーザーの双方に不満を生じさせてしまう」「ファイル共有サービスが合法化されることで、自由な利用を好まない権利者が、自らの権利を守るためにDRMをますます利用してしまう」などの問題も紹介した。
石新氏によれば「Hugenholtz教授は、Levy Systemは本来、DRMを不要とする制度であるはずなのに、DRMの利用をますます促進する皮肉な結果になると指摘した」という。また、Levy Systemでは、現行の著作権の考え方において対価請求権のみが強調され、同一性保持権などの関連する権利が失われてしまう恐れもあると分析し、「国内でLevy Systemを採用すれば著作権は変容せざる得ない。これを認めるのかどうか慎重に検討する必要がある」との見解を示した。
石新氏は最後に、DRMの制度設計について「DRMと法の関係を検討しなければならない」とコメント。つまり、DRMと法が補完関係になるのか、DRMか法というように二者択一的な関係になるのか、それともDRMが法を凌駕するような関係になるのか――いずれにせよ、「課金などを含めた現実的な制度設計には慎重な議論が必要だ」と結論付けた。
関連情報
■URL
P2Pコミュニケーションの可能性と法的課題
http://www.dcaj.org/contents/frame03.html
( 鷹木 創 )
2005/03/08 12:27
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