財団法人インターネット協会は24日、都内で「今、インターネット上に氾濫する有害情報はどうなっている? ~子どもに見せたくない情報に対してできること~」と題してセミナーを開催した。会場では有害情報に関するパネルディスカッションも行なわれた。
コーディネーターは慶應義塾大学大学院の苗村憲司教授。パネリストには警察庁生活安全局情報技術犯罪対策課の中谷昇課長補佐、ニフティ法務部の山下康史課長、インターネット博物館の宮崎豊久代表、情報ネットワーク法学会サイバー刑事法制研究会主査代行の落合洋司弁護士、東京外語大学アジア・アフリカ言語文化研究所の猪股富美子研究推進員。会場には、事前に講演を行なった社団法人韓国サイバー監視団のゴング・ピョングチョルCEOや、NHN Corporationのキム・ジョンチョルCEOも出席し、パネリストや会場の一般参加者と意見を交換した。
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慶應義塾大学の苗村教授
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警察庁の中谷氏
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ニフティの山下氏
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● インターネットに流れた情報は完全に削除できない。一生被害を受けることに
まず、警察庁の中谷氏が、不正アクセスなどのサイバー犯罪の現状や出会い系サイト関連の被害状況、それら以外のインターネット上で発生したトラブルの現状を説明した。2000年には913件の検挙数だったサイバー犯罪は2004年には2,081件と5年間で2倍に増加。出会い系サイト関連では2000年に104件が検挙されたが、2年後の2002年には1,731件に達した。その後は「2003年に施行された出会い系サイト規制法の影響もあり」(中谷氏)、2004年には1,582件と検挙数は微減傾向にある。インターネット上のトラブルは、相談受理数で2000年に11,135件だったが、2003年に41,754件、2004年には70,614件と増加傾向にある。架空請求や不当請求メールに関わるものだという。
具体的なトラブルとしては、「子供たちに人気のある掲示板で、女の子をモデルに誘うケースがある」と、インターネット博物館で小学生や中学生などの相談を受け付けている宮崎氏。「お小遣い」「モデル」「ビデオ出演」がキーワードで、掲示板で言葉巧みに子供たちを誘う。「お金欲しさやモデルへの憧れなどから、こうした写真撮影に申し込んだり、アダルトビデオに出演してしまう子供たちも少なくない」のが現状だ。
こうして撮影された写真やビデオはデジタル化され、アダルトサイトの画像や出会い系サイトの“サクラ用画像”として利用される。「動画の場合はP2Pネットワーク上に流されてしまう。P2Pファイル交換ソフトでやり取りされるファイルは、ファイル名に被害者と思われる名前や電話番号などが表示される場合があり、実際に電話が鳴りやまないといった被害を受けることもある」。また、いったんインターネットやP2Pネットワーク上で配信されてしまうと、ネット上からの完全削除はほぼ不可能だ。宮崎氏は「たとえ加害者が逮捕されてもコンテンツは削除できないため、一生被害を受け続けることになる」と指摘した。
● サイバー犯罪対策に有効な対策は~法律か自主規制かメディアリテラシーか
こうしたサイバー犯罪に対して、「警察では2004年4月から情報技術犯罪対策課と情報技術解析課を設置して犯罪防止に取り組んでいる」(中谷氏)。サイバー犯罪に対応するべく、既存の法律を改正したり、新しい法律を作るなど法制度面の環境も整えているとという。例えば、風営法では1998年にアダルトサイトを対象に含む改正が行なわれた。1999年には不正アクセス禁止法の施行、2002年には古物営業法の一部を改正し、ネットオークションにも対応した。
中谷氏は「Enforcement(取り締まり)だけでサイバー犯罪を防止できるとは思えないが、一定の効果があるのは事実」と指摘。その上で「サイバー犯罪防止には、広報や講演活動などのEducation(普及啓発)と、最新技術にキャッチアップするEngineering(技術)を組み合わせて取り組んで行くことが大事だ」との見解を示した。
法律で有害情報を規制すべきとする意見がある一方、「有害情報を規制することと表現の自由や通信の秘密との間には緊張関係がある」(弁護士の落合氏)と、法律による規制に慎重な意見もある。ニフティの山下氏は、「通信の秘密を守る義務があるため、通信事業者は事前に悪質なサイトを審査することはできない」とコメント。「通報や被害申告があれば、事後対応として情報を開示し、場合によっては規約に抵触するという理由で有害情報発信者の利用を停止することもある」とした上で、「各ISPによってサービスの提供形態や事業規模はさまざま。法律などによる画一的な規制は馴染まないばかりか、技術の進展に対応できない恐れもある」と、あくまでISPの自主的な対応を図るべきだとの意見を述べた。
「法律による規制や自主規制といった環境づくりは、だんだん現実に追いつかなくなっている」と指摘するのは、メディアリテラシーを研究する東京外語大学の猪股氏。「どんなフィルタリングソフトでも抜け道はあり、100%子どもを守ることはできない。今後は、人間づくりとして、メディアリテラシーの重要性が高まるのではないか」。猪股氏の語るメディアリテラシーとは「主体性をもってメディアに接すること」だ。問題解決能力やコミュニケーション能力、自己管理能力、危機管理能力、規範意識などを重視するという。
保護者の心得として、宮崎氏は「子どもたちが何をしているかを把握する」「インターネット上の出来事だからといって、自分たちに関係ないことだと問題を切り分けない」「居間にPCを設置するなど子どものインターネット利用時間は親がコントロールする」「トラブルが起きたときの相談先を控えておく」の4点を挙げる。「実際には、子どもの方がインターネットに詳しい場合が多く、フィルタリングソフトを導入しても管理者は実は子どもだったということもある。親がインターネットだからと尻込みするのではなく、正面から堂々と対策するべきだ」と指摘した。
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インターネット博物館の宮崎氏
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落合弁護士
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東京外語大学の猪股氏
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韓国サイバー監視団のゴング氏
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NHNのキム氏
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● 反民族的、反国家的なサイトを削除しても表現の自由には抵触せず~韓国ゴング氏
会場からは、表現の自由に関連して韓国の情勢を尋ねる質問もあった。韓国サイバー監視団のゴング氏によると、同監視団が有害情報を発信しているサイトをA~Fまでの等級に分類し、「A等級であれば司法機関に事件として委ねる」「B等級であれば該当ISPを通じてサイトを閉鎖させる」など、等級に応じた措置が取られる。強制的に閉鎖された場合には異議申し立ても可能だという。
NHNのキム氏は、判断基準について「ガイドラインは作成されているが、そうした基準は人間が作り、実際の判断も人間が行なう。どうしても主観的にならざるを得ないし、判断がぶれることもある。また、基準自体がない分野もある」とコメント。また、ゴング氏によれば、「最下級のF等級であったとしても、政府の情報通信倫理委員会に諮られ、反民族的、反国家的な情報を掲載していると判断された場合は削除される」という。ゴング氏は「ねつ造されたり、誤った情報を配信するサイトを削除したとしても、表現の自由には抵触しないと考える」とコメントした。
関連情報
■URL
セミナー情報
http://www.iajapan.org/hotline/seminar/20050324.html
( 鷹木 創 )
2005/03/24 21:40
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