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「通信の秘密」はどこまで保護すべきものなのか


 「Internet Week 2005」の最終日となった9日、「インターネット上の法律勉強会」と題されたカンファレンスが開かれた。毎年インターネット関連のさまざまな法律の問題を扱っている同カンファレンスだが、今年は特に憲法や電気通信事業法に定めのある「通信の秘密」の保護と、ISPのネットワーク管理やユーザー保護との関係に焦点が当てられた。

 一般的にインターネット接続については、ISPなど電気通信事業者のサービスを利用して接続を行なう場合にはこの「通信の秘密」の保護対象となると解されている。その対象には通信内容そのものだけでなく、通信を行なった時間・場所・相手なども含むというのが現在の通説となっている。

 ところが、最近では掲示板やブログなどの書き込みによるプライバシー侵害や名誉毀損といった事例はもちろんのこと、大量のスパムメール送信やDoS攻撃などISPのネットワーク運営そのものに支障を与えるような問題が起こっていることに対し、この「通信の秘密」の保護が壁となっている。前者であれば、裁判を起こそうとしても、問題となる書き込みを行なった人間に関する情報の開示を受けることが困難なため、被害者が救済を受けられなくなっているという。後者であればトラフィックをモニターして何らかの対策を行なうことやISP間で攻撃に関する情報を交換することが電気通信事業法違反に問われる可能性が出てきている。

 こういった状況の中、果たして「通信の秘密」とは本来どこまで保護すべきものなのか、そして「通信の秘密」の壁の中でISPはどうやってネットワークの運用や被害者救済に対応すればよいのかなど、「通信の秘密」にまつわる諸問題について解説と議論が行なわれた。


「通信の秘密」の保護に関する新たな社会的コンセンサスが必要

弁護士の高橋郁夫氏
 カンファレンスではまず午前中に、憲法や電気通信事業法に定めのある「通信の秘密」とは具体的にどのような内容のものなのか、そしてそれが現在のISPの運用の中でどのように問題になっているのかといった点について解説された。

 IT関係に詳しく、日本弁護士連合会コンピュータ委員会のメンバーでもある弁護士の高橋郁夫氏は、現在、国立国会図書館のWebサイトで公開されている日本国憲法の成立過程に関する資料にまで立ち戻り、「通信の秘密」とは本来どのような意図で定められた規定なのかについて解説した。高橋氏によれば、現憲法の中で「通信の秘密」が第21条(表現の自由)の中で定められているように、例えば仲間内で政府に批判的な内容の会話を電話等を通じて行なった場合に、それを政府が検閲して発言した人間を逮捕するといったことが起きないようにすることがそもそもの(GHQ側の)起草者の意図したところだと見られるという。

 ところが大日本帝国憲法にはもともと「信書の秘密」に関する規定があり、当時の日本側の関係者はGHQ側の意図とは異なり「通信の秘密」をこの「信書の秘密」の概念が拡大したものだと誤解してしまったのではないか、と高橋氏は推測する。そのため表現の自由を守るためであれば本来保護しなくてもいい情報まで「通信の秘密」の対象として含まれることになってしまい、現在の混乱を招いていると高橋氏は主張した。

 高橋氏は、昔ながらのアナログ電話網における「通信の秘密」が保護される具体例として、いわゆる逆探知(電話の発信場所を、発信者の同意無しに受信者に知らせたりすることは、特別な理由がない限り違法となる)や通話記録(通話状況を記録することは本来「通信の秘密」の侵害だが、課金処理など電気通信事業者としての業務に必要な範囲で正当業務行為として違法性が阻却される)などを挙げた。その上でこれをインターネットに応用した場合「DoS攻撃の攻撃元の特定が逆探知と同じとみなされて違法とされてしまう」「ISPが、クラッカーが攻撃目的で送信してきたパケットの内容を記録・解析することは正当業務行為とみなされない可能性がある」「複数事業者でクラッカー情報を共有することも『通信の秘密』の漏洩とされ違法となる」などという問題が起こるとして、インターネットと電話を同じアナロジーで見ることに無理があるのではないかとの疑問を提示した。


日本で「通信の秘密」に該当する情報の米国での保護の状況
 高橋氏は、郵便法や電波法などやはり通信に関わる別の法律と電気通信事業法を比較した。例えば郵便法では送り主や宛先などに関する情報は「通信の秘密」ではなく「他人の秘密」として保護されていること、郵便で送ることのできないいわゆる「禁制品」に関する規定があることや内容物に関する申告(場合によっては開封による確認)を求めることができるることなどを挙げ、「リアルなウイルスは運んじゃいけないことになっているのに、サイバーなウイルスは運ばなきゃいけないというのは変だ」と語った。また、電波法では電波の傍受そのものは合法であることなどを挙げ、「(インターネット上の)パケット通信にはもともと電波法的な要素があるのに、ゆがんだ形でアプリケーションを動かしてしまっている」とも述べた。

 そして高橋氏は「これだけ話がもつれると一度リセットしてやり直したいところだが現実には無理」と述べた上で、米国では日本のように「通信の秘密」を一律に保護するのではなく、情報の内容に応じて段階的に保護の度合いをクラス分けしていることを紹介し、日本でもパケット通信に関してネットワーク管理や被害者救済などとの関係を考慮しつつ、「通信の秘密」をどの程度保護すべきかに関する適切な社会的コンセンサス作りが必要であると訴えた。


「通信の秘密」が壁になり泣き寝入りしなければならない理由

WEB110の吉川誠司氏
 続いて登場したWEB110の吉川誠司氏は、一般のインターネットユーザーから寄せられた相談事例から、実際にどのような状況で「通信の秘密」が壁となって被害者救済に支障が出ているのかを解説した。

 吉川氏は、実際に裁判などで発信者情報の開示を請求した場合の問題点として、まず裁判所による文書提出命令の場合については「裁判内容に開示内容が直接関係あると認められないとダメ」(例えばISPを被告として不作為責任を争う訴訟の場合、発信者情報の開示は裁判に直接関係ない事項だとして開示は受けられない)といった問題がある上、仮に文書提出命令が出たとしてもISP側は民事訴訟法第220条4項(その文書を開示することにより自らが訴えられる可能性がある場合は提出命令を拒否できることを定めている)を盾に「文書を開示することは、電気通信事業法上の『通信の秘密』の侵害でありISP自身が訴えられる可能性がある」として開示を拒否できるため「実効性がない」と語った。

 また、現実の局面では、ISPが持つ発信者情報が、当該発信者の退会などにより文書提出命令の前に抹消されてしまうといったことも起こりうる。情報の抹消を防ぐための証拠保全申請を裁判所に行なう場合があるが、これについても吉川氏は「『文書提出命令でも出せない書証に対しては証拠保全命令を出せない』という判例があり実際には無意味」「テレコムサービス協会(テレサ協)のガイドラインにISPが従うと、実質的に証拠保全には応じないことになる」と述べた。

 そこで実際にはプロバイダ責任制限法第4条に基づく発信者情報開示請求が、民事裁判の場合は唯一の拠り所になると吉川氏は語ったが(刑事裁判の場合は捜査令状による開示が可能なのであまり問題にはならない)、一方で「開示を受けるにはまず本人確認を求められるが、例えば某匿名掲示板の管理人相手に自分の免許証のコピーを送れるかというと、それには抵抗がある人も多い」「ISP側は、開示請求を行なう段階で、実体法上の請求権があり違法性阻却事由がないこと(=裁判に勝てること)の主張・立証義務を請求者に要求しており、要求が非常に過大である」といった問題点があると指摘。結局、開示請求を受けられずに被害者が泣き寝入りせざるを得ない例が多々あると主張した。

 吉川氏は「固定IPアドレスのユーザー情報はただの契約者情報であり、通信の秘密には当たらないとされているのに、動的IPアドレスのユーザー情報を厳格に保護する必要はない」「掲示板やWebへの書き込みなどでは『通信の内容』自体を発信者の意思で公開しており、その周辺情報に過ぎない発信者情報への保護は、それによる被害者の裁判を受ける権利を奪うほどの守秘義務を課したものではないはず」と語った。さらに「そもそも憲法における『通信の秘密』自体絶対的なものではないのに、単なる制定法に過ぎない電気通信事業法上の義務にそこまでの絶対性はないはず」として、ISP側の柔軟な対応を求めていた。


関連情報

URL
  Internet Week 2005
  http://internetweek.jp/
  インターネット上の法律勉強会「通信の秘密と自由」
  http://internetweek.jp/program/shosai.asp?progid=C10


( 松林庵洋風 )
2005/12/12 19:08

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