「今のP2P技術から言えば、Winnyはヘボい。ピュアP2Pのソフトだから管理は不可能かと言われれば、やってやれないことはない」。Winnyの開発者で、著作権法違反幇助の罪を巡って裁判中の金子勇氏が次世代P2Pソフトのあり方に言及した。17日に東京・池袋のサンシャインシティプリンスホテルで開催された「メディアエクスチェンジ・ユーザーズ・ミーティング(MEXUM 8th)」の講演で述べた。
● Winny2では「P2Pによる大規模匿名BBS」の実現を目指した
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Winnyの開発者である金子勇氏
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Winnyには大別すると2つのバージョンが存在する。1つは、2002年5月6日に公開した「Winny1」シリーズだ。こちらは2003年4月7日のバージョン「1.14」で開発を終了した。もう1つが、2003年5月5日に公開した後継版の「Winny2」シリーズ。こちらはWinnyに関連して初の逮捕者が出た2003年11月27日に、京都府警ハイテク犯罪対策室が金子氏の自宅に家宅捜索を行ない、PCなどの開発環境を押収しているため開発が止まっている。
金子氏によると、Winny1とWinny2には開発コンセプトに明確な違いがあった。Winny1では匿名性と効率性が両立した「P2Pファイル共有ソフト」、Winny2では「P2Pによる大規模匿名BBS」の実現を目指した。
Winny1を特徴付ける技術は、「Proxy機構を備えた」ことだという。各ノードのProxyサーバー機能で多段中継し、匿名性が増した。Proxyサーバーのキャッシング機能によって効率性も向上した。P2Pファイル交換ソフトは、管理サーバーを介す「ハイブリッド型」を第1世代、管理サーバーを介さずノード同士がネットワークを構築する「ピュア型」を第2世代と呼ばれているが、Proxyサーバー機能を持たせたWinnyを金子氏は「第3世代P2Pソフト」と呼ぶ。
また、Winny1開発時に影響を受けたというP2Pソフト「Freenet」では、匿名性を重視したため、効率性が犠牲になっていた。Freenetでは共有するファイル全部をP2Pネットワークに流していたが、Winny1では共有ファイルをインデックス部分などの「key」とファイル本体の「Body」に分割。keyを先行して流すことによって、検索や転送の効率性が向上したという。
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Winny1では匿名性と効率性を両立した「P2Pファイル共有ソフト」、Winny2では「P2Pによる大規模匿名BBS」の実現を目指した
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Winny1を特徴付ける技術は、「Proxy機構を備えた」こと
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Winny1では共有ファイルをインデックス部分などの「key」とファイル本体の「Body」に分割。keyを先行して流すことによって、検索や転送の効率性が向上したという
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● スレッド管理の暫定的な実装で匿名性が揺らいだ
一方、Winny2では、Winny1で見えてきた匿名性と効率性の高いP2Pネットワーク上で「2ちゃんねるのような」大規模匿名BBSを目指した。Winny1でスタティックなファイルの共有技術を実現したものの、BBSというダイナミックなファイルの共有は簡単ではなかった。
基本設計は、Winny1で共有するファイル1件を1スレッドとし、ファイルへの追記機能を持たせた。書き込み内容を同期させることが困難だったが、スレッド管理をスレッドを立てたノードに固定するという実装により暫定的に対処したという。
しかし、この暫定的な対応でWinnyのキーコンセプトである匿名性が揺らいだ。スレッドの読み書きについては、各ノードから中継ノードに依頼することで匿名性を担保できるが、スレッドを立てた特定のノードにとっては匿名性が著しく低下したのだ。結局、京都府警が逮捕したユーザーもこのBBSシステムから特定されたという。
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書き込み内容を同期させることが困難だったが、スレッド管理をスレッドを立てたノードに固定するという実装により暫定的に対処
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スレッドの読み書きについては、各ノードから中継ノードに依頼することで匿名性を担保できるが、スレッドを立てた特定のノードにとっては匿名性が著しく低下した
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● ピュアP2Pでも管理可能
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FreenetやBitTorrentなどのP2Pソフトはオープンソース
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現在Winny2の開発は止まっているが「BBSの匿名性を担保するアイデアはある」と金子氏。「スレッドを管理するノードは必要だが、スレッド自体は何処にあるかどうかわからないようにすればいい」。一方で、ピュアP2Pで不可能といわれているネットワークの管理については「不可能ということはない」とコメント。Winny2の開発が続いていれば、ネットワークを管理する方向に進んでいたと述べた。
このほか次世代P2Pソフトについては、「分散ハッシュテーブル」や「オープンソース」といったキーワードに言及。特にオープンソースに関しては「開発者が表立って作ってしまうと開発者本人が攻撃対象になってしまう」と自身が逮捕された経緯についても触れた。
なお、Winny開発時にソースを公開しなかった点には「オープンソースでも匿名性には問題がないが、効率性に問題がある。ハッキングされるとフリーライドの問題が発生する可能性があった」と指摘。つまり、P2Pネットワークでダウンロードだけ行なえるWinnyクローンが開発されてしまうことを懸念したという。
ただし、FreenetやBitTorrentなどのP2Pソフトはオープンソース。しかもそれぞれ匿名性や効率性もあるという。「その気になれば誰でも作れる。今から見るとWinnyはヘボい。途中で開発が頓挫してしまっているので私自身も明言できないが、管理可能性を追求すればSNSなどのクローズドネットワークへの応用も可能なはずだ」と述べた。
関連情報
■URL
メディアエクスチェンジ
http://www.mex.ad.jp/
関連記事:本誌記事にみる「Winny」開発者逮捕へ至る経緯
http://internet.watch.impress.co.jp/static/index/2004/05/18/winny.htm
■関連記事
・ Winny開発者の裁判に村井教授が証人として出廷、検察側の主張に異議(2006/02/16)
( 鷹木 創 )
2006/02/20 17:08
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