毎日新聞社と駒澤大学は31日、「デジタル時代のメディア・マネジメント」と題したシンポジウムを開催した。市民参加型のニュースサイト「OhmyNews」の日本法人で代表理事兼代表記者を務めるオ・ヨンホ氏が特別講演を行なった。
韓国のOhmyNewsは、「すべての市民は記者である」をコンセプトとして、2002年2月にスタートした。「オーマイニュース日本語版」は、8月下旬にベータ版サービスが開始される予定で、初代編集長に鳥越俊太郎氏が就任することが決まっている。
● OhmyNewsの魅力は「市民記者がマスメディア機能を果たせること」
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オーマイニュース代表理事兼代表記者のオ・ヨンホ氏
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オ・ヨンホ氏によれば、韓国のOhmyNewsの市民記者は4万人に上り、「町のおじさん、おばさん、警察官、軍人など」あらゆる職業に就く記者が集まっているという。6月9日から開催されるサッカーワールドカップについても、市民の目による記事を提供するため、「過去にサッカーに関する記事を熱心に投稿していた」という記者3名をドイツに派遣する。
ところで、市民記者はわずかな原稿料しか与えられないにもかかわらず、なぜ記事を投稿するのだろうか。そんな質問をたびたび受けるというオ・ヨンホ氏は、「お金には変えられない楽しさを市民記者に与えている」と語る。その楽しさとは、自分がその気になれば記者になって読者に情報を発信できるという点で、これは既存のメディアでは不可能と指摘する。
市民記者が書いた記事は、さまざまなブログのほか、OhmyNews以外のポータルサイトなどでも取り上げられる。これにより話題が集中すれば、インターネット以外の既存メディアが紹介するようになる。1人の市民記者が、OhmyNewsを通じてマスメディア機能を果たすようになるという仕組みだ。
「プラットフォームが開かれていて、誰でもそこに参加できるということ。また、プラットフォームに参加する行為そのものが、プラットフォームの価値を高めるということ。もし、これらが今話題のWeb 2.0の特徴であるならば、OhmyNewsもそれを成し遂げていることになる。」
そのほか、市民記者が記事を投稿するインセンティブとして、読者が市民記者に原稿料をカンパするシステムも導入している。これは、市民記者の記事を読んだ人が、評価によって携帯電話やクレジットカードを介して市民記者に原稿料を与えるというものだ。このシステムにより、300万円を獲得した大学教授もいたという。
● 市民記者の記事をプロがチェックすることで信頼性を高める
市民参加型ニュースサイトであるOhmyNewsでは、情報の信頼性や経営基盤に対する不安が寄せられることが多いという。
情報の信頼性については、編集部が市民記者の記事をチェックする仕組みを設けることで解決しているという。現在、1日あたり150~200本の記事が投稿されているが、そのうち7割が掲載されている。また、すべての記者が実名で投稿しているのも特徴の1つだ。市民記者に対する倫理綱領も設けており、違反者は除名される仕組みも整えている。
経営基盤としては、収益の70%を広告から得ているという。OhmyNewsを開始してから3年間は赤字だったものの、それ以降は黒字に転換。広告は、SamsungやSKなど韓国を代表するような大企業が多く出稿している。
● オーマイニュース日本語版は、掲示板と新聞の長所を取り入れる
オーマイニュース日本語版については、「日本には、大勢のユーザーが参加するネット上の掲示板があるが、信頼性に欠けるものが多い。一方、新聞社のWebサイトは、信頼性や権威はあるが、ユーザーの参加が不足している。オーマイニュースでは、信頼があってユーザーが参加するメディアを目指す」と言及。韓国と同じく4万人の記者を集めることを目標に掲げた。
収益面では、「良質のコンテンツを提供すれば、その場所に人は集まるという、(サイト運営で広告を集めるための)伝統的なスタイルを進める」。一方で、新しい収益モデルも打ち出す。生活情報に関連した広告をAll Aboutが掲載する仕組みを導入するほか、Google AdSenseを取り入れることも、ベータ版が開始する8月までの検討事項であるとした。オフラインのビジネスとしては、市民記者向けの文章講座などの教育ビジネスも展開するという。
● 神奈川新聞、住民の声を反映するブログ活用コミュニティサイトを開設
シンポジウムではこのほか、オ・ヨンホ氏のほか河北新報社論説委員の寺島英弥氏、神奈川新聞社カナロコ編集部の宮島真季子氏が参加し、「これからのニュースメディア」と題したパネルディスカッションが開催された。
寺島氏は、オーマイニュースが日本に進出することについて、「現場の記者にとって大きなインパクト」と感想を述べた。市民が記者になることで、「プロである新聞記者との違いはどこにあるのか」という問いを突き付けられていると語った。
宮島氏は、ブログを活用したコミュニティサイト「カナロコ」を神奈川新聞が開始した背景を説明した。宮島氏によれば、神奈川新聞では記者クラブなど伝統的なニュースソースをもとにした記事が多く、生活に密着する地方紙ならではの情報を拾い切れていなかったという。
また、ニュースへの反響や関心が見えないことから、「自己満足的な報道になっていないか」という疑問もあり、住民の声を反映させるためにブログを活用した「カナロコ」を開設した。今後は、ブログの“荒らし”を防ぐために、登録者のみがコメントできる機能を搭載するとともに、カナロコを通じて寄せられた読者の声を、本業である紙媒体に反映していきたいとした。
関連情報
■URL
デジタル時代のメディアマネジメント
http://www.bba.or.jp/bba/archives/2006/05/post_46.html
( 増田 覚 )
2006/06/01 11:16
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