東京・新宿で開催された「Black Hat Japan 2006」で6日、ネットエージェント代表取締役社長の杉浦隆幸氏が講演した。P2Pファイル共有ソフト「Winny」の匿名性とその実状のほか、著作権法に違反するファイルをアップロードしている人が逮捕される可能性などを話した。Winnyの開発者である金子勇氏の裁判判決後の動向についても触れた。
 
● Winnyではダウンロード完了後、即アップロード 
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ネットエージェント代表取締役社長の杉浦隆幸氏
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 まず杉浦氏は、Winnyの利用者が1日あたり40~45万人に上ると指摘。マスコミでWinnyによる情報漏洩が報じられることで、PCのライトユーザーもWinnyを使うようになってきたという。
 
  Winnyの仕組みでは、コンテンツのダウンロードが完了すると、ただちにそのコンテンツがWinnyのネットワーク上にアップロードされる。こうしてアップロードされたコンテンツを、他の利用者がダウンロードすることで、次第にアップロードされるコンテンツが増え、効率的なコンテンツ配信が可能となる。杉浦氏によれば、「ダウンロードしたものが即アップロード状態になることを知らない人が多い」という。
 
  さらに、そのコンテンツをダウンロードしていない人のPCにも、中継ノードとしてそのコンテンツに関するキャッシュが蓄積される。これは、コンテンツの配信効率を高めるとともに、コンテンツの第一次発信者の匿名性を高めるためだ。
 
 
● 最初にコンテンツをアップロードした人の特定は容易 
 しかし杉浦氏は、コンテンツを最初にアップロードした人を特定することは容易だと強調する。Winnyでは、コンテンツをアップロードした際、ファイル名やファイルサイズ、保存場所などを含むキー情報が発信される。キー情報は、一度送信されてから25分後には消えるが、コンテンツをアップロードしているノードからは、そのコンテンツのキー情報が何度も送信されるという。
 
  一方、キー情報を中継するノードからは、そのコンテンツのキー情報が何度も送信されることはない。コンテンツがアップロードされた当初は、キー情報は大量に伝搬しないため、そのキー情報を1人で保持している時間が長くなる。このことから、1回目のキー情報が消滅した以降に、そのキー情報を持っている人を特定すれば、その人が第一次発信者であることがわかる。
 
  また、複数のユーザーがそのコンテンツをダウンロードしてキー情報が拡散しても、ログをさかのぼれば、そのコンテンツを1人で保有している時間が長かった人を第一次発信者として特定できる。
 
  さらに、Winnyネットワーク上のパケットデータを取得してユーザーのIPアドレスさえわかれば、ダウンロードしたファイルの内容が含まれるキャッシュも取得できるため、誰が何をダウンロードしていたかということも判明するという。
 
● ウイルス対策ソフトでは暴露ウイルスを防げない 
 Winnyでダウンロードされるコンテンツは、3年前はゲームやアダルト、音楽が主流だったが、最近ではアニメが人気。特に、深夜時間帯の番組や地方では放映していない番組が多い。Winnyで人気があるコンテンツ上位30位を集計したところ、そのうち27本はアニメだった。
 
  ただし、最もダウンロードされているコンテンツでも、「約1,000人のユーザーが所有する程度」(杉浦氏)。Winny上でも“ロングテール”現象が見られ、多岐にわたるコンテンツがダウンロードされているという。
 
  また、話題となっているのが、いわゆる“暴露ウイルス”に感染した人が持っていたファイルだ。この情報漏洩ファイルは、Winnyのネットワーク上に流れるコンテンツの約3%を占める。杉浦氏は、この割合はさらに増えると予想する。
 
  「情報漏洩を引き起こすウイルスは、気軽に亜種を作成できるため、大量の亜種が発生している。しかし、流通量が少ないため、ウイルス対策ベンダーは新種ウイルスの検体を入手しきれていない。そのため、ウイルス対策ソフトでは対応できず、暴露ウイルスに感染する例が多い。ちなみに、暴露ウイルスに感染したことのある人は、数万人に上る」
 
● 情報漏洩ファイルをアップロードしているとISPが警告する例も 
 情報漏洩ファイルをアップロードしている人も注意が必要だ。これらのファイルを共有していると、ISPから連絡が来て削除要請をされるケースがあるからだ。コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の会員企業のソフトウェアを共有していても、警告が発せられることがあるという。なお、警告を受けた場合は、「該当キャッシュを消せばよい。民間からの警告の場合は、従っていれば逮捕や民事訴訟になることはない」(杉浦氏)。
  著作権違法ファイルをアップロードしている人が逮捕される可能性については、金子勇氏が著作権法違反幇助の疑いで罪に問われている裁判の行方次第と分析する。「金子氏の裁判の行方を見てからでないと捜査機関は行動が起こせない。また、捜査機関の負担が高いため、逮捕されるのは1、2名では」。
 
  この裁判の判決は12月13日に言い渡されるが、無罪の場合には「公判を維持するために時間も費用もかかるので、このまま無罪になりうる。金子氏がWinnyの情報漏洩対策を行なう可能性もある」と予想した。
  関連情報
 
 
■URL 
  Black Hat Japan 2006 
  http://japan.blackhat.com/
 
  ネットエージェント 
  http://www.netagent.co.jp/
 
 
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・ Winnyを使っているとISPが自宅を訪問!?  「匿名P2Pの真実」を議論(2006/06/09) 
 
 
( 増田 覚 )
 
2006/10/06 19:29
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