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IPv4アドレスは数年後に枯渇、通信事業者の対応状況は?


 「IPv6 Summit 2006」が21日、秋葉原コンベンションホールで開催された。この中で「IPv4アドレス枯渇を乗り越えるために」と題したパネルディスカッションが行なわれ、キャリアやISPが現状のIPv6への対応状況や課題を語った。


数年後には、IPv6アドレスしかもらえないユーザーも現われる

日本ネットワークインフォメーションセンター理事の前村昌紀氏
 パネルディスカッションのチェアを務めた日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)理事の前村昌紀氏はまず、IPv4アドレスが枯渇するとの指摘がこれまで何度も繰り返されてきたが、実際にはまだ残っている状況に対して「無くなる、無くなると言われても、ぜんぜん無くならないじゃないか!」と指摘されていることを受け、「本当に無くなるのかということを、ここで言おう」と述べ、IPv4アドレスの状況を紹介した。

 前村氏によると、クラスA(/8)単位のブロックで見た場合、2005年の時点で年間10ブロックのペースで消費されているという。これに対して手つかずで残っているのは64ブロックであるため、6年ほどで無くなる計算になる。ただし、2003年頃から割り当てペースが増加傾向にあり、「数年で無くなるなあという雰囲気」だという。

 JPNICが4月にとりまとめた報告書「IPv4アドレス枯渇に向けた提言」の中でも、2009年から2022年の間に枯渇するとの予測が紹介されており、IPv4アドレスの枯渇は「「割と現実感を持っているように見える」。とはいえ、「数字の上で無くなるというのと、実際になくなると体感するのはずいぶん違う。このギャップが非常に重要な問題」だとして、IPv4アドレスが枯渇した後のインターネットはどうなるか説明した。

 報告書によれば、「新たなインターネット利用者はIPv6インターネットしか利用できない」という。つまり、割り当てようにもIPv4アドレスが無いため、新たにインターネットに接続するユーザーはIPv6でしかインターネットに接続できなくなるわけだ。その結果、コンテンツや各種サービスが充実している従来のIPv4シングルスタックのサーバーへはアクセスできなくなるため、IPv6だけのインターネット利用には「何の魅力もない」状態になる。これはサービスを提供する事業者側でも同じで、IPv6インターネット上にしかサーバーを構築できないために、ボリュームゾーンであるIPv4シングルスタックの環境にいるユーザーに対してサービスを提供できない。


ネットワーク事業者はデュアルスタック対応が必要

 IPv6でしかインターネットにつながっていないユーザーに対応するための方法として、1)従来のIPv4のサーバーを、IPv6とのデュアルスタックにする、2)IPv6のトランスレーターを介してIPv4のサーバーにアクセスできるようにする──とう2つの方法があるという。逆に、IPv6だけのサーバーに対してIPv4のシングルスタックのクライアントから接続する方法として、1)クライアントをデュアルスタックにする、2)データセンターネットワーク側にトランスレーターを設けて、IPv6だけのサーバーに対してIPv4からでもアクセスできるようにする──とう2つの方法があるという。

 前村氏は、「こういった対策をとることで、今後、IPv6だけでつながっていくことになるユーザーあるいはサービス事業者に対して、今までの資産であるIPv4だけのクライアントやサーバーとのアクセスを提供できることになる」と説明。サーバーやクライアントへのアクセスに対して、「現在、IPv4シングルスタックで提供されているサービスと大差のない価格で、IPv6とのデュアルスタックを提供することがネットワーク事業者にとって必要になる」と指摘した。

 今回のパネルディスカッションでは、インターネットのバックボーンの設計・運用に携わる事業者からパネリストが参加し、今後、デュアルスタックに対応していかなければならないとの観点から各社の状況などが説明された。


ISPによるIPv6接続性の提供は責務だが……

(向かって右から)NTTコミュニケーションズの友近剛史氏、KDDIの阿部健二氏、インターネットイニシアティブの松崎吉伸氏、ソフトバンクBBの印南鉄也氏
 まず、NTTコミュニケーションズの友近剛史氏は、IPv4アドレスの枯渇へ対応する手段としては、ISPがプライベートアドレスをユーザーに割り当て、多段NATを組む方法が考えられるが、P2Pアプリケーションだと厳しく、UPnPではサブネットを越えられない制限があると説明。「次はIPv6しかないかなと思っている。IPv6は数年の実証と検討が積まれており、かなり枯れてきている」と述べ、一般のユーザーがIPv4アドレスの枯渇を意識しなくてもいいように、「ISPによるIPv6接続性の提供は最優先事項。ある意味、責務だと思っている」とコメントした。

 KDDIの阿部健二氏は、同社が法人向けにIPv6ネイティブサービスを提供しているものの、現状では「大きな顧客は付いておらず、割と小規模なネットワーク」であると状況を説明。とはいえ、通信設備については買い換えに合わせてIPv6デュアルスタック対応製品に切り替えているという。その中で、機器のコストに加えて、運用やIXへの接続コスト、人材の育成などのコストも発生すること、また、ネットワークがIPv4と比べて小規模であることから、運用経験の蓄積が少ないことも指摘した。

 阿部氏はこのほか、トランスレーターなどの開発コストを誰が負担するのか(キャリアか、ベンダーか、ユーザーへの転嫁か)という問題もあるとする。さらに、現状ではキャリアに対して行なわれる優遇税制をさらに拡充し、「ベンダー側やユーザーの宅内装置にも適用できるようにしないと、積極的なIPv6の導入を図れない」として、行政による支援の拡充も訴えた。


アクセス回線や宅内装置のIPv6対応が大きな課題

 インターネットイニシアティブ(IIJ)の松崎吉伸氏は、アクセス回線におけるIPv6対応の必要性を指摘した。松崎氏によると、IIJでは既存バックボーンのデュアルスタック化を進めている一方で、サービスとしてはIPv6と冠したものはもうほとんどなくなってしまったという。顧客が契約した回線にIPv4を乗せるか、IPv6を乗せるか、あるいはデュアルスタック化するかを申し込み時に選べるようになっている。

 ただし、専用線であれば問題なくIPv6が通るが、主に家庭に引かれているフレッツなどの回線はIPv4のみの対応であるため、そのままIPv6を通すことができず、仕方なくトンネリングでIPv6を家庭まで伸ばしている状態だという。トンネリングであればどこにでもコネクティビティを届けられる反面、パフォーマンスの問題やネットワークの複雑性の問題があるとし、「そもそも、トンネリングを使わずに済めば、それに超したことはない」。松崎氏はキャリアに対して、「できれば“健康”で使いやすい回線が欲しい。フレッツなどで対応していただくのでもいいし、NGNといったものでも、我々がインターネットへのアクセス回線として使える健康な回線をぜひお願いしたい」と訴えた。

 ソフトバンクBBの印南鉄也氏によれば、「Yahoo! BB」においてもIPv6のトライアルサービスを提供しているが、「トライアル用の機器を部分的に配置しているだけで、ほとんどがまだIPv4。ゆくゆくは置き換えや拡張の時に、デュアルスタックを基本に考えている」と現状を説明した。

 一方で、ソフトバンクBBでは自前でアクセスネットワークを構築しており、ほとんどがL2機器であるため、基本的にはIPv6がそのまま通る設計になっているという。「そうは言っても、運用的な問題などがある。しかも、昔、駅前で配っていたようなモデムも最近はNATが入っているのでIPv4オンリー。今後、IPv6スタックを搭載していかなければならない」とした。

 とはいえ、アクセス回線系の機器は台数が多いために作り直すのにもコスト考えないといけないという。印南氏は「(Yahoo! BBでは)フレッツなどを使っていないため、(IPv6対応を)やろうと思えば早いが、モデムのコストまで自分たちで見ないといけない。現状、IPv6が通るチップが数万円かかるようでは無理。IPv4と同じコストでモデムを開発できればかなり変わってくる」と述べた。


ビジネス面で説得力の乏しいIPv6、状況を変えるのは孫社長のひと声!?

 IPv6化していくことにおいては技術的な問題がもちろんがあるが、前村氏は、それはビジネス的な問題に集約されるとし、「『IPv4アドレスが5年後に枯渇します』と言っても、それだけの情報ではリアルじゃない。無くなった時にどういう状況が待ちかまえていて、それがどれだけビジネスにインパクトを与えるのかを考えなければいけない」と指摘。「IPv6は儲かるのか?」というビジネス面での課題に対する必要条件について質問した。

 これに対して各パネリストは、企業としてIPv6対応を推し進めるにあたっては、IPv6でしか利用できないキラーコンテンツや、ユーザーのニーズなどが不可欠であることなどを挙げたが、やはり、ビジネス的にIPv6化を後押しする理由を挙げるのはなかなか難しいようだ。

 「ビジネス面は、言い切るしかない。IPv6ができれば、新しいアプリケーションが生まれる。『新しいビジネスを作るんだ』と説明してやっている」(友近氏)といったコメントのほか、「IPv4の枯渇が目前に迫ってこないと、説明も難しい」(阿部)などの意見が挙がった。

 一方で、地デジの再送信や「Windows Vista」におけるIPv6のサポート、携帯電話や家電など「追い風」はあると指摘する向きもある。また、ソフトバンクBBでは「我々の場合、いちばん早いのは、NさんとKさんがIPv6をやっていると言えば、きっと社長がやると言い出すと思う」(印南氏)として、冗談ではあるが、意外に現実味のあるコメントも飛び出した。


関連情報

URL
  IPv6 Summit 2006
  http://www.jp.ipv6forum.com/

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( 永沢 茂 )
2006/11/21 20:44

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