センドメールは21日、メールサーバーソフト「sendmail」の開発25周年を記念して、1981年にsendmailを開発し、現在は米SendmailのCSO(Chief Science Officer)を務めるEric Allman氏を招いてセミナーを開催した。セミナーではAllman氏によるこれまでの25年を振り返る講演と質疑応答が行なわれた。
● 「最初はあまり乗り気ではなかった」Sendmailの開発
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Eric Allman氏
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Allman氏はまず、自身のこれまでの経歴を紹介。ソフトウェアの開発については、sendmail以外にもリレーショナルデータベースの「INGRES」やログ管理システムの「syslog」、変わったところではゲームの「trek」などの開発にも関わったが、やはりsendmailの開発者というのが自分の一番有名な肩書きになるだろうとした。
Allman氏は自身がsendmailの開発に携わる以前の経緯も含めて、メールの歴史を紹介。1969年にARPANETが誕生し、1971年にはARPANETを通じた最初のメールがRay Tomlinson氏によって送られている。このため、Allman氏は「『メールの父』と言えるのはTomlinson氏であって、自分ではない」とコメントした。
その後、1970年代には、カリフォルニア大学バークレー校(UCB)の多くの開発者によって、バークレー版UNIX(BSD UNIX)と現在のインターネットの基礎となる技術が構築されていく。Allman氏もこの時期にUCBに在籍し、sendmailを開発することになったのは、バークレー版UNIX(BSD UNIX)の開発において中心的な人物であったBill Joy氏から「メールのプログラムを書いてみないか」と誘われたのがきっかけだったという。
Allman氏は「自分は当時データベースの方に携わっており、実はあまり乗り気ではなかった」としつつも、この時に開発したsendmailがBSD UNIXの一部として公開され、sendmailはメールサーバーソフトの標準となっていった。その後、Allman氏はUCBを離れ、一時はsendmailの開発からも離れていたが、sendmailのバージョン8から再び開発に関わるようになり、1998年にはSendmail社を設立。現在に至っている。
最初にsendmailを開発してから25年の間には、メールにも様々な出来事があったが、その中でも大きな出来事としては、1991年に商用のインターネットエクスチェンジが登場したことを挙げ、この頃からインターネットやメールは仲間内のツールから社会的なインフラへと変わっていったと振り返った。また、1996年にメールサービスのHotmailが登場した時には「なぜこのようなものを使う必要があるのだろう」と思ったが、後にその考えは大きな間違いだったことが証明されたと語った。
商用化への流れという意味では、1994年に最初の大規模なスパムとなった“Green Card Spam”が登場したことも転換点だったとして、大量に送信される迷惑メールや、メールによって感染を広げようとするウイルス、フィッシングメールなど、現状のメールシステムが解決しなければならない問題を挙げた。Sendmailでは、フィルタリングシステムの「milter」を実装したほか、送信者認証についても多くの取り組みを行なってきたと説明。現在、送信者認証技術については、米Yahoo!が提案した「DomainKeys」と米Ciscoが提案した「IIM」を統合した「DKIM」という規格の標準化作業に携わっているとした。
● 「メールだけでなく、顔を合わせたコミュニケーションも」とメッセージ
セミナーの後半は質疑応答のセッションが行なわれた。司会進行を務めたフリーライターの塩田紳二氏は冒頭、「会場の方もまずこれを聞きたがっていると思うが、sendmail.cf(sendmailの設定ファイル)はどうしてこんなに複雑なのか」と疑問を投げかけた。
Allman氏は「最初はもっと単純だったのだが」と苦笑いしつつ、ネットワークが成長するにつれて様々な要素が加わったことや、当初sendmailを実装したマシン(PDP-11)の性能が今ほど高くなかったため、ユーザーフレンドリーな形式にはできなかったといった理由を説明。「設定ファイルをプリントアウトすると数枚にもなり、これは直すべきだとも思ったが、その時にはすでに20台以上のサーバーが立ち上がっていたため、修正をあきらめてしまった」とコメントした。
当初はあまり乗り気ではなかったというsendmailの開発に取り組んだ理由については、「sendmail以前に使われていたプログラムに問題があったので、良くしたいと思った」として、「sendmailの開発当初は、メールは信頼できないものだった。メールはきちんと届かず、消えてしまうことも良くあった。sendmailの最初の目標は、メールを信頼あるものにすることだった」と語った。
しかし「メールに信頼性があった時代は短い期間だった」として、現在は送信者認証技術の標準化に取り組んでいると説明。スパムについては「なくなることはないだろう」としつつも、IDベースの仕組みを導入することで問題の一部は解決できるとして、今後は現在のフィルタリングによるスパム対策と送信者認証が併用されるようになるという見通しを示した。
「Web 2.0が話題を集めているように、もし『Mail 2.0』があるとしたらどういうものか」という質問には、「それほど大きくは変わらないと思う」とコメント。「Web 2.0について言えば、Google Mapsを初めて見たときには、これは素晴らしい、新しいものだと思った。しかし、メールにそれと同じことが起こるかということは疑問だと思う」と述べた。
Allman氏はメールの現状について、「自分がこんなことを言うのはおかしいかもしれないが、人々はメールを使いすぎではないかと思うこともある」と感想を述べ、「電話や顔を合わせて話せば済む要件でも、メールで済ませようとする人が多い。メールという人と人の間をつなげる技術を開発した者としては、もっと顔を合わせて直接会話をすることもお勧めしたい」と呼びかけてセミナーを締めくくった。
関連情報
■URL
センドメール
http://www.sendmail.co.jp/
( 三柳英樹 )
2006/11/22 12:09
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