“インターネット社会の論客が、Webの未来を語る”をキャッチフレーズとしたカンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007」が25日と26日の両日、東京都内で開催された。26日の午後には「クリエイターとWebの未来」と題したセッションが行なわれ、映画監督の中野裕之氏とDJのTowa Tei氏が、デジタルガレージの共同創業者で取締役の伊藤穰一氏と対談した。
● アーティスト自身によるプロモーションと著作権の関わり
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デジタルガレージ共同設立者兼取締役の伊藤穰一氏
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Tei氏はWebとの関わりあいについて、“towatei.com”という自身のサイトも持っているが、最近ではSNSサービスの「MySpace」を主に更新していると説明。MySpaceには多くのアーティストが既に参加しており、「アーティスト同士でも、URLよりも『MySpaceは“/towatei”だよ』といった会話が多くなっている」として、自作の楽曲や動画が簡単にアップロードできる点や、フレンド機能などを便利に使っているとした。
中野氏は、「自分もミュージックビデオを作っているが、オフィシャルのページではJASRACの使用料があるので1週間ぐらいしかビデオを流していない。実際には、それを誰かがYouTubeにアップロードして、他の人も見ている」とコメント。これに対して伊藤氏も、「昔はDJにも『ミックステープに使ってほしい』という感じでレコードが送られてきて、違法ではあるけれどそうしたミックステープによってプロモートされたミュージシャンがいた。そうしたアナログ時代にはあたりまえだったことが、最近では勘違いした弁護士やレコード会社がファンサイトを潰したりといったようなことが起きている」として、著作権がアーティストにとっても制約になっているケースが増えているとした。
伊藤氏は、「インディーズの頃にはWebを使って自分でプロモーションできたのに、メジャーレーベルと契約したらそういうことができなくなったという話もよく聞く。似たような話では、Googleが本をスキャンして検索できるようにしたら、出版社は文句を言ってきた。でも、作者の中にはむしろ、自分の本がGoogleの検索結果に出てほしいという人も多い。出版社は昔の本はプロモーションしてくれないから。MySpaceのようなサービスは、そういうところを変えていくのではないか」として、アーティストが自らプロモーションしていく流れがさらに顕著になっていくのではないかとした。
対談の後半には、ミュージシャンの坂本龍一氏と小山田圭吾氏がクリエイティブコモンズをテーマとして伊藤氏と対談したビデオメッセージが紹介された。ビデオは先日開催されたイベント「Mozilla 24」で公開されたもので、坂本氏は青森県六ヶ所村の核燃料再処理工場の危険性を訴えるサイトで公開している作品や、複数のアーティストが曲の続きを作っていく「チェイン・ミュージック」などにクリエイティブコモンズを採用している例を紹介。また、小山田氏も「WATARIDORI2」という楽曲を、雑誌「WIRED」の付録としてクリエイティブコモンズのライセンスを採用したCDに提供した例を紹介した。
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映画監督の中野裕之氏
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DJのTowa Tei氏
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ビデオメッセージが紹介された坂本龍一氏
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ビデオメッセージが紹介された小山田圭吾氏
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● クリエイティブコモンズの採用による新たな展開
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フィンランドの映画監督Timo Vuorensola氏(左)と、ロフトワーク」の林千晶氏(右)
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続いて同会場では、「クリエイティブコモンズとWebビジネスの未来」をテーマとしたパネルディスカッションが行なわれ、クリエイティブコモンズを採用した作品やサービスに携わるパネリストが登壇。クリエイティブコモンズについての意見が交わされた。
フィンランドのTimo Vuorensola氏は、自身を含むフィンランドのアマチュア集団が制作した映画「Star Wreck」を紹介。Star Wreckは、SF作品「スタートレック」と「バビロン5」のパロディ映画で、主要な制作メンバーは5人だが、ネットを通じたコミュニティが映画の制作に大きな役割を果たしたと説明。また、映画の字幕もボランティアベースで進められており、20以上の言語の字幕によって世界中の人々に視聴されるようになったとした。
映画は1998年から7年をかけて制作され、当初からインターネットで無料で配信することを考えていたが、コミュニティの意見を受けてクリエイティブコモンズのライセンスを採用したと説明。また、ライセンスにはあまり深く考えずに「改変禁止」の条件を付けてしまったが、Star Wreckの公開後には様々な派生作品が生まれるなどの反響があり、改変禁止の条件を付けたことについては間違いを犯したとコメントした。
クリエイターのコミュニティ「ロフトワーク」を運営する林千晶氏は、ロフトワークでのクリエイティブコモンズの取り組みを紹介した。ロフトワークは、クリエイターに実績を紹介するためのポートフォリオや素材を配布するための大容量ストレージを提供し、クリエイターを探している企業との橋渡しの場を提供している。
ロフトワークでは、2007年6月からサイトに掲載・配信するコンテンツの著作権対応として、クリエイティブコモンズのライセンスを導入し、すでに多くのクリエイターに利用されているという。ただし、現状では約9割のコンテンツが「非営利」「改変禁止」のライセンスとなっており、クリエイティブコモンズの可能性という面からは、ビジネスにつながる展開についても今後追求していきたいとした。
● クリエイティブコモンズはメリットの説明が今後の課題
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ニフティの黒田由美氏(左)とソニーの本間毅氏(右)
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ニフティの黒田由美氏は、ショートムービーの発掘サイト「NeoM rePublic」や動画共有サービス「@niftyビデオ共有」でクリエイティブコモンズの仕組みを利用している例を紹介。NeoM rePublicでは、ニフティがムービー作成のための素材をクリエイティブコモンズのライセンスで提供しているが、ライセンスの適用方法がサイト上の説明だけでは理解してもらえないケースが多く、「改変可能」のライセンスが付いているにも関わらず「どこまで変えていいのか」といった問い合わせが多いといった状況があるとした。
また、@niftyビデオ共有では、投稿した動画はストリーミング再生だけでなくダウンロードにも対応しており、ダウンロードの際の条件としてクリエイティブコモンズを導入。しかしここでも、テレビ番組の映像にクリエイティブコモンズライセンスを付与しようとするユーザーがいるなど、理解が十分に得られていない例が多いとして、こうした点への対応が今後の課題だとした。
ソニーの本間毅氏は、動画共有サービス「eyeVio」を紹介した。本間氏は、ソニーでは動画を撮影するデバイスや視聴するデバイスを多く作っており、これらをネットでつなぐサービスとしてeyeVioを立ち上げたと説明。eyeVioでは著作権の明示方法としてクリエイティブコモンズを採用しているが、ユーザーが作成したコンテンツについてはDRMによる保護といった方式よりも、クリエイティブコモンズのようなライセンスが適しているとした。
現状としては、eyeVioの中でクリエイティブコモンズのライセンスを活用しているユーザーは少ないが、作品として映像を公開しているという意識のある人がライセンスを使う傾向にあり、こうした領域からライセンスが広まっていくのではないかという見解を示した。
司会を務めた伊藤氏は、「調査では、クリエイティブコモンズライセンスの作品の中では、毎年禁止事項の少ないコンテンツの割合が増えている」と説明。クリエイターも各種の利用についてはとりあえず禁止したがるが、徐々にフリーの方向に行けばいいのではないかとした。
また、黒田氏が「クリエイティブコモンズにどのようなメリットがあるのかを説明できないと、広がっていかないのではないか」という課題を示したのに対して、伊藤氏は「そういう部分をサービスや製品で示すのが企業の役割ではないか」として、クリエイティブコモンズが各種のサービスや製品に取り入れられ、相互に利用可能となることでさらなるメリットが出てくるだろうと語った。
関連情報
■URL
THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2007
http://www.garage.co.jp/ncc2007/
( 三柳英樹 )
2007/09/26 22:07
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