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インターネット犯罪に、ISPはどこまで対応できるのか


 「Internet Week 2007」で21日に開催されたカンファレンス「事業者がやってよいこと悪いことを考えよう」の中で、「大量通信対策フォーラム~事業者がどこまでやれるのか?~」と題した講演が行なわれた。この講演では、増加する大量通信やスパムなどの通信における被害に対して、ISPなどの電気通信事業者がどこまで対応していくことができるのかが焦点となった。


「通信の自由と秘密の確保」という壁

NTTコミュニケーションズネットワーク事業部統合カスタマサービス部担当部長の甲田博正氏。日本インターネットプロバイダー協会の行政法律部会長を務める
 講演の冒頭で日本インターネットプロバイダー協会(JAIPA)の行政法律部会長であるNTTコミュニケーションズの甲田博正氏は、「大量通信、ウイルスの頒布、スパムメールなど通信における被害は後を絶たない」と述べ、これらの被害に対して「ISPがなんとかすればいい」という声が上がることも多いという。

 しかし、ISPなどの電気通信事業者には、電気通信事業法が適用されることから、アクセス拒否には「正当な理由」が求められる。そのため、これらの被害に対して、電気通信事業者が積極的な対策をとることが困難な現実を甲田氏は訴える。

 「電気通信事業者には、通信の自由と秘密の確保、そしてサービスの担保が義務付けられています。通信の内容は自由であるため、たとえそれが犯罪に使われているのであっても、利用を差し止めることはできない」と甲田氏。通信の内容がスパムメールや攻撃的な通信であったとしても、その通信内容を理由に遮断することは通信の自由と秘密の確保に反してしまう。仮にサーバー内のサイトに違法な情報が掲載されていても、他の適法なサイトに対するアクセスも含めた完全な通信の遮断は難しいという。「ここにISPのジレンマがあると言える」(甲田氏)。


電気通信事業者に何ができるのか

ニフティ経営補佐室担当部長の木村孝氏。日本インターネットプロバイダー協会で行政法律副部会長を務める
 JAIPAの協会行政法律副部会長であるニフティの木村孝氏は、「日本においては、憲法によって通信の秘密が保証されている」と語る。国内の通信の秘密の保護に関する法律においては、通信内容だけではなく、通信当事者の住所、氏名、通信日時、発信場所といった通信の構成要素や、通信の存在の有無までが対象となる。それは、インターネットを利用して行なわれる通信でも同じだという。

 とはいえ、実際に被害が拡大している現状に対して、電気通信事業者側が単に手をこまねいているわけではない。「正当な理由」があれば、通信の遮断や帯域の制限といった措置を講じることも不可能ではない。以下の3点を正当な理由として挙げられれば、電気通信事業者も通信被害に対して措置を講じることが可能になるという。

1)当事者の同意がある
2)正当業務行為(刑法35条):業務上必要な知得、捜査令状による情報開示
3)緊急避難(刑法37条):自己または他人の権利への急迫不正の侵害からのやむを得ない防衛行為

 1)の当事者の同意がある場合には、通信の秘密性はなくなるため、メールのフィルタリングなどのサービスを提供することができるという。ただし、この同意はサービスの約款などに書くだけの包括的な同意では不十分で、個別に明示的な同意(ユーザーからのフィルタリングサービス申し込みなど)が必要になる。

 2)は配送のためにメールの宛先などをサーバーが振り分けのために確認するなど、それをしなければ業務が遂行できない場合の行為である。また、令状による開示は、事件の捜査などで情報の開示を求められた際に、令状に基づいて情報を公開する行為だ。

 3)の緊急避難は、通信被害に対して電気通信事業者が何らかの対策をするために最も重要な理由と言えるのではないだろうか。たとえば、迷惑メールが受信元のISPサーバーに大量に送信され、サーバーがダウンするような場合に、メールの送信元からのメールを遮断するといった対策は、緊急避難にあたる。ただし、迷惑メールが送信されているとわかっていても、サーバーがダウンするなど急迫した状況にない場合は、「やむを得ない」ことにはならず、認められない。


急がれるガイドラインの制定

総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課の扇慎太郎氏
 電気通信事業者が通信被害に対して何らかの施策をする場合、自分たちの行為が法的に正当なのかどうかを常に検討しなければならない。解釈の仕方も各社によって異なることが多く、しばしば問題が起きる。たとえば2006年5月には、大手プロバイダーが「Winny」による通信を完全に遮断しようとしたところ、憲法に抵触する恐れがあるという国の判断を受けて中止になるということがあった。重要なことは、電気通信事業者が「できること」と「できないこと」のガイドラインを明確にすることである。

 総務省の扇慎太郎氏は、行政の立場からガイドラインの制定が進んでいることを明らかにしている。「日本においては2002年に『特定電子メール法』が成立し、2005年にさらに改正している。しかし、巧妙化・悪質化する迷惑メールへの対策を考えると、一定の見直しが必要」と扇氏は語る。

 総務省では今年7月から「迷惑メールへの対応の在り方に関する研究会」を開催し、迷惑メール対策について総合的な検討を行なっているという。「迷惑メール対策については、多面的な対策をできるところから措置していくことが必要」と扇氏。この多面的な対策とは、「政府による効果的な法執行」「電気通信事業者による自主規制」「利用者啓発」である。総合的な対応方策を進める上で、基本的な枠組みを提供する法制度は重要であり、まず法制度のあり方を検討する必要があるとしている。

 また、全世界においても、メールの7~8割が迷惑メールで占められている現状をふまえ、より国際的な整合性や連携の強化も重要であるという。

 講演の最後には、3氏が広く質問を受け付ける時間が多く設けられており、受講者からは「実際に被害に遭ってからでなければ対策はできないのか」「フィッシングメールを送られた時点で対策できないか」など、さまざまな質問が飛び交った。電気通信事業者を含め、インターネットを利用したサービスを展開する多くの事業者、あるいは個人にとって、今後の法制度のあり方は極めて重要な問題になっていると言えるだろう。


関連情報

URL
  Internet Week 2007
  http://www.internetweek.jp/

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( 北原静香 )
2007/11/22 15:59

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