ブロードバンド推進協議会(BBA)は22日、「仮想世界におけるコミュニティサービスの現在」と題するシンポジウムを開催した。日本技芸の濱野智史リサーチャーが、「Second Life」「ニコニコ動画」「Twitter」といった2007年に話題となったサービスの比較分析について講演した。
● ニコニコ動画とTwitterの共通点
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日本技芸の濱野智史リサーチャー
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濱野氏は、Second Life、ニコニコ動画、Twitterについて、各サービスを利用する際の“時間”に着目した比較分析を行なった。
まず、従来のコミュニケーションには、電話やテレビなどの「同期」と、手紙や書籍などの「非同期」があることを説明し、「インターネットは基本的に非同期のメディア」とした。ただし、チャットやインスタントメッセンジャー(IM)など、同期コミュニケーションが可能なアプリケーションもある。
「2007年には、単純に同期・非同期として括ることのできないサービスが登場した」という。それがTwitterとニコニコ動画である。両サービスは、時間的なイノベーションを実現していると指摘。また、「Second Lifeは昔ながらの同期」とのことで、時間的なイノベーションはないという。
Twitterの場合、例えば、誰かが「今晩はカレーと食べた」と書き込む。それを見た人が「同じく今晩カレーを食べた」と返信する。そのやり取りを見ていた人が「カレーが食べたくなったので食べることにした」と書き込む。Twitterでは、このような突発的なコミュニケーションの連鎖が起きやすい。
ユーザーの書き込み時間が違うため、第三者から見れば非同期だが、コミュニケーションの連鎖の中にいる人たちからすれば、同期的であるという。濱野氏は、コミュニケーションの連鎖を“選択”した人たちの間での同期であるとし、「選択同期」と呼んでいる。また、「若者の携帯電話でのメールやmixiなどと変わらない。今まで、ケータイ風コミュニケーションを馬鹿にしていた人たちが、Twitterに熱中しているのは面白い」とした。
ニコニコ動画の場合は、動画上がコメントで埋め尽くされた状態、いわゆる“弾幕”について触れた。弾幕では、ユーザー同士が一緒に動画を見ながら突っ込んでいるような臨場感があり、動画を見ている時間を共有しているような、同期的なコミュニケーションを実現している。ただし、弾幕の臨場感や同期性は、ニコニコ動画のシステムが見せる錯覚であり、濱野氏はこれを「疑似同期」と呼んでる。
弾幕のとき、動画再生のタイムライン上では、同じ時間に多くのコメントが書き込まれているが、各コメントを書き込んでいるユーザーの時間はバラバラだ。「機械的に同期が実現している」(濱野氏)。Twitterとニコニコ動画の共通点としては、「客観的には非同期だが、主観的には同期」している点を挙げる。違いは、ユーザーの自己選択による同期(選択同期)と、システムの作用による同期(疑似同期)だ。
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インターネットは基本的に非同期
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2007年に新たな同期性が出現した
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● 同期と非同期の良いとこ取りが重要
Second Lifeはどうか。濱野氏は、Second Lifeの過熱報道と実際を紹介し、なぜ閑散としているSIMが多いのかを説明した。まず、「人口密度」の問題があると指摘。「1SIMに同時滞在できるユーザー数が限られているにも関わらず、大都市を作れば閑散として見えるのは当然」とした。
また濱野氏は、Second Lifeを、チャットやIMと同じ本当の同期「真性同期」と呼んでおり、「真性同期は、人が同じ時間に同じ場所で会う“機会コスト”が高いため、閑散とするリスクも高い」とした。このほか、テレポーテーション機能についても、「簡単に移動できるため、イベントなどがあれば人が集まる。密集地域と過疎地域の差が極端に出る」と指摘した。
企業などがSecond Lifeへ進出するときの注意点としては、「Second Lifeのアーキテクチャを理解し、コンテンツとの相性に敏感であること」だという。「シークレットパーティーのような方向性がSecond Lifeのアーキテクチャと相性は良い」とした。
さらに濱野氏は、ニコニコ動画とSecond Lifeを再度比較し、「Second Lifeの臨場感は、その場限りのもの。“後の祭り”感を必然的に招き寄せるシステム。一方、ニコニコ動画は、擬似的な同期であったとしても、盛り上がったところが何度でも反復して再現される。“いつでも祭り”を可能にするシステム」と説明。非同期と同期、両方のメリットを持つ疑似同期が重要になってくると分析した。
以上を踏まえた上で、仮想世界の今後については、まず、見た目の寂しさを防ぐ策として、「人が操作しなくても勝手に動き回るチャットボットやペットを多数配置する」ことを提案。また、真性同期であるメタバースに疑似同期を実現する手段としては、「疑似同期型動画チャット」を挙げた。これは、動画を流し、アバターが集まって見ている様子を保存しておくことで、後から来たアバターもその状況に参加できるというものだ。ニコニコ動画の3D版とも言える。
さらに、始まりから終わりまで、一定速度の時間の流れがあれば「動画以外でも疑似同期は実現しうる」とし、レースサーキットやライド型アトラクションを挙げた。例えば、レースゲームの場合、アバターが走行している様子を保存・再生できれば、後から他のアバターが参加して、擬似レースが行なえる。
最後に濱野氏は、「見た目はSecond Lifeが凄いように感じるが、見えないもの(時間)に着目することで、Second Lifeが受けず、ニコニコ動画が受けるのかがわかってくる。今後のサービスでは、時間に着目したイノベーションが生まれてくるのではないかと考えている」と語った。
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Twitterによるコミュニケーションのモデル図
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ニコニコ動画の疑似同期の解説図
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分析結果まとめ
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見えるものでなく、見えないものに着目
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関連情報
■URL
有限責任中間法人ブロードバンド推進協議会
http://www.bba.or.jp/bba/
( 野津 誠 )
2007/11/22 21:02
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