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「VOCALOID 2」の開発に携わったヤマハの剣持秀紀氏(イノベーティブテクノロジー開発部)
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初音ミクの概要
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デジタルコンテンツ協会(DCAJ)は17日、「進化するコンテンツビジネスモデルとその収益性・合法性」と題するセミナーを開催した。音声合成ソフトウェア「初音ミク」の販売元であるクリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏が、初音ミクと著作権をテーマに講演。初音ミクの二次創作を抑制せず、ユーザー同士の協業によって成立するビジネスモデルの重要性をアピールした。
初音ミクは、音階や歌詞を入力することで、自然な歌声を合成できるソフトウェア。ヤマハが開発した音声合成エンジン「VOCALOID 2」を活用している。2007年8月31日の発売から5日後には、初音ミク人気の火付け役となった動画「VOCALOID2 初音ミクに『Ievan Polkka』を歌わせてみた」が「ニコニコ動画」で公開。現在では約150万回以上再生されている。以後、初音ミクで制作したオリジナル楽曲が次々と登場している。
また、10月には初音ミクの体験版を収録した「DTMマガジン」が3日で完売。11月には初音ミクをモチーフにしたフィギュア「ねんどろいど初音ミク」が、Amazon.co.jpにおいて1日半で1万体の予約注文を受注した。そのほかにも、PS3用ソフト「まいにちいっしょ」で人気キャラクター「トロ」と共演、雑誌「コンプエース」では漫画が連載されるなど、さまざまなメディアに展開されている。
なお、VOCALOID 2の開発に携わったヤマハの剣持秀紀氏(イノベーティブテクノロジー開発部)によれば、初音ミク関連で最も人気の高い動画は「みくみくにしてあげる」で、ニコニコ動画では3月16日時点で389万回以上再生されている。「みくみくにしてあげる」は、鹿児島弁や熊本弁などのご当地バージョンも登場するなど、派生コンテンツが数多く生まれているという。また、あるユーザーが楽曲を作ると、それに触発されたユーザーが楽曲に合わせたイメージ画像を制作するなど、ユーザー同士の協業が進んでいることも特徴であるとした。
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初音ミクヒストリー(1)
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初音ミクヒストリー(2)
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初音ミクのコンテンツ展開。初音ミク人気の火付け役となった動画「VOCALOID2 初音ミクに『Ievan Polkka』を歌わせてみた」からフィギュア、ゲーム、漫画雑誌まで
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「ニコニコ動画」全体でもトップの再生回数を誇るという「みくみくにしてあげる」。鹿児島弁や博多弁などのご当地バージョンまで登場した
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● ニコニコ動画の盛り上がりから初音ミクの著作権に関心が集まる
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クリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏
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初音ミクの権利については、製品とキャラクターで別々のガイドラインを定めている
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初音ミクの一連の盛り上がりに対して、販売元であるクリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏は、「まさか一般ユーザーが使うとは考えていなかった」と驚きを隠さない。当初は、デスクトップミュージック(DTM)愛用者向けのニッチな製品という位置づけで販売するつもりだったという。
しかし、初音ミクは予想外の大ヒット。「ニコニコ動画で盛り上がっているよね」という声を耳にするようになると同時に、「初音ミクの著作権ってどうなの」という質問が数多く届くようになった。そこで2007年12月、初音ミクのキャラクター画像の二次創作に関するガイドラインを発表した。「それまではユーザーが二次創作した画像をネットに公開するのは黙認状態だった。ガイドラインを示すことで、ユーザーによるファンアートを認めたかった」(伊藤氏)。
伊藤氏によれば、初音ミクに関する権利は、「製品」と「キャラクター」で別々のガイドラインを定めているという。まず製品については、製品パッケージの使用許諾契約書で、楽曲制作のために製品の合成音声を利用することを許諾している。そのためユーザーは、初音ミクを使って制作した音源を公開・販売できる。ただし、初音ミクのキャラクターやVOCALOID技術などを連想させる言葉や画像を用いて商用利用する場合は、クリプトンから事前に使用許諾を得る必要がある。
初音ミクのキャラクターに関しては、クリプトンが著作権を有している。同社が公開している画像をモチーフにした二次創作物は、非営利目的で公序良俗に反しない限り使用を認めている。キャラクター画像の二次創作のガイドラインでも、「営利目的ではない趣味の範囲で制作し頒布する場合(ただし立体物、衣装を除く)に限り、一切の制限を行なっておりません」と記している。「基本的に、二次創作したイラストをネット上に公開することは禁止していないが、二次創作物を販売する際には『お話ししましょう』という考え方」(伊藤氏)。
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合成音声の使用許諾について
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キャラクター画像の二次創作について
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● ガッチリ権利を守るビジネスモデルは通用しない、ユーザーの二次創作を促す仕組みを
伊藤氏はクリプトンについてこう自己分析する。「映像も音楽も門外漢。プロでもなく、同人活動もしていない。しかし、中途半端だからこそニュートラルな立ち位置を取れる。これによって、『できること』にフォーカスすることが可能になる」。伊藤氏が掲げる「できること」とは、ユーザーの二次創作を抑制するのではなく、新しいコンテンツを生み出す土壌を整えることだ。
こうしたことからクリプトンでは、ユーザーの二次創作を支援するためのサイト「ピアプロ」を2007年12月に公開。ピアプロは、初音ミクなどのVOCALOID 2関連コンテンツを投稿できるサイト。オリジナル楽曲やイラスト、歌詞を投稿することが可能だ。例えば、「曲作りは得意だがイラストは苦手」という人は、ピアプロで優秀なイラストレーターと協業することで、新たなコンテンツを生み出せるようになっている。
ただし、現時点ではピアプロのビジネスモデルは模索中だという。「サイトに広告も掲載せず、収益ゼロの状態で運営している。とはいえ、キャラクターの権利をガッチリ守って儲けようというモデルは通用しないことはわかっている。二次創作を促した方が面白いし、可能性も感じているので、まずはユーザーの自己実現を後押ししたい。最終的にはマネタイズを実現したいが、それはユーザーとコミュニケーションを図ることで解決の糸口が見えてくるのではないか」(伊藤氏)。
今回のセミナーのテーマでもある「コンテンツビジネスの収益性」については、「ユーザーとユーザーが触発しあうことで、新しいコンテンツが生まれる土壌が整理されつつある。コンテンツ産業側の人間は、そのあたりと上手くやっていくことが重要なのではないか」と語った。
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クリプトンの立ち位置について
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ユーザー同士の協業を促すサイト「ピアプロ」について
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関連情報
■URL
DCAJセミナー
http://www.dcaj.org/contents/frame03.html
■関連記事
・ 初音ミクなどVOCALOID関連コンテンツの投稿サイト、クリプトンが開設(2007/12/03)
( 増田 覚 )
2008/03/18 12:52
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