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インターネットのオープンな世界を次の世代にも


WIDEプロジェクト20周年記念シンポジウムの後半では、「Role of the Internet(インターネットの役割)」と題したパネルディスカッションが行なわれた
 WIDEプロジェクトは20日、発足20周年を記念したシンポジウムを開催した。プログラムの後半では、「Role of the Internet(インターネットの役割)」と題したパネルディスカッションが行なわれた。

 パネルディスカッションには、WIDEプロジェクト代表で慶應義塾大学教授の村井純氏のほか、多摩大学教授の公文俊平氏、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)代表取締役所長の所眞理雄氏、NTTドコモ執行役員の夏野剛氏、ネオテニー代表取締役CEOの伊藤穰一氏が参加し、インターネットが抱える現状の課題などについて、議論を交わした。


オープンな環境を維持すれば、必ず問題を解決する人は現われる

NTTドコモ執行役員の夏野剛氏

ネオテニー代表取締役CEOの伊藤穰一氏
 パネルディスカッションの冒頭では、参加したパネリストがそれぞれ現在の関心事やインターネットの課題などについて語った。

 夏野氏は、「この20年間は、最初の20年に過ぎないと思っており、インターネットが普及したとは言っても、まだ社会はインターネットをベースにしたシステムにはなっていない。たとえば役所の手続きなども、まだ『インターネットでもできる』というレベル。インターネットの方が普通の手続きというレベルには達していない」とコメント。これからはインターネットがあることが前提の世代がサービスやシステムを作るようになり、そうした中でどのようなものが出てくるのかに興味があると語った。

 伊藤氏は、「現在の心配事は、今後もインターネットがオープンなままでいられるのかということ。日本でもいろいろと規制の話が出てきているが、インターネットガバナンスの問題であるとか、ネットワーク中立性の問題であるとか、各レイヤーでこうした話が出ている」とコメント。また、「これは夏野氏にも聞いてみたいが」として、「日本ではインターネットは携帯電話の方が盛んだと言われるが、モバイルの世界は有線よりもクローズな世界になっている点が気になる。この20年のイノベーションが、今後も続くだろうかという点が気がかりだ」と語り、今後もオープンな環境を保ち続けられるかを危惧しているとした。

 村井氏は、「10年前にもWIDE10周年のシンポジウムを開催して、その時には日本のインターネット技術は最高だと思っていたが、日本は先進国の中でインターネット化が最も遅れていると言われた。たしかに、当時は社会の中でのインターネットの展開が本当に遅れていた。それからはいろいろな働きかけをして、一方ではブロードバンドも普及し、ようやく最近では最先端になったと思っていたが、それでも『子供に携帯電話を持たせるのはどうか』などと言う人が出てくる。社会全体としては、インターネットへの理解についてまた差が開いたような気がしている」と語った。


WIDEプロジェクト代表の村井純氏

多摩大学教授の公文俊平氏
 夏野氏は、「伊藤氏の話が端的に表われているのが、フィルタリングの議論だと思う」として、「固定の世界では多くのISPが選べるが、携帯は数社しかないので、そこに話をすればフィルタリングできてしまうという事実があるので、そういう話も出てくる」とコメント。「それがいいとか悪いとかの話というよりも、社会全体が新しいテクノロジーをどう受容していくのかという問題として、1つの試金石になると思う」と語った。

 公文氏は、「生まれながらにネットがある世代が社会を変えていくと思うが、そこにはすごく面白い面と、問題のある面がある」とコメント。「例えば『ペンは剣より強し』というのはスローガンとして言っているうちは良かったが、実際にペンは剣よりも強くなりつつある。それを全く規制しないでいいのかと言えば、そうではないだろう。ある年齢以上で免許を持っていなければ車を運転できないというルールを作ったように、インターネットの利用にもなんらかのルールを作るということも考えられなくはない。ただし、それを誰がどう決めるのかという部分で、考え方の対立が出てくるだろう」と語った。

 村井氏は、「問題を解決するための創造性をどこに作り出すかという意味でも、オープンなアーキテクチャを維持することが重要。インターネットはクリエイティビティとフリーダムのためにやっているんだとよく言っているが、それは、そこさえ維持しておけば、必ず問題を解決できる人が出てくると思っているからだ」と語り、次の世代への信頼と、そのための環境構築が大事だと語った。


標準化で最悪なのは「業界団体が勝手に決める標準」

ソニーCSL代表取締役所長の所眞理雄氏
 村井氏はさらに、今後の重要な課題として無線の周波数の使い方を挙げた。「この10年で、空気がデジタル情報をやりとりするためのメディアになった。ここを誰がどう使うかという設計が重要。みんなが勝手に使うことはできないので、ルールが必要になる。ここさえ間違えなければ薔薇色の未来になると思う」としながらも、「逆に言うと、すごく間違えそうな気もしている」と語り、無線の使い方をどのようにデザインしていくのかが重要になるだろうとした。

 所氏は、「ルールや標準化という観点が重要だ」として、「技術の発展過程では各企業がクローズに独自の技術を開発していても、いずれは標準化が進んでくるか、あるいは独占企業が現われて事実上標準化されるといった道をたどる。長期的に見れば標準化が進むのは必然で、その過程では独占企業が現われることもあるが、すべての部分を独占しようとした企業がうまくいったことはない。そういう意味では、あまり将来を憂う必要はないのではないか」と述べた。

 夏野氏は、「長期的な視点では所氏の言う通りだと思うが、日本という観点では危惧がある」とコメント。日本は人口・世代の不釣合いという問題を抱えており、若者が減ることで「新しいものに対しての国全体としての許容度が下がってきているのではないか」と語り、日本では変化のスピードが遅くなるのではないかということを危惧しているとした。

 これに対して所氏は、「昔はそれこそワープロを使えない世代が問題だと言われたこともあったが、いずれ世代は入れ替わっていく」として、その点についてはあまり危惧していないと語った。

 標準化のプロセスについては、夏野氏が「インターネットの世界ではデファクトスタンダードが基本だったが、通信の世界では完璧なデジュールスタンダード(公的標準)で始めようという人が多い。どちらの決め方にしても、最終的には社会利益が得られればいいが、デジュールのプロセスではそこに参加しているプレーヤーの思惑が入りがちだ」とコメント。伊藤氏は、「企業が各社の思惑を持ち寄ったものは、複雑になりすぎて使われないといったことがよくある。実際に動いているもの、なるべくシンプルなものを尊重するというインターネットの考え方が、普及する技術にとっては重要だ」と語った。

 村井氏は、「標準の決め方にはデファクトもデジュールもあると思うが、最悪なのは『業界標準』というか、業界の団体だけで集まって勝手に決めてしまうような標準。これを使わされているときが、ユーザーにとっては一番不幸だ」として、そうならないためのオープンな場を提供していくことが我々の役割だと語った。


より広い視点の活動と、コアな技術に対する活動の両面を

 シンポジウムの最後には、パネリストがそれぞれWIDEへの課題と期待を語った。伊藤氏は、「この20年はなんとなく、わかっていない人達を説得しながら動いてきたという感があるが、彼らはそろそろ引退する。一方でこれからは、若い人達に対して、インターネットの哲学というか、我々がなぜオープンであることを大事にしてきたのかといったことを伝えていくことが重要なのではないかと思う」と語った。

 夏野氏は、「この20年はまだ変革の半分でも無いと思っている。WIDEには今の役割に満足せず、例えば教育であるとか、著作権、放送、いろいろな分野にも口を出して、インターネットにはこういう哲学があったんだということを気付かせるような、社会発信力を高めてもらいたい」と述べた。

 所氏も同様に、「インフラという地道な部分をやりつつも、ボトムの部分だけではない活動に期待したい」とコメント。公文氏は、「日本を代表するインターネットの技術者集団への最低限のお願いとしては、ガチガチの閉じたネットになることだけは避けてもらいたい。また、これからは技術者だけでなくもっと奥行きのある組織になってもらいたい」と語った。

 村井氏は、「様々な問題に対しては、クリエイティビティとフリーダムのための基盤を作っていけば、そこから新しい問題を解決できる次の世代が出てくるはずで、そのために今後も活動していく」とコメント。一方では、「世の中に対するメッセージという意味では、後手に回った面があるかもしれない」として、「WIDEをさらに広げた『グレーターWIDE』のような、様々な視点から問題に関わっていく活動も必要になるだろう」と語った。

 また、そうした社会的な活動とともに、「本当に必要な基盤となるテクノロジーについて考えていく『コアWIDE』のような活動も必要だ」として、「いただいたメッセージを受け止めて、しっかりと頑張っていきたい」と語り、シンポジウムを締めくくった。


関連情報

URL
  WIDEプロジェクト
  http://www.wide.ad.jp/index-j.html


( 三柳英樹 )
2008/05/21 18:19

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