「Interop Tokyo 2008」で11日、「サイバークライム対策;その実態とビジネス展望」と題したコンファレンスが行なわれた。インターネットホットラインセンターの吉川誠司氏、弁護士の森亮二氏(英知法律事務所)は、インターネット上の違法・有害情報の対応状況や対策のあり方などを話した。
● 消しても消しても、違法・有害情報の通報が減らない
インターネットホットラインセンターは、インターネット上の違法・有害情報に関する通報を一般から受け付け、違法情報であれば警察へ情報を提供、有害情報であればプロバイダーやサイトの運営者に削除を依頼する。
この活動について吉川氏は、フィッシング詐欺や不正アクセスなどのサイバークライムとは性質が異なるとしながらも、「インターネット上に氾濫する有害情報が青少年に対して悪影響を及ぼしたり、最近では秋葉原の無差別殺人事件のようにインターネット上で犯行予告をしつつ、劇場型犯罪に発展することも珍しくなくなってきている」と説明。また、相次いで起こった硫化水素ガスを使った自殺が、インターネット上に掲載されている製造方法を見た人によって真似されていることや、かつて闇の職業安定所を舞台に強盗仲間が集まり、実際に殺人に発展したケースもあったことを挙げ、「インターネット上の情報が、違法ではないにしても、現実社会に多大な影響を及ぼしている」とした。
続いて吉川氏は、ホットラインセンターが開設された2006年6月以降の通報の受理件数の推移を紹介し、2007年11月の受理件数が対前年同月比で2倍に増えていると説明。また、2008年についてはまだ公表していないが、1カ月に1万件を超えるような状況が続いており、減る様子は一向に見られないという。
「不思議なのは、ホットラインセンターが稼動したことによって、違法・有害情報についてはかなりの数が削除されているにもかかわらず、一向に通報受理件数が減らない。消しても消しても、それを上回る勢いで新たな情報が発信されているということ。」
寄せられた情報のうち、違法情報と判断したものは、国内であれば、いったん警察庁に情報提供し、そこから各都道府県警へ渡される。そこで警察が捜査すると判断した場合は、ホットラインセンターがプロバイダーへ削除依頼を出さないよう保全の指示が来る流れだ。ホットラインセンターが警察庁に情報を提供してから、保全の指示が出されるかどうかは、48時間以内に決まるという。保全指示がなければ、すべてプロバイダーなどに削除依頼を出すかたちになる。
その結果、ホットラインセンターが2007年に実際に削除依頼を出した違法情報は5,592件。そのうち84%に相当する4,742件が削除されたため、「違法情報については、日本のプロバイダーは非常に真面目に対応していただいている」と評価する。逆に、削除に応じてもらえなかったものが16%あるわけだが、「実際には、16%のプロバイダーが悪質というわけではなく、ごく一握りのプロバイダーが多数の警告をことごとく無視している結果、残念ながら削除率が減ってしまった」と説明した。
一方、警察でも、ホットラインセンターからの情報提供を端緒として捜査に着手するケースも出てきている。2007年に実際に検挙された事例は28件と数としては少ないが、そのほかに約600件が継続して捜査中だとしており、ホットラインセンターとの連携について「そこそこ対応していただいている状況」とした。
● 有害情報の削除義務を課したとしても、法執行には疑問
森氏は、インターネット上の違法・有害情報への対策として「法規制を強化する」ことの問題点を指摘した。
森氏によれば、違法情報と有害情報は法律の世界でははっきりと区別されるものであり、有害情報とは「違法ではないが有害、適法だが有害」である情報のこと。現在、違法・有害情報への対策として行なわれていることは、法規制の対象を広げることで「適法だが有害だったものを違法にする」というやり方だという。「これまで有害だったものが違法という評価を受けるわけだが、違法・有害情報の総数は変わらない」。
これに対して森氏は、「法規制を強化するのではなく、執行を強化すべき」と主張する。つまり、法規制の対象を拡大するわけではないため、違法情報と有害情報の境界線は従来と変わらないが、「違法情報の発信者を摘発し、違法情報の数を減らせば、違法・有害情報の総数は減少する。これが、あるべきスタイルなのではないだろうか」。
違法情報が放置されているのには理由があり、児童ポルノやわいせつ物の法定刑は殺人や強盗、傷害、窃盗などリアルの犯罪に比べると低いからだという。警察も限られたリソースの中で対応しているため、「法定刑の低いもの、相対的に軽微な犯罪は放置されることになる」。
改善策としては2つの方法が考えられ、まず、議論はあるところだとしながらも、インターネット上の犯罪の法定刑を引き上げるという選択肢を挙げた。「韓国では、インターネット上の名誉毀損の方が、リアルの世界で名誉毀損するよりも罪が重いと聞いている。罪が重ければ、当然、警察は重点的に対応する」。そしてもう1つは、法定刑は低いにもかかわらず、法執行はきちんとなされている「交通反則事件のアプローチ」だ。これは、たとえ軽微な犯罪であっても、重点的に検挙の対象にしようと警察が考えているからだという。
法執行が不十分であれば、違法であるにもかかわらず放置される事例が多くなり、「ルールがよくわからなくなる。『違法だというけれども、みんなやっているじゃないか』として、開き直りが発生する」。実際、掲示板の運営者に対して名誉毀損の書き込みへの対応を求めても、「どうして私にだけ言うんですか? そんなこと別に普通じゃないんですか?」と返されることもあるらしい。
森氏は、このような「執行なき法規制はダメ」という観点から、迷惑メール法や出会い系サイト規制法の改正、青少年ネット規制法案、児童ポルノ禁止法など、最近話題になっている法規制の強化について、問題点を解説した。
このうち青少年ネット規制法案については、最終的に国会で可決・成立した内容とは異なるが、自民党の青少年特別委員会が提示していた案について言及した。プロバイダーやサイト管理者に青少年有害情報への削除義務を課し、義務違反に対して刑罰を科すとしていた点について、広範な規制であるため、違反事業者に対する法定刑が低くならざるをえないことなどを指摘。「果たして、法定刑の低い罰則を警察が執行するだろうか? これは論外だったと思う」とコメントした。
関連情報
■URL
Interop Tokyo 2008
http://www.interop.jp/
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( 永沢 茂 )
2008/06/12 13:48
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