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CCがコンテンツをオープンソース化する~伊藤穰一氏がアピール


クリエイティブ・コモンズCEOの伊藤穰一氏
 イーサネット、TCP/IP、HTTP、Web……。ネットのインフラとなっているこれらの技術は、誰でも携わることができる「オープンイノベーション」を生み出すものだと、非営利団体のクリエイティブ・コモンズでCEOを務める伊藤穰一氏は語る。札幌で開催中の「iCommons Summit 2008」で30日に講演した伊藤氏は、ネット上の文化とアイデアを共有可能にするクリエイティブ・コモンズ(以下、CC)も、コンテンツのオープンイノベーションを実現する技術であるとアピールした。

 「コンピュータを物理的につなげたイーサネット。ネットワークをつなげたTCP/IP。コンテンツをリンクさせ、トランザクションコストを下げたHTTPとWeb。現在はWebが普及したが、著作権の問題でネットの価値が出ていない。ネット上のコンテンツをリミックスするにも法的なエネルギーが必要。こうした状況にあって、CCを標準化機関として検討していくべきだ。」


ネット流通で重要なのは「消費者に見つけてもらうこと」

各レイヤーごとのオープンイノベーション

CCで無料公開された「スタートレック」のパロディ作品
 CCは、コンテンツに対して著作権を保持しつつも一定の利用許諾を認めることで、コンテンツの流通や創造を促すものだ。コンテンツの権利者があらかじめCCライセンスで許諾を与えることにより、コンテンツ利用を「一定範囲で原則自由」とする。伊藤氏はCCについて「コピーライツのユーザーインターフェイス」と表現し、「コンテンツをオープンソース化できる」と説明する。

 これまでにCCは世界48カ国で導入され、CCのライセンスが付与されたコンテンツは1億3000万を超えるという。2008年3月にはロックバンドのナイン・インチ・ネイルズが、CCライセンスで新アルバム「Ghosts I-IV」を公開。一部の楽曲を無料、全曲を5ドルでダウンロード提供したほか、2500枚限定のサイン付きCDを300ドルで販売し、発売1週間のCD売上だけで1億6000万円に達した。

 「レコード店で音楽CDを購入しても、中間業者がいるのでアーティストにロイヤリティが届く感覚が少なかった。また、300ドルのサイン入り限定版は、昔のレコード流通ではできなかっただろう。ネットでは中間業者もなくなり、流通よりもマーケティングが重視される。そこで重要なのは、消費者に作品を発見してもらうことで、そのためには口コミが広がらないと厳しいだろう。」

 また、フィンランドの学生らが手がけた、映画「スタートレック」のパロディ作品「スターレック」が、CCライセンスで無料公開。800万人がダウンロードし、フィンランド映画史上最も多くの人に見られた作品となった。さらに、この反響を受けたUniversal PicturesがDVD化、現在は劇場公開の話もあるという。「CCを使って無料配布したからといって、お金につながらないわけではない」。

 「発表しただけでは広まらないのは、科学の分野でも同じ」と語る伊藤氏は、大学の研究成果を外部からもアクセス可能にするプロジェクト「Science Commons」を紹介。さらに、オープンな教育リソースの公開をサポートする「CC Learn」などの新しいプロジェクトも手がけているとして、来場者に参加を呼びかけた。


「失敗のコスト」低減で優れたオープンソースプロジェクトが登場

脳内マップをGoogle Mapsに落とし込んだ
 このほか伊藤氏は、ネットが普及したことによって、イノベーションの性質が大きく変わってきたと指摘。具体的には「失敗のコスト」が安くなったことで、かつてはイノベーションのテーブルに座れなかった人たちが、気軽に挑戦できるようになったという。その結果として、LinuxやFirefoxなどのオープンソースプロジェクトが成功事例として世の中に広まったと分析する。

 「Linuxが登場したとき、成功するとは予想されなかった。オープンソースの大半は死んでしまうが、挑戦するのは失敗のコストが低いから。一方、日本でイノベーションというと、大企業や国家の一部の頭の良い人が大金を投資するプロジェクトが目立っていた。実際に(国家プロジェクトとして進めた)『Σプロジェクト』では数百億円の損失を出した。」

 ネット時代のイノベーションとしては、「とりあえずつなげてみる」という考えから始まることが多いという。「検索といえば、電話会社がばく大な金額をかけて開発するようなものだったが、Googleは2人の学生がネットにつないでみることに始まり、世界の情報にアクセスできるようになった。まさにオープンイノベーション。アマチュアによるイノベーションとも言える」。


アマチュアの声に耳を傾けない著作権法改正議論

 ネットが普及する前のコンテンツ産業は、製造と流通にコストがかかっていたためにプロの世界であり、「投資した資金は、知的財産権を中心にして回収するモデルといえる」。しかし、ネットでは制作と流通のコストが限りなくゼロに近づいたことでアマチュアも参加可能となり、プロよりも面白いことができるようになった。

 伊藤氏によれば、アマチュアという言葉のルーツには「愛しているからやる」という意味があるという。

 「Linuxに携わる理由は、Microsoftに就職できなかったからではなく、Linuxを愛しているから。WikipediaやCCなど、ネット上で価値があると言われているものの大半は、お金のためではなくて愛のためだ。ネットの根っこにあるルートサーバーもほとんどがボランティアによって運営されている」。

 それとは反対に「アマチュアが理解されないままにイノベーションが語られることがある」ことを伊藤氏は危惧する。現在検討されている著作権法改正についても、「大企業の声しか聞かず、個人の声に耳を傾けなければ、著作権法の崩壊につながりかねないだろう」と指摘した。


関連情報

URL
  iCommons Summit 2008
  http://www.creativecommons.jp/isummit08/
  Creative Commons(英文)
  http://creativecommons.org/
  クリエイティブ・コモンズ・ジャパン
  http://www.creativecommons.jp/

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( 増田 覚 )
2008/07/31 13:40

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