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ひろゆき氏&夏野氏が講演「日本のネットは決してダメじゃない」
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携帯ゲーム機のような見た目のNGN対応回線品質測定器
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ISAO、IPデータキャストを利用したサービスイメージを展示
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【 2009/06/11 】
アナログ停波後の周波数帯域を利用したマルチメディアサービス
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日テレが「ニュース検索API」などを紹介、国内の地上波放送局初
[18:36]
UQ Com田中社長、高速&オープン志向「UQ WiMAX」のメリット語る
[17:45]
主催者企画コーナーでは「ServersMan@iPhone」のデモも
[11:13]
国内初のデジタルサイネージ展示会、裸眼で見られる3D映像など
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【 2009/06/10 】
CO2排出量が都内最多の地域、東大工学部のグリーンプロジェクト
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IPv4アドレス枯渇で「Google マップ」が“虫食い”に!?
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UQ Com、7月の有料サービス開始に向けて「UQ WiMAX」をアピール
[19:20]
「Interop Tokyo 2009」展示会が開幕、今年はひろゆき氏の講演も
[14:53]

インテルやNEC、クアルコムがWiMAXや3.9Gの現状と今後を語る


 秋葉原コンベンションホールで開催中の「Internet Week 2008」で25日、「ワイヤレスブロードバンドの衝撃」と題して、「モバイルWiMAX」「LTE(Long Term Evolution)」「UMB(Ultra Mobile Broadband)」に関するセッションが行われた。

 携帯電話の通信規格は、2Gでは世界各国がGSMを採用した一方で、日本はPDCを展開。3GでもW-CDMAとcdma2000の2つに分かれてしまった。現在は、次世代の4Gの前の段階として3.9Gの検討が進んでいるが、これもLTEとUMBの2つの規格に割れそうだった。しかし、世界各国のキャリアが相次いでLTEの採用を表明。UMBは開発を断念したため、3.9GはLTEに一本化しそうだ。

 モバイルWiMAXは、携帯電話ではなくWi-Fiをベースとしたワイヤレスブローバンド技術だ。そのため、携帯電話の技術がベースのLTEとは互換性がないものの、お互いに共存する形を模索している。現に両規格とも、ハンドオーバーの実験を進めている。

 「ワイヤレスブロードバンドの衝撃」では、このような規格について、それぞれの立場から現状や今後のロードマップが語られた。


ノートPCへのWiMAX搭載を目指すインテル

インテル東京本社事業開発本部WiMAX事業開発推進部部長の菊地明弘氏

世界でのWiMAX導入の見通し。すでに3つの商用サービスが始まっており、2012年には20のサービスが13億人をカバーする見通し
 これまでの移動通信は、携帯電話の延長線上の技術を用いていた。しかし、WiMAXはWi-Fiの延長線上にある技術。インテルは、ノートPCへのWi-Fiモジュールの搭載を積極的に進めてきたが、WiMAXでもノートPCへの搭載を目指す方針だ。インテルの菊地明弘氏(東京本社事業開発本部WiMAX事業開発推進部部長)が「WiMAXの可能性」として、WiMAXの動向と同社の戦略を述べた。

 WiMAXは、サブキャリアを高密度に利用する「OFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)」と、複数のアンテナにより複数のパスで通信を行う「MIMO(Multi Input Multi Output)」などを採用することで高速化を実現している。バックボーンのオールIP化も特徴だ。

 WiMAXは現状ではRelease 1.0の規格が固まっており、MIMOが2×2(送信2系統、受信2系統)の場合は下りは最大で72Mbpsとなる。次に策定されるRelease 2.0では、MIMOを4×4とした場合、最大で400Mbpsとなる見込みだ。

 HSDPAの通信速度と比較すると「現時点で3~4倍」としたものの、LTEとの比較は「どの時点で比較するのかにより値が変わる」として明言を避けた。しかし、「WiMAXはすでに市場にある。時間的なアドバンテージで優位」とする。

 世界の状況を見ると、2004年は実証実験として動いているシステムは10システムだったが、2006年には250システムに増えている。2008年には400システムに増え、3つの商用サービスが始まり、1.5億人の人口をカバーしている。2012年には、20の商用サービスが展開され、13億人の人口をカバーするとの予測を示している。具体的には、日本、米国、メキシコ、カナダ、中国、インド、ブラジル、オーストラリア、英国、ドイツ、フランス、イタリアで商用サービスが計画されている。


WiMAXでもWi-Fiと同じ成功を

インテルがWiMAXで狙う分野。ノートPCよりも小さいUMPC、家電、携帯端末、ゲーム機などがある

インテルが「Centrino」をリリースしてからノートPCへのWi-Fiモジュールの内蔵が増えた。現在ではほとんどのノートPCにWi-Fiモジュールが搭載されている。将来的には、WiMAXもほとんどのノートPCに搭載されるとする
 このWiMAXでインテルが狙うのは、ノートPCよりも小型のコンピュータへの組み込みだ。「デスクトップを含めたPC市場は、全体として小さくなっている。しかし、UMPCや家電、携帯端末に進出していけばマーケットが広がる」との狙いだ。

 WiMAXにおけるビジネス的優位点として挙げたのが、標準化が進んでいることだ。これにより「低コストで端末が製造でき、スケーラビリティが出てくる」とする。ネットワークがオープンであることも強調した。「WiMAXフォーラムのシールが貼ってある端末を買い、PCに接続し、WiMAXのアクセスポイントを探し、認証をして、契約をすると使えるようなイメージ」だとする。Wi-Fiと非常に似ている。

 技術的な優位点としては通信速度がある。世界に先行してモバイルWiMAXの接続サービスを開始した米Sprint Nextelでは、WiMAXモジュールを内蔵したレノボのノートPCで通信速度を測定したところ、実測で4.5Mbps程度だったという。「低速の回線に慣れている米国人にしてみたら“これはすごい”と思うだろうが、日本ではすでにHSDPAで最大7.2Mbpsのサービスが始まっている。日本では、4.5Mbpsのスループットだと遅いと思われるかもしれない。日本でサービスを開始する際には、数十Mbpsが出るチップを提供する」とした。

 インテルが提供する製品としては、Wi-FiとモバイルWiMAXのコンボモジュール「Echo Peak」がある。現在は2.5GHz帯のみだが、今後は3.5GHz帯などの周波数帯にも対応し、BluetoothやGPSなどとの統合チップも計画にある。さらに、インテルはネットブックやUMPC向けのCPU「Atom」もリリースしており、WiMAXで狙う小型コンピュータの市場にすでにアプローチしている。

 かつてインテルは2002年にモバイル向けのCPU、チップセット、無線LANモジュールを組み合わせたプラットフォーム「Centrino」をリリースした。これにより、ほとんどのノートPCに無線LANモジュールが搭載されるようになった。「ノートPCにはWi-FiとWiMAXが両方とも搭載されるようになる」として、インテルはWiMAXでもWi-Fiと同じ成功を狙っているという。


モバイルWiMAXの国内・海外動向は?

 モバイルWiMAXの事業者の動向はどうだろうか。日本ではUQコミュニケーションズが、2009年初頭から試験サービスを開始し、夏には商用サービスに移行する計画。さらに、地域WiMAXの動きも活発だ。2008年6月には総務省が全国の42事業者に免許を交付したばかり。そのうち41事業者がCATVで、地域に根付いたRFIDによる見守りシステム、路線バスの情報配信、防災対策などのサービスを提供する計画がある。しかし、「会社によって温度差がある」のが現状だ。そのためこれら地域WiMAXの免許を取得した事業者も含め、100以上の事業者が参加した「地域WiMAX推進協議会」を設立した。ここでは、端末や基地局の共同調達、他社とのローミング、ビジネスモデルの検討などを共同で進める計画だ。

 海外の状況はどうだろうか。米国では、ClearwireとSprint Nextelの合弁会社である新生ClearwireがモバイルWiMAXのサービスをすでに始めている。この新生Clearwireには、旧ClearwireとSprint Nextelのほかに、ComcastなどのCATV事業者、Intel、Googleなどが出資している。Sprintは法人向けにEV-DOとのパッケージを販売、GoogleはAndroid端末の推進、Intelはチップセットの供給、CATV各社は既存顧客への販売やマーケティングを計画している。

 韓国では、KTが「WiBro」としてモバイルWiMAXを展開している。特徴的なのは魅力的な端末だ。ノートPC用のPCカード端末はもとより、HSDPAやEV-DO、モバイル向け放送の「T-DMB(Terrestrial-Digital Media Broadcasting)」にも対応したUSBドングル型やUMPCが揃っている。「おもしろい端末が出てくるかが、サービスにおける大きな要素」とした。

 最後に「モバイルWiMAXは、ノートPCに内蔵するのが大きな特徴。多くのオペレータが導入し、すでにグローバルなエコシステムが立ち上がっている。日本では、UQコミュニケーションズがオープンなビジネスモデルで展開するため、キャリアの発想を抜き出たサービスが出てくるかもしれない」との期待を寄せて終了した。


LTEが目指すのは「2010年代の無線システム」~NEC

NECキャリアネットワークビジネスユニットモバイルRAN事業部の元野秀一氏

LTEの標準化スケジュール。2008年内にはほぼ決定し、2009年3月までには固まる予定

LTEの基本コンセプト。周波数の帯域幅は20MHzで、最大で下りは100Mbps、上りは50Mbps。伝送遅延は5ミリ秒、接続遅延は100ミリ秒以内とする
 LTEについては、「3.9世代モバイルLTEの可能性」と題して、NECの元野秀一氏(キャリアネットワークビジネスユニットモバイルRAN事業部)が説明した。

 LTEが目指すのは「2010年代の無線システムを実現すること」。その目安として「今後10年でモバイルのトラフィックは220倍に増大する」という数字を挙げている。無線のトラフィック増大に対応する策としては、利用周波数帯域の拡大、周波数利用効率の向上、面的・空間的利用率向上の3つがあるとする。このほかにも「LTEだけでトラフィックがさばけるのか検討が必要。放送や同報通信によるトラフィックの効率的な集約もある」と対策を示した。

 利用周波数の拡大だが、携帯電話向けに割り当てられている周波数帯域は2003年には約270MHzだったが、2008年には約500MHzに拡大している。周波数の利用率向上は、LTEや「IMT-Advanced」(4G)などを採用しても、「当面は、最大で10~12倍程度の効率向上しか見込めない」のが現状だという。そこで、面的または空間的な利用効率の向上に期待を寄せる。

 面的または空間的な利用効率の向上としては、具体的にフェムトセルが挙げられる。通常、携帯電話の基地局は半径数kmをカバーしているが、フェムトセルは数十メートルと小さい。無線LANのアクセスポイントと同等で家庭内やオフィス内をカバーする程度だ。そうすることで1つの基地局に接続するユーザーが少なくなるため、周波数の利用効率が向上する。そのほかにも、周囲の通信状況を監視しながら通信の方式や周波数帯を自動的に切り替える「コグニティブ無線」なども検討している。

 LTEの標準化作業を進める3GPPは、当初は2007年9月までに仕様を固める計画だった。しかし、これに遅れが出ている。おおよそのめどは立っており、「基本仕様は12月に固まり、2009年3月には最終的な段階となる」としている。

 キャリアの導入意向だが「世界のほとんどがLTE」というほど圧倒的。日本でも、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクモバイル、イー・モバイルともにLTEを採用する意向を示している。「先頭集団がサービスを開始するのは2010年、対応キャリアが増えるのは2011年、普及期は2012年から2013年」との予測だ。

 LTEでは、通信速度は最大で100Mbps、伝送遅延は5ミリ秒、接続遅延は100ミリ秒以内を目指している。さらに、時速500kmの移動でもハンドオーバーが可能になるとする。ほかにも、モバイルWiMAX網との相互接続も考慮する。

 問題なのは、現行のHSPA(HSDPA、HSUPA)やEV-DO、GSMのネットワークと互換性がないことだ。これまでの規格では、使用する周波数幅は固定していたが、LTEでは1.4MHzから20MHzの6段階に切り替えられる。「GSMのバンドから展開できる」とし、段階的に移行できやすいように考慮しているのも特徴だ。

 なお、3GPPではLTEのほかに、現行のHSPAを拡張した「HSPA+」の検討も進んでいる。標準化作業が終了したReleas 7では、2×2のMIMOや、変調方式として64QAMを採用し、最大で下り21.6Mbpsまで高速化できる。さらに、標準化作業を進めているRelease 8では、43.2Mbpsまで高速化できる見込みが立っている。これ以降に検討されている技術としては、複数の基地局に同時に接続し回線を束ねることで高速化するデュアルセルとMIMOを組み合わせる技術などが提案される予定だ。


UMBの開発は断念~クアルコム

クアルコムジャパン標準化部長の石田和人氏

周波数利用効率の向上は減速している。CDMAや時分割の導入は大きな効果があったが、OFDMAやMIMOはそれほどの効果はないとする

ヘテロジニアスネットワークの概念。通信方式の改良では周波数利用効率の改善が見込めないため、ネットワークのトポロジーにより効率を上げるという考え方だ
 世界中のキャリアが3.9Gの規格としてLTEの採用を表明しているが、3.9Gの規格としてUMBもある。これは標準化団体の3GPP2が進める規格で、クアルコムも加わっている。しかし、同社のCEOであるポール・E・ジェイコブス氏は11月に「UMBの開発を中止する」と表明してる。

 今回、「3GPP2の3.9世代モバイルへの展開」と題して、クアルコムジャパンの標準化部長である石田和人氏が講演。「3GPP2は変動の時期を迎えている」とした。

 これまでに3GPP2は、cdma2000やEV-DOなどの規格を策定してきた。日本では、これらの規格をKDDIが採用している。3GPP2では、それに続く3.9Gの規格として、OFDMAやMIMOなどを採用し、最大で下り288Mbps、上り75Mbpsを目指すUMBの策定も進めていた。2006年夏には「UMB-FDD」を開発し、フィールド試験で10MHz幅で20Mbps~40Mbpsの通信速度を確認、QoSや高速ハンドオーバーも期待通りのスペックが得られるなど開発が順調に進んでいた。

 しかし、2007年11月には米Verizon WirelessがLTEの採用を発表。2008年10月には3GPP2の有力なパートナー団体であるCDMA Development Groupが、LTEまたはモバイルWiMAXを用いたcdma2000の拡張路線を容認。2008年11月には、3GPP2が策定したcdma2000とEV-DOを採用しているKDDIもLTEの採用を表明した。

 このような経緯があり、3GPP2やクアルコムがUMBの開発を断念したというわけだ。

 では、今後、3GPP2は次世代通信規格にどのように関わっていくのか。石田氏は「3GPP2として、IMT-Advanced(4G)の将来性について検討を進めているが、提案そのものを行わない可能性もある」と示唆した。

 しかし、現行の通信規格であるcdma2000とEV-DOを拡張するための技術開発は進めている。これは3GPPのHSPA+の動きと似ている。まずはcdma2000の音声容量を1.5倍から2倍に増大。EV-DOでは、マルチアンテナやMIMOの採用による通信速度の向上を図り、LTEやモバイルWiMAXとの親和性も高めるほか、フェムトセルの標準化も進める。

 石田氏は、3GPP2やEV-DOに限った話ではなく無線通信技術全体に言えることとして、「新しい技術が出ると周波数利用効率が上がってきたが、そろそろ限界が見えてきた」との見解を示した。

 1990年代後半に導入されたcdmaOneではCDMAを採用、そののちEV-DOでは時分割も導入した。3.9GではOFDMAとMIMOを導入するが、「LTEとHSPA+の周波数利用効率は変わらない」とする。「MIMOには期待できる」としながらも、「4×4のMIMOで通信速度が4倍になるのはせいぜい2~3%の端末。また、端末にアンテナをたくさん入れられない」とした。

 そこで提案したのが、カバー範囲が異なるマクロセル、マイクロセル、ピコセル、フェムトセルが混合し、干渉制御などを自動的に行う「ヘテロジニアスネットワーク」だ。通信方式ではなく、ネットワークのトポロジーにより効率を上げるという考え方であり、「既存の技術を打破できる」と自信を見せた。


関連情報

URL
  Internet Week 2008
  http://internetweek.jp/

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( 安達崇徳 )
2008/11/26 14:39

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