秋葉原コンベンションセンターで開催された「Internet Week 2008」で27日、「xSPのための青少年ネット規制法対策~To filter or not to filter~」と題したセッションが行われた。2009年4月1日施行予定の「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(青少年ネット規制法)において、ISPなどが留意すべき点や、同法の施行令案についての解説があった。
● 青少年ネット規制法、ISPにおける対応点は?
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NTTコミュニケーションズの北村和広氏(ネットビジネス事業本部担当部長)
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NTTコミュニケーションズの北村和広氏(ネットビジネス事業本部担当部長)は、「フィルタリングに対する各社の対策~ISP編~」と題して、ISPにとっての青少年ネット規制法の対応ポイントを説明した。
同法第18条では、ISPの義務として、インターネット接続サービスのユーザーから求められたときにはフィルタリングソフトまたはフィルタリングサービスを提供しなければならないとされている。北村氏は、OCNをはじめとした大手ISPのフィルタリングサービス一覧を示し、すでに提供していれば負担は増えることないと説明する。
しかし、「OCNだけの話かもしれないが」と断った上で、アンケート調査を行うと「使いたい」という人が多いにもかかわらず、実際は利用率が低い点が「問題といえば問題」とコメント。親に対する啓発も含めて「フィルタリングの利用率を上げる努力をしなければならない」とした。
また、ユーザーから「求められたときに提供すればいいという程度」のため、未成年者が使う携帯電話へのフィルタリング提供が義務付けられる携帯電話事業者よりも緩い点も指摘した。
第21条の「特定サーバー管理者」の努力義務の項目では、無料ホームページやブログ、フォトサービスなどの「特定サーバー」を公開している者は、青少年有害情報が発信されていることを知ったとき、または自ら青少年有害情報の発信を行おうとするときに、青少年閲覧防止措置をとる努力義務があるとしてる。これは、削除することのほか、18歳未満が利用できない会員制サイトへ移行すること、フィルタリングにきちんとかかるようにすることだ。
なお、「特定サーバー管理者」とは、ISPだけではなく、ホスティング事業者や、個人でサーバーを設置して掲示板やWebを運営している人も対象になる点に注意が必要だとした。
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ISPから見た「特定サーバー」管理者の分類
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違法・有害サイトに対する運用フロー
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北村氏はこのほか、違法・有害情報対策の強化に向けて、ISPなどによる自主的な削除を促すため、「特定電気通信役務提供者の損害賠償の制限及び発信者情報の開示に関する法律」(プロバイダ責任制限法)の適用範囲を拡大することについて議論されていることにも言及した。同法が現在対象としているのは、名誉毀損や著作権法違反など「権利侵害情報」のみだが、これを権利侵害以外の違法・有害情報にも拡大するというものだ。
これに対して北村氏は「果たして有効なのか?」と疑問を投げかける。運用上、違法・有害の判断がやはり難しい上、そもそも、そのような情報を放置しているプロバイダには効果がないとの見方もある。「プロバイダ責任制限法の対象範囲を拡大して『あとはISPさんよろしく』と言われても厳しいものがある。プロバイダのやるべきことと、その他でやるべきことのバランスをうまくとる必要がある」と訴えた。
● スマートフォンなどのWi-Fiに接続は、フィルタリング義務除外
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総務省の大内康次氏(総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課課長補佐)
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総務省の大内康次氏(総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政課課長補佐)は、「ISP/ASPのフィルタリングの具体的対処方法」と題して、青少年ネット規制法の施行規則となる施行令案について説明した。
この施行令案は、内閣府と総務省、経済産業省が10月17日に公表し、パブリックコメントを募集していたものだ。青少年ネット規制法では、携帯電話・PHS事業者に対して、青少年の使う携帯電話・PHSにフィルタリングサービスを提供する義務を定めている。
これを受けて施行令案では、その対象となるサービスの範囲を「専ら携帯電話端末又はPHS端末に組み込まれたブラウザを用いることにより閲覧することを可能とするために提供される電気通信役務」としている。当たり前のような文言だが、これは、除外する範囲を示すためのものだという。
大内氏によると、「この法案を議論している過程で、iPhoneやスマートフォンのことを考えていた人はおそらく1人もいなかった」。そこで、実際に施行するにあたっては「PCか携帯か区別しにくいものにもフィルタリングをかけるのか?」という問題が出てきた。
携帯事業者のサーバーを経由してインターネットに接続するものに対しては、携帯事業者がフィルタリングかけることが可能だが、スマートフォンの中にはWi-Fi経由でインターネットにつながるものもある。「そういったものについては、携帯事業者はフィルタリングがかけられないことが、だんだんと明らかになっていった」。さらに最近ではOperaなどサードパーティのブラウザを端末にインストールするユーザーもいるなど、「いろいろなサービスが出てくる中で、本当に携帯事業者がフィルタリングをかけられるのか」を検討したと振り返る。
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携帯電話によるインターネット接続の主な形態
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そこで総務省では、携帯電話によるインターネット接続の形態を2つに分けて整理した。携帯事業者のゲートウェイを経由するインターネット接続サービス(iモードやEZweb、Yahoo!ケータイなど)については「携帯電話インターネット接続役務」と分類し、青少年ネット規制法第17条により、フィルタリングサービスの提供義務を課す。一方、iPhoneやスマートフォンなどをWi-Fi接続したり、携帯電話をPCにUSB接続するデータ通信などで、ISP網経由でインターネットに接続するものは「インターネット接続役務」と分類。同法第18条にあるように、ユーザーからの求めがあった場合に提供すればいいという、ISPと同じレベルになる。
「今後は増えていくかもしれないが、利用実態として、青少年はスマートフォンは買わない。また、スマートフォンにしても携帯電話にしても、青少年がサードパーティブラウザをインストールし、別に無線LAN接続サービスを契約して使うまでには至っていない」ことから、上に挙げたような通常の携帯電話端末からの接続に青少年フィルタリング提供義務を課せば、青少年ネット規制法の趣旨は満たされると判断した。
「今後、中学生がみんなiPhoneを買って、Wi-Fi接続するユーザーが5万人も10万人もいるという時代になってくると、こういう法律を見直していかなければいけないと思う」という大内氏だが、最新技術に対応するよう法律をアップデートしていくのは「難しいと感じている」ともコメントした。
● 「特定サーバー管理者」には、青少年有害情報の閲覧防止措置
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「特定サーバー管理者」についての考え方(参考)
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NTTコミュニケーションズの北村氏の解説にもあった通り、ホスティング事業者や掲示板の管理・運営者を含めた「特定サーバー管理者」に対しては、青少年ネット規制法の第21条~第23条において、青少年が有害情報を閲覧しないよう防止措置をとる努力義務が課せられる。
大内氏は「特定サーバー管理者」の定義について、現在のところ、総務省としてきちんと整理されているわけではないとしながらも、「青少年有害情報を発信する可能性がある方々を特定サーバー管理者として考えている」と説明。情報の発信者にも努力義務が課せられるのは初めてではないかとし、「有害情報の発信者にも、インターネット環境をきれいにしていく努力義務がある」と訴えた。
このようにインターネットに関連する多くの立場の人にかかわってくる点に関して、大内氏は「さまざまな規制がかかってくるということで、『規制法』と呼ばれたりもするが、これまでの民間の取り組みを追認したもので、過重な義務を課しているわけではない」「民間の取り組みを追認するようなかたちで落ち着いたことは、総務省としては評価している。国はバックヤードに徹すること、これが重要と認識している」とコメントした。
● 「フィルタリング」は誤解を生みやすい言葉
今回のセッションではこのほか、ディー・エヌ・エーの春田真氏(常務取締役総合企画部長)が、「モバゲータウンの健全性施策とネットリテラシー向上の取り組み」を説明。「事件報道があると、当社の名前が出ることもある。トラブルの事実はあると認識しており、その前提で取り組みを強化しなければならない。ただし、当社だけでできるものではなく、業界で推進していきたい。そうした自覚をもってやっていかなければいけない」とコメントした。
なお、健全性確保やネットリテラシー向上の取り組みのために同社が費やす、カスタマーサポートセンターの直接的なコストは、人件費や賃料など含め年間8~9億円だという。売り上げが伸びているのでまかなえる範囲だとしながらも、「決して安いコストではない」とした。
セッションの司会を務めた、Internet Week 2008プログラム委員長の江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授)はこの点について、新たにモバイル事業を開始しようとするベンチャーにも同じような対応が求められるとすれば、「これは参入障壁だ」と表現した。
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ディー・エヌ・エーの春田真氏(常務取締役総合企画部長)
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セッションの司会を務めた、Internet Week 2008プログラム委員長で、司会も務めた江崎浩氏(東京大学大学院情報理工学系研究科教授)
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WIDEプロジェクトの竹井淳氏は、昨年からのフィルタリグ議論などの結果、「容易に携帯電話を子供に渡すべきではない」「親がもっと勉強すべき」など、親の責任を指摘する声が高まっていることに対して、「いい意見もあるが、本来のゴールとは違うものもある」と指摘。立法・政策、技術、教育が並列に語られるべきと強調した。
このほか、セッションの最後に設けられたディスカッションでは、「フィルタリング」という言葉じたいが誤解を生みやすいとの指摘も挙がった。海外では、ISPなどが一律に情報を遮断する「ブロッキング」のことと勘違いされたこともあったという。「フィルタリングは、ペアレンタルコントロールであり、親が守るという点を提示しなければならない」との意見も出た。
また、会場の参加者からは、携帯端末のGPSデータを取得するようなアプリケーションについて、将来的にどのような規制がありえるのかといった質問もあった。これに対して慶應義塾大学の金正勲氏(デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授)は、「未来における問題は、政府はあまり考えないほうがいい」とコメント。米国がインターネット政策で一貫してとってきた「非規制」や「規制を我慢する」というスタンスを示し、性急な規制を行わず、その中でイノベーションを促すことが重要とした。「新しいツールが生み出す可能性、特に副作用に焦点をあてて今から綿密に議論し、政策的な対応を行うと、意図しなかったイノベーションを阻害される可能性がある。実際にネガティブな側面が表面化したときに政策を立てるほうが、全体的なバランスはいいのではないか」と訴えた。
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WIDEプロジェクトの竹井淳氏
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慶應義塾大学の金正勲氏(デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構准教授)
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関連情報
■URL
Internet Week 2008
http://internetweek.jp/
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( 永沢 茂 )
2008/11/28 21:50
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