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増加するP2Pトラフィックをキャッシュサーバーで緩和

英CacheLogicのAndrew Parker CTOインタビュー

英CacheLogicのAndrew Parker CTO(左)
 ISPにとって、P2Pソフトウェアによって発生するトラフィックをどう管理するかという点は悩みの種だ。P2Pによるファイル交換が普及して以降、日本ではWinMXやWinny、海外ではBitTorrentやeDonkeyといったファイル交換ソフトが、ISPのバックボーンにおけるトラフィックの中でかなりの割合を占めるようになっている。ISPにおいては、バックボーンのコスト負担をいかに安く抑えるかという観点から、ユーザーのパケット転送量に上限を設ける対策を行なっているところも少なくない。

 しかし、最近は合法的なコンテンツの配信にP2P技術を利用する例も少しずつではあるが増加している。ISPとしては、ユーザーのP2Pソフト利用に制限を加えず、かつトラフィックの増加を最小限に抑えることで、バックボーンコストを抑制する方法を考える必要に迫られている。英国のCacheLogicは、そんな一見相反することを実現するハードウェアを提供するベンチャー企業だ。

 今回、CacheLogicのCTOであるAndrew Parker氏が来日し、同社の製品がどのような仕組みでP2Pソフトウェアのトラフィックを削減しているのかといった点や、日本市場への対応などについて語った。


世界におけるP2Pソフトウェアのトラフィックの状況とは?

 Parker氏は、現在P2Pソフトウェアによって発生するトラフィックの状況について概要を説明した。同社では、世界各地にP2Pトラフィックを監視するための監視ノード(現在のところ全体で約20台)を設置しており、それらのノードによって得られたデータをもとに製品開発を進めている。

 そのデータによれば、P2PトラフィックはISPのトラフィック全体において下りで約50%、上りで約60~70%にも及んでいるという。また、世界における同時接続ユーザー数も、1年前(2004年10月)の時点で1,000万ユーザーを超え、今もなお増加傾向にあるとのこと。実際にP2Pでやり取りされているファイルの種類は映像ファイルが約6割を占め、MP3などの音声ファイルは1割強で、平均のファイルサイズも100MBを超えているという。Parker氏はこの点について「ブロードバンドの普及が大きく影響しているのではないか」と分析した。

 また、Parker氏は世界各国におけるP2Pトラフィックから見たソフトウェアのシェアを示し、「世界的にはBitTorrentとeDonkeyの2つが支配的な地位を占める」と語った。アジアにおいては韓国でeDonkeyが圧倒的なシェアを占めている点を除けば、多くの国でBitTorrentとeDonkeyのシェアが拮抗しているとのこと。ただし、日本国内の状況については「まだ国内に監視ノードを設置していないので、国外との間で発生するトラフィックをモニタしているにとどまっている」とのことだ。今後は、日本国内にも監視ノードの設置を進めたい考えで、すでに1台の設置場所が決定しており、協力ISPが現われ次第増設も検討するとのことだ。


P2Pトラフィックを自動検知してキャッシュすることで帯域を削減

 ではどのようにしてP2Pトラフィックを抑制するかという話になるのだが、Parker氏によれば、同社のP2Pトラフィック管理製品は大きく分けて、P2Pソフトが原因で発生するパケットをアプリケーション層レベルでスキャニングしてスイッチングする「CacheSwitch」と、実際にデータをキャッシュする「CachePliance」の2つから成り立っているという。

 基本的には、あるユーザーがP2Pソフトウェアを用いてファイルを公開し、それに対して別のユーザーがアクセスしてきた段階で、ISPのバックボーン内部に置かれたCachePlianceがその内容をキャッシュし、ソフトウェアの種類とMD5/SHA-1によるハッシュ値を記録する。次にまた別のユーザーが同じファイルにアクセスしてくると、CacheSwitchはそのリクエスト内容をチェックし、先ほど生成したソフトウェアの種類やハッシュ値などの情報とそれが一致すると、実際にファイルを公開しているユーザーのPCに接続する代わりにCachePlianceにキャッシュされたデータを送出するという仕組みだ。

 これにより、同じファイルに人気が集まるようなケースでは、少なくともラスト1マイル部分の上りトラフィックを大きく削減することができる。同一ISPの複数のユーザーが同じファイルにアクセスする場合には、ISP外部に対するトラフィックが発生しなくなり、バックボーンコストを大きく抑制することができる、というのが同社の狙いだ。Parker氏によれば、同社製品を導入することでアップロードの80%、ダウンロードの50%がキャッシュにヒットするようになり、バックボーン帯域を最大45%削減することができるようになるという。

 これらのキャッシュは透過的に行なわれ、ユーザーに対しては「CachePlianceがIPスプーフィングを行なうような格好になる」という。ユーザー側ではソフトの設定も不要で、間にCackePlianceのような装置が存在することに気づくことはないとのこと。Parker氏は「NDA(秘密保持契約)を結んでいる関係で社名を明らかにすることはできない」としつつも、欧米の大手ISPにおいて同社製品の導入が進んでいるとアピールした。

 ちなみに、CacheSwitchは1台で約1.2Gbps(双方向)の処理能力を持ち、最大で8台までのクラスタ化が可能なことを確認しているという。CachePlianceについては、1台で約1.4TBまでのデータをキャッシュすることが可能となっている。Parker氏は「CachePlianceのクラスタ化も技術的には可能だが、Webのキャッシュと異なりP2Pのキャッシュの場合はクラスタ化を行なわない方が効率が良い」と語った。また、CacheSwitchについては「1~2年後をめどに、1台で5~10Gbpsの速度に対応したものをリリースしたい」との目標も語った。


日本市場への対応はまだこれから、当面は情報収集がメイン

 ただし、日本市場への対応となると、まだこれからという状況だ。日本でP2Pソフトといえば、やはりWinnyの存在を抜きに語ることはできないが、Winnyはファイル共有時のトラフィックが暗号化されているという特徴がある。そのような暗号化されたトラフィックについては「CacheSwitchでWinnyのトラフィックを判別することは可能だが、CachePlianceによるキャッシュについてはまだ未対応」とのことだ。近々、日本国内に設置予定の監視ノードにより具体的なデータを収集した上で、対応を検討したいとの姿勢を示した。

 日本国内における代理店やサポート体制も未定という状態であり、いわゆるローカライズ作業もまだこれからという状況であることから、同社では「大手の通信事業者やISPなどを中心に売り込みを図りたい」としているものの、実際に同社製品が日本市場に入ってくるにはまだしばらく時間がかかるものと予想される。

 日本における同社の当面の活動は、前述した監視ノードの設置作業と情報収集がメインになると予想される。Parker氏は監視ノードの設置について「装置の無償提供などのプログラムを用意しており、ぜひ日本のISPにも積極的に参加して欲しい」と語ったほか、現在日本国内で独自にP2Pトラフィックのモニタリング作業を行なっている複数の団体とも協力していきたいという考えを示した。


関連情報

URL
  CacheLogic(英文)
  http://www.cachelogic.com/

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( 松林庵洋風 )
2005/11/24 13:19

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