ソースネクストは5月29日、年間更新料を無料にするセキュリティ対策ソフト「ウイルスセキュリティZERO」を発表した。3,970円でソフトを購入すれば、Windows Vistaの公式サポート終了時まではPCやOSを買い換えても利用できるというものだ。
セキュリティ対策ソフトの場合、ユーザーは毎年数千円の更新料を支払うことで、定義ファイルのアップデートなどのサービスを継続して受けられるというのが常識だった。こうした「常識をくつがえす」と語る松田憲幸社長に、ソースネクストが打ち出す「年間更新料0円」のセキュリティソフト戦略を伺った。
● ウイルスマニア以外は、セキュリティ対策ソフトを積極的に導入しない
――「年間更新料0円」という仕組みを打ち出すに至った経緯をお聞かせください。
松田社長:まずは、メーカー側の発想をゼロにして、ユーザーの視点に立って考えよう、というところから始まりました。
セキュリティ対策ソフトの場合、ユーザーから見ると、ライセンス更新というのはわずらわしいものです。ライセンス更新の必要がなくなれば、ユーザーは購入してインストールするだけでずっと利用できる。
この発想を3月に思いつき、ライセンスの期限が終了する際に表示される「期限切れメッセージ」や、ライセンスを更新する際の手間をなくすという結論に至りました。顧客はほとんど何もする必要がなくなるので、こんなにいいことはないと確信しましたね。
そもそも、よほどのウイルスマニアでもない限り、セキュリティ対策ソフトを積極的に面白いと思って導入するユーザーはいません。ユーザーとしては一度購入したら、後は更新など考えなくて済めば、それに越したことはないでしょう。
「ウイルスセキュリティZERO」は、3,970円で購入すれば、(Windows Vistaの公式サポートが終了するまでの)約10年間、年間更新料不要でウイルス定義ファイルなどの自動アップデートが受けられます。ユーザーの手間とコストを大幅に軽減できるのが特徴です。
● 年間更新料0円でも採算は取れる
――従来の年間課金モデルを廃止しても、採算は取れるのでしょうか?
松田社長:もちろん、赤字覚悟でやっているわけではありません。年間更新料がなくなれば、現在よりも本数が売れることが予想されます。我々が目標とする年間200万本を販売できれば、従来のように「ウイルスセキュリティ」を年間1,980円で販売するよりも、経営的にプラスになると判断しました。
IDC Japanの調査によれば、今後5年間で約1億台のPCが市場に普及するといわれています。毎年200万本を販売すれば、5年後には1,000万ユーザーを抱え、1億台のうちの10%のシェアを占めることになります。この数値は、セキュリティ対策ソフト市場における現在のソースネクストのシェア(16%)を考えれば、さらに増える可能性があります。
セキュリティ対策ソフトのマーケットが飽和して、ソースネクストが入り込む余地がなければ新規販売を強化するのは厳しいですが、今後のPC普及台数からすれば現在のシェアは小さく、新規ユーザーへの売上はまだまだ伸びる余地があると考えています。
● メーカーのコストが下がる一方で、ユーザーは毎年同じ料金を払い続けている
――収益は新規販売による売上だけになりますが、それでもサポートを継続的に提供できるのでしょうか?
松田社長:セキュリティ対策ソフトを提供するメーカーでは、ユーザーサポートやウイルス定義ファイル(DATファイル)を提供する際にコストが発生します。例えばユーザーサポートでは、ユーザーのサポート利用率が高くなれば、メーカー側のコスト負担が大きくなります。
「ウイルスセキュリティ」の場合は、ライセンスの登録や更新時の問い合わせがユーザーサポートの半分を占めています。ライセンス更新は1年に1回なので、登録した情報がわからなくなったというような問い合わせも多くあります。理論上の単純計算では、ライセンス更新が不要になれば、こうしたライセンス更新に関わる問い合わせはなくなり、ユーザーサポートのコストが半減することになるのです。
また、ウイルス定義ファイルについては、顧客が100人いようと1,000万人いようと開発費は同じです。顧客数によって定義ファイルを配布するシステム投資額は変わりますが、それも顧客数に正比例するわけではありません。ウイルス対策ソフトのジャンルで、ライセンス更新時に毎年課金するシステムが始まった当時と比べると、サーバーマシンや通信回線にかかるコストは、比較にならないくらい安くなっています。
見直してみると、サーバーにかかる費用などは、ウイルス対策ソフトという市場が生まれた頃に比べて明らかに安価になっています。にもかかわらず、メーカーは顧客に同じコストを要求し続けてきたことに気づいたわけです。
セキュリティ対策ソフトは、「年間にこれだけ払う」というのが当たり前という概念がありました。ユーザーにしてみても、「毎年払わないとメーカーは儲からないよね」という先入観があるのかもしれません。しかし、ウイルス対策ソフトのベンダーの決算などを改めて見てみると、非常に高い利益率を上げていたりするんですね。
ユーザー視点から、こうした課金の常識を破り、コスト圧縮の分をユーザーに還元したいと考えたわけです。
● 主要メーカー製品の機能と大きな差はない
――主要メーカー製品との機能の違いは?
松田社長:正直、これまでは細かいところでキャッチアップしていないところはありました。例えば、「ウイルスセキュリティ」では基本的にウイルスは入ってこないという前提で、最初のバージョンでは送信メールに関してはウイルスチェックをしていませんでした。また、1年ほど前まではファイアウォールのポートの細かい設定などはできませんでしたが、これらの機能も現在は対応済みです。
セキュリティ対策ソフト業界では、ソースネクストは後発になりますが、シマンテックやトレンドマイクロなどの老舗メーカーに続いて3位のシェアを獲得しています。短期間にこれだけのシェアを得られたのは、機能や信頼性が評価されている証拠だと思っています。
他社では、各社のセキュリティ対策ソフトごとに利用可能な機能について、○×をつけて対応状況を示す販促ポップを作っていますが、それを見て足りないところはすべてキャッチアップするようにしています(笑)。 今後も、大手が導入するような新機能は、無償アップデートを通じて提供していきます。
――シマンテックやトレンドマイクロは、未知のウイルスへの対応を謳っていますが。
松田社長:未知のウイルスに対応するヒューリスティックスキャンについては、誤検知の問題があります。ヒューリスティックスキャンに対応するメーカーで、正常なユーティリティを誤ってウイルスと判断してしまうケースは少なくありません。ヒューリスティックエンジンに引っかかるものをすべて自動削除すると、最悪の場合、アプリケーションが動かなくなることもあり得ます。未知のウイルスへの対応といっても完璧なものではないので、弊社としては、むしろ、ウイルス発生後の迅速な対応が重要だと思います。
● ライセンスは1台のPCに1本。有効期間はVistaのサポート期間と同じ
――PCを買い換えても、ソフトをアンインストールして新しいPCにインストールすれば利用できるということですが、アクティべーションの仕組みは?
松田社長:弊社のサーバーでは、どのユーザーがどのPCで「ウイルスセキュリティZERO」を使っているかということは管理できています。ただし、あまり厳しくチェックすると、問い合わせも増えると思うので、当面はアクティべーションの採用は見送るつもりです。ユーザーのアクティべーションへの認知が進んで一定期間が経過すれば、きっちりアクティべーションを採用するので、1つのライセンスを複数のPC上で同時に使用することはできなくなります。
――マイクロソフトがWindows Vistaの公式サポート期間を延長した場合は?
そのときは「ウイルスセキュリティZERO」のサポート期間もあわせて延長します。仮にマイクロソフトが永遠にサポートすると宣言すれば、我々も永遠にサポートすることになります。
● 年間更新料0円を他社に追随されたら?
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現在のシェア16%から、発売初年度でシェア35%を狙う
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――今後シェア35%を目指すということですが、大手が「ウイルスセキュリティZERO」と同様のビジネスモデルで追随してきた場合は?
松田社長:今回の発表の反響を見ても、現在のシェア16%の2倍は売れると直感しています。競合他社が追随する可能性もありますが、それと同時に我々の製品も徐々に広まることが予想されます。
狙いとしては、「ウイルスセキュリティZERO」を買ったユーザーに、弊社の他製品を購入してもらいたい。現在、ウイルス対策ソフトの売上は弊社全体の20%を占めていますが、今後は残りの80%の製品も認知してほしいですね。
また、他社が追随した結果、年間更新料が無料というのがスタンダードになれば、顧客のコストが軽減されPCへの障壁が下がります。そうすることで、PC本体や周辺機器、ソフトウェアへの投資につながり、PC産業全体が活性化すればと思います。
――PCメーカーからプリインストールの引き合いは?
松田社長:今回の発表は極秘裏に進めていたので、PCメーカーにも前もって伝えていませんでした。今回、発表前には、一切どこにもお話していないんです。ですから、そういう話は今後いただけるのではないかと考えています。実際、販売店からはすでに、一緒に売りたいというご要望をいただいています。
関連情報
■URL
製品概要
http://sec.sourcenext.info/products/vs/zero.html?i=top
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( 工藤ひろえ/増田 覚 )
2006/06/02 12:03
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