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著作権保護期間、「死後70年」への延長論議を巡る動向(2)

「保護期間を諸外国と揃えてほしい」という延長への要望

 著作権保護期間の延長を巡っては、著作権関連17団体からなる「著作権問題を考える創作者団体協議会」が、保護期間の「著作者の死後70年」への延長を求めており、一方でクリエーターや研究者、法律家などからなる「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」が、保護期間の延長には慎重な議論が必要であるとする要望をしている。

 それぞれの団体はどのように今回の議論を考えているのか。今回はまず、「著作権問題を考える創作者団体協議会」の議長を務める作家の三田誠広氏に、延長を要望する意図について伺った。


権利を諸外国と揃えることが重要

「著作権問題を考える創作者団体協議会」の議長を務める作家の三田誠広氏
――まず、このタイミングで保護期間の延長を要望されたのはなぜなのでしょうか。

三田氏:5年前でしょうか、映画の著作権が70年に延びましたが、その際には「映画が延びるから他も延びるということではない」という話になりましたので、タイミングを計っていたということもあります。それと、諸外国と付き合っていく上で、EUは1993年、米国は1998年に保護期間を延長していますので、あまり長くこの状態を放置しておくこともよくありません。

 海外との関係では、日本には戦時加算という形で保護期間が10年ほどプラスされています。保護期間が50年どうしであったときには日本だけが長かったのですが、今では逆に10年プラスしても日本の方が保護期間が短くなりました。先日、CISAC(著作権協会国際連合)という団体で、戦時加算については今後は要求しないという決議がありましたが、これも日本がこれから保護期間について検討しますということがなければ、理解をいただけなかったのではないかと思います。そういう意味でも、このタイミングで我々が要求したことはよかったと改めて思っています。

――この問題ではよく「外圧ではないのか」と言われますが。

三田氏:そういうことではありません。たしかに、団体によっては外圧というか、海外からの要求もあったかと思いますが、まずは日本の著作者たちが立ち上がって問題提起をしたということです。日本の著作権を守っていくということですね。特に今回、松本零士さんなどがこの問題に熱心なのは、やはりアニメーションや漫画に関しては日本が輸出大国ということがあります。たとえば手塚治虫さんは、もう死後20年近く経っていますので、死後50年のままだと、あと30年はすぐに経ってしまいます。ですから、ぎりぎりになってからあわててやるのではなく、もっと早い段階で権利を諸外国と揃えておくことが大切です。コンテンツというのは世界中に流通しているわけですから、1つの国だけが何か違う条件でやるということは、もはや不可能な時代になっているということをご理解いただきたいと思います。


――小委員会での議論を見ていると、延長に賛成・反対の意見の隔たりが大きく、結論は出せるのだろうかと疑問に思えるのですが。

三田氏:小委員会ではいろいろな意見も出ますし、対立する意見もあると思いますが、多数決で決めるわけではなく、意見を交換する場だと認識しています。そうした意見が上位部会の著作権分科会に上げられ、また議論がされるわけです。そこでも全会一致でなければということではありませんし、ヒアリング等で聞かれた反対意見でも、たとえば国会図書館の方が言われた、アーカイブには今の裁定制度ではお金もかかるし手間もかかるといったような問題は、もっと簡単な裁定制度を作れば解決できる問題ではないかと思います。そうした形で問題を1つ1つクリアにしていけば、最終的には著作者のご遺族の方の理解が得られないといった問題が残るかと思いますが、それは著作物というものの1つの宿命であるということで理解をいただくしかないかなとも考えています。とにかく、世界がもう70年になっているという現状で、日本だけが50年にしておく理由というのをまた改めて伺って、議論をしていきたいと思っています。


延長による問題を1つ1つ解決していくことで理解は得られる

創作者団体ポータルサイトのイメージ(2007年8月31日に配布された資料より)
――利用を円滑化しようという部分では、あまり異論はないように思うのですが。

三田氏:利害が対立しているというわけではなく、権利者としてもなるべく利用していただきたいという点では同じですね。ただ、いきなり著作者の権利を制限して、お金は払うから自由に使わせろとかそういう形にはしたくない。あくまでも権利制限ではなく、権利はあるけれども所在が不明な人については裁定制度で対応する、不明にならないようにきちんと管理団体に届けを出していただくという形にしたいと考えています。著作権は登録制度にしたらどうかという意見もありますが、ベルヌ条約では登録はしなくていいと決まっていますので、現行の著作権法の内部で対応するとなると、データベース上に著作者が意思表示をしておき、そこに書かれていない人については裁定制度で対応できればと考えています。

――経済的な影響としては、延長してもそれほどたいした金額ではないのではないかという意見もあります。

三田氏:経済効果が全くないということはありません。たとえば江戸川乱歩さんや谷崎潤一郎さんの著作権はあと9年(2016年)で切れますが、二次利用なども含めて現在でも数百万円という金額が遺族の方に入っています。著作権というのは私権、個人の権利です。たとえばここに飛行場を作りますから立ち退きなさいという話になれば、必ず補償金なりなんらかの対価が払われます。著作者全員の中ではたしかに一部ですけれども、しかしかなり見過ごすことのできない金額を現に遺族の方は得ているんだということもご理解いただきたいと思います。

――これまでの流れの中では、どうしても権利者側からの権利強化の要望ばかりが目立つので、それに対する反発もあるかと思うのですが。

三田氏:たとえば、著作権フリー原理主義というか、そういう主張をする方々もいます。ただ、そうした方が言われるのは、主に情報の共有化ということです。1億総クリエーターというのは、1億人がネットで情報を発信できるということです。しかし、情報というものと、文化芸術というものは少し異なるものだと思います。もちろん、あらゆる文化芸術、たとえば文学作品もテキスト文書にすればただの情報に過ぎないわけですが、しかしその作品を作るまでには作家の様々な努力があり、自然淘汰の非常に厳しい関門をくぐりぬけて、多くの人に指示されて残ってきた、これが文化であり芸術であろうと思います。そうしたものの価値や、それに費やしたクリエーターの努力というものを、ぜひともご理解いただきたいと思います。


――反対意見もありますが、今回の保護期間延長の議論についてはどのようにお考えでしょうか。

三田氏:著作物の利用についても、改めて利用者の立場に立って考えなおしていますし、それは死後50年以上のものに限らず、50年以内のものについても利用者に負担をかけないようなシステムが確立できると考えています。単に保護期間を延ばすということだけではなく、利用者が便利になったなと思っていただけるようなシステムをみんなで作っていけば、結果としては良かったと言っていただけるような形になるのではないかと思います。

――見通しとしてはどうでしょうか。議論にはまだ時間がかかるのではないでしょうか。

三田氏:たとえば裁定制度の問題などでは大反対する人もいませんでしたし、アーカイブについても裁定制度が整備されればいいといった形で解決していけると思います。著作権分科会からさらに国会へという流れになりますが、それほど長く議論する必要はないということが見えてきたのではないかと思います。たしかに、著作権分科会でも満場一致にはならないでしょう。ただ実際問題としては、50年が70年になったら困るという人の意見をヒアリングして、それに対してたとえば裁定制度で対応できるといった形で1つ1つ解決しつつあるので、十分に充実した議論になっていると思います。


「国際調和」と「利用円滑化」のバランス

 創作者団体協議会が提出した要望書では、保護期間を「国際的なレベルである死後70年」に延長することを求めている。基本的にはこの「国際調和」という観点が、延長を求める最大の理由となっている。

 保護期間の延長に反対する側からは、「国際的といっても死後70年になっているのは欧米だけ」という意見が挙がっているが、これに対しては「著作物の実質的な取引を考えれば、欧米など主要国が死後70年になっていることは重要」といった反論がなされている。

 また、保護期間を延長することで、過去の著作物が利用しにくくなるという声に対しては、権利者のデータベースを整備するとともに、権利者不明の著作物については裁定制度を活用することで、そうした問題に対処できるとしている。

 このように、「国際調和」と「利用円滑化」のバランスを取ることで、保護期間の延長には理解が得られるというのが、延長を求める側の主張となっている。

 次回は保護期間の延長に慎重な立場を取る、「著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム」の世話人である弁護士の福井健策氏に話を伺う。


関連情報

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著作権保護期間、「死後70年」への延長論議を巡る動向(1)(2007/09/19)
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( 聞き手:三柳英樹 )
2007/09/20 11:12

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