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津田大介氏に聞く、“ダウンロード違法化”のここが問題

パブリックコメントは反対意見を届ける唯一のチャンス

IT・音楽ジャーナリストの津田大介氏
 私的録音録画補償金制度の抜本的な見直しを図るために、文化審議会著作権分科会に設けられた「私的録音録画小委員会」は10月12日、これまでの議論をまとめた中間報告を文化庁に提出した。

 中間報告で挙げられた問題の1つに、“ダウンロード違法化”の問題がある。

 これまで、ファイル交換ソフトなどを使って、ゲームソフトや映画などのコンテンツを不特定多数に公開したり配信したことで、複数の逮捕者が出ている。しかし、そうした違法コンテンツであっても、ダウンロードする側は法的責任を問われることはなかった。

 ダウンロード違法化は、こうした違法コンテンツをダウンロードする行為も違法であることを明確にしようという提案だ。具体的には、ファイル交換ソフトや違法サイトからのダウンロードを、私的複製について定めた著作権法第30条の適用範囲外とすることで、違法性を明示しようとしている。

 しかし、この“ダウンロード違法化”については、定義が不明確な点もあり、多くの問題が指摘されている。“ダウンロード違法化”に反対する団体「MIAU」も設立された。

 この“ダウンロード違法化”がインターネット利用者に与える影響について、私的録音録画小委員会の委員でもあるIT・音楽ジャーナリストの津田大介氏は、「短期間では表面化しないが、さまざまな“副作用”をもたらすことは間違いない」と警鐘を鳴らす。“ダウンロード違法化”に反対意見を表明している団体「MIAU」の設立メンバーの一人である津田氏に、“ダウンロード違法化”の問題点を伺った。


「YouTube」や「ニコニコ動画」も“ダウンロード違法化”の対象になる可能性

――“ダウンロード違法化”の問題点はどこにあるのでしょうか。

津田氏:端的に言えば、“ダウンロード違法化”によってもたらされるメリット、つまり著作権侵害対策という目的とその実効性に比べて、“ダウンロード違法化”がもたらす副作用によってもたらされるデメリットの方が大きくて、バランスが良くないんじゃないかということなんだと思います。

 中間報告では、違法サイトからのダウンロードには罰則が適用されないことが盛り込まれています。民事訴訟は可能ですが、そのためには権利者が違法ダウンロードを立証する必要があるため、実際の権利行使は困難でしょう。欧州では既に違法著作物のダウンロードが違法になっている国もありますが、ユーザーのダウンロード行為そのものを権利者が挙証して損害賠償請求にまで至ったケースはほとんどないようです。アップロードは別ですが。

 日本の場合「情を知って」という制限が付きますから、よりいっそう権利者の挙証は困難であると思います。また、現実問題としてISPが「プロバイダー責任制限法」を盾にしてユーザーの情報開示を行なわないケースもありますから。

 だから、ネット上では、「民事訴訟ががんがん行なわれてダウンロード厨房が懲らしめられる」と噂されることもありますが、それは誤解ですね。

 そういう意味では、法改正が認められても短いスパンではユーザーへの影響が表面化することは少ないとは僕も思っています。とはいえ、そもそも“ダウンロード違法化”を権利者がなぜ行ないたいのかといえば、ネット上の著作権侵害コンテンツや海賊版を取り締まることなんです。法改正を実施したのに効力が発揮されないとなれば、「情を知って」という条件を制限したり、刑事罰を適用したり、“ダウンロード違法化”で利用者保護のために設けられた制限を実効性の伴うものにしよう、という議論が出てくる可能性はありますよね。一から法律を作るより、既にある条文を書き換えた方が早いですから。


――中間報告では、動画共有サイトを含むストリーミング配信の視聴については、一般にダウンロードを伴わないので、“ダウンロード違法化”の検討の対象外としています。現在、「YouTube」や「ニコニコ動画」は「ストリーミング」扱いですが、今後解釈が変わる可能性はあるのでしょうか。

津田氏:“ダウンロード違法化”に関する中間報告の記述では、「ダウンロード」の定義があいまいな点も問題ではないでしょうか。例えば、YouTubeやニコニコ動画は、動画を再生する際や再生後にキャッシュフォルダにFLVファイルをHDDに保存していますよね。いわば“疑似ストリーミング”とも言えるわけで、YouTubeやニコニコ動画を視聴する行為も、解釈次第では「ダウンロード」とみなされ「違法」とされる恐れもあると思います。

 今回はとにかくファイル交換ソフトと、違法着うたのアップローダーを何とか規制したいという目的があって、ダウンロード違法化を目指しているのだと思います。でも、実際に権利者の人と話をしてみると、彼らはとにかくYouTubeやニコニコ動画にアップされる違法動画を何とかしたいと思っている人が多い。僕が権利者の立場だったら、法改正後はまっさきに「これは技術的に見てダウンロードでしょ」と訴えて、ダウンロード扱いにして違法化させようとしますよ。条文を変えるより、解釈を変更する方が簡単にできますしね。そういう意味でも影響する範囲は広範になっていくのではと思います。


写真やテキストまで、すべての著作物が対象に?

――音楽と映像以外の著作物にも“ダウンロード違法化”が適用されるという指摘もあります。

津田氏:既に著作権分科会では、コンピュータソフトウェア著作権協会(ACCS)の辻本憲三理事長が「すべての著作物を対象にすべき」と要望しています。音楽や映像以外の著作物を管理する権利者団体が、「自分たちのコンテンツも保護してくれ」と呼びかける可能性だってあります。

 特にこの秋から大手新聞社が独自のポータルサイトを作って、ネット化を進めているのは今後、米国の新聞社と同じような有料化モデルへの布石と見ることもできます。彼らにしても、記事という重要な自分たちの「コンテンツ」が無許諾でコピーされまくっている状況には何らかの対処を求めてくるのではないでしょうか。

 “ダウンロード違法化”の対象がテキストや写真まで拡大されれば、ニュース記事を転載したブログを印刷したり、ネットで拾った画像を掲載しているサイトの画像を右クリックで保存することも違法になります。また、はてなブックマークやはてなアンテナなど、他人のWebページの内容を一部表示させるようなサービスについても、「違法行為の幇助」と判断されかねない。

 そうなってしまうと、海外では当たり前のように存在しているサービスが、日本では「著作権的にグレーだから」という理由で提供されなくなる。ネットサービスの国際競争力を長い目で見ると、日本が面白いネットサービスを生み出すのは難しくなるでしょう。

 もちろん、コンテンツホルダーやクリエイターが苦心して作ったコンテンツにフリーライドするようなサービスが盛り上がればいいというわけじゃありません。そうではなく、米国ならば一般的にフェアユース(公正利用)の範囲内でOKとされるような、著作者にとってそこまで大きな損害を与えないと考えられるサービスで、新たなユーザーのニーズやビジネスモデルを模索していくときに、法的な保護水準をどこに置くかということが重要になってくる、という話です。

 このように、“ダウンロード違法化”は長い目で見ればさまざまな“副作用”をもたらすでしょう。1999年には、著作権法第30条の範囲を変更し、コピーガードを回避して行なう私的複製が違法となりました。著作権法は、これまでの改正例を見ても、後から肉付けされていくことが多いのです。

 “ダウンロード違法化”も同じように、後から厳しい条件が追加されるいくことは十分考えられます。著作者を守るための法制は必要です。しかし、同時に保護を厳しくし過ぎて、利用者が使いにくい状況を作ることが本当に正しいことなのか、権利者と利用者でもっと本音の議論を行い、最適な落としどころを探る努力をしていかなければならないんじゃないでしょうか。


“ダウンロード違法化”は私的録音録画小委員会で決めること?

――そもそも私的録音録画小委員会は、補償金制度の廃止も含めて、補償金の徴収方法や対象機器・媒体の範囲を抜本的に見直すことが目的だったはずです。どのような経緯で“ダウンロード違法化”が議論されるようになったのでしょうか。

津田氏:2006年4月に開催された第1回の小委員会では、私的録音録画に関する制度のあり方を抜本的に検討することを目的とすることが挙げられ、著作権課長(当時)の甲野正道氏が、第30条の問題に関しても議論してもらえればと言っています。

 こうした中、日本レコード協会の生野秀年氏が、違法録音録画物や違法サイトからの私的録音録画について、30条の範囲から外すことを要望しました。ファイル交換ソフトや違法着うたサイトからのダウンロード行為が、合法的な音楽配信ビジネスを阻害しているという主張でした。僕個人としては、突拍子もない意見という印象を持っていて、まさか通るはずがないと思っていたんですが、2007年の小委員会では、“ダウンロード違法化”を認める方針が資料に盛り込まれていました。

――2007年6月に開催された小委員会で生野氏は、ユーザーが違法配信を識別できるようにするため、「適法サイト」に対して適法であることを示す識別マークを表示させることを提案しています。

津田氏:権利者側が「適法サイトマーク」を発行するということは、逆に言えば、そのマークが付いていないインディーズの音楽配信サイトを閉め出すことにならないでしょうか。誰がどんな基準で、どのようなサイトに対してマークを付与するかについても明らかにされていません。

 これに対して日本レコード協会は、インディーズのレコード会社にも協力を呼びかけると言っていますが、マークを付けるための必要条件は不明です。マークを付けるために年間5,000円を徴収するとなった場合、「払いたくない」と拒絶するレコード会社が出てもおかしくありません。インディーズだけでなく、アーティストが直接ウェブを運営しているケースも多々ありますしね。

 海外のサイトはどうするんだという話もあります。例えば、洋楽ファンは、音楽コミュニティが特徴である米国のSNSサービス「MySpace.com」や、ほかにもたくさんあるさまざまな音楽系の合法サイトから音楽をダウンロードすることがありますが、このような海外サイトにマークを付けてもらうことは難しいでしょう。これらの事柄を考えると、わざわざ適法サイトマークを実施する意味はなく、むしろかえって利用者にも混乱が生じるだけのように思います。


“ダウンロード違法化”は「送信可能化権」があれば不要

――違法サイトからの私的録音録画について津田さんは、違法アップロードした人を取り締まる「送信可能化権」で対応すべきである訴えてきました。

津田氏:ダウンロードした人よりもアップロードした人を取り締まる方が、違法コンテンツ流通を防ぐために実効性が高いことは明らかです。最初のアップロードがなくなれば、ダウンロードする人もいなくなるわけですし。アップロードした人が悪いことは100%わかっているのだから、そこの摘発を強化していけばいい。

 その一方、“ダウンロード違法化”は、「よくわからずにダウンロードした」という人まで違法状態にしてしまうあいまいさが残ります。刑事罰も適用されないので、違法サイトからダウンロードしたユーザー全員に対して何らかのエンフォースメントをしていくことはできない。運次第で訴訟を起こされる人とそうでない人が出ざるを得ない。送信可能化権でアップロードしたユーザーを摘発した方が、社会的公正という意味でも理にかなっていると思います。

 ただし、送信可能化権で違法アップロードを摘発するにあたって問題があることも事実です。例えば、権利者側はプロバイダー責任制限法に基づいてISPにユーザーの情報開示請求を行なうのですが、ほとんどのISPは、警察の捜査令状がなければ、独自の判断で情報を開示することはありません。

 現行の「プロバイダー責任制限法」では、著作権侵害事例で権利者からISPに対してユーザーの情報開示請求があっても、まず本人に「権利者から開示請求来ているけど、開示してもいいか?」と尋ねて本人がOKしなければ開示されませんから、権利者は損害賠償請求を起こすこともできないわけです。

 もっともISPとしてもそういう「困った」ユーザーを抱えるのはリスクでしょうから、ISPの契約約款などに基づいてアカウントの凍結や退会措置などを行い、確信犯的なユーザーはほかのアカウント取っていたちごっこが続く……みたいな状況もありますよね。

 とはいえ、権利者には送信可能化権が与えられているのですから、現状で十分な対処ができないのであれば、プロバイダー責任制限法がきちんと機能するような法整備を行ったり、送信可能化権を強化することを検討すべきでじゃないでしょうか。違法アップロードした人が“やり逃げ”できない対策をとるほうが“ダウンロード違法化”よりも確実に実効性あります。


――“ダウンロード違法化”を主張する権利者側としては、「違法なものは違法」という論理があるのではないでしょうか。

津田氏:僕は“ダウンロード違法化”などに反対する団体「MIAU」の設立メンバーであることから、「無料で違法ダウンロードするユーザーの利益を代弁しているのでは」と言われることはあります。ただ、僕も含めてMIAUとしては、著作権侵害が行なわれている状況を放置していいとは考えていません。その対応策としては、“ダウンロード違法化”ではなく、送信可能化権を用いるべきというスタンスです。

 そもそも、権利者の目的は違法コンテンツの流通を阻止することですが、目的を達成するための最適なルートについて十分な議論がされないまま、“ダウンロード違法化”が決まってしまった感があります。私的録音録画小委員会のメンバーにも、ネットユーザーの意見を代弁する委員はほとんどいませんでしたし。

 法律は、一度決まると改正するのは難しい。これだけ影響範囲の大きな“ダウンロード違法化”が、ネットユーザー不在のまま決められるのは問題だと思います。少なくとも僕はこの問題については一度まっさらな状態にして、著作権者とネットユーザーが十分な議論をした上で落としどころを探る必要があると思っています。


パブリックコメントは「“ダウンロード違法化”反対」の声を届ける唯一のチャンス

――文化庁では11月15日まで、私的録音録画小委員会の中間報告に関するパブリックコメントを募集しています。

津田氏:中間報告でまとめられた“ダウンロード違法化”に関しては、ほとんどユーザー側の意見が反映されていません。パブリックコメントは、“ダウンロード違法化”に反対するユーザーの声を届けるための唯一のチャンスといえるでしょう。

 かつて、レコード輸入権に関するパブリックコメントでは、音楽業界をはじめとする権利者団体が動員をかけたことがありましたが、今回もそのようなことが予想されます。今回のパブリックコメントでは、“ダウンロード違法化”に賛成する権利者側の意見よりも、多くの反対意見が集まればと思っています。

 もちろん、パブリックコメントが大量に集まれば“ダウンロード違法化”がなくなるわけではありません。しかし反対意見が多ければ、国会に提出した際に、議員が“ダウンロード違法化”を可決することに二の足を踏む可能性もあります。また、今回の件などを通じてパブリックコメントへの関心が高まれば、今後はパブリックコメントの重みや位置づけも変わるかもしれない。「どうせ変わんないよ」と言って行動を起こさなければ、何も変わりません。

 MIAUのサイトでは、パブリックコメントの書き方のテンプレートを用意しています。もちろん、すべてのユーザーに“ダウンロード違法化”への反対意見を送ってほしいとは考えていませんが、僕らの考えに賛同する人は、テンプレートを参考にしてパブリックコメントを送ってもらえればと思います。


関連情報

URL
  「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会中間まとめ」に関する意見募集
  http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000283&OBJCD=100185&GROUP=
  「文化審議会著作権分科会私的録音録画小委員会中間整理」に関する意見募集
  http://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=Pcm1010&BID=185000284&OBJCD=100185&GROUP=
  MIAU
  http://miau.jp/

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( 増田 覚 )
2007/11/09 16:06

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