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中国の「愛国行動」をネットから分析する


反仏カルフールデモ
 チベット独立反対デモに、反仏カルフールデモ、さかのぼれば反日デモも日本人には印象深いところだが、オリンピックイヤーの現在、中国のデモに世界中から注目が集まっている。報道やネットの情報を総合すると、どうやら携帯電話のショートメールやインターネットの掲示板を通じて、不特定多数にデモを呼びかけているようだ。また、中国の掲示板の反応を報道する日本のニュース記事も登場している。

 現在の愛国運動にネットが一役買っているとして、どのような中国人が利用しているのか、コメントの信憑性はどの程度あるのかなどを、現在、そして過去の事例から考えていきたい。

 なお、以下では中国のネット事情をまったく知らない人にもこの記事を読んでわかっていただけるように書いている。筆者の連載を読んでいただいている読者の方には、説明がくどいと思われる部分もあるかもしれないが、ご了承いただきたい。

 4月26日の長野の聖火リレーの状況によっては、中国の掲示板が騒がしくなることも考えられる。そうした際に、この記事の内容が少しでもお役に立てたなら幸いである。


中国メディアで瞬時にニュースが広まるわけ

 中国に進出したフランスのスーパー、カルフールを主なターゲットとした反仏デモは4月24日現在、まだ終息するめどは見えない。中国最大の検索サイト「百度」のニュースを見ても、デモを終息させようとするニュースが目につく状況だ。ちなみに、百度のニュースはGoogleニュースと同様に、中国国内の多くのメディアの最新ニュースを紹介している。

 中国のWebニュースサイトのルールで、日本ともっとも違う点として挙げられるのが、“あるニュースサイトが掲載した最新ニュースを、他社のニュースサイトが許可なく全文コピーしてよい”というルールだ。ただし、それだけでは元記事を書いたメディアが浮かばれないということからか、近年になって「コピーしたメディアは、ニュースのオリジナルのメディア名を記載し、転載であることを明記する」ことが法律化された。

 つまり、ある記事が別の多数のメディアから面白いと思われれば、その記事がいつのまにか多数のメディアに転載されているという仕組みだ。中国では、上述のようにコピーしたら出典を記載することが法制化されるほど、それが当然のこととして認められているので、他メディアを見て客寄せができそうなニュースを収集し、コピーして自社メディアに記事として掲載するのも編集者の仕事のひとつなのだ。

 こうした事情から、客寄せできそうな事件や、今回の反仏カルフールデモを抑えようとする意向のある文章などは、瞬時に中国全土の多数のメディアに掲載される。百度ニュースのページで「X条相同新聞>>(X個のサイトに同じニュース)」という緑色のハイパーリンクが設けられているのはそのためである。時に数百ものメディアがまったく同じ文章で同じ記事を掲載する。


ニュース記事には必ず感想コメント欄が

ポータルサイト「新浪」で行なわれた「反カルフールをすべきか」のアンケート結果。90%近くが「すべき」と答えている
 また、もうひとつ中国Webニュースメディアの特徴として挙げられるのが、感想コメントが書き込める点だ。感想コメントは中国では「評論」と呼ばれる。まれに、「評論」コメントが意図的に付けられないようにした記事も見かけるが、基本的にはほとんどのWeb系メディアで、ひとつひとつのニュースに対して掲示板が用意され、「評論」ができるようになっている。たとえば、反仏カルフールデモを諌めようとする記事があれば、「筆者の言うことに賛成」や「諌めるなんて、それでも愛国者か!」といった賛否両論のコメントが感想コメントの掲示板に書き込まれるわけだ。

 同じニュースが多数のニュースメディアで掲載され、それぞれのニュース記事に感想コメントがある。おまけに個人のブログでも、日本のブログのようにニュースを評論するブロガーがいる。そうすると、中国のインターネット利用者の意見を調べてまとめることは、雲をつかむかのような話に思えるのだが、それが意外とそう難しくはないのだ。

 中国の老舗ポータルサイトは、人気順から新浪(Sina)、捜狐(SOHU)、網易(NetEase)があるが、感想コメントの書き込み順では、網易のニュースが圧倒的で、続いて新浪、捜狐となる。捜狐よりは、チャットソフトのポータルサイト「QQ」のニュースページのほうがコメントが多いので、QQにも注目する必要がある。

 つまり、中国のニュース記事に対する読者のコメントを読むには、「百度でニュース検索をする」「その原文のニュースから同一文章である網易や新浪やQQのニュースソースをクリックする」「各メディアのニュースページのコメントを読む」という手順で捜せば、結構な確率で多数の感想コメントが付いたニュースにたどり着くことができる。

 また、感想コメント以外にも、サイト利用者の意向を知る手段として、「投票」が挙げられる。例を挙げれば、今回の反仏カルフールデモに関しては「反カルフールをすべきか」という新浪の質問に全投票の9割弱におよぶ34万票が「すべき」と回答、一方「すべきでない」はわずか3万票だった。

 ただし、この投票機能はすべてのニュースに備わっているわけではなく、編集部が読者の意見を見るべきと思う一部のニュースにのみあるので、意図的に投票結果を捜すのは感想コメントを捜すのとは違って難しい。


書き込みをする人はどんな人?

 感想コメントを書き込む人の属性はどうだろうか。中国の人口13億人のうち、インターネット利用者は2007年末の時点で2億1,000万人である。

 2008年に入り、長きにわたりインターネット利用者数1位だった米国を上回ったというニュースが中国メディアから報じられた。その利用者のうち4分の3が「都市部の利用者」であり、また7割弱が「30歳以下」である。

 さらに、インターネット利用者が少ない農村部では、インターネットの利用目的はゲームやコンテンツ再生が多く、ニュースを都市部の利用者より見ないという傾向があることもわかっている。

 これらのことから、ニュースに反応する人の多くが「都市部の若者」であることが推測できる。


アンケート結果から見る愛国心と現実性

 また、オンラインユーザーの愛国行動に信憑性はあるのか。過去の中国と外国が絡む投票質問から分析してみよう。

 百度が日本に進出したことは中国で大きなニュースになった。そこで百度が日本で成功するか否かで読者投票が行なわれた。網易が先月行なった「1カ月以内に百度は日本4大検索サイトに入ることが信じられるか」という質問がそれだ。

 その結果、回答は「信じられる(72.4%)」が「信じられない(27.5%)」を大幅に上回った。同じく網易が今年1月に行なった「百度は日本で、ヤフーやグーグル並に成功するか?」という質問では「できる(80.0%)」が「できない(20.0%)」を大きく上回った。


「1ヶ月以内に百度は日本4大検索サイトに入るか」 「百度は日本でヤフー同様の成功を収めることができるか」

 網易が2007年1月に実施した「Blu-rayやHD DVDが中国市場に進出したら買う?」という質問に対しては、「中国国産(EVD)を支持する(61.7%)」という回答がもっとも多く、続いて「規格にこだわらず安いものを選ぶ(21.5%)」「DVDで十分(8.8%)」「日系の規格のほうが良いから日系を選ぶ(7.7%)」という結果になった。

 中国独自の光ディスク規格「EVD」(規格詳細についてはここでは本題から外れるので、詳しくは各自調べていただきたい)製品は、価格的にはBlu-rayやHD DVDよりも安いのだが、結果的には、現在もまったくといってよいほど売れていない。しかし、新浪の「EVDはBlu-rayに勝つか」という質問に対しては、6割強が「勝つ」と回答。3割強が回答した「無理」をダブルスコアで上回っている。


「中国独自規格EVDは、Blu-rayやHD DVDを駆逐するか」 「Blu-rayやHD DVDを買うか?」

 また、AMDが「Yamato」というモバイルPCプロジェクトを公開したときに、網易が「AMDが日本文化を示す名前のプラットフォームを発表したが、それでも同社製品を買うか?」という質問をし、大半が「買わない(78.8%)」と回答。「AMDの解釈により買うかどうか決定する(8.2%)」「関係ない。必要なら買う(7.5%)」「熟考する(5.3%)」という回答は少数派であった。

 しかし現実には、現在中国市場においてAMD製CPUはIntel製に迫る人気であることが各IT系サイトの調査で明らかになっている。


「AMDのコードネームが日本文化(Yamato)を暗に示している。それでもその製品を買うか?」

日本製品ボイコットを訴える反日デモ写真、実は……

 昔の話を蒸し返すようだが、反日デモの時に参加した中国人は、日本製品不買運動を訴えた。ところが、訴えた人々は日本製品を買っていないのかと言えば、これは中国の百度で「反日遊行」でイメージ検索を行なえば、すぐに確認することができる。

 検索結果から、反日デモの状況を伝える個人撮影の写真を多数見ることができるのだが、それら撮影画像のExif情報を確認してみると、実はその大多数が日本製デジカメによって撮影されたものであることがわかる。

 感想コメントについても、書かれている内容を素直に「中国人の総意」と信用してよいかは疑わしい。いったん国際問題で火がつけば、愛国を自称する人が集まり、コメントでその思いをぶつける。2ちゃんねるなどでもよく見られるが、こうした表現はエスカレートしがちだ。

 「冷静になれ」など、落ち着かせようとするコメントも稀にはある。しかし、そうしたコメント主はその場において「売国奴」扱いされ、書き込んだ人は袋叩きとなる。ネットの上とはいえ、誰も好きこのんで袋叩きの目に遭いたくはない。結果として、冷静になるよう呼びかける書き込み1つで袋叩きに遭う「触れるな危険!」な状況では、誰も止める人がいなくなってしまう。


中国のアルファブロガー「韓寒」氏の「カルフール不買運動は真の愛国ではない」という記事には4,909ものコメントが付いた

 今回の反仏カルフールに関する報道でも、時間が経過し「落ち着いた愛国行動を」という、落ち着かせたい人々には加勢となる記事が登場してくると、「記事を支持する。度の過ぎた行動は良くない」と、度の過ぎた愛国行動を諫めようとするコメントが増えてきた。こうしたことから、ある時点での掲示板の様子のみで、その事件の中国人の民意を判断するのは危険であるように思う。


百度中国新聞。カルフールに関する記事を多数見つけることができるがデモを終息させようとするニュースが目につく

掲示板の熱い書き込みが中国の民意とは限らない

 上に述べてきたことから、「中国を支持する!」という熱いデモや激しい言葉を使った掲示板のコメントなど、強いアピール行動をしている中国人がいる一方で、意外と現実的な判断を下している中国人の姿も見えてくるように思う。

 中国の掲示板の過激な表現だけで中国の民意を測ろうとするのは、かならずしもいい方法であるとは限らない。デジカメのExif情報を見るのが一例だが、言葉よりデータが雄弁に語る現実もある。表現に振り回される形で日中の掲示板での中傷合戦がエスカレートするのも状況により、一時的には仕方ないことかもしれないが、それが相手の本心か? という疑問をいつも頭のどこかに置いておくことが、事実を把握する助けになるかもしれないと思うのだ。



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URL
  日本AMD、モバイルPCプロジェクト「Yamato」(PC Watch)
  http://pc.watch.impress.co.jp/docs/2005/1215/amd.htm
  山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
  http://internet.watch.impress.co.jp/static/column/m_china/


( 山谷剛史 )
2008/04/25 11:12

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