前回は、子どもが受けるネット被害について実例を挙げた。今回は、引き続きインターネット協会の主任研究員である大久保貴世氏に、出会い系ではない一般コミュニティサイトで子どもたちが受けている被害を聞く。それに対して大人は具体的にどんなことができるのだろうか。フィルタリングサービスには加入すべきなのだろうか。
● 出会い系ではない一般コミュニティサイトで起きる被害
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インターネット協会・主任研究員の大久保貴世氏
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最近は、出会い系ではない良質なサービス、いわゆる「コミュニティサイト」での被害が増えているのだという。「サービス自体には全く問題ないし、出会い系でもなく楽しい良いサービスだと思います。しかし、悪い大人が、そのような本物の10代の女の子がいるコミュニティに狙いを定めて移ってきています。書き込みを見て、『この子だったらウブそうだし、優しい言葉をかけたら引っかかるかも』と判断して、誘いの言葉をかけてくるのです。子どもたちにはそれらのサービスが危険かもしれないという意識が全くないため、被害に遭ってしまうのです」。
例えば、10代の少女がユーザーの大半を占める人気のコミュニティサイトでは、会うことを目的とした書き込みは禁止されている。しかし、2006年10月に起きた小6女児誘拐事件で、逮捕された31歳の男と被害者が出会ったきっかけは同サイトだった。メール友達を募集をした長野県小諸市在住の女児を、男が「ドライブに行こう」と誘って自分の車に乗せ、連れ回したのだ。
2007年11月には青森県八戸市でホテル火災が起きた。遺体で発見された16歳の女子高生と一緒にいた30歳の男が殺人容疑で逮捕されたが、この2人が出会ったきっかけは、やはりサイト内での出会いは禁止されているはずの、10代に人気のゲームサイトだった。殺害された女子高生のものと見られる書き込みには、学校や家庭の悩みが書かれていたという。容疑者のものと見られる日記には、「あの娘(こ)はどこまで本気なのか」「つらい、さみしい、理性も破たんしそう」と書かれていた。
プロフでも問題は起きている。2007年6月、女子中学生らが男子中学生をリンチした事件が起きた。プロフに「学校に来るな」「ブス」と書き込みをしたことに腹を立てて、男子中学生2人にたばこの火を押しつけるなどの集団リンチを起こしたのだ。男子生徒は真面目で逃げる勇気がなかったという。不良集団と付き合いのある少女がクラスで威張り、授業を妨害するのが許せずに書き込んだために起こった事件だった。そのほかにも、「プロフに子どもが上半身裸の写真を掲載している」「荒らされた」「なりすましでプロフを作られた」というような相談が寄せられているそうだ。
「事件やトラブルの実態を紹介して危険を知ってもらわないといけないと感じています。それも、痛い失敗をした例を知ることで、反面教師とすることが大事だと思っています。」
● ネットいじめに遭った時にできること
ネットいじめに遭ったらどうするか? とれる方法はいくつかある。「まず、名前や住所、電話番号などの個人情報が書かれてしまった場合は、何とかして消しましょう。『バカ』『きもい』のようなたわいもない悪口を書かれた場合は、単なる落書きと思って、無視するのが一番です。しかし、『殺すぞ』のように犯罪めいているものの場合は、必ず警察に相談しましょう」。
掲示板などに問題がある書き込みがされた場合は、ダメ元で管理人に削除依頼を出すといい。実際に、とある中学校の副校長先生は、生徒の個人情報が書かれた掲示板に削除依頼を出して、翌日には削除してもらえたという。2007年4月には、大阪府警によって、学校裏サイト管理人が女子中学生の中傷の書き込みを放置したという名誉毀損幇助容疑で書類送検されている。問題ある書き込みに対して対処する掲示板などの管理人が増えており、強く依頼すれば削除してもらえる可能性が高い。
「たとえ変な書き込みをされても、発信者は追跡できます。インターネットは、ネットカフェのパソコンであっても携帯電話からであっても発信元を確かめることができます。ログはプロバイダーにも相手のWebサイトにも残されているので、諦めないことです。」
● フィルタリングを利用する効果は?
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インターネット協会のサイトにも、フィルタリングの認知を図るためのページを設けている
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フィルタリングには、さまざまな機能がある。例えば利用時間制限、アクセス履歴の取得、年齢に応じた設定変更、ブラックリスト登録、ホワイトリスト登録などのほかに、書き込みをさせない発信制限も可能なのだ。フィルタリングを利用することにより、これらの機能が子どもたちを守ることになる。
一方で、携帯のフィルタリングサービスはまだ機能や使い勝手が不十分な面もあるものの、インストールなどしなくてもキャリアに申し込むだけで無料で加入できるということを知らない保護者がまだまだ多すぎるという。
「申し込みも、ショップや電話、サイトからでもできるのです。パソコンの場合は有料ソフトが必要な場合も多いので、誤解をされているのかもしれませんね。フィルタリング自体はやっと認知されてきたので、もう少しだと思います。『フィルタリングを入れると、ゲームサイトなども見られなくなる』と聞くと、『それは困る』という保護者の方はたくさんいらっしゃいます。しかし、本人がネット行動に責任が持てるようになるまでは、大人が危険から守ってあげるべきだと思います。もし、フィルタリングをはずしたことで子どもが危険にさらされたら、それは親の責任だと自覚すべきです。」
● 悩んでいる子どもに対して大人ができること
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インターネットホットライン連絡協議会のサイトでも各種情報を参照できる
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では、もし子どもがネットでのトラブルで悩んでいたら、周囲の大人はどうすればいいのだろうか。「インターネットの専門家ではなくても大人ができることはたくさんあります」と大久保氏はアドバイスする。
「インターネットは大人の世界です。まだ責任能力や判断能力がないのに、いきなり大人の世界に入るようなものなので、子どもがトラブルに遭うのは当然なのです。もし子どもがトラブルに遭っていたら、いきなり叱るのはやめてください。『いきなりアクセスしてびっくりしたでしょう』などと言って、『間違っても気にしなくていいんだ』と安心させてあげてください。説教するのではなく、ただ話を聞いて共感してあげるだけで、子どもはほっとします。『そういうことはよくあるよ』と励ましてあげるだけで、半分以上は解決したも同じなのです。」
子どもに対して話す時には、自分の失敗談も織り交ぜて話すのが効果的だそうだ。そして、「本当に危険だということを実感してもらうために、脅かすべきところは脅かすべき」と大久保氏は言う。「これと言った正解がないのがインターネットです。使い方は、地道に訓練していくしかありません。怖いことがあるかもと意識して、注意事項を守りながら使えば、インターネットを楽しむことができるでしょう」。
フィルタリングに関しては、特に中学を卒業するまでは「子どものためにかけてほしい」と大久保氏は主張する。「子どもの自由を尊重したいという気持ちはわかります。しかし、子どもを自由奔放に育てることと、黙って見ていることは全く別と認識すべきだと思います。携帯電話で起きているトラブルの実態をもっと知ってください。そして、自分でも使ってみて、どの辺が危険なのかを実感してみてください。『お母さんも使ってみたいから、どんな掲示板がいいのか教えて』と、子どもの目線で話をするといいですね。それをきっかけにして、他人と上手にコミュニケーションをとる方法、言葉の持つ力、インターネット上の役立つ情報の選び方などを教えてあげていただきたいです」。
フィルタリングの機能はまだ整備しつつある段階であり、見たいサイトが見られないこともあるのが悩ましい問題だ。課題はあるが、大人は、子どもが被害に遭わないようにできることからしていくべきだと考える。フィルタリングをかけることは、少なくとも現時点では有効な方法の1つではないだろうか。一度真剣に検討してみてはいかがだろう。
関連情報
■URL
インターネット協会
http://www.iajapan.org/
インターネットと子どもに関するページ
http://www.iajapan.org/child/
フィルタリング、知っていますか
http://www.iajapan.org/filtering/
インターネットホットライン連絡協議会
http://www.iajapan.org/hotline/index.html
2008/04/11 13:25
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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