高校生の携帯電話利用の現状や保護者の認識は、実際のところどうなのか? そして、未成年者の携帯フィルタリング原則化や「青少年ネット規制法」に対する保護者らの考えは? 全国高等学校PTA連合会・会長の高橋正夫氏に話を聞く。
● 学校裏サイト、6~7年前は相談しても相手にされなかった
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全国高等学校PTA連合会・会長の高橋正夫氏
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高橋氏は「学校裏サイトは少なくとも7~8年前からありました。『先生が女子生徒を妊娠させた』など、ありもしないことが書かれていた」という。これは問題だと思った高橋氏らは6~7年前、PTAとしてあちこちに相談しに行った。ところが、「携帯電話会社に行っても『わかりません』、警察でも『わかりません』と言う。『我々が追いかけてもなくならないですよね』とか『海外経由では捕まえられない』とか言って、全く相手にしてくれませんでした。『文句を言う人間からは逃げろ』的な姿勢を感じました」。
事は企業や警察だけではない。学校も携帯電話の問題からは逃げていた。情報リテラシー教育云々以前に、かかわりたくないと野放し状態にしていたのだ。親も、買い与えただけで何もしなかった。大人たちが放置しているうちに、子どもたちはネットに飛び込んで行ったのだ。
当時からネット絡みで問題を抱えた青少年はいた。例えば、携帯電話が手放せない携帯依存症の子どもたちだ。携帯電話を持っていないと落ち着かない、鳴ったらすぐに起きてしまって眠れない、返事が遅いと仲間外れにされる……。一時、死まで考えた子もいたそうだ。その子にとっての社会は携帯電話になってしまっていたのだ。その後、食事中は携帯電話を強制的に食卓の真ん中に置かせるなどしながら対処していったという。
● 携帯電話は瞬く間に浸透
PTAはかつて、中学・高校で「携帯電話を持たせない運動」をしていた。しかし、4~5年前には親子の断絶が問題視されるようになり、「携帯電話を買ってあげることで親子で話すきっかけができた」という親が多く現れた。それまでは親子の会話が皆無だったため、メールでコミュニケーションできるようになったことを「子どもと話ができた」ととらえたのだ。
「子どもから親の眼が離れてしまっていたのでしょう。仕事を持つ親は『携帯電話があれば、いつでも子どもと連絡が取れる』と考えるようになりました。子どもの帰りが遅ければ昔は迎えに行っていたものですが、親は自分の自由な時間を確保するために、子どもが携帯電話を持つことを認めたのです」。
所持率が50%くらいの時には、そのように「子どもには持たせない」という動きがあったが、一般の保護者は子どもに買い与えており、試験でカンニングに使ったとか、授業中もメールをしているといった問題が出てきた。それが70%になると「学校には持ってこない」に変わった。学校は見たら取り上げると宣言していたが、持ち物検査はしない。いわば責任逃れの状態が続いた。所持率が98%になった今は、学校に所持許可願いを出し、規則を破ったら携帯を取り上げるといった対応になっている。
なお、最近の高校生について高橋氏は、すべての高校生が始終ネットをしているように言われているが、「実際は全員がネットを使っているわけではない」という。「ほとんどの子は、いい子です。ほんの一部の子が間違った使い方をしているだけで、若い子すべてがそうしていると思ったら大間違い」。
● 地方の親は何も知らない
「ネット企業が何を言っても、地方紙には何も載らないし、新聞やテレビも報道しません。地方の人たちは、いまだに何もわかっていないだろうし、緊張感もありません。私は大分県の高校のPTA代表ですが、地方の親は、学校裏サイトの存在を知っているかどうかという程度。実際に何人が見たことがあるかと言えば、全体の1%もないのではないでしょうか。PTAの役員ならば、1回覗いて、何が書かれているのか知ってもいいのではないかと思っています。」
高橋氏は、実際に学校裏サイトにアクセスしてみたことがある。「『うざい』『キモい』とひどいものです。なりすましがあるというのも聞いています。子どもに何が一番きつかったか聞くと、『なりすまし』と答えます。『友達を批判する書き込みは自分じゃない』と言っても、わかってもらえなかったのだという。こういうことも、親がまず理解をしないといけないと思っています。今しかないのです。10年たったら、もう必要ないものなのです」。
● 小中学生に携帯電話を持たせなくできるのか?
政府の教育再生懇談会で「小中学生には携帯電話を持たせない」と提言する動きがあったが、「高校生が対象から外されたのは、我々高校PTAが反対したからでしょうか」と高橋氏は笑う。「本当にできるならやってもいいでしょう。ただ、すでに持っているものを持たせないようにするのは難しい気がします。そもそも、携帯電話を持たせなくしたら、公衆電話を復活できるのでしょうか? そうできないのでは、全国の保護者を説得しきれません」。
世の中の風潮はネットを子どもたちから取り上げようとしているが、世の中がすべてデジタルに変わったら、いや応なしに使う必要が出てくる。「ネットは一生かけて使っていくものなので、ネットリテラシーは絶対に必要です。使い方が悪いと問題になるけれど、うまく使えば楽しいと教えてあげてほしい」。
● 「親の方がITに詳しい」と思う子どもたち
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「『デジタルメディア社会における子どもの健全育成』高校生及び保護者のデジタルメディアに対する意識と実態」の調査結果を掲載した報告書
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全国高等学校PTA連合会では2007年に、全国9地区・36校の高校2年生3881人と、保護者2601人を対象に、「『デジタルメディア社会における子どもの健全育成』高校生及び保護者のデジタルメディアに対する意識と実態」という調査を行った。
携帯電話の用途について、子どもたちは「メール」という回答が男女ともに80%以上、「ウェブ」が約60%となっている。一方、保護者が考える子どもの携帯電話の用途では、「ウェブ」と考えるのは男女ともに約5%しかいない。また、保護者が考えるほど(男性72%、女性62%)、高校生は携帯電話での会話はしていない(男子36%、女子37%)。子どもの携帯電話利用について、親がほとんど理解していないことがうかがえる。
「子どもと保護者でどちらがIT知識があると思うか」という旨の質問では、高校生が「自分」と答えた割合は男子38.6%、女子30%、「保護者」と答えた割合は男子31.7%、女子39.8%となっている。一方、保護者が「自分」と答えた割合は男性47.4%、女性8.7%に対し、「子ども」と答えた割合は男性33.9%、女性72.8%。子どもでは親の方が詳しいと思う割合が3割ほどあるのに対し、保護者、特に母親の場合は、自分の方が詳しいと思っている割合は1割を切っている。子どもが思うほど、大人はITを理解できていないという実状がよくわかる結果と言えよう。
メディアリテラシー教育を受けた経験については、高校生では「ある」とした男子が27.3%、女子が43.8%に過ぎないし、保護者に至っては「ある」は男性が18.2%、女性は12.5%でしかない。つまり、高校生のメディアリテラシー教育が不十分だからといって、保護者に子どもを教育できるだけの知識があるとは考えにくいのだ。
次回の後編では、未成年者の携帯フィルタリングが原則義務化されたことや、青少年ネット規制法について意見を聞く。
関連情報
■URL
全国高等学校PTA連合会
http://www.zenkoupren.org/
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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