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10代のネット利用を追う |
「子どもたちのインターネット利用について考えるシンポジウム」開催 <後編>
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9月30日に開催された「子どもたちのインターネット利用について考えるシンポジウム」の後半は、パネルディスカッションが行われた。
パネリストは、衆議院議員の玄葉光一郎氏(民主党)と葉梨康弘氏(自由民主党)、全国高等学校PTA連合会会長の高橋正夫氏、お茶の水女子大学教授の坂元章氏、群馬大学特任教授の下田博次氏、品川女子学院校長の漆紫穂子氏、ヤフーCCO兼法務本部長の別所直哉氏、マイクロソフト最高技術責任者補佐の楠正憲氏。コーディネーターは、フリーキャスターの宮田佳代子氏が行った。
● 法整備したい議員と、振り回された業界
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衆議院議員の玄葉光一郎氏(民主党)
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マイクロソフト最高技術責任者補佐の楠正憲氏
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2007年に「青少年問題に関する特別委員会」の委員長に就任した玄葉氏は、“青少年ネット規制法”の成立について、「最終的に自民党と民主党で見解が分かれたのが、有害情報とは何かを誰が判断するかということ。より強い国の関与を求める自民党と、民間の自主的取り組みを求める民主党とで意見が分かれたが、最終的には民間の自主的取り組みを後押しする法案にした」と説明した。また、「民間の取り組みで解決しなければ、今後国が関与せざるを得なくなる可能性もある。そのような必要がないよう、民間の主体的な取り組みで解決してほしいと願っている」とした。
それに対して葉梨氏は、法案成立までの迷走の理由を「高市早苗議員らを中心に、自民党の中の議論は最初、理念的に流れすぎてしまった。いくら子どものために悪いものは排除すべきと言っても、実効性がないとダメ。フィルタリングソフトは万能ではなく、これからの技術開発をしなければならないので、性能が上がることを前提にものを言うのはどうか」と、自民党内部でも意見が分かれたことを明かした。また、「規制と言っても子どもは発達段階によって違うし、ネットから完全に子どもを排除するのは国際競争力の面でいいのかどうか。そこで第1段階として、民間の努力の後押しをし、フィルタリングやレーティングをして、それでダメだったら段階を経て変えようと考えている」と今後について考えを述べた。
それに対して楠氏は、「まず、いきなり規制となったのは時期尚早と感じた。フィルタリングに関する過剰な期待があり、フィルタリングではじく対象に“ネットいじめ”も入れられていたが、実際は難しい。ネットいじめを防ぐには、フィルタリングよりもペアレンタルコントロールの方がいいだろう。ただ、今まで競争していた事業者が、規制や子どもの安全利用に関して協力できたのは良かった」と、一連の法案設立に関連した動きに対する意見を述べた。
● ネットは、速い、広い、消えないのが問題
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品川女子学院校長の漆紫穂子氏
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漆氏は学校側として感じている危険として、「学校で一番心配なのは、コミュニケーション系の書き込みのできるSNS、プロフ、学校裏サイトなど」と説明する。その危険性として具体的に、「SNSでは、大人の男性が同年代になりすまして子どもとコミュニケーションをとっていたこともあるし、ユーザーを18歳以上に限定しているサイトでも実際は簡単に入れてしまう。また、プロフでは子どもが気軽に個人情報を上げてしまい、全世界に発信して自分を危険にさらしていることがわかっていない」と述べた。
また、ネットの怖さについて「ネットは、速い、広い、消えないのが問題。授業中のいたずら書きのつもりで気軽に書いたことが、短時間で広範囲に広まってしまい、しかも消すことができない」と表現。「被害者になる危険と同様に加害者になる危険もある。現場で消したいと思っても、法整備が遅れていてできないことがある。フィルタリングは危険が起きる前のものだが、起きた後に被害者を守る法律も整備してもらいたい。それまでは学校と親で協力して守っていくしかない」と、法整備の必要性を訴えた。
● ペアレンタルコントロールが大事
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群馬大学特任教授の下田博次氏
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シンポジウムで基調講演も行った下田氏は、「ペアレンタルコントロールのプログラムを充実させる必要がある。保護者向け啓発プログラムを開発しなければならない。保護者に理解を促し、危機感を持ってもらうのが大事。アメリカで言う“ネットマム”のような、ネットのことに詳しく相談に乗ってくれる存在を作るべき」とした。
高橋氏は、「フィルタリングは万能と思っているのが保護者。ネットを使いこなしているのはほんの一部。ここ1年でネット規制の話が出てきたが、保護者が何も理解していないことがわかったため、まず勉強会をやろうと考えている。学校の保護者がまとまって話を聞くのでなければ、数人が話を聞くだけでは現状は変わらない。そのためには何をする必要があるのか検証している」と親の現状を説明した。
坂元氏はそれを受けて、「保護者の役割は最も大事だし、啓発は大切。そこで、まずインターネット利用リスクについての教育者・保護者向けモデル教材を作り、各地で講演会を開く。意識の高い保護者とそうでない保護者がおり、意識が高くない保護者を啓発するのは難しいが、工夫と努力をして少しでも乗り越えていくよう活動する必要がある」とした。
別所氏はそれに加えて、「9つのブロックごとに講演会をやり、それを皮切りにできることをやっていきたい。教材はまだまだご意見をもらいたいレベルであり、保護者の視点から教えてもらいたいことは多い。講演をするよりも、講演を通じて教えてもらいたい面もある」とした。さらに「リスク教育として、問題の順番から教えていく。最初は双方向のコミュニケーションから起きる問題から取りかかっていく」と述べた。
● 大切なのは人、愛情
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全国高等学校PTA連合会会長の高橋正夫氏
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下田氏は「コンピュータフィルタリングは過信してはいけない。人間フィルタリングがいい」と注意を促す。「大切なのは愛情。携帯電話は連絡がとれるから便利というだけではなく、子どもが危険なことをしているのではないかと心配する愛情の力が大事。ネットマムも大事だし、親がPTAに伝染させる力が大切。最後は人」とした。
それに対して高橋氏は、「親が知らないうちにフィルタリングがかかって、いろいろなものが使えなくなるということを一番心配していた。未成年の新規契約者は原則加入化というのも、保護者が知らないうちに携帯会社が始めた。またそういうことがあったら困るので、今回は勉強しましょうということになった」と保護者が一連の騒動に振り回されたことを打ち明けた。「教材を提供していただき感謝している。講演会も9ブロックでやってもらえるというが、自分の地域でもやってほしいという意識の高いPTA会長は多い。各地で指導できる人を育ててくれるなら、1カ所での講習でもいいと考えている。今後、小・中学校のPTAにも働きかける」とした。
● ネットカウンセラーも必要
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衆議院議員の葉梨康弘氏(自由民主党)
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葉梨氏は、「民間の取り組みはどんどんやってほしいが、公的な取り組みも大事。ある程度規制のパッケージはできているが、うまく使うためには民間とあいまって公的な規制も必要。不登校の問題やいじめの問題が起きた時にスクールカウンセラーを置いているが、ネットで問題が起きた時にも同様に、相談に乗ってくれるカウンセラーが必要なのでは」と取り組みのアイデアを出した。
玄葉氏は、「フィルタリングは万能ではなく、それでは“学校裏サイト”などは解決しない。ネット教育やリテラシーが必要となる。法律はフィルタリングを義務付けるだけではなく、サーバー管理者の違法情報に関する閲覧防止措置の努力義務、家庭教育・学校教育に必要な施策を施し促すようにした」と政府の取り組みを説明した。
下田氏は、「ネットリテラシーについて伝えていきたいが、高校は諦めてしまい人が集まらない。一方、中学校は5年ほど前からよく出てくるようになってきたし、小学校も意識は高まっている。しかし、学ぼうという意識のある親は依然少ない。入学してからでは遅いため、最近は入学説明会で説明している」と、保護者の意識の低さに苦言を呈した。
● 利用リスク評価モデルの活用を目指す
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ヤフーCCO兼法務本部長の別所直哉氏
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坂元氏は利用リスク評価モデルについて、「保護者がサイトのリスクを評価する際の助けとしたり、サイト運営者がサイトをチェックする際に使うことを期待している。その他に、第三者機関がフィルタリング対象に入れるかどうかを判断したり、出稿者が広告を出す先として適正かどうかを判断する材料となればいいと考えている。今後活用してもらい、フィードバックをもらって、より良いものにしていきたい」とした。
別所氏はさらに、「使ってもらえる評価モデルを出したい。利用する側が評価すべきだし、その評価が世の中に通用していく。客観的な誰かが評価してくれて安心というわけではない。1つのモデルを提供しているだけなので違うものもあるかもしれないが、利用してもらえるよう目指していきたい」と抱負を語った。
● ネットのメリットは奪わない
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お茶の水女子大学教授の坂元章氏
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坂元氏は、「子どもはネットでダメージを受けることもあるが、救われることもある。いくら危険があると言っても、ネットにあるメリットまで病原菌のように奪っていいものではない。規制は最後の手段で、一般的には技術的取り組みや教育的取り組みが大事。子どもがネットを適切に使えるよう環境を整えたり、教育する必要がある。フィルタリング技術が向上すれば、ネットのメリットはあまり損なわれずに済むだろう」と、短絡的にネットを規制することがないよう強調した。
さらに坂元氏は、「いったん規制がかかればネットのメリットがなくなる上に、行政に任せておけばいいと思考停止になってしまう。無防備な保護者や子どもを守るためにさらに規制が強くなり、さらに無防備な保護者や子どもが生まれることになる。そうならないためには、不信感が取り除かれることが必要。そうした要請に応えられるよう研究会も努力していきたい」とまとめた。
最後に高橋氏は、「来年早々に、未成年の携帯電話既存契約者にもフィルタリングがかかるが、まだどういうものか見えていない。きちんと発達段階ごとに分けたフィルタリングになっているのか。中身が見えないので、見えた段階で反応していきたい」と保護者の不安を訴えた。そして、「ネット関係の人たちに力を借りたい。行政には、保護者のための勉強会の場所を無料で開放してほしい。子どもの問題はごく一部の人間ががんばっても意味がないので、官民が力を合わせていく必要がある」と強調した。
関連情報
■URL
子どもたちのインターネット利用について考える研究会
http://www.child-safenet.jp/
■関連記事
・ 「子どもたちのインターネット利用について考えるシンポジウム」開催 <前編>(2008/10/02)
・ ヤフーとネットスター、子供の成長に応じたネット利用を考える研究会(2008/04/24)
・ ヤフーとネットスター、中高生の保護者向けネット教材を無償公開(2008/09/30)
2008/10/03 13:52
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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