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第104回:GPS搭載スノーゴーグル「Recon-Zeal Transcend GPS」装着レポート


 今やGPSはさまざまな機器に搭載されているが、そんな中でも特にユニークな製品が登場した。ゴーグルの有名ブランド「Zeal」が発売したGPS搭載スノーゴーグル「Recon-Zeal Transcend GPS」だ。ゴーグルのフレームに小型ディスプレイを搭載し、雪山で速度や移動距離を見たり、軌跡ログを記録したりできるこの製品、果たしてどのような使い心地なのだろうか。実際に製品を借りてゲレンデで使ってみたので、そのレポートをお送りしよう。

Recon-Zeal Transcend GPS 定評ある高機能レンズを搭載

内蔵ディスプレイに滑走データを表示

 Transcend GPSは、Zeal Optics社とRecon Instruments社が提携して開発したスノーゴーグルで、日本ではアウトドア用品メーカーの株式会社キャラバンが代理店となって販売している。Zeal Optics社のゴーグルは幅広いスキーヤーやスノーボーダーに人気で、高性能で見やすい偏光レンズには定評がある。Transcend GPSはそのような品質の高いゴーグルにGPSを搭載するとともに、小型液晶ディスプレイを内蔵したものだ。

 GPSと言ってもカーナビのように地図が表示されているわけではないし、ナビゲーション機能も持たないが、速度や経過時間、移動距離などのデータを、自動車のスピードメーターや自転車のサイクルコンピューターのように、視線を少しずらすだけですぐに見られるというのは魅力である。ランニング用の腕時計型GPSでは見るときにいちいち腕を上げなければならないし、単体のGPSロガーを使うにしても、ポケットから取り出すのは面倒だからだ。

 もちろんGPSロガーのように自分が滑った軌跡の記録も可能だ。軌跡ログをPCに転送すれば、どのようなコースを通り、どのようなシュプールを描いて山を降りてきたのかをあとで確認できる。また、GPSのほかに気圧センサーや気温センサーも内蔵しており、さまざまなデータの記録と閲覧が可能だ。価格は調光レンズを搭載した上位グレードの「SPPX」が5万2500円、調光機能を持たない「SPX」が4万2000円とかなり高価だが、このような商品はおそらく世界初と思われるだけに注目だ。

内側から見たところ フレーム下部に搭載された小型ディスプレイ
ディスプレイ上に各種データを表示 PC上で軌跡ログを表示

フレーム右側に搭載された3つのボタンでGPSを操作

 今回借りたのは上位グレードのSPPXだが、レンズ以外の機能はSPPXもSPXも変わらない。実物を手に取るとサイズはけっこう大きめで、フレームの厚みもある。説明書を見ると重さは257gとなっているが、装着感が優れているせいかそれほど重くは感じない。液晶ディスプレイはゴーグルをかけた状態で右眼の下あたりに位置しており、ゴーグルをかけて視線を下に移せばすぐに映像を見られる。ただしディスプレイのサイズが小さく、奥まった位置にあるために、そこに映し出される映像をカメラなどで撮るのは難しい。今回のレビューでもいろいろ試してみたが、今ひとつうまく撮れないので、主にマニュアルに掲載されている画像を引用している。

 バッテリーはリチウムイオン充電池で、稼働時間は公称で7時間。GPSの操作ボタンはフレーム右側の表側に配置されており、選択ボタン・上ボタン・下ボタンの3つが付いている。ボタンのサイズはそれほど小さいわけではないが、手にスキーグローブをはめた状態で押そうとすると少しやりづらく、ゲレンデで実際に使ったときは、結局グローブを一時的に脱いで操作することが多かった。

 フレームの右側にはUSBコネクターがあり、防水のためゴムキャップのカバーに覆われている。ちなみにキャラバン社の説明によると、ゴーグルには撥水加工が施されているものの、本体を水に浸けることは不可だという。PCとデータ交換するときや充電するときはこのUSBコネクターにケーブルを接続する。最初に接続したときは機器が認識されなくて困ったが、原因はゴーグルの電源を切ったまま接続したことが判明した。PCにつないでも電源は自動的にオンにはならないので、あらかじめ電源を入れた状態で接続する必要がある。

横から見ると厚みがかなりある フレーム右側の操作ボタン
電源を入れるとボタンのマークが光る ボタンの裏側にあるUSBコネクター

 同梱品は本体のほか、USBケーブルとACアダプター、コンセント変換プラグ、さらに大型のハードケースとゴーグルの収納袋が付属。ゴーグルを収納するためのハードケースにもACアダプターを収納するスペースが用意されていたりと、細かい配慮がなされている。

ACアダプターとUSBケーブル、コンセント変換プラグ しっかりとした作りのハードケース
ケースの中にケーブルの収納スペースも用意

切りのいい高度や最高速の記録時にアラートを表示

 使用するときは、まずフレーム右側の選択ボタンを押して電源を入れると、起動画面のあとにメイン画面が表示される。メイン画面の上部にはGPS信号の強度を示すインジケーターや時刻表示、バッテリー残量などの各種情報が並ぶ。

 GPSが測位可能になるまでの時間は、都心でコールドスタート(衛星軌道情報を持たない状態での起動)させた場合、約7分間かかった。単体のGPSロガーに比べると少々時間がかかる印象だ。ただしウォームスタート(衛星軌道情報を持った状態での起動)はそれほど待つことはない。スキー場など開けた場所でウォームスタートさせた限りでは、電源を入れてからスキーを履いて準備している間にすぐ測位可能な状態となり、ストレスはほとんど感じなかった。

 衛星を捕捉すると軌跡ログの記録が自動的に開始される。ディスプレイには速度表示とストップウォッチに加えて、現在高度、積算高度、積算移動距離、現在の温度のいずれかを表示できる。高度表示または緯度・経度および気温表示に絞って表示させることも可能だ。距離はメートルとフィート、速度はキロメートルとマイル、温度は摂氏と華氏の表示を選べる。また、起動時にはGPSで測定した高度と、内蔵の気圧センサーによって測定した高度とのマッチングによるキャリブレーションも自動的に行われる。

 現在高度や積算高度を表示させている場合は、500メートルまたは1500フィートごとにポップアップでアラート表示する機能が搭載されている。また、速度についても最高速を記録した場合はアラート表示が出る。ストップウォッチで記録した経過時間はメモリーに保存されて、あとで確認し直すことが可能だ。最速ラップを記録したときなど、特別な記録には「FLAG」という目印を付けられるのでPCにデータを転送したあとでも見分けやすい。

速度表示の横は積算高度や移動距離などさまざまな表示に切り替えられる
GPS信号の強度やバッテリー残量、速度など多彩な情報を表示 切りのいい高度でアラート表示

ディスプレイの表示内容は豊富だが、見ながらの滑走は危険

 記録した滑走データはディスプレイ上で見返すことも可能で、ストップウォッチの測定時間のリストを一覧表示できる。さらにディスプレイを「Last Run Stats Screen」にすると平均速度や最高速度、積算高度、移動距離などを確認できるほか、ストップウォッチの最長記録および最短記録を確認できる「Performance Stats Screen」、高度や距離を詳しく確認できる「Elevation Stats Screen」、緯度・経度や気温のデータがわかる「Mountain Statistics」などの表示モードも搭載している。

ストップウォッチの記録一覧
Last Run Stats Screen Performance Stats Screen
Elevation Stats Screen Mountain Statistics

 軌跡ログの記録については、何秒おき(何メートルおき)に記録するのかを細かく設定することができず、この点については単体のGPSロガーに比べると機能的に劣るので少々残念だ。ちなみに軌跡ログは約50時間分まで保存できるとのことだ。

 このようにディスプレイには多彩な情報を表示させることが可能だが、実際に付けてスキーで滑ってみると、滑走中はディスプレイをなかなかじっくり見ることはできない。目のすぐ下にディスプレイがあるとはいえ、情報を確認するためには視線を移動させる必要があり、それなりの速さで滑っているときは怖いし、周囲の安全のためにも高速滑走中によそ見をするのは慎むべきだろう。

 ただしリフトに乗っているときなどは思う存分いじれるので、こうした合間を使って滑走記録を見るのは楽しい。欲を言えば漫画「ドラゴンボール」に出てくる“スカウター”のようにレンズ上にデータが透過表示されれば便利だが、それはそれで気が散って安全上で問題が生じるかもしれないので、現在のディスプレイ位置が妥当な気もする。この手の製品はまだ登場して間もないので、どのようなスタイルがいいのかは今後の進化の中で答が出るだろう。

リフト搭乗部分を省いて滑走部分のログだけを抽出して表示

 記録したログをPCに転送するには、まずRecon Instruments社のウェブサイトからダウンロードできる無料ソフト「Recon HQ」をインストールする必要がある。このソフトはGoogle Maps APIを使用したソフトで、Transcend GPSから転送したログをGoogle Maps上で確認できる。Windows 7/Vista/XP(SP2以降)とMac OS X 10.6以降に対応している。

 驚いたのは、記録した軌跡ログの中から滑走した部分だけを抽出する機能を搭載していること。キャラバン社によると、滑走時とリフト搭乗時の高低差で区別しているそうで、例えばリフト降り場付近を見ると、降りる直前あたりからログが抽出されている。

 この機能により、リフトに乗っている区間が省かれて見やすくなり、滑走ごとに軌跡を分けて閲覧できるので、同じ斜面を何回滑っても重なり合って見づらくなるようなことがない。これは普通のGPSロガー用ソフトにはない機能であり、この製品ならではのユニークな点と言える。

 もちろん滑走ごとの速度や高度などの細かい記録もすべてチェックできる。ログ上の目印をマウスで動かすと、それに連動して各地点のデータがわかるので、どの地点で速度がどれくらい出ていたのかも確認できる。地図の下にはログの内容を時系列でバー表示しているので、行程の全容を見渡せる。

「Recon HQ」で全体の軌跡を表示
滑走部分だけが抽出されたログ
リフト間の連絡コースの滑走ログも抽出
山頂から一気に滑り降りたときの軌跡
ログ上の目印に連動して地図右のデータや下部のバーの表示が切り替わる

 これらのログは、Recon Instruments社が運営しているコミュニティサイト「HQ ONLINE」に投稿することも可能だ。世界各国からさまざまな滑走記録のログが投稿されており、世界地図の中から探せる。また、転送したログはkmlファイルの形で出力もできるので、Google Earth上でも閲覧できる。

「HQ ONLINE」に投稿したデータ
世界中からさまざまなログが投稿されている

フィールドでのGPS精度は十分

 それでは実際に滑って記録したログを見てみよう。今回はTranscend GPSを装着してゲレンデで滑走すると同時に、GPSロガー「HOLUX M-241」でもログを記録し、両機を比較してみた。

 Google Earth上の黄色の線がTranscend GPS、赤色の線がM-241となっている。なお、M-241の添付ソフトには滑走部分だけを抽出する機能がないため、リフトに乗っている部分も軌跡が残っている。

全体の軌跡
山頂部分
中腹の林間コース
山麓付近
街中での精度はいまひとつ

 見比べると、Transcend GPSの軌跡は林間コースの一部で森林帯に入り込んでしまうような部分も見られたが、M-241よりも正確さで上回っている部分も随所に見られた。街中では単体GPSロガーに比べると性能が劣るが、フィールドにおいては十分な性能だと思う。ゴーグルというアイテムの性格上、上部に遮るものがない顔の位置にGPSアンテナを固定できるという点も、精度の良いログを取れた一因かもしれない。ちなみにキャラバン社に確認したところ、GPSアンテナはフレーム右側のボタンの下の位置に内蔵されているという。

 最後に価格について考えてみよう。ZealでGPS非搭載のゴーグルは安いところだと実売1万円台前半で買えるが、それに比べるとどうしても高い。GPSというほかのメーカーにはない機能を持った製品だということを考えても、もう少し安価なモデルの登場が望まれる。なお、今期の販売は少量のため日本語版のマニュアルは添付されておらず、Zealのウェブサイトから英文マニュアルをダウンロードする必要があるが、今後は添付する予定もあるそうだ。

 機能的には、地点登録を可能して、登録した地点間の速度を記録して競技スキーのタイムアタックを可能にする機能や、登録した地点までの距離や方角を表示する簡易ナビゲーション機能などが搭載されると便利だと思う。

 また、米国で1月に開催された「2011 International CES」では、ナビゲーション機能なども統合した次世代技術も発表されている。Bluetoothに対応し、ワイヤレスでスマートフォンやビデオカメラと連携したり、Androidアプリをゴーグルに追加できるようになるらしく、このような方面での進化も予想される。まだ登場したばかりで未成熟な部分もあるが、スキーやスノーボードの楽しさを広げる新しいジャンルの製品として今後の展開に期待したい。




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2011/2/17 06:00


片岡 義明
 地図に関することならインターネットの地図サイトから紙メディア、カーナビ、ハンディGPS、地球儀まで、どんなジャンルにも首を突っ込む無類の地図好きライター。地図とコンパスとGPSを片手に街や山を徘徊する日々を送る一方で、地図関連の最新情報の収集にも余念がない。書籍「パソ鉄の旅−デジタル地図に残す自分だけの鉄道記−」がインプレスジャパンから発売中。