趣味のインターネット地図ウォッチ

第184回

3Dプリンターを購入、「地理院地図3D」で立体地図を出力する日々

3Dプリンターで出力した槍ヶ岳

 日本全国の地図から好きなエリアを選んで立体地図データを作成できるサイト「地理院地図3D」が公開された。このサイトの特徴は、ウェブブラウザー上で読み込めるWebGL用ファイルだけでなく、3Dプリンター用のSTLファイルおよびVRMLファイルもダウンロードできる点だ。これらのデータを利用すれば、出力ショップや自宅の3Dプリンターを使って、そのまま立体地図を作成することが可能となる。地図や地形が好きな人には注目のサービスと言えるだろう。

「地理院地図3D」トップページ

 地理院地図3Dで出力したファイルを実際に出力する方法には、大きく分けて2つある。1つは3Dプリンターの出力サービスにデータを持ち込んで出力を依頼する方法。出力サービスは、最近はDMMなど新たな業種が参入しており、インターネットから申し込めるサービスもある。料金は大きさやプリント品質によって数千円〜数万円と幅広い。立体地図の場合、つい大きいサイズで出力したくなるため、料金が高くなりがちなのが悩みどころである。

 もう1つの方法は、自分で3Dプリンターを購入してしまうことだ。これなら材料費と電気代だけで作れるので、多く作れば作るほど、出力サービスに頼むよりも低コストで運用できる。最近は10万円を切る低価格プリンターも続々と登場しており、個人でも買いやすくなってきた。家電量販店などでも扱うようになっており、一般ユーザーが購入する上でのハードルはどんどん下がってきている。

オートキャリブレーション機能を搭載した低価格3Dプリンター「ダヴィンチ」

 今回はこのような低価格3Dプリンターの1つである「ダヴィンチ1.0」(XYZプリンティングジャパン株式会社)を使って、実際に地理院地図3Dからデータをダウンロードして出力するまでの流れを紹介したい。ダヴィンチは6万9800円(税込)という価格を実現した3Dプリンターで、フィラメントと呼ばれる細い糸状の材料を熱で溶かして積層する「熱溶解積層法」を採用している。出力最大サイズは20×20×20cm(幅×奥行×高さ)で、積層ピッチ(造形を積み重ねていくピッチ)は0.1〜0.4mmから選択可能。

XYZプリンティングジャパンの公式サイト

 特徴は、温度変化や風などの影響を抑えるためのハウジングと、オートキャリブレーション機能の搭載だ。3Dプリンターは使用にあたって、ノズルとプラットフォーム(造形物を配置する可動式の底板)との間の距離を調整しなければならないものが多いが、ダヴィンチはこれを自動的に調整するため、キャリブレーションの経験が無い初心者でも簡単に扱える。

 フィラメントもカートリッジ式になっているので取り付けは簡単だ。ただし、このカートリッジが災いして、パッケージを開けたらフィラメントが奥に引っ込んだ状態になっているものもあった。サポートに電話したらすぐに交換品を送ってもらえたが、カートリッジは開け閉めできないため、今後もこのようなトラブルが起きる可能性がある。

 フィラメントの素材はABSで、全12色が用意される予定だが、現在発売されているのはホワイト、ブルー、ブラック、レッド、イエロー、グリーンの6色。色は2色以上を混ぜて使うことはできず、造形物は単色となる。地理院地図3Dの3Dプリンター用ファイルの出力形式は、単色用のSTLファイルと、フルカラー出力用のVRMLファイルの2種類から選べるが、ダヴィンチではSTLファイルを使うことになる。なお、カートリッジ(600g、250m)の価格は各色3280円(税込)。汎用のフィラメントは安いものだと1kgが3000円以下で買えるので、それに比べると割高だ。ダヴィンチの購入を検討する際は、ほかの3Dプリンターに比べて材料費がかかることを踏まえて判断してほしい。

ダヴィンチ1.0
フィラメントのカートリッジ
カートリッジをセット

「地理院地図3D」では、高さ方向の倍率を自由に調整可能

 パッケージを開けて本体を設置したら、フィラメントカートリッジをセットしてローディングを行うだけで準備は完了する。説明図が少々分かりにくく、フィラメントをプリントヘッドに差し込んで固定する仕方が最初は分からなかったが、しばらく試行錯誤するうちに装着できた。フィラメントを装着したらボタン操作でローディングを行うと、プリントヘッドが加熱されてフィラメントがロードされる。エクストルーダー(フィラメントを溶かして送り出す装置)は200度付近まで温度が上昇するので、取り扱いには注意が必要だ。

フィラメントを引き出してガイドチューブに通す
エクストルーダーにセットしてローディングを行う
液晶表示は日本語で分かりやすい

 ダヴィンチをPCにUSBで接続し、添付のCDでドライバーやソフトウェアをインストールすれば準備は完了。ここから実際に3Dプリンティングを完了するまでの流れは以下の通りとなる。

  1. 地理院地図3Dのサイトから3Dデータ(STLファイル形式)をダウンロードする。
  2. スライス(3Dモデルを輪切りにして3Dプリンターで出力できる形式にすること)用ソフト(ダヴィンチの場合は「XYZWare」)から3Dデータを読み込んで3Dモデルの方向やサイズを調整する。
  3. プリント品質を選んでスライスを行い、出力時間や材料の必要量などを確認してからプリントを実行する。

 まずは地理医院地図3Dのサイトで立体地図のデータを作成し、STLファイルをダウンロードする。立体地図を作成するには、作成画面において出力したいエリアを選択する。マウスのホイール操作で画面の拡大・縮小が可能で、出力したい地域が四角の枠内に収まるようにズームレベルを調整する。ただし、地図データは256×256ピクセル単位のタイル画像や標高データを利用しているため、実際には表示中の範囲よりも少し大きい領域の3Dモデルが作成される。

 範囲が決まったら「この地図を3Dで表示」をクリックすると立体地図の画像がウェブブラウザー上に表示されるので、この状態で高さの倍率設定を行う。これは、画像のZ軸だけを、指定した倍率だけ縮小・拡大させる機能で、0〜10倍まで0.1刻みで調整できる。立体地図は高さを強調させた方が高低の差がはっきり出て分かりやすくなるが、強調しすぎると元の地形からかけ離れたものになってしまうので、うまくバランスを取って自分のイメージに合うように調整する。高さ方向の倍率を決めたら「3Dデータをダウンロードする」をクリックすると、WebGL用ファイルがブラウザー上に表示されてファイルのダウンロード画面となる。

 ファイル形式は前述したようにSTLおよびVRMLファイル、それにWebGL用ファイルの3種類から選択可能。ダウンロードファイルはZIP形式で圧縮されている。なお、WebGL用ファイルをローカル環境で閲覧する場合のウェブブラウザーには、Firefoxが推奨されている。

出力範囲を決める
高さの倍率を指定
STLファイルをダウンロード

出力サイズや印刷品質を選択して「印刷」開始

 ダウンロードしたZIPファイルを展開するとSTLファイルとなるので、これをXYZWareで読み込むと3Dモデルが表示される。デフォルトでは立体地図の下面が鉛直方向ではなく横を向いた状態になっているので、これを鉛直方向へ向くように回転させる。

 次に出力サイズを決める。デフォルトでは下面が約15cm四方になっている。ダヴィンチの出力サイズは20×20×20cmなので、下面がこの範囲に収まるように縮小または拡大する。当然ながら出力サイズが大きければ大きいほど材料費がかかるので、懐の事情と相談しながら決める必要がある。また、積層ピッチを細かくしてもフィラメントの消費量は増えるので、この点も考えて印刷品質を決めなければならない。

 サイズを大きく、また積層ピッチを細かくすると、材料費が増えるだけでなく造形時間も長くなる。ダヴィンチでは10cm四方で積層ピッチが0.1mmの場合、起伏の少ない地形の場合は2〜4時間、多いところで6〜8時間くらいはかかる。いったんスタートさせたら一時停止はできず、造形している間は騒音が発生するので、深夜に動かすと家族や隣人の睡眠の妨げになる恐れがある。また、フィラメントが溶ける時に少し臭いも発生するので注意が必要だ。それほど強烈な臭いではないが、ある程度の換気は必要だろう。

XYZWareで3Dデータを読み込み
3Dモデルを回転
サイズを変更
スライスが完了

 プリント品質を決めたら「印刷」をクリックするとスライスが開始される。スライスが完了すると、プリントにかかる予想時間と材料の消費量が表示される。これを確認して「継続印刷しますか?」の質問に「OK」をクリックすると、スライスされたデータがダヴィンチに送られてプリントが開始される。なお、出力を開始する前に、プリント中に造形物がずれるのを防ぐため、あらかじめプラットフォームの上にスティック糊を塗っておく必要がある。

 ちなみに筆者の環境では、Mac用のXYZWare(ベータ版)を使ったところ、不具合のためかプリントを実行することができなかった。スライスは行えるものの、データを送信した状態でなぜか止まってしまう。Windows用のソフトでは問題なく動作した。

 印刷中はプリントヘッドが水平方向にすばやく動きながら、ノズルから溶解したフィラメントを射出して、プラットフォーム上に積層していく。造形物は中空成形になっているが、中には補強のための格子が入るので、ある程度の強度は確保しており、出来上がった造形物に力を入れても曲がったり凹んだりすることはない。なお、消費電力については、ダヴィンチの場合は出力中、ずっと200W前後を維持していた。

プラットフォーム
造形物がずれないように糊を塗る
プリント時間や残りの予測時間などが表示される
プリント中の様子
内部には格子が入る
横から見た状態
次第に上部が覆われていく
完成間近の状態
完成するとプラットフォームが自動的に下がる
糊で貼り付いた造形物をプラットフォームから剥がせば完成

地形の凹凸を触って確認できる楽しさ!

 3Dプリントが終了したら、しばらく冷えるのを待つ。プラットフォームが下がった状態で、ヘラで造形物を剥がせば完成だ。立体地図に近付いて山肌を見ると積層の細かい段々が見えるし、山頂や尾根などにはバリが出て不自然な形になっている個所が少なからずある。しかし、尾根の形や谷間の形状そのものは実際の地形にかなり近く、山頂や尾根のギザギザした部分を指の腹で触ると、凹凸が自分の手に伝わってきて楽しい。

 市販の立体地図は有名な山しか用意されていないが、地理院地図3Dと3Dプリンターを組み合わせれば、マイナーな山でも自分の好きなエリアを自由に切り取って立体地図を作れる。お気に入りの山の立体地図を部屋に飾っても良いし、まだ登ったことのない山の立体地図を作って想像を膨らますのも楽しい。目が不自由な人に地形を確かめてもらうツールとしても使えるし、防災のプランを練るのにも役に立つのではないだろうか。

 ちなみにダヴィンチのランニングコストについては、10×10cm(積層ピッチ:0.2mm)を1個、15×15cm(積層ピッチ:0.2mm)を1個、15×15cm(積層ピッチ:0.1mm)を1個、それにサンプルの小さな造形物を1個作った時点で3280円のフィラメントカートリッジがほぼ終わりに近付いた。専用カートリッジを使用するため、汎用のフィラメントを使えるほかの3Dプリンターに比べるとランニングコストは高いが、出力ショップに比べるとかなり安く作成できる。あちこちのエリアをどんどん出力したいという人は、そのたびに出力ショップに頼むよりも、思い切って低価格の3Dプリンターを買ってしまったほうがいいと思う。

槍ヶ岳(積層ピッチ:0.2mm)
山頂の部分にバリが出ている
裏面
劔岳周辺(積層ピッチ:0.2mm)
地理院地図3Dのスタート前に公開されていた西之島新島(積層ピッチ:0.1mm)
1つのカートリッジで4点を出力できた
緑色のフィラメントを使って苗場山のデータを出力(積層ピッチ:0.1mm)
地面に無数の窪みがある秋吉台(積層ピッチ:0.1mm)
妙義山(積層ピッチ:0.1mm)
山肌や尾根にバリが出ている

 地理院地図3Dのように地形を3Dプリントに活用できるサイトとしては、ほかにもノルウェー政府が公開した「Terrafab」があるが、こちらは出力されるファイルがX3D形式で、3Dプリンター用のSTLやVRML形式に変換するためのコンバーターが必要となる。STLやVRMLファイルを直接出力可能で、おまけに高さの倍率設定まで行える地理院地図3Dは、使い勝手もかなり良く、世界的に先端を行くサービスと言えるのではないだろうか。このサイトの公開がきっかけで3Dプリンターに興味を持ち、購入に至る人もいると思う。地図好き、地形好きな人は地理院地図3Dを使って、3Dプリンターで自分のお気に入りの山や地形を自由に出力する喜びを味わってみてはいかがだろうか。

Terrafab

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。