趣味のインターネット地図ウォッチ

第201回

位置情報でスポーツに革命、ミサイル追尾技術でサッカー分析 ほか

 東京・お台場の日本科学未来館にて11月13日〜15日に開催されたイベント「G空間EXPO」。地理空間情報(G空間情報)をテーマにしたこのイベントでは、地図や位置情報、測位技術、オープンデータなどに関連したさまざまな製品やサービスが展示された。その模様はすでにイベントレポート(記事末の関連記事を参照)としてお伝えしたが、本連載では、今年の傾向として注目されたビーコンに関する話題、スポーツにおける位置情報の活用の話題、そして国土地理院の主催で行われたコンテスト「Geoアクティビティフェスタ」についてレポートする。

日本科学未来館

会場内でBLEビーコンを持ち歩く女性「Gガール」も

 今後の位置情報サービスに欠かせないのが屋内測位技術。無線LAN測位やIMES、PDRなどさまざまな技術が研究されているが、中でも注目されているのがBLE(Bluetooth Low Energy)を用いたビーコン技術だ。Appleが2013年にiBeaconの採用を発表して大いに注目を集めているが、今回のG空間EXPOでは、このBLEビーコンに関する発表も多かった。

 14日には、G空間EXPOのiOS/Android向け公式アプリで利用されている法人向けビーコン管理プラットフォーム「Beacapp」を提供する株式会社ジェナの岡村正太氏(執行役員 コンサルティング事業部新規事業部マネージャー)が、「ビーコンをビジネスの即戦力にするためのポイント」と題した講演を行っている。

株式会社ジェナの岡村正太氏

 岡村氏は、「ビーコンは場所やモノにタグを付けて、能動的に教えてくれる便利なもの」と位置付けて、これをビジネスに活かすためのポイントとして「企画の段階でビーコンのプロを巻き込む」「全体的な施策として考える」「検証フェースを大切にする」という3点を挙げた。さらに、同社が考えるビーコン活用の未来について、「今まではタッチしなければならなかったり、強制的にプッシュで情報が配信されたりしていましたが、今後はユーザーがどういう時にどんな場所に行ってどのような使い方をした時に情報が来るのか、TPOに応じて動作するアプリの時代が来ると考えています。そのためにはアプリに簡単にビーコンを使った演出を行えるようにする必要があります」と語り、それを実現するためのサービスとして、同社が発表したばかりのBeacappを紹介した。

Beacon管理プラットフォーム「Beacapp」

 Beacappはスマートフォンアプリのビーコン対応を実現するクラウドサービスで、SDKをアプリに組み込んで管理画面からビーコンの設定を行える。アプリがビーコンを検知すると、距離や時間など管理画面で設定した条件に合わせて、特定の動作が発生する。G空間EXPOの公式アプリでは、会場に設置された株式会社アプリックスのビーコン「MyBeacon 汎用型 MB004 Ac」および持ち運びタイプの「MyBeacon ペンダント型 MB002 Ac」に反応して、出展者情報や、位置情報を活用した宝探しゲーム「G空間キャッシング」などを体験できるようにした。

 このゲームで使われる宝の中の1つには、BLEビーコンを持ち歩く女性「Gガール」も含まれており、“さまよえる宝”として会場内を移動している人を見つけなければならない。G空間キャッシングは昨年も行われたが、このように宝が移動し続けるというケースは今年が初めてで、省電力かつ小型軽量というBLEビーコンの特性を活かした企画と言える。

G空間EXPOの公式アプリ

位置情報でスポーツに革命、ミサイル追尾技術でサッカー分析

 iBeaconのほかに新しいトピックとして興味深かったのが、スポーツ分野での位置情報の活用だ。メインステージにて最終日に開催された「アスリートの未来が変わる! データサイエンスによるスポーツ革命」というセッションでは、SAPジャパン株式会社の馬場渉氏(バイスプレジデント)が、同社のスポーツへの取り組みについて語った。

 「我々はビッグデータの処理技術と位置情報を用いていろいろな事業を行っています。例えばサッカーのデータというとSTATSという統計データがありますが、1試合で分析して出てくるのはボール保持率やシュート数、パス成功率、クロス数、ゴール数くらいで、これらを見ても詳しい内容はよく分かりません。ドイツでは、1試合あたり約2000件のデータを解析してもゲームの改善には至らないということで、約2万倍となる4000万件のデータを1試合から取得しています。」

SAPジャパン株式会社の馬場渉氏

 このようなデータはカメラで選手とボールの位置情報を追跡することで取得している。この技術はもともと軍事用ミサイルの弾道を追う仕組みを転用したもので、人とボールの動きを追跡して1秒間に30回、位置情報と時間情報を取り続ける。これにより、選手のスピードや距離感などをすべて解析することができる。「なぜパスが失敗したのか」「なぜこの選手はボールを持ちすぎているのか」といった問題は、個別のデータを見ただけではわからず、全体の因果関係を見る必要があるので、さまざまなシーンを動画として記録し、選手にそれを見せて説明するという。

選手やボールの位置情報を記録

 「こうした技術はサッカーやアメフトだけでなく、テニスやゴルフなどの個人スポーツにも用いられています。例えばゴルフでは、クラブにNFCタグを付ければ打った場所の位置情報を取ることが可能となり、前述したサッカーの弾道追跡システムと同じものを使えば、どのような球が飛んで飛距離はどれくらいかも分かります。ふだんの練習からそのようなセンサーを使うことにより、『自分がどのクラブでどれくらいの距離を狙う時にボールのブレが大きくなるか』といった情報を把握することが可能となり、アプリの指示に従って弱点を克服するために練習することも可能になります。これも位置情報を取得できるようになって、初めて実現したことです。」

ゴルフクラブにNFCタグを設置

 馬場氏によると、日本ではスポーツへのデータ活用が遅れているが、その一方で女子バレーボールなどは、世界の中でもデータ活用がかなり進んでいるという。

 「日本の女子バレーがなぜ進んでいるかというと、海外に比べて身長差の点で不利なので、それをなんとかしようと思ったら『情報戦で勝つしかない』という意識を持っているからです。そういう意味で、スポーツデータがもたらす革命というのは、現在トップの位置にいるアスリートではなく、今まで注目されていなかった選手やスポーツカテゴリーから起こるような気がします。」

「Geoアクティビティフェスタ」に今年は計20作品が参加

 地理空間情報に関するアイデアやユニークな製品、技術などを展示・審査・表彰する「Geoアクティビティフェスタ」。今年は計20作品が参加した。

「Geoアクティビティフェスタ」の展示会場

街歩きプランを自動作成する「CT-Planner」

http://ctplanner.jp/

 最優秀賞に選ばれたのは、地図上での直感的な街歩きプランの作成を可能にする対話的ツール「CT-Planner」(首都大学東京・倉田研究室+東京大学・原研究室)だった。

 CT-Plannerは、土地勘のない旅先を巡るプランを作成できるウェブツール。観光地と旅行スタイルを選ぶだけでおすすめのコースを提示し、それに対してユーザーが要望を出すとプランが改定される。タイムスケジュールも示され、曜日や歩く速度などを指定すると、混み具合などが考慮された所要時間が算出される。また、「穴場好き←→有名所好き」「静けさ重視←→賑わい重視」など嗜好を入力することで、自分好みのコースに仕上げることもできる。作成したプランはQRコードを使ってスマートフォンに転送し、スマートフォンブラウザー版Google マップ上でコースを確認できる。現在のところ、函館・横浜・浅草・鎌倉など9地域に対応しているが、今後は他地域への展開も予定されている。観光地データをExcelのテンプレート上から簡単に作成できる点も特徴だ。

街歩きプランを自動作成するツール「CT-Planner」

案内板データベース「Monumento」

http://monumen.to/

 優秀賞に選ばれたのは、案内板データベース「Monumento(モニュメント)」(株式会社まちクエスト・小川智史氏)と、フィットネスバイクによる仮想スタンプラリーシステム「うごスタ」(近畿大学うごスタチーム、代表:溝渕昭二氏)となった。

 Monumentoは、世界中の案内板を共有するウェブサービス。観光地や公園に設置されている案内板は便利な情報源だが、現地の言語だけの表記だったり、ネットで検索できず現地に行かなければ見られなかったり、表記が薄れて読めなくなっていたりと、さまざまな課題がある。これらを解決するために「案内板を通じたコミュニケーションプラットフォーム」を目指したのがMonumentoだ。自分が見つけた案内板を撮影・投稿することが可能で、投稿された案内板はMonumentoのユーザーやクラウドソーシングによってデータベース化・テキスト化して検索可能にする。

 テキスト化した情報にはタグ付けを行い、このタグをもとに離れた場所にある案内板同士を関連付けることもできる。また、Microsoft TranslatorのAPIを通して日・中・英語間での機械翻訳も行う。スマートフォンのGPSにより現在地周辺の案内板情報を表示することも可能だ。現在のところ、登録されている案内板は約800カ所で、そのうち約90%がテキスト化済み。将来的には説明文を音声で聞けるサービスも提供を予定している。

案内板データベース「Monumento」
全国各地の案内板が登録

フィットネスバイクでスタンプラリーを楽しめる「うごスタ」

 「うごスタ」はフィットネスバイクで運動しながら、仮想空間上でスタンプラリーを行える仕組みで、Googleのストリートビューを利用して景観を楽しみながら、チェックポイントを巡ってスタンプを収集できる。フィットネスバイクに取り付ける回転数を測定するためのデバイスには、マイコンボードのArduinoを利用した自作機器を使用。フィットネスバイクのハンドル部にはタブレットを設置して情報を映し出せる。画面はストリートビューを見られるシーンモードと、走行している場所の地図を見られるマップモードを切り替えられる。フィットネスバイクによる運動のモチベーションを高めるため、個人がデバイスを購入して家のフィットネスバイクに取り付けて使えるほか、観光案内所やホテルに設置して観光ガイドとして使うことも想定しており、観光スポットに着くとクーポンが得られる仕掛けなどが考えられるという。

フィットネスバイクでスタンプラリーを楽しめる「うごスタ」
Arduinoを利用してバイクの回転数を測定

「お父さんのための『今日どこいく?マップ』」

 このほか興味深かったアイデアとして、「お父さんのための『今日どこいく?マップ』」(あおき地理情報システム研究所・青木和人氏)という作品がある。これは、PDFで配布されている自治体の広報誌を構造化処理して、RDF形式の行政イベントオープンデータを作成し、住所情報からアドレスマッチングにより位置座標を付与するというアイデア。作成したデータは位置座標付きのオープンデータとして再配布する仕組みを作り、これをもとに、今日、近所で開催されている行政イベントの地図化サービス「今日どこいく?マップ」を提供する。これにより、住民は家の近くで開催される無料の行政イベントを容易に入手することが可能となる。あおき地理情報システム研究所では、すでにいくつかの自治体で同様のサービスを導入している事例もあるとのことで、今後の普及が期待される。

PDFを変換してオープンデータとして公開する「お父さんのための『今日どこいく?マップ』」

JR名古屋駅西口の地下街エスカの高密度点群データセット

 JR名古屋駅西口の地下街エスカの高密度点群データセット(愛知工業大学中村研・山本研、代表:安田将康氏)も面白い。点群データセットというと航空機や車両で地上を観測するものがほとんどで、地下街の高密度三次元点群データは珍しい。地上の基準点から“トータルステーション”という測量機器を利用して地下街まで座標を下ろし、データに平面直角座標を与えているため、GPSとの連携も行える。また、データセットの閲覧には、株式会社きもとが提供する点群ビューアー「GEOVERSE」を利用している。地下街のデータセットを使うことでどのようなことができるかは未知数だが、これまでになかったデータ製品ということで注目される。

地下街の点群データ

「D3.jsを用いた地図の球面ディスプレイへの投影」

 昨年から引き続いてエントリーしている作品としては、合同会社PhysVis(代表:湯村翼氏)の「D3.jsを用いた地図の球面ディスプレイへの投影」という作品がある。昨年は「Personal Cosmos」として出品されていたこの作品、今年はグラフなどの可視化に特化したJavaScriptライブラリ「D3.js」を用いた描画ソフトウェアを使うシステムを構築した。これにより、昨年までは球面ディスプレイへの投影には地図の画像を用意する必要があったのに対して、今年はSHP形式のデータを処理して投影できるようになった。

データを変換して球面ディスプレイに投影

地理空間情報の最新トレンドが凝縮された3日間

 G空間EXPOは今年で4回目の開催となるが、今回もオープンデータやBLEビーコン、スポーツへの活用など最新の技術や話題が凝縮された3日間となった。特にGeoアクティビティフェスタはアイデア段階・試作段階のものから、「CT-Planner」や「Monumento」のようにすでに提供開始しているサービスまで、幅広いラインナップで見応えがあった。「お父さんのための『今日どこいく?マップ』」のようにオープンデータをテーマにしたものや、「うごスタ」のような自作ハードウェアを使ったものなどは、来年以降も伸びてくると予想されるジャンルであり、今後の地理空間情報の活用方法を示唆するものとして注目される。

片岡 義明

IT・家電・街歩きなどの分野で活動中のライター。特に地図や位置情報に関す ることを中心テーマとして取り組んでおり、インターネットの地図サイトから法 人向け地図ソリューション、紙地図、測位システム、ナビゲーションデバイス、 オープンデータなど幅広い地図関連トピックを追っている。測量士。インプレスR&Dから書籍「位置情報ビッグデータ」(共著)が発売中。