趣味のインターネット地図ウォッチ
第150回
店内版ストリートビュー「おみせフォト」の撮影現場を見てきました
(2012/12/6 06:00)
Googleのストリートビューを見ていると、ときどき進行方向を示す矢印が二重になっている場所があるのにお気付きだろうか。二重の矢印をクリックすると店舗の中の映像に切り替わり、店内の写真は360度のスクロールが可能。そして店舗の中もストリートビューのように矢印をクリックすることで自由に移動できる。これが「おみせフォト」だ。これらの写真は店舗や場所に関する情報をまとめた「プレイスページ」にも掲載されており、店舗の詳細情報と一緒に提供されている。
このおみせフォトがスタートしたのは2010年5月のこと。当初はストリートビューのようにGoogleのスタッフの手によって無料で撮影されていたが、今年の5月に認定パートナープログラムが開始。Googleから技術指導を受けた認定パートナーの法人が有料でおみせフォトの撮影を行うことにより、多くの店舗からの撮影リクエストに応えられるようになった。
おみせフォトは360度スクロールが可能な店内写真を楽しみながら前後左右とさまざまな方向へと自由に行き来することが可能で、屋外のストリートビューともほぼシームレスにつながっている。プレイスページではパノラマ画像だけでなく、その店の内装の詳細画像や販売している商品、料理の写真などのスナップショットも掲載されており、家にいながらにしてその店の状況が分かる。パノラマ画像から店の雰囲気も分かるので、例えば訪れたことのないレストランに行く前に、どのような服を着ていけばいいか参考にするといった使い方も可能だ。
それではこのおみせフォトは、一体どのような撮影を経て公開されるのだろうか。今回、認定パートナーの1つである株式会社ゴーガに取材し、その撮影現場を見てきたのでレポートしよう。
撮影には一般的な一眼レフカメラと魚眼レンズを使用
ゴーガがおみせフォトの認定パートナーとなったのは今年の7月。以来、現在までおよそ100店以上の撮影をこなし、プレイスページ上でおみせフォトを順次公開している。現在、同社はGoogleの技術指導を受けたフォトグラファーを5名擁している。今回はそのうちの1人である安原直紀氏の撮影に同行させてもらった。
向かった先は表参道のベーカリー「プティSORA」で、今回の撮影によって作成された同店のおみせフォトがGoogleのプレイスページですでに公開されている(https://plus.google.com/105011562372242800097/about?gl=jp&hl=ja)。
Google 検索からのアクセス方法は、「プティSORA」で検索し、ページ右側に詳細情報が表示。地図の下に並んでいる3枚の画像のうち、「内側を見る」や「外観を見る」をクリックするとGoogle マップのページに移動し、おみせフォトの画像が表示される。左側には詳細情報が表示されており、店名をクリックするとおみせフォト上の目印からウィンドウがポップアップする。この中の「詳細」をクリックするとプレイスページに移動し、ここでは店内に並んだパンやボードのお品書きなどのスナップショットも見られる。
また、Google マップからアクセスする方法は、検索フォームに「プティSORA」で検索すると左サイドバーにおみせフォトのサムネイルが表示され、地図エリアにマーカーが表示される。ストリートビューを表示する方法の1つに、「ペグマン」を地図上にドラッグする方法があるが、この時にオレンジ色の丸で表示されるのが、おみせフォトに登録されている各店舗となっている。試しに表参道駅の周辺でペグマンをドラッグすると、意外と多くの店でおみせフォトが掲載されているのが分かる。
今回撮影したプティSORAは大通りから奥に入ったところにある小さなベーカリーだが、かなりの人気店である。おみせフォトの撮影は通常、客の少ない時間帯に行われ、この日も混雑の少ない時間帯にアポを取っていたが、それでも客が途切れるまでしばらく時間がかかった。店内のスペースに余裕がないため、客がいなくなるタイミングを見計らってすばやく撮影しなければならない。
安原氏の使用機材は、カメラがキヤノンの「EOS 60D」で、レンズがシグマの「8mm F3.5 EX DG CIRCULAR FISHEYE」という魚眼レンズ。雲台には水準器が付いており、撮影ポイントを移動した時は水平かどうかを必ずチェックする。屋外のストリートビューのような特殊なカメラを使用するのかと思いきや、使用しているのは一般の人でも手に入るふつうのカメラだった。ちなみに三脚にハンドルが付いていると写真に写ってしまうので、ハンドルのないものを使っているという。
屋内だけでなく屋外での撮影をする場合も
今回は店内の撮影ポイントが2点で、店の正面入口で1点、さらにストリートビューへとつながる導線上で2点ほど撮影が行われた。細い路地にある店や前庭が広い店などは、このように屋内だけでなく屋外での撮影をする場合もあり、道路のストリートビューを補う映像も作成していることになる。
撮影する上で苦労するのは、なんといっても人が混んでいる場合だ。おみせフォトでは人の顔と車のナンバーにはボカシを入れられるが、なるべく人がいないに超したことはない。「海外ではアバウトで、けっこう人が映り込んでいる写真も多いように思うのですが、弊社の場合はできるだけ人がいないタイミングで撮っています。店の入口の回りで工事などが行われている場合は、工事の人の顔も入ってしまったりするので大変ですね。」と安原氏は語る。
このほか安原氏の経験で過去に苦労したのは、美容院での撮影だ。美容院は鏡が多いため、撮影者が映り込まないようにシャッターが切れる時にいちいち逃げたりする必要があり大変だったという。また、カラオケ店で店内が暗くてなかなかシャッターが降りず時間を取られてしまったり、レストランで風が強くテーブルクロスが舞い上がってしまったりするトラブルもあった。店によって毎回状況が違うので、フォトグラファーは現場で臨機応変に問題を解決していかなければならない。
パノラマ写真の撮影後は、その店の目玉商品や特徴的なインテリア、看板などさまざまな個所のスナップショットを撮影する。今回の店では撮影ポイントが5点と少ないこともあり、スナップショット撮影も含めて撮影時間は30分間ほどしかかからなかった。
撮影後は1~2週間で写真を公開
こうした撮影を終えてから画像処理を経て、いよいよ写真がプレイスページに公開される。店内写真の左下には撮影したパートナー企業のクレジットと撮影時期が入る。プレイスページの写真へのキャプションなどは顧客(店のオーナー)の方で削除や追加することが可能だ。
撮影を終えてから公開されるまではおよそ1~2週間かかる。公開されたおみせフォトはGoogle マップと同じようにIFRAMEタグで店舗のウェブサイトにも埋め込める。公開されると、ストリートビューでその店の近くを訪れた際に二重の矢印が表示されて店内に入れるようになり、店名で検索した時などに検索結果の右側にプレイスページの詳細情報が表示されるようになる。
最近では複数フロアも扱えるようになっており、Google マップのインドアマップと同じように階層表示が出てフロアボタンで移動することが可能となる。この場合、エレベーターや階段でフロアを行き来させる必要がなくなり、1フロアにつき30ポイントまで撮影することが可能だ。従来は3フロア以上の撮影は行わないというルールになっていたが、複数フロアのシステムに対応してからは階数の上限がなくなり、より大きな店舗でもおみせフォトを導入できるようになった。
なお、たまにストリートビューの矢印の方向とおみせフォトの矢印の方向がズレている場合が見られるが、無理にストリートビューから入る矢印を店の方に向けようとするよりも、「おみせフォト」の中で利用者が使いやすいように整合性が図られている。
「おみせフォト」でお客さんが訪問したとのお礼のメールも
おみせフォトに対する引き合いはかなり増加しており、店の方からゴーガに直接問い合わせてくるケースも少なくない。それにともなって撮影件数も増えてきている。
撮影料金はパートナー企業によって異なるが、ゴーガの場合は1店につき6万円~という料金を設定しており、要望があれば全国どこにでも撮影に行く構えだ。「広告効果を考えればとてもいいサービスだと思います。撮影を終えた店に完成した写真を見ていただくと、出来に満足していただけることが多いですね。うれしいことに、おみせフォトを見たお客さんが訪問したとお礼のメールをいただいたこともあります」と安原氏。このような認定パートナー企業の地道な活動により、おみせフォトが見られる店の数は日に日に増えており、それはGoogle マップを利用する一般ユーザーの利便性向上にもつながる。
おみせフォトの今後の可能性について聞いてみると、「3Dカメラなどと組み合わせるとよりリアルで面白い映像になると思います。私たちフォトグラファーにしてみれば撮影や処理の手間が大変になるかもしれませんが(笑)。Googleさんが出す新しいサービスには、いつもわくわくさせられます」と安原氏は語る。
残念ながらまだ店内のインドアマップを用意して写真と連携させるといった試みは行われていないが、将来的に店舗のインドアマップが整備されるに従ってそれが実現していく可能性もある。例えば現在でも「日本科学未来館」の屋内写真がGoogle マップ上で公開されており、これはインドアマップと連動していて、屋内写真とインドアマップを上下に並べて館内をバーチャルに散策できるようになっている。これと同様のコンテンツが、広い面積を持つ一般店舗でも提供されればさらに便利になるだろう。
また、店内写真に写った商品写真をクリックするとオンラインショップの該当ページに飛んだりと、Eコマースとの連携の可能性も考えられる。今後このサービスがどのように進化していくのか楽しみだ。