山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

反日関連の話題で2大マイクロブログの盛り上がりの差が話題に~2012年8月


 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

反日関連の話題で2大マイクロブログの盛り上がりの差が話題に

 8月19日と26日に反日デモが発生し、27日には丹羽駐中国大使が乗った車が襲われる事件が起きた。香港の活動家が尖閣諸島に上陸し逮捕されて以降、反日デモも含め、その暴力的行為が「愛国」ではなく「害国」行為であるという論評も含め、再びニュースサイト、新聞、ニュース番組で紹介されるようになり、マイクロブログ「微博(weibo)」で8月中旬から継続敵に話題となっている。

 微博といえば、特にチャットソフト「QQ」が柱の「騰訊(Tencent)」による「騰訊微博」と、ポータルサイト「新浪(Sina)」による「新浪微博」が2大微博サイトとして、それぞれ4億の利用者を集めているが、一見同じように見えるこの2大微博に大きな差が出た。ネット世論を監視する「人民網輿情観測室」によれば、騰訊微博の多くの利用者が瞬間的にこの問題に関心を持ち、転載や書き込みを行っていたのだ。

 この理由としては、騰訊が元々国民的チャットソフト「QQ」で人気を上げたサイトであり、QQの延長で友人との繋がりで微博を利用し始めた人が多く、QQを起動すれば本日のホットトピックがウィンドウに表示され、話題が瞬間的に多くの利用者に共有できる仕組みがあることが挙げられる。一方、新浪微博には、騰訊微博に比べてヘビーユーザーの利用者が多く、発言力のある著名人の書き込みが拡がるイメージがある。利用者側の話として、当時新浪微博にこの話題について書き込めない制限があったように感じた、という情報も出ている。

 尖閣諸島国営化で、中国では再びさまざまなニュース媒体でこの問題が中国視点で取り上げられ、反日の声が高まっている。

 一方で、ロンドンオリンピックの話題についての発言数では、新浪微博が騰訊微博を上回った。新浪微博と騰訊微博で使われ方が違うのであれば、微博を利用したマーケティングも各微博の特性を活用しないといけないだろう。

釣魚島に関する2大微博のつぶやき数日本大使車襲撃事件に関する2大微博のつぶやき数


百度にアクセスするとGoogleに飛ぶ問題が発生。原因はDNSの設定ミスか

 8月23日の夜、福建省内から百度( http://www.baidu.com )にアクセスするとgoogle香港のページに飛ぶようになり、直面したユーザーが微博や掲示板上で情報交換をはじめた。その日の23時に百度は新浪微博内のオフィシャルアカウントの中で「DNSに異常有り」と回答した(実際問題が発生した間、ipアドレスを直打ちして百度にアクセスする利用者もいた)。多くのユーザーの間では「(旧暦の)七夕で百度とGoogleがくっついた」という程度のやりとりに終わった。

 今年の6月にYahoo!Japanにアクセスできなくなるという事例があり、このときもipアドレス直打ちでYahoo!Japanにアクセスできたことから、原因はDNS周りではないかと言われていた。

百度にアクセスしたらGoogleに飛んだことで、微博に驚きのつぶやきが多数


セキュリティで知られる「奇虎360」と検索「百度」が大喧嘩

 以前セキュリティソフトをリリースした「奇虎360」が、チャットソフト「QQ」の「騰訊(Tencent)」のサービスをシャットアウトして、両社が大喧嘩となったが、今度は奇虎360が百度と大喧嘩を始めた。

 8月16日、奇虎360が検索サイト「360総合捜索」をリリース。ただし検索結果は百度とGoogleの結果を独自にソートしたもので、百度単体の検索結果もGoogle単体の検索結果も表示できるサイトだった。こうした2in1のサイトは過去にも無名な企業から無数に出たが、ユーザーを多く抱える奇虎360だけに無視できないものだった。百度は翌日、セキュリティベンダーと共同でフィッシングサイトや違法なサイトなどを叩くことを発表した。多くのメディアが「360が検索サイトを開始したことの対抗措置だ」と分析した。こうした動きに市場は反応、奇虎360の株価は上がり、百度の株価は下がった。

 22日には、360総合捜索から検索すると、百度の検索結果表示時に「360総合捜索から検索していませんか?百度をデフォルトの検索サイトにしましょう」とユーザーに呼びかけるしかけをつくり、さらに後日には、百度が360総合検索から検索すると自動的に百度のトップページへ飛ぶ仕掛けを構築した。奇虎360は折れることなくこれに対抗し、百度のキャッシュを表示する対抗措置を行った。逆に百度の株価は上がり、奇虎360の株価が下がった。

 さらに奇虎360は同社が提供するリンク集のページから、百度関連のサイトの多く消す措置を行い、メディアに対しては「(百度の行った)違法な薬の広告の掲載や、虚偽広告を載せることなく、安全な検索サイトを研究開発していきたい」と積極的にアピールを行った。

 日本人的視点では両社とも大人げないように思えるのだが、百度の検索結果に満足していない利用者は多く、やり方はさておき奇虎360の台頭を歓迎する声が多くみられた。

百度を拒む奇虎360奇虎360と百度のゴタゴタを報じるニュース


中国農村部のインターネットユーザーは1億3600万人、普及率は2割

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、中国農村部のインターネットについての統計をまとめた「2011年中国農村互聯網発展状況調査報告」を発表。これによれば農村部のインターネットユーザーは1億3600万人、携帯電話によるインターネットユーザーは全体の7割にあたる9694万人。中国国家統計局のデータによれば、都市部住民の平均年収は2万1810元(約28万円)であるのに農村部のそれは6977(約8万9000円)元とのこと。こうした所得も影響してか、都市部の普及率が54.6%に対し、農村部の普及率は20.7%にとどまる。またインターネットカフェの利用率も若干農村部での利用率が高い。

 利用用途としては、チャットやオンラインゲームやネット小説の利用は都市部と大きな差はなく利用率は高いが、電子メール・検索・掲示板・ニュース・オンラインショッピング・オンラインバンキング・オンラインペイメントで都市部よりも利用率がかなり低い結果となった。

都市部と農村部のインターネットユーザー数都市部と農村部の収入


動画サイトで1080p映像コンテンツを無料で提供開始

 古くはP2Pダウンロードサイトであり、最近では動画配信サイトに変わった「迅雷(http://www.xunlei.com)」が、迅雷看看(http://1080.kankan.com/)というサイトで、1080p(1920×1080)の映像コンテンツを無料で提供し始めた。HD動画のコンテンツというと720Pのものが多く、少数派の1080pの映像コンテンツにしても、有料で配信する動画サイトは今までもあったが、無料で提供するのは始めて。迅雷は「合計3000時間もの1080pの映像コンテンツを用意し、しかも映画だけでなく幅広く揃えた」と胸を張るが、中国で正式に進出したという話を聞かないアニメコンテンツも多数アップされており、海賊版が配信されている可能性もある。

 中国のリサーチ会社「iResearch」によれば、中国の動画サイトのPVでは、「優酷(YOUKU)」が飛び抜けて最も多く、続いてポータルサイトの「捜狐(SOHU)」、その次に「土豆(TUDOU)」「愛奇藝」「迅雷」がほぼ同列となっている。以前は優酷と土豆が2強状態であったが、優酷と土豆が合併後、捜狐が人気を上げてきた。

迅雷1080pチャンネル動画サイトのPV。黄色は前期比、青色は前年同期比


電子ブックが不調、原因は海賊版

 中国のリサーチ会社「易観国際」は、中国の電子ブックに関する統計を発表。それによると、電子ブックリーダー販売量は四半期で29万3000万台。この数字は前期比3.9%増ではあるが、この1年間微減していたので、1年を通じて伸びているわけではない。対して携帯電話やスマートフォンによる電子ブック利用者は前期比3.8%増の3億5800万人で、一貫して伸び続けている。電子ブックリーダーではなく、携帯電話やスマートフォンにより電子ブックが利用されているものの、電子ブックの売上総額においてはここ1年ほぼ横ばいで、今期に関しては前期比2.6%減の11億8000万元を記録。

電子ブックの売上げ電子ブックリーダー販売量モバイルによる電子ブック利用者数

 オンラインゲームベンダー盛大から分かれた盛大文学は、電子ブックリーダー「Bambook」をリリースしコンテンツストアを開設後、さらに中国移動(China Mobile)と提携。同社はiOSとAndroid向けアプリをリリースし、1000万コンテンツ販売を記録し、書籍コンテンツの売上を伸ばしている。さらに8月末には中国聯通(China Unicom)のW-CDMA方式を採用したBambookケータイをリリースした。

 それでも同社は8月メディアの取材に対し、それでも現在「悪性競争」に面していると苦しい現状を語っている。「QQ閲読」「91熊猫看書」「多看閲読」「超星閲読」など複数の電子ブックアプリがシェアの取り合いをしているほか、人気の小説名を百度で検索すると多くの海賊版へのリンクが出ていること、AppStoreやGooglePlayの中でも海賊版配信アプリがあることが理由で売上を阻害されているという。

ひとり電子ブックで伸びる盛大文学盛大Bambookケータイ。値段は1299元(16500円)


家電最大手のネットショップとリアルショップが煽り合い

 14日、家電販売に強いオンラインショッピングサイトの「京東商城」のCEO、劉強東氏は、微博で「15日9時より京東商城はテレビや白物家電で3年間ゼロ利益にする。2大家電量販店『蘇寧電器』『国美電器』より10%は安くする」と発表。蘇寧電器と国美電器の役員はこの発言にすぐに対抗、蘇寧電器は「15日朝9時より京東より必ず値段を安くする。京東より高く買わせたら差額の2倍を支払う」、国美電器もまた「15日9時より京東商城より5%安くする」と発表した。

 「815電商価格戦(家電量販店価格戦)」と呼ばれるこのニュース、読者のアンケートでは「大げさな宣伝」が53.5%、「とりあえず様子見」が37.8%と冷ややか。「本当に安くなる」と思っている人は8.6%しかいなかった。今後家電をどこで買うかという質問には、「値段をチェックして、より安い方(67.0%)」「蘇寧電器、国美電器などのリアルショップ(19.3%)」「京東などのオンラインショップ(13.7%)」という回答となった。

 後日、政府の価格監査局が介入。「3社それぞれが原価を偽っているケースがある」「したがい利益ゼロを履行していない」「特定の特価商品について在庫があるのに売り切れ表示」「3社が競合して扱っている商品が少ないので競争は発生しにくい」といった問題を指摘した。また、こうした安売り競争の動きに対しては、テレビメーカーが「損害をお互いしないのが合作の前提」と水を差したほか、一部の企業は「付き合っていられない」と京東商城から撤退した。


最大のメールサービスプロバイダーのアカウント数が5億を突破

 前述の「新浪」「捜狐」「QQ」とともに、中国を代表するポータルサイトの「網易(NetEase)」は、メールサービスプロバイダーとしても最大の会社でもある。網易は、8月に同社のメールサービスのアカウント数が5億を突破し、アクティブユーザーが1億を突破したと発表した。同社は近年iPhone版やAndroidタブレット版などのモバイル版もリリース。モバイル版アカウント数は約6000万だという。



関連情報

2012/9/14 06:00


山谷 剛史
海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「新しい中国人」。