山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国のネット普及率が4割を超える ほか~2013年1月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国のネット普及率が4割を超える

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は15日、中国における2012年末におけるインターネットの利用状況をまとめた「第31次中国互換網発展状況統計報告(第31回中国インターネット発展状況統計レポート)」を発表した。2012年6月末時点のインターネット利用者は5億6400万人で、総人口に対するインターネット利用率は42.1%。インターネット普及率は今回の調査ではじめて4割を突破、都市部でこそ普及のスピードは高いが、農村部での浸透はまだまだだ。

 携帯電話によるインターネット利用者は4億2000万人となったが、利用者の純増加数以上に、2Gから3Gへの変更する利用者が目立ち、それにより携帯電話でのリッチコンテンツの利用が目立った。

 詳しくは「中国のネットユーザーは5億6400万人、人口の4割超える、都市でモバイル加速」(http://internet.watch.impress.co.jp/docs/news/20130116_581875.html)」の記事でご紹介しているので参照していただきたい。

中国のEC市場の年間取引総額が1兆元を超える

 中国電子商務研究中心(中国Eコマース研究センター)によると、昨年のオンラインの小売市場における年間取引総額は前年比64.7%増の1兆3205億元(約19兆5000億円)となった。また海外からの輸入は483億元(約7250億円)を占める。同中心は今年の市場規模を1兆8155億元(約27兆円)を予想する。

 また、海外からの輸入は「キャビンアテンダント、海外で購入し中国で販売する転売用商品の税金を納めず懲役11年(2012年9月記事)」「輸入iPhone人気店、関税を払わず、で計16万2000台、値段にして5億元もの輸入携帯電話を販売していたとして逮捕(2012年11月)」といった税関強化のニュースに戦々恐々とする状況は続くも、700億元(1兆円強)を超えると予想する。

 易観国際(Analysys International)では年間取引総額を1兆2200億元を推定。うち今年家電量販店や百貨店などが参入し競争が激しくなったB2Cは4700億元規模に。C2Cは7500億元規模でそのほとんどが淘宝網1サイトで占められている。

 今年は3Gでの利用者の増加が見込めることから、モバイルによるオンラインショッピングサイト利用者が増えると予測される。家電量販店や百貨店などリアルショップのチェーン店もオンラインへ参入する中、リアルの書店をはじめとして、昨年比でマイナス成長となる市場もある。

オンラインペイメント最大手「支付宝」の2012年の利用実態が公表される

 オンラインショッピングサイト最大手で個人対個人取引(C2C)の「淘宝網(TAOBAO)」や、企業対個人取引(B2C)の「天猫(Tmall)」を利用する際に使われるオンラインペイメントサービス「支付宝(Alipay)」が、2012年の中国人のオンラインショッピングの利用傾向についての調査結果を発表した。

 地域別の一人あたりの平均年間支払額では、上海で24024元(36万円弱)、北京で21879元(約32万円)、深センで17421元(約26万円)となった。淘宝網や支付宝の源流である阿里巴巴(Alibaba)のお膝元である浙江省杭州は、北京上海よりも高く、38478元(約56万円)となり、また浙江省の都市も軒並み上位に入ったことから、浙江省ではオンラインショッピングやオンラインペイメントが積極的に利用されていることがわかる。伸び率では中都市での利用者増が目立つ結果に。

 ひとりあたりの年間購入金額は年齢別では、80年代生まれの「80后」が9044元、70年代生まれの「70后」が1万1000元、60年代生まれの「60后」が1万元となった。またそれ以前の世代、つまり50代以上のオンラインペイメント利用額はそれ以降の世代(60后、70后、80后)の倍以上であることが明らかになった。

 また、淘宝網は16日、2012年に同サイトで出品停止措置を行った粗悪品やニセモノについての統計を発表。2012年の1年間で、8700万点の商品を削除し、95万人の会員を処罰したと発表した。またニセモノが販売されているという訴えを受理した件数は617万件に及んだという。継続的にニセモノや粗悪品に対処するべく、同サイト内の問題のある商品をリストアップし紹介していくサイト「淘宝曝光台」をオープンさせた。

 ちなみに、阿里巴巴の創設者であるCEOの馬雲(ジャック・マー)氏が今年5月にCEO職を退き、会長職に専念すると発表している。

ネットユーザーと車とIT製品の所有の関係について調査結果が発表される

 CNNICは、中国インターネットユーザーと、車の所有、およびIT製品の所有の関係についての調査結果を発表した。

 インターネットユーザーのうちマイカー所持は28%。そのうち日本車韓国車は省エネ面が評価され41%を占めた。メーカー別では「フォルクスワーゲン(19.2%)」「ゼネラルモータース(8.4%)」「トヨタ(6.8%)」「ヒュンダイ(6.1%)」「ホンダ(5.0%)」「奇瑞(3.2%)」「アウディ(3.2%)」「日産(3.0%)」「BYD(2.4%)」「フォード(2.4%)」となった。日本車や韓国車は、地域では華南地方、年齢では90年代生まれに好まれるという。

 IT製品のインターネットユーザーのメーカー別所有率と人気も紹介しておこう。携帯電話の所有率は「ノキア(23.0%)」「サムスン(15.0%)」「アップル(8.9%)」「レノボ(4.2%)」「HTC(3.5%)」の順だった。好きなブランドでは「アップル(33.1%)」「ノキア(23.0%)」「サムスン(21.8%)」。1970年代生まれではノキアの支持率が高い一方、1990年代生まれではアップル一択という状況だ。45歳以上はスマートフォンに抵抗があるという。

 タブレットの所有率では「アップル(58.9%)」「レノボ(17.3%)」「サムスン(5.9%)」「デル(2.1%)」「ソニー(1.3%)」となり、好きなブランドでは「アップル(74.3%)」「レノボ(11.1%)」「サムスン(6.0%)」となった。学生には不評だが、若いサラリーマンや55歳以上の中高年に人気という結果に。

 ノートPCの所有率では「レノボ(40.3%)」「デル(11.7%)」「HP(10.5%)」「エイスース(9.7%)」「アップル(5.7%)」となり、好きなブランドでは「レノボ(33.3%)」「アップル(29.2%)」「デル(11.1%)」となった。

 テレビではインターネットユーザーの4割が薄型テレビを所有。その7割弱が中国メーカーの製品を所有しているが、好きなブランドでは5位以内に外国メーカーでは唯一サムスンが1位にランクイン。デジカメに関しては、サムスンの存在感が大きくなってきているものの、所有率でも好きなブランドでも、キヤノン、ソニー、ニコンには及ばなかった。日系3社は地域ごとに人気の傾向が異なり、華南と東北ではニコンが人気、華中ではソニーが人気、その他の地域ではキヤノンが人気という結果となった。

鉄道の待合室。地下鉄ほどではないがスマートフォンユーザーもチラホラ
都市農村別デジタル製品の所有率

春節を前に列車予約ソフトが人気で、政府鉄道部の予約サイトがパンク

 春節になると人々は一斉に故郷に戻るが、ここ数年は「並ばずに買える」ことがアピールポイントの中国政府鉄道部による公式の鉄道予約サイトが登場し、鉄道部が「今年こそシステムに問題ない」と公言しては、アクセスが推定以上に多くインフラが不十分で、多くの人が予約できなかったというオチを繰り返していた。

 今年もどうも予約サイトこそ用意されているが、サイト内の予約ボタンを押しても繋がらないことが多く、ネットユーザーすべてが気持ちよく利用できることはなかった。

 今年こそ確実に快適に切符を予約完了させようと、複数ベンダーから「予約成功画面が出るまで、入力フォームを自動的に埋めて、ひたすら予約ボタンを押す」という鉄道予約用のプラグインやソフトがリリースされたことが理由の1つとして挙がっている。

 企業では、日本にもキングソフトという名で進出した金山軟件は積極的で、春節列車予約バージョンのブラウザーをリリースし、積極的に広告を展開し、多くの利用者を確保した。

 中国のIT系メディアも、庶民の習慣に直結するこの話題だから、お勧めのソフトやプラグインを積極的に紹介。「VPNを通して海外からアクセスすると予約しやすい」という話も出てきた。また、春節のチケット購入代行業者も出現。前述のソフトやプラグインを利用するのは一緒だが、できる限りの高速なネット環境とPCを用意することで、高確率でチケットの購入ができるという仕掛けだ。

 今年の鉄道部の列車予約サイト「12306」では、最大で20万人が同時にアクセス、1日のアクセス数は15億回に達し、例年同様アクセスが非常に難しくなった。乗車の12日前から予約ができるが、片道だけでなく数日後の帰りの便もまたチケットを確保しなくてはならないため、予約にはかなり苦労していた。

 こうした状況から鉄道部は、ブラウザーをリリースする各ベンダーに対し、プラグインの使用を止めるよう通達したと中国メディアは報じている。

 中国メディアはフリーソフトとして列車予約プラグインをリリースした開発者にも取材している。「若干の寄付もあるが、金目当てではない。オフィシャルサイトが使いづらいのでもっと使いやすいものを作った。喜んでくれればそれでいい」と開発者は答えている。これについては、ネットユーザーの反応を見ても「鉄道部のサイトの作りがお粗末」という意見が多かった。

 春節期間の鉄道切符の予約は、電話と窓口とインターネット経由でできるが、今年は35%がインターネット経由だったという。

春節の鉄道予約の問題に、2007年には「2010年に解決」、2009年には「2012年に解決」、2010年には「2020年に解決」という鉄道部のコメントが話題になる
切符オンライン予約攻略特集のサイトまで登場

「中国は2049年にあらゆる面でアメリカを超える」という調査結果が嘲笑される

 1月のネット世論を見るに、連日日本が尖閣問題における対中国でのコメントがされる度に、中国のポータルサイトが取り上げては大きな話題となった。一方で尖閣問題とならんで、中国の大気汚染も日本では話題になったが、こちらはあまり取り上げられなかった。

 他の話題では、中国科学院が「現中国が100年を迎えたときにあらゆる面でアメリカを超え、中華民族は偉大なる復興をすることだろう」というレポート「国家健康報告」を発表し、話題になった。具体的には「中国は生産型労働型国家で青年期にあたる一方、アメリカは消費型寄生型国家で更年期にあたり、2007年には中国国家の健康は既にアメリカを超えた。2019年までには経済規模でアメリカを超え、2049年には国際地位でアメリカを超えるだろう」というもの。

 これに対し、ネットでの反応は嘲笑のコメントばかりとなり、Yahoo中国における「2049年にアメリカ超えをすると思うか」というアンケートにおいては、「信じる」が100票超、「よくわからない」が60票に対し、「信じない」が2600票超となった。報道メディアも、「中国科学院の担当者が政府に媚びを売るためだけの非科学的なレポート」とバッサリ斬り捨てていた。

2049年に中国がアメリカを超えると報じる報道。昔の画像の引用に冷ややかな側面
大気汚染も話題になったが、それ以上に尖閣問題の話題が目立った

宅配業者による個人情報を収集を問題視

 1月14日、中国公安部が中国全土21の省で、個人情報を不正に取得した業者逮捕に一斉に動き、1152人を逮捕した。昨年12月に公安部が個人情報売買絡みの犯罪の専門部署を立ち上げてからのはじめての大々的な一斉捜査となった。

 中国各メディアの情報によると、一例としてオンラインショッピングやオンラインバンキングがますます盛んになる中で、宅配業者のスタッフが、銀行からの手紙などから生活に余裕がありそうな人の個人情報を取得、それを集めて1件10円未満の単価で詐欺を行う別の企業に販売するのだという。個人情報を購入した企業は、銀行などになりすまし高価そうなニセモノを売りつけることがよくあるのだそうだ。宅配業者の本業での収入だと厳しいが、個人情報販売もすると、業者が1回に数万件の個人情報を買ってくれるのでしばしば大きなボーナスが得られるのだという。

 公安部の発表によると、宅配業者だけでなく、銀行や電信企業や教育業者や医療関連企業ほか、様々な業界で個人情報は売買され、蔓延している。一連のニュースにより、記事の読者は一番のやり玉に挙がった宅配業者に不審の目を注いだ。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。