山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿
ネット配信される日本のアニメが規制対象に ほか~2015年3月
(2015/4/17 06:00)
本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。
ネット配信される日本のアニメが規制対象に
3月31日、中国政府文化部は、一部のアニメの描写に問題があるとして、動画サイト23サイトを処分リストに入れた。海外コンテンツ配信に注力する「土豆(TUDOU)」を筆頭に、「優酷(YOUKU)」「愛奇藝」「楽視」「搜狐」「酷米」「騰訊視頻」等の著名動画サイトが含まれる。このタイミングと前後して、中国向けに配信されている多数の(すべてではない)日本のアニメが見られない現象が起きている。
中国文化部のプレスリリースで、その具体例を挙げている「BLOOD-C」はアニメ内の血が飛び散るシーンなどの暴力的表現があり、「残響のテロル」は爆破装置制作などのテロ誘発表現があり、「学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD」はポルノ的表現があると指摘。そうしたアニメが「暴力やテロを煽り、ポルノ要素があり、社会モラルに重大な危害を与える」としている。
中国中央電視台(CCTV)の動画ニュースでは、問題があるとするアニメのリストが映っていた。確認できるだけで「寄生獣」「DEATH NOTE」「進撃の巨人」「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」「僕は友達が少ない」「東京喰種トーキョーグール」など45タイトルが記されており、中国のアニメファンがそのリストに注目した。
中国政府、「互聯網+(インターネットプラス)」を国家戦略に
年に一度の全人代(全国人民代表大会)の開幕式において、李克強首相による政府活動報告の中で「互聯網+(インターネットプラス)」行動計画が発表され、話題となった。
この互聯網+とは、クラウドコンピューティングやビッグデータを、今までインターネットがあまり普及していない業界にも浸透させ、個人や社会を管理し、(中国政府が考える)より良い社会を創ろうというもの。また、中国のネット企業の海外進出も推進する。オンライン化があまり進んでいない業界として、医療や車を挙げているが、あくまで一例であり、全産業をクラウド化してビッグデータを活用していくだろう。このために400億元の国家基金を設立した。
互聯網+を提唱したのが「騰訊(Tencent)」のCEOである馬化騰氏だ。ほぼ時を同じくして、「百度(Baidu)」のCEOである李彦宏氏も、ほぼ同様の「中国大脳」を提唱した。どちらもクラウドやビッグデータを活用する点では変わらないが、中国大脳は、互聯網+に「米国のインターネットの発展がそうであったように、軍によるインターネットの発展をまず優先する」という考え方が加わる。
現在、SNSの「騰訊」、検索の「百度」、ECの「阿里巴巴(Alibaba)」の“BAT”と呼ばれる3社が、その資金力やユーザー数にものをいわせて多方面にサービスを展開し、クラウド&ビッグデータを活用している。SNSの騰訊と検索の百度とECの阿里巴巴と書いたが、BAT各社が相手の土俵に入り、それぞれ自社アカウントだけでおおかたのサービスが提供できる状態となっている。つまりBAT各社が、自社ユーザーのさまざまなサービスの行動記録を抱えるようになっている。
ちなみに3社の影響力は大きく、3月には阿里巴巴のCEOである馬雲氏はインドのモディ首相と会談し、阿里巴巴式ビジネスを語り、百度の李彦宏氏はビル・ゲイツ氏やPayPalの前身のX.comを設立したイーロン・マスク氏と成功について語り合うなど、国際的に露出が目立ってきている。後者の会談の際には、3者は政府手動で環境をつくることは重要だという意見で一致した。
この3社が実質、中国政府が後押しする互聯網+を実現していくだろう。
旅行サイトによる「海外1元ツアー」、政府が禁止に
旅行ツアーを扱う人気サイト「同程」と「途牛」が出している1元ツアー販売が政府の注意により終了した。
近年の中国経済の成長で、毎年、前年比で数百万人規模で海外旅行者が増加。また、オンライン旅行予約サービスの売上における、海外旅行の比率は年々上がっている。こうしたことから、オンライン旅行予約サービスの中で、海外旅行ツアーをはじめとした海外旅行予約サービスが台風の目となっている。
競争が激化すると、お約束のように起こるのが度を超えた低価格競争だ。例えば近年では、タクシー配車サービスで、利用の度に運転手と利用者に金一封「紅包」をプレゼントした。また、春節には各社が自社サービス囲い込みのため紅包をばらまいた。特に力を入れた「騰訊」は5億元を春節にネットユーザーにばらまいたことが明らかとなっている(うち税金が1億元)。
話を戻そう。ネット限定の海外ツアー競争においては、「携程」「途牛」「驢媽媽」といったサイトが、一部のツアーを1元で提供。また、一部の入場券や国内ツアーにおいても1元で提供した。特に将来伸びることが期待されるモバイル向けサイトで、このキャンペーンを強く推進した。1元サービス提供により、「同程」はユーザー数を1000万増やした。
もちろん1元で提供する海外ツアーだから、お土産屋で拘束するなど仕掛けがある。しかも「旅遊法」ですでに禁止されている行為だ。そのため中国政府から注意が入り、すぐにサービスを止めたわけだ。注意を受けるまでNG行為を続け、ユーザーを一気に獲得したわけだが、こうした行為は他のインターネット企業もよくやること。各地の観光地の入場券1元販売は旅遊法に触れていないとし、引き続き販売している。
Yahoo!、中国から撤退
Yahoo!中国(雅虎中国)が北京にあるR&Dセンターを閉鎖し、約350人のR&Dスタッフを解雇して中国から撤退することを発表した。Yahoo!は去年の10月より米国以外で700人から900人ともいわれるスタッフを解雇している。撤退発表以降、「yahoo.cn」にアクセスすると、シンガポールのYahoo!サイトにジャンプするようになった。スタッフは解雇されたが、ネット企業が集中する北京だけに、各社によるスタッフの争奪戦が行われた模様。
Yahoo!中国は、百度が台頭するまでは、Googleを超え、中国の検索市場で最もシェアの高いサービスであったが、ここ数年はシェアは1%にも満たない状況だった。中国にある検索サイトといえば、ほぼすべての検索サービス利用者が百度を利用し、それと併用して「捜狗」と「好捜」を利用する人もいるという状況。中国国外産の中国向け検索サービスでは「Bing(必応)」が残るのみ。
輸入品のオンライン通販、EC大手がてこ入れ
3月6日、勢いに乗る阿里巴巴系のB2CのECサイト「天猫(Tmall)」に、Amazonの旗艦店が登場した。Amazonは中国市場では、すでに現地企業と提携した「卓越亜馬遜(卓越Amazon)」というサイトがあるが、このサイトは卓越抜きのAmazonの出店となる。AmazonはKindle旗艦店をすでに天猫に出店していて、それに続く出店となった。
天猫のAmazonでは、食品、靴、おもちゃ、ベビー用品、調理器具を中心に、従来の卓越亜馬遜でも扱っていた輸入品販売をアピール。特にこの1、2年で注目されるようになった輸入商品に強い店だと認知されたいようだ。
Amazonとは別に、近年の輸入商品のニーズから阿里巴巴は韓国に物流センターを確保。物価と所得が上昇する中国で、相対的に輸入商品が買いやすくなる中、日本を含め多くの国にECサイトは手を伸ばしていきそうだ。
中国のPM2.5問題を訴えた講演動画「穹頂之下」に人々が注目
中国のPM2.5に関する大気汚染問題を、プレゼンテーションとドキュメンタリー映像を交えて訴える、元CCTV女性記者の柴静氏による講演動画「穹頂之下」が突如、中国のニュースサイトで公開された。100分を超す動画ながら、その再生数は2日間で1億を突破し、その後も動画が公衆の場で流れれば、多くの人が足を止め、真剣に見守る姿が見られた。これだけ大がかりで影響力のある動画なのだから、バックがいるという分析も。穹頂之下はさまざまな言葉に翻訳されていて、日本語字幕版もあり、視聴をお勧めする。
オンラインでの語学学習市場が急伸、日本語も人気
調査会社のiResearchは、中国のオンライン語学学習者に関する調査結果「中国在線語言教育行業研究報告」を発表。2013年と2014年と比較して、就学前教育の成長が鈍化したのとは対照的に、語学教育と職業教育の市場が急成長しているとした。2014年末の時点で、オンライン語学教育の市場規模は200億元(4000億円)弱で、利用者は1500万人弱。
海外旅行者や海外留学をする学生が増えたことが、語学教育が伸びている社会的背景と分析。幼児や小中学生よりも、若い社会人と大学生の利用が多い。英語(44.7%)が最も人気で、次いで中国語(28.7%)。それに続くのが日本語(11.4%)、そして韓国語(5.2%)だ。日本語と韓国語は、仕事や学校での目的ではなく、個人的趣味で利用する割合が高い。パソコンやスマートフォン用アプリで勉強し、オフラインでフォローする勉強法が主流のようだ。