山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国政府の海事機関を狙う国際的ハッカー組織「OceanLotus」が明るみに ほか~2015年5月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

2大ECサイトの「天猫」と「京東」、日本の商品を中国で販売する「日本館」をオープン

 若干早いが、今年前半の最大のネットトレンドは、中国人がオンラインショッピングで外国の製品を購入する“越境EC”だろう。越境ECは去年以前からあったが、今年はECサイトの大物である「阿里巴巴(Alibaba)」のB2Cサイト「天猫(Tmall)」による「天猫国際」や、それに続くB2Cサイト「京東商城」や、「卓越亜馬遜(Amazon中国)」が、越境ECに本腰を入れるとあって話題となった。越境ECが話題とあって、ほかにも多くの企業が越境ECサイトやサービスで新規参入している。低価格実現のため、人の手で運び、関税を払わず中国に送り届ける商習慣はなくならず、この習慣を変えられるか否かが鍵となろう。

 爆買いの対象国として、中国人の間でも日本の商品に注目がさらに集まる中、6月1日に天猫は「天猫国際日本館」を、京東商城は「京東日本館」をオープン。どちらも中国で得るのが難しい信頼を武器にするサイトだけに、まずは日本の実績ある有力メーカーや小売企業と提携して出店してもらい、だんだんと販売店舗を拡大していく模様。先立つこと5月末には、Yahoo! JAPANが、天猫や天猫国際への出店を、顧客誘導も含めサポートするサービスの検討を開始したと発表した。今後、日本での爆買いがオンラインショッピングサイトを舞台に行われるだろう。5月中旬には、阿里巴巴が、天猫国際の「韓国館」をリリースすることも発表している。買い物先としてニーズの高い日本と韓国でまずビジネスを拡大する考えだ。

 調査会社「iResearch」による最新の統計を見ると、2015年第1四半期の中国EC市場は前年同期比45.2%増の7574億1000万元となっていて、「淘宝網」などのC2Cと、天猫や京東商城のB2Cが半々となっている。中国のEC市場の伸びは顕著で、かつB2Cが目立って伸びている。

2015年第1四半期における中国B2Cサイトのシェア

不謹慎な東京大空襲ゲーム登場にネットで賛否両論

 大手ポータルサイト「網易(NetEase)」による、東京大空襲をテーマにしたゲームとその広告が話題になった。東京や大阪など15の都市を爆撃し、爆撃した都市の数によってポイントが上がり、終了すると「世界の平和に貢献してくれて感謝する」というメッセージが表示されるというもの。また、網易は「歴史のスペシャルコンテンツは面白い。ゲーマーにも伝わるよう作った。8割以上超えたら真の愛国青年だ」というメッセージを配信。これに対し、ネットユーザーが「おかしい」と意見すれば、あくまでゲームの正当性をアピールする反論もあり、ネット上だけ見れば、全体では呆れる書き込みが目立つも、愛国系掲示板では賛美する書き込みが目立った。

 香港メディアの「サウスチャイナモーニングポスト」で日本で伝わっているという話が出ると、中国メディアからは、その記事を引用した「東京大空襲ゲームはよくない」とする論調の記事が掲載された。現在はこのゲームの存在は確認できないが、話題になっていない対日戦争ゲームはスマートフォン用ゲームを含め、まだまだある状況だ。

東京大空襲のゲーム紹介

配車サービスでトラブル続出

 5月は、中国各地で配車サービスのトラブルが目立った。ルール作りができていない中で、商習慣を無視し、既存のタクシー業者が反発する事件が次々に発生した。特にシェアの高いタクシー配車サービスの「滴滴打車」や「Uber(優歩)」が叩かれている。

 5月28日には、鄭州で地場のタクシー運転手が滴滴打車を活用して客を奪う車を囲んで、車を破壊する事件が複数発生。既存のタクシーの商習慣を変えるUberに対して世界各地でデモが起きているが、中国においてもシェアナンバーワンの滴滴打車に対して同様のことが起きている。

 5月11日に洛陽では、洛陽市内をカバーしない洛陽市郊外のタクシーが、滴滴打車のタクシー配車アプリを活用して乗客を乗せている実態が発覚。洛陽市内で政府担当部署が滴滴打車の現地事務所を調査し、一時閉鎖する事態があった。5月6日に武漢では、武漢のタクシー管理局が滴滴打車に対し、白タクが滴滴打車で客を集めていることを指摘。運転手側の徹底管理を依頼した。2014年に中国に進出してから1年が経過するUberも、広州において非法な営業活動をしているとして、政府担当部署がUberの現地事務所を立ち入り調査し、サービスを一時停止した。

 中国では、あらゆる業界でインターネットを活用するようにする「互聯網+」の号令を聞く。それはタクシー業界とて例外ではない。既存のタクシー業界とタクシー配車アプリの衝突に対し、厦門(アモイ)では、地場の複数のタクシー会社が連合で共通のオフィシャルアプリやタクシー予約電話を用意するなど、各地で試行錯誤している。

インターネット、中学生から利用の傾向。大都市ではスマホ/タブレットを所持する幼児も

 中国のリサーチ会社「iResearch」は、沿岸部など比較的豊かな22省4市を対象とした子供のインターネットについてのレポート「2015年中国青少年及児童互聯網使用現状研究報告」を発表した。これによれば、インターネットを利用する子供がその利用を開始した時期においても「5歳以下」(56%)、「6歳~8歳」(29%)と低年齢のうちに利用していて、また、大都市ほどその開始時期は早いという。インターネットを利用する15歳以下の調査対象のうち、日常的にPCやスマートフォン/タブレットに触れる子供は調査対象の91.8%に及ぶ。親としては、インターネット利用開始は平均して7歳が理想としているが、実際は平均して5歳から子供にやらせている。

 8歳以下と9歳以上で傾向が異なり、8歳以下ではデバイスとして主に親のスマートフォンやタブレットを利用。9歳以上では、自身でデバイスを持ち、スマートフォンやタブレットのほか、加えてPCも利用する割合が高くなる。所得の高い上海・北京・深セン・広州では子供専用にネットデバイスを買い与える親の割合が増え、4割程度となる。1週間における利用は平均3、4日で、1日あたりの利用時間は1時間超。利用用途については、ゲームや動画・音楽視聴がメインだが、前述の所得の高い4都市では漫画やテキストなどを電子ブックで見る割合が目に見えて高くなる傾向がある。

 また、CNNICは、24歳以下のネットユーザーに限定した「2014年中国青少年上網行為研究報告」を発表。これによると、24歳以下のネットユーザーは、同世代全体の79.6%にあたる2億7700万人。6歳から11歳までの利用率は7.5%、12歳から18歳での利用率は42.8%、19歳から24歳までの利用率は49.6%で、中学生になってからインターネットを利用し始める人が多いそうだ。家での利用がほとんどで、インターネットカフェ利用者は全体の17.7%となっており、年々低下している。利用デバイスは携帯電話・スマートフォンが87.6%、デスクトップPCが70.1%、ノートPCが44.0%となっている。

 小学生の利用者は簡単なネットゲームをやっているが、中高生になると難しいゲームを遊んだりSNSをするようになり、大学生になると加えてオンラインショッピングを利用するようになる。年をとればとるほどインターネットで意見を書きたいとする傾向が弱くなり、インターネットが信用できないという傾向が強まる。インターネット利用当初は正義感が強いが、インターネットを利用するにつれ、現実的になるというわけだ。

幼少期は動画視聴、小学生の時はゲームで、中学生になるとSNSなどが利用目的となる

中国政府の海事機関を狙う国際的ハッカー組織「OceanLotus」が明るみに

 セキュリティソフトなどのベンダーである「奇虎360」の研究機関「天眼実験室」は、中国政府を狙ったハッカー組織「OceanLotus(海蓮花)」についてビッグデータを駆使して分析した結果を発表した。中国政府のニュースサイトでもこれを紹介し、「中国はサイバー攻撃の最大の被害国」と訴える。

 レポートによると、2012年から2年間はトロイの木馬による散発的な攻撃があったが、それ以降アクティブになり、中国政府の海事部門各所に大規模な攻撃を行った。少なくとも6カ国からC&Cサーバーをリモートコントロールし、10を超える国から攻撃したとしている。特殊なトロイの木馬により、海事部門のシステムに入り、機密資料を盗み取っているとした。被害は中国、それも北京と天津に集中する。

 攻撃は複雑、かつ攻撃目標は明確で、一般の民間のハッカー組織ではありえず、名指しこそしなかったが、外国の政府がかかわっていると指摘した。米国の外交問題評議会「CFR(Council on Foreign Relations)」は、「奇虎360のレポートを読んだ人なら分かるが、Mandiant社やCrowdStrike社の中国サイバー攻撃レポートを模したもの。中国も本気で抗するつもりはないように思える。米国のレポートはクライアントありきだが、中国のレポートはクライアントはなく、調査員の米国へのステップアップに利用しているのではないか」と分析している。

奇虎360、セキュリティテストで不正が発覚し、AV-Cから撤退

 アンチウイルスソフトを評価するAV-Comparatives、AV-TEST、Virus Bulletinは、中国で認知度が急上昇している「奇虎360」製セキュリティソフトを認めず、AV-Comparatives Independent(AV-C)の評価テストのソフトウェアリストから外すことを発表した。奇虎360は、自社のエンジンとは別にBitDefenderエンジンとAviraエンジンを搭載しているが、本来は自社エンジンがデフォルトで利用されるのに、テストの際にはBitDefenderエンジンとAviraエンジンがデフォルトとなっていて、実際に利用される製品と別物であったため。

 テスト対象外になったことに対して奇虎360は、「中国市場で支持されている」「AV-Cで過去最高の評価をされていて、インチキはしていない」「各国には各国のセキュリティ事情があり、同じ結果が出るわけがない」「SymantecもAV-Cから外れている」とし、「決定に不満だが、AV-Cから自ら外れよう」と反論して脱退を示唆。奇虎360は、新興ながらユーザーを多数抱えるネット企業だが、過去にはお騒がせ事件をあれこれ起こすことで認知度を高めている一面はある。

民間による天気予想の公開を禁止に

 気象観測愛好者など民間による天気予想が禁止となり、ネットに書き込むなどルールを破った場合、最大5万元の罰金刑となる。これは5月1日に施行された「気象予報発布与伝播管理方法」によるもの。一部の中国メディアによれば、東日本大震災の時に塩で一儲けしようとする投資家により、放射能汚染により海を伝って塩が汚染するというデマが流れ、塩が高騰する塩騒動が起きたことを引き合いに出し、天気予報などのデマを抑えるための政策だと分析する。

 今までの中国のインターネット習慣を振り返るに、今や北京などでは、晴れて青空となることが珍しいことから大きなニュースになるが、「明日は天気がよくなるだろう」という民間の予想も違法行為になり、外国の天気予報のサイトや天気の注意喚起をする在中国大使館のサイトがアクセス禁止になる可能性はある。

2014年7月の1カ月の北京の天気。こうした天気観測と予測も自由にできなくなるかもしれない

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。