山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

ネットユーザーの半数以上がネット詐欺の被害に ほか~2015年6月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

4Gユーザーが2億を突破

 情報省にあたる「工業和信息化部(工信部)」が発表する月例レポートで、5月に契約数ベースでの4Gユーザーが2億を突破し、2億77万となったことが判明した。年初より、主に3Gユーザーにより月2000万人が4Gに移行している。3Gでは、TD-SCDMA方式の中国移動(China Mobile)、W-CDMA方式の中国聯通(China Unicom)、CDMA 2000方式の中国電信(China Telecom)がシェア争いをしていたが、4Gユーザーはほぼすべてが中国移動のTD-LTE方式を利用している。3Gユーザーは減少しているが、いまだ契約数は4億5584万となっていて、まだまだ移行が進む。携帯電話加入者総数は12億9233万、モバイルインターネットユーザーは8億9694万。

 一方、固定回線契約数については、FTTHが8596万で月400万のペースで増加、ADSLは7667万で月300万のペースで減少している。

 契約者数については大きな増加は見られない一方で、既存の契約者の環境改善が目立って見られる。

3G/4G加入者数と占める割合
8Mbps以上の回線またはFTTH加入者数と占める割合

スマホユーザーは生活サービスや金融サービスの活用がメイン

 友盟はスマートフォンの利用実態についてのレポート「2015年Q1移動互聯網報告」を発表した。スマートフォンの利用メーカー別では、サムスンが2014年5月には23.8%だったのが、2015年5月には18.6%にまで下がった一方、「小米(Xiaomi、特に安価なブランド『紅米』が人気)」が10.0%から17.3%へとシェアを上げたほか、「華為(Huawei)」「歩歩高」「OPPO」「酷派(Coolpad)」など中国メーカー数社がシェアを伸ばした。

Androidの利用端末比(友盟)

 スマートフォンでの利用用途では、一昨年から去年にかけてSNSが一気に普及したが、去年から今年にかけては投資やローンやオンラインバンキングなどの金融用途や旅行用途が一気に普及した。去年の9月の段階では、スマートフォンでゲーム、電子ブック、ニュースチェック、ユーティリティを最も利用していたが、去年の年末から、生活に役立つアプリほか、前述の投資系や旅行系アプリの利用頻度が最も高くなった。スマートフォンがエンタメ系デバイスから生活に役立つデバイスへと認識が変わってきているようだ。

 金融系アプリの利用を促したのは中国株の高騰であり、特に普段スマートフォンを触ろうとしなかった中高年の利用が目立った。6月末から株価は一気に下落したが、過去には中国株のバブル崩壊で、オンライントレーディング利用者が、インターネット利用者数増加の中で減少するという事象が見られた。ただ筆者の知見の限りでは、スマートフォンを利用しだした中高年が旅先でスマートフォンで写真を撮ってSNSで送るといったことをしており、金融系アプリ離れはあってもスマートフォンは手放せなくなるのではと予想している。

ネットユーザーの半数以上がネット詐欺の被害に

 工業和信息化部は、ユーザーのセキュリティ意識についてまとめた「我国公衆網絡安全意識調査報告(2015)」を発表した。ネットでの詐欺の被害は、調査対象の25万人超のうちの55.18%が経験。

 パスワードについては、予想できるものが多く、「誕生日や電話番号や名前を使ったパスワード」(44.42%)、「abcabcや123456などのパスワード」(10.88%)、「000000や111111などのパスワード」(5.54%)が多い(筆者の経験上では、「8個の8」こと「88888888」や、「1から8まで」の「12345678」が多いように思える)。また、「多くの利用サービスで同じパスワード」(75.93%)とし、パスワードの変更について「問題発生後パスワードを変えた」(64.59%)が最も多く、他には「定期的に変える」(18.36%)、「一度も変えたことがない」(17.05%)となった。

 アプリのダウンロードについて、「オフィシャルサイトやプリインストールされたアプリストア経由」(71.68%)が多いものの、さまざまな悪意あるソフトが入っていて危険と警鐘している「検索サイト経由や、直リンクからのダウンロード」も少なからず利用者はいる。

 また、近年普及し、どこでも見るようになったQRコードについてむやみに利用することへの危険性が指摘されているが、「考えずによく利用する」(36.96%)、「安全か危険かわからず時々利用する」(46.31%)と、利用する人は多く、「危ないので利用しない」(16.73%)という人は少ない。また、情報が抜き取られる可能性があると指摘されている公衆無線LANについても、80%超が利用し、5%弱はECサイトや金融系サイトを利用しているとし、特に後者には危険だと警鐘を鳴らす。

 中国でインターネットを利用する際、以上に挙げたことに注意していれば、個人情報が漏えいしないというわけではない。赤字覚悟の競争激しいジャンルのECサイトでは、個人情報を売って利益の足しにする店が当たり前にある。また、最近では競争激しいUberのような配車サービスでも、乗客の個人情報を販売されている。

公衆無線LANで百度と騰訊が競う

 「百度(Baidu)」と「騰訊(Tencent)」がスマートフォン向けポータルでより多くの利用者を呼び込もうと、サイトの入口の1つである公衆無線LANを強化した。

 百度はバスに公衆無線LANを提供する16Wifiと華視互聯の2社に大規模な投資を行うことを発表。投資額は華視互聯に対して7000万元(約14億円)、16Wifiに対しては不明。16Wifiだけで北京、上海、南京、佛山等城などの都市の3万台超のバスをフォローする。

 騰訊は同社のチャットソフト「QQ」において、6月下旬のアップデートで「Wifiパスワードシェア機能」を追加し、この機能を活用するキャンペーンを実施。イメージとしては専用ルーターを利用しないFONのようなサービスをQQの会員同士(=ネットユーザーの大半)で行うものだが、警戒したユーザーからの反発があり、この新機能をすぐに取り下げている。

 iResearchの調査レポート「2015年中国商業WiFi行業研究報告」によると、2014年のモバイルインターネットユーザーで、公衆無線LANを利用するは全体の75.6%となったという。

正義のメッセージが微信(WeChat)を駆け巡るもユーザーは疑問符

 6月17日、騰訊(Tencent)のメッセンジャー「微信(WeChat)」で「児童や女性などの人身売買業者に死刑を」という画像が、数千万ともそれ以上ともいわれる大量のアカウントに転載された。広く知られる社会問題であるため、多くのユーザーが正義の心で転載を行った。

 ところがユーザーの慈善による行動ではなく、これを配布したのは珍愛網というサイトであり、同サイトがユーザーを獲得したいがための営利目的の行動だという疑惑が後に上がった。過去には倒れた老人を助けると老人が突然「この人が倒した」と叫ぶ例が絶たず、若者が老人を一切助けようとしなくなったということもあった。善意で行った行為が実は営利目的ということが何度も続くようであれば、正義の拡散に中国人は見向きもしなくなる可能性がある。

「転載された児童売買者に死刑を」というメッセージ

ネット検閲員の情報を漏えいさせたハッカーを逮捕

 5月30日、上海の公安局は、共産党青年団のメール13GBを取得し不特定多数に配布したとして、上海在住のハッカーを破壊計算機信息系統罪で逮捕した。メールには同団体のさまざまな活動や、ネット検閲員のリストなどが含まれる。また、このハッカーは長期間にわたり、VPNなどのネットの壁越えの技術やソフトを紹介していた。

 去年より、中国のネット検閲機関のサーバーから情報を盗み取られ、内部資料が漏えいする事件が何回か起きている。

上海の政府関係者へのハッキング予告ツイート

主要サービスで障害が発生し不安の声、「詫び紅包」を望む声も

 6月3日、ニュースサイトの「中国新聞網」がハッカーの攻撃によりサイトが書き換えられる事件が発生した。普段はあまり障害は聞かないが、5月に障害が連続で発生していたため、ユーザーは敏感になっていた。

 5月11日の夜8時から、大手ニュースサイトの「網易(NetEase)」において、障害により同社のニュースサイト、検索サイト、ゲームなどすべてのサービスが翌日の夜2時まで停止した。5月27日には「支付宝(Alipay)」がログインできなくなり、その残額を活用した投資信託の「余額宝」は残高が表示されなくなった。支付宝は、杭州で地中を何者かが掘ったため光ケーブルが断線したことによる影響だと発表。また、翌5月28日には旅行予約サイト大手の「携程(Ctrip)」がスタッフの操作ミスで12時間以上利用できなくなり、1300万元(2億6000万円)程度の損害を出した。

 連続で発生する障害に、「脆弱すぎではないのか」と心配する声が多く上がった。また、「障害が発生したからこそユーザーにおわびの紅包(金一封)を送るべきだ」という声も上がった。

eIDを活用したネット身分証導入を検討

 ネットユーザーの個人情報漏えい防止がために、すでに発行され、戸籍ある国民全体にいきわたっている身分証とは別に、独立したインターネット身分証番号「eID」を発行する。公共サービスをスタートするためには、漏えいしやすい既存の身分証のシステムがネックだとし、より強固なセキュリティのシステムを導入するとともに、公共サービスとネットの融合を加速させるようだ。eID自体は2009年より研究開発が始まり、2009年には一部サービスで試験的にサービスがスタートしていた。

ネットユーザー付帯義務がつきそうな「eID」

ネット上で流れる罵詈雑言も検閲対象か

 中国文化網絡伝播研究会で、ネット世論をチェックする「人民網輿情研究室」が、低俗なネット用語ランキングを発表した。非常に汚い罵声がSNSだけでなく、記事のタイトルにも使われているということで、研究会ではこれを問題視。調査によれば、特に公務員やガードマン、警察、専門家、医者が罵る対象となっているとしている。学生がネットユーザーの多くを占め、言葉遣いの流行を作り出していることから、退役軍人や元共産党員、元教員などの年配者が監視し、彼らを教育すべきという意見が出ている。

低俗ネット用語ランキング

バイドゥ、東大発ベンチャーのPoplnを買収し、百度のネイティブ広告を強化

 日本のバイドゥは6月8日、ネイティブ広告事業を展開するpopInの経営統合を行った。popInは、東京大学エッジキャピタルの支援を受け、代表の東大大学院の程涛氏が設立したベンチャー企業。記事コンテンツの読了測定技術「popIn READ」や、ネイティブ広告に対応したコンテンツ発見プラットフォーム「popIn Discovery」などを提供する。popInの技術を中国の百度で広告プラットフォームに採用し、広告精度の向上を図るほか、百度のネットワークを使ってpoplnの世界展開を支援する。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。