インタビュー
「.自社名」トップレベルドメイン、創設するにはいくらかかる? 14年ぶりに「新gTLD」申請受付開始へ
インターリンクに「2026年ラウンド」の見通しなどを聞いた
2025年12月24日 10:55
2012年以来となる「新gTLD」の申請受付が、2026年春に行われる見込みだ。
新gTLDとは、ドメイン名の「.com」や「.net」などのようなgTLD(generic Top Level Domain)として、一般的な単語や地名、あるいは社名やブランド名などの文字列のTLDを新たに設けて管理・運用できる制度。ドメイン名・IPアドレスの割り当て管理を行うICANN(Internet Corporation For Assigned Names and Numbers)に申請し、審査を経て、実際に新設に漕ぎつけられる。前回の「2012年ラウンド」では、グローバルで1900件以上の申請があり、1200件以上の新gTLDが誕生した。日本から申請された新gTLDも70件以上あるという。
新gTLDでは、企業が自社・ブランド専用のTLDを運用できるということで、信頼性・独自性の確保やフィッシング詐欺防止の観点でもメリットがアピールされており、実際にインターリンクの「新gTLDコンサルティングサービス」においても、そうした面が強調されている。また、前回2012年ラウンドの申請受付から14年も間が空いたということで、今回の2026年ラウンドを逃したら次はいつになるか分からないと焦って申請を検討している企業もあるかもしれない。果たして、実際のところはどうなのだろうか?
新gTLDの申請・運用を目指す企業向けのコンサルティングサービスを展開する一方で、自らも新gTLD「.earth」「.moe」「.osaka」を運営しているレジストリでもある株式会社インターリンクでドメイン事業部ジェネラルマネジャーを務めるジェイコブ・ウィリアムズ氏に話を聞いた。(以下、新gTLDの利用状況・ドメイン名の登録件数などの数値はインターリンク調べ)
[目次]
「新gTLD」って何?誰が、どんな文字列を申請できる?
──誰が、どんな文字列を申請して、新gTLDを運用できるのでしょうか?
ICANNの目的は「ドメイン名登録者の選択肢と競争を促進し、安定性と安全性を維持する」ということです。新gTLDは、デジタルアイデンティティと自律性、信頼性などを実現する仕組みであり、ICANNが定めた要件を満たせば、企業・自治体・大学・コミュニティなど誰でも申請可能です。
文字列としては「企業・ブランド型」「一般文字列」「地理的名称」「コミュニティ型」に分類できます。
- 企業・ブランド型(例:「.sony」「.apple」など)
- 一般文字列(例:「.blog」「.xyz」「.store」「.app」「.earth」など)
- 地理的名称(例:「.nyc」「.tokyo」「.osaka」など)
- コミュニティ型(例:「.music」「.sport」など)
──2012年ラウンドでは、何件の新gTLDが申請・導入されたのでしょうか?
1930件の申請がありました。1409件がICANNの申請を通過し、1200件以上が導入されたことになっています。ただし、ICANNの公式サイトでは導入済みとしてカウントされていても、実際には稼働実態が確認されていないものも157件ありました。そのうち144件が企業・ブランド型で、契約手続きに時間がかかる間に担当者や企業の状況が変わり、実際には運用されずになくなっているケースも存在するようです。
──やはり、企業などが自社専用のドメイン名として運用しているものが多いのでしょうか?
「.com」などのようにユーザーがドメイン名を登録して利用できるオープンな新gTLDのほうが多く、審査を通過した1409件のうち、オープンな新gTLDが827件、自社専用のクローズドな運用のものが582件でした。
──「コミュニティ型」は、誰がどのように利用する新gTLDなのでしょうか?
例えば「.sport」は、GAISF(国際スポーツ団体連合)から申請されたもので、多数の国際スポーツ団体からの支持を受けて新設されました。この新gTLDにドメイン名を登録して利用できるのは、スポーツ関係者に限られています。また、「.pharmacy」は、認定を受けた薬局しかドメイン名の登録・利用ができないという制限を設けているため、ネットユーザーは「このTLDのサイトならば不正な医薬品の売買はない」と安心して購入できるようになります。このように、「コミュニティ型」はドメイン名登録者を特定のコミュニティメンバーに限定しているため、安心・安全なドメイン名空間を作ることができます。
──オープンな新gTLDの中で、ドメイン名登録数が多いものや、商業的に成功している代表例を教えてください。
ドメイン名登録数で言えば「.xyz」が813万件で、新gTLDの中で最多です。Googleの親会社であるAlphabetが自社サイトに「abc.xyz」を採用したことや、シリコンバレーのドラマで取り上げられたことで広く認知されるようになりました。
運用面での成功例としては、Googleが申請した「.app」が挙げられます。この新gTLDでドメイン名を登録して利用するにはTLS/SSLが必須という条件があるため、少しハードルが高い分、スパムや不正利用が少なく、ユーザーの定着率も良いため、ドメイン名登録数は約111万件あります。
また、「.club」も成功事例と言えます。「クラブ」という言葉は世界中で通じやすく、大規模なマーケティングを行って、ドメイン名の登録数を100万件まで伸ばしました。数名のチームで運用を開始した新gTLDですが、最終的にはGoDaddyレジストリに買収されています。
新gTLDの利用状況は?「.earth」「.moe」「.osaka」の事例
──インターリンクも2012年ラウンドで新gTLDを申請し、運用しています。どのような種類・用途で展開されているのか教えてください。
全く異なる性質を持つ3つの新gTLDを提供しています。
「.earth」は、“地球に優しいことをする”という意思表明をして利用してもらう新gTLDです。エコ、グリーン、オーガニック、ボランティア活動などを行う企業・団体・個人の利用を想定しています。
「.moe」(萌え)は、“日本のポップカルチャー発の文化的TLD”として展開しており、世界中のアニメファンやコスプレイヤー、アーティストらがポートフォリオサイトとして使うケースが多く、特定の文化圏――オタク文化で受け入れられています。
地理的名称の「.osaka」は、大阪府・市と連携して運営している新gTLDで、共通認識としてドメイン名登録数よりもコミュニティ重視の長期運営を目指しています。「.osaka」でドメイン名を登録して利用するには、大阪との“つながり”があることが条件となっており、地元企業・観光団体・行政機関などに利用されています。特に厳しい審査はありませんが、大阪とのつながりがあるかどうかをあとから確認し、不適切なコンテンツがあれば、レジストリが登録を削除できる権限を持つなどして、地域のブランドを守る仕組みになっています。
──ドメイン名登録数や利用状況はいかがですか?
「.earth」は2025年10月末時点で約4万件です。当初の計画よりは遅れていますが、更新率が70%以上と高く、これは「.com」「.net」並みの水準です。環境に配慮している企業、NGO、社会活動団体などで多く利用されており、登録数は毎月増加し、解約が少ないため、安定的に成長しています。
「.moe」は約1万6500件です。新gTLD全体の中で見れば決して多くはありませんが、ニッチな特定分野のTLDとして健闘していると考えています。国際的に根強い支持を得ており、海外での関心が非常に高く、アジア圏や欧米のアニメイベントなどで人気があります。
地理的名称の新gTLDは世界的に見てもドメイン名登録数が伸び悩む傾向にあります。「.osaka」も同様で、お店など地域の小規模なローカルビジネスでの利用が中心です。日本の地理的名称の新gTLDとしてはこのほかに「.tokyo」「.nagoya」「.yokohama」「.okinawa」などもあり、ドメイン名登録料を安価にして登録数を確保しているところもありますが、「.tokyo」以外は、似たような状況なのではないでしょうか。
──新gTLDを実際に10年以上提供してみての所感は? 成功のポイントや課題などがあれば教えてください。
全く異なる性質の3つの新gTLDを、弊社の小さいチームで同時にマーケティングするのは非常に難しかったですね。成功の鍵は“明確な目的”“コミュニティ”“継続性”で、それぞれのユーザー層に合わせた戦略と、認知度向上のためには時間と努力が必要です。
価格戦略も重要で、ターゲット層によって価格戦略が異なります。「.moe」の主なユーザー層である若者は価格に敏感なため、ドメイン名登録料を適切に設定する一方で、人気のある特定の文字列は通常よりも高く設定したプレミアムドメインとして提供することで収益を確保しています。これに対して「.earth」の主なユーザー層である企業・団体はそこまで価格に敏感ではなく、一度登録すると長く使っていただけるため、安定した更新料収入が見込めるビジネスモデルとなっています。
「.osaka」のような地理的名称は、ローカルコミュニティや自治体への強い働きかけがないと普及は難しいと感じています。当初は、例えば大阪にいるユーザーがウェブ検索した際は「.osaka」のドメイン名のサイトが優遇されるのではないかという予測もありましたが、そうした期待されていたような検索エンジンでの優位性はありませんでした。実際には、Googleなどの検索エンジンはドメイン名ではなくコンテンツの中身を見て判断しているためです。
しかし、インターネットの利用形態が“AI検索”に変わる中で、AIがドメイン名の意味(セマンティック)をどう解釈するかによって、チャンスが来るかもしれないと期待していますが、現時点では先が読めないのが実情です。
申請受付はいつから?今回を逃すと、また10年以上待たされる?
──次回「2026年ラウンド」の申請受付スケジュールは?
2026年4月に申請受付がスタートする予定です。正式な情報は、2026年ラウンドの「AGB(Applicant Guidebook:申請者ガイドブック)」を参照してください。
──申請を受け付ける新gTLDの分類は、前回と変更はないでしょうか?
分類は前回と同じですが、大きな変更点として、今回は「企業・ブランド型」という枠組みが正式に設けられます。前回はこうした枠組みは存在せず、企業が自社名やブランド名を申請する場合も「一般文字列」で受け付けたあと、「Specification 13」という仕様書を付けることで対応していました。今回は、最初から「企業・ブランド型」としての申請が可能です。
──それは、手続きや審査方法が他と異なるということでしょうか?
最初に用意する申請書類はほとんど一緒ですが、「企業・ブランド型」の場合は、追加の申請費用が500ドルかかります。また、申請を出したうえで、適切な商標等を保有していることを証明するための細かい手続きが必要です。
──ICANNに支払う申請費用は?
基本評価料は、1つのTLDにつき22万7000ドルです。
前述のように「企業・ブランド型」では、これに加え、追加費用として500ドルかかります。
また、「地理的名称」では、その文字列が地理的名称かどうかの審査費として1万8000ドル~2万5000ドル程度かかります。前述したように地理的名称の新gTLDはドメイン名登録数が伸びにくいうえに、この追加費用で申請コストが上がるため、今回のラウンドで申請するにあたっては慎重な判断が求められるでしょう。
──他に2012年ラウンドからの変更点はありますか?
新gTLDの申請処理システム「TAMS(TLD Application Management System)」が導入されます。2012年ラウンドでは一時的な使用を想定した申請処理システムでしたが、これを見直し、今後も継続的に使えるシステムとして構築されました。申請できない文字列を自動チェックで防止するなど、2012年ラウンドよりも透明・効率的に運用されるようになるはずです。
なお、申請の審査をする順序については、前回と同様、全ての申請を受け付けたあとに抽選(くじ引き)で審査の優先順位を決めるかたちになる見込みです。つまり、2026年ラウンドでも、申請が殺到した場合の処理順序は“運”や“言語”に左右される可能性があるということです。言語というのは、IDN(Internationalized Domain Name:国際化ドメイン名。アルファベットや数字以外の、例えば日本語や中国語などの文字を用いたドメイン名のこと)は“見本”としての意義があるため、抽選でも優先的に早く処理される可能性があるのではないか、という意味です。
──2026年ラウンドも、前回のように申請が殺到するのでしょうか? 申請数はどのくらいになると予想されていますか?
一部の専門家は2000件を超えると予想しており、ICANNでも費用構成を2000件ベースで算出しているため、そのあたりが目安になるかと思います。しかし正直なところ、前回ほどの申請件数にはならないとみています。私の予想では1500件から、多くても1900件の間でしょうか。
──2026年ラウンドの次の申請受付スケジュールは? 今回を逃すと、また10年以上待たされることになるのでしょうか?
次回以降のラウンドをより短いスパンで実施できるよう目指して仕組み作りが行われており、今後も定期的なラウンドが予定されています。ただし、次回ラウンドを開始するまでには、今回のラウンドの申請処理を完了させる期間が必要ですから、少なくとも2年程度はかかるのではないかと予想しています。「今回申請しないと、また10年以上申請できない」と煽っているコンサルタントの方も一部いらっしゃるようですが、次回まで10年も間が空くことはないのではないでしょうか。
というのも、AGBのセクション2.8において、今後のラウンドは定期的かつ予測可能な間隔で実施されるべきと明記されており、前のラウンドの評価やデリゲーションがまだ続いていても、原則として次のラウンドを開始できることも示されています。レビューやポリシー策定は独立したトラックで進むため、よほどの例外事由がない限り、次のラウンドを遅らせる理由にはなりません。
仮に、2026年ラウンドの申請受付が2026年7月ごろに終了した場合、申請文字列リストの確定と文字列変更期間の終了は同年秋ごろになると見込まれます。その後、ICANNが新規申請の受付に問題がないと判断できれば、セクション2.8の条件が満たされます。それらの条件が満たされるのは2027年4月~5月ごろの可能性が高く、その場合、ICANNの理事会はその後の2回目の会合までに次のラウンドの開始時期を発表できるため、2027年第3~4四半期に次のラウンドについてアナウンスされる可能性が十分にあります。
2026年ラウンドの次のラウンドがいつになるか、もちろん確定していませんが、このようにICANNが今後のラウンドを予測可能なサイクルで進める方針を示していることを踏まえると、2年後の2028年に開始されることも現実的ではないかと思われます。
新gTLDを実際に申請~運用するにはいくらかかる?
──ICANNへの申請費用のほかに、さまざまなコストがかかります。インターリンクの「新gTLDコンサルティングサービス」を利用した場合を仮定して、新gTLDの申請から運用までに実際にかかるコストを教えてください。
新gTLDにかかる費用は、1)申請からICANN契約、2)ルートゾーン登録、3)運用――の3つの段階に分けて考えると分かりやすいでしょう。インターリンクの「新gTLDコンサルティングサービス」では、これら3段階で総合的に支援するサービスを提供しています。以下、同サービスの対応範囲と費用をまとめました。
1)申請からICANN契約
[対応範囲]
- 申請書作成
- ICANN提出
- 評価対応
- 類似文字列調査
- ICANNとの契約手続き
[費用]
- 申請代行:150万円~/TLD
- ICANN申請料:22万7000ドル
[ICANNの追加費用]
- 企業TLD:500ドル
- Code of Conduct(行動規範):400ドル
- 地理的TLD:1万8000~2万5000ドル
- CPE(コミュニティ優先審査):5万~8万ドル ※競合時のみ
- 名前衝突リスクが高い文字列:最大15万ドル(例:2012年ラウンドの「.home」「.mail」)
2)ルートゾーン登録
[対応範囲]
- ルートゾーン登録準備
- システムテスト
- 運営ポリシーの策定・導入支援
- スタートアッププランの提出
[費用]
- 企業TLD:80~120万円
- 一般文字列:160~200万円
3)運用
[運用費用の目安]
- 企業TLD:年間290~400万円
- 一般文字列:年間500万円~
[ICANN年間費用(共通)]
- 固定費:2万5750ドル
- 5万件以上のドメイン名登録発生時:1件あたり0.25ドル
[データエスクロー費用]
- 企業TLD:3000ドル~
- 一般文字列:1万2000ドル~
※運用にはDNS、データエスクロー、コンプライアンス対応、Abuse対策が必要(新gTLDの種類によって異なる)。バックエンドのレジストリサービスプロバイダーは国内・海外の複数のプロバイダーから選択可能。日本レジストリサービス(JPRS)を含む日本国内インフラのみでレジストリ機能を運用する構成にも対応可能で、目的やセキュリティ要件に最適な技術基盤を選択可能。
今後も新gTLDを申請するチャンスはある?
──新gTLDの申請を検討している企業などに向けて、「新gTLDコンサルティングサービス」についてのアピールコメントや、アドバイスがあればお願いします。
「.earth」「.moe」「.osaka」という新gTLDの実運営経験に基づく現実的で誠実な支援を、企業TLDの申請者・一般文字列TLDの申請者の両方を対象に提供しますが、無理に勧誘せず、必要性とタイミングを正直に判断するというスタンスです。新gTLDは今後も申請のチャンスはあるため、今回を逃すとまた10年待たなければならないと考えなくとも大丈夫なのではないでしょうか。現時点でまだ具体的なプランがないようなら、焦らずに、次回のラウンドに向けて戦略的に準備を進めることです。
──ありがとうございました。




