山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

中国は世界のインターネットと切り離すという論説発表 ほか~2015年7月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

中国は世界のインターネットと切り離すという論説発表

 雑誌「中国青年報」で軍事科学院研究員が、アメリカ主導でルール作りがされているインターネットに中国が圧力をかけ、世界で共通するインターネットから、各国が各国の方法で管理するインターネットにし、中国内のインターネットのルールは中国が決めるようになるだろうと発表した。

 7月1日には、中国で新しい安全法が制定され、国家の主権の範囲はインターネットまで及ぶと定義し、中国国内のインターネットを安全にコントロールできることを要求。また、その次の週には、中国国内の管理強化の草案を発表。その内容とは、緊急の事件が発生した時には、権力によりネットワークを切断してよいというものであった。

 中国のインターネットの脱アメリカ化の手の話は初出ではなく、前から出ているが、改めて書いたことに中国が引き続き、インターネットの定義を変えようとしていることは感じられる。そしてそれを実行に移すために新しいルール作りを行っている。

「微信」に検閲機能があるとの報告

 LINEなどと世界市場で対抗する「微信(WeChat)」に、「天安門事件」や「民主化」や「腐敗」絡みのワードを入力すると、フィルタリングが働くことがカナダ・トロント大学の調査で判明した。しかも、ミニブログの「微博(Weibo)」やFacebookのような「人人網」と異なり、典型的な扇動性言論をターゲットとし、中国政府当局の認定するデマをなくし、ネット環境を健全にするためのものとしている。

 また、民間人が同様の実験をしている。香港版のiPhoneとSIMカードを利用した場合には伝わる中国にとってNGのメッセージが、中国本土のスマートフォンとSIMカードでは届かないという事象を発見した。中国のSIMカードが入ったの中国向けスマートフォンでは、フィルタリングがかけられていることが実証された。

中国のインターネットユーザー、6億6800万人に

 中国ネットワークインフォメーションセンター(CNNIC)は7月26日、2015年6月末における中国のインターネット利用状況をまとめた「第36次中国互換網発展状況統計報告」を発表。それによると、中国における2015年6月末時点のインターネット利用者は6億6800万人となった。この数字は半年で1894万人、年間で3569万人増となる。スマートフォンなどモバイルインターネットの利用者は5億9400万人で、インターネット利用者の多くがスマートフォンなどのモバイルデバイスも利用してインターネットしているわけだ。

モバイルインターネット利用者数の推移

 利用用途での大きな変化は、今年上半期に中国株の株価上昇にともなう株・投資信託と、競争激化で各社が小金をユーザーにばらまいたことによるオンラインペイメントが増加。反面、目立った減少を見せたのが、マイクロブログの微博であった。

 そんな中国株が7月には乱高下したのが話題になった。株・投資信託の利用者は5628万人とCNNICは推計しているが、中国決算中心という組織の発表においては、中国の株投資家を9000万人と推定。つまり株投資家のうちの62.5%が利用していることになる。

ネット企業らが、バスの配車サービスをスタート

 Uberをきっかけに中国でもタクシー配車サービスが続々と登場し、激しい価格・サービス競争が行われた。バスの配車サービスでも7月16日に、タクシー配車サービス大手の「滴滴」「快的」が参入。中国のIT企業が集中する北京の中関村を起点に、周辺の住宅地を結ぶ直行バスが複数の企業からすでに運航されていて価格競争になっている。また、深センでも同様に競争が起きている。配車サービスのバス運用の是非については、まだ法律で定められておらず、各ネット企業は、法の空白があるうちに実績を出して認められるようにするのだろう。この動きに対して、北京の路線バス企業「北京公交集団」も7月26日より、中関村や金融街、ビジネスセンターなど主要地点を結ぶ直行バスの運行を開始した。

 ネットリテラシーの高い地域で業界再編をともなう競争がある一方で、その他の地域ではサービス認知度は低く、展開も後回しとなっていて、サービスの普及度に大きな差が見られるが、やがて他都市でも広がっていくだろう。

中国政府、海賊版音楽にメス

 国家版権局は「関于責令網絡音楽服務商停止未経授権伝播音楽作品的通知(版権のない音楽作品配信を行うオンライン音楽配信サービス停止についての通知)」を発表。2015年7月から国家版権局は、各音楽配信サイトに版権なき音楽は消すように通達した。今年6月から、公安部や国家版権局による毎年恒例の海賊版コンテンツ打撃啓蒙活動「剣網」を打ち出しているが、今年は音楽配信に重点が置かれているという。

 これまで政府は政府管理のコンテンツでない限りは、不特定多数の音楽配信サイトの海賊版対策はしておらず、コンテンツホルダーが未許可の配信者へ訴訟を起こしていた。7月になっても海賊版を配信しているという通報を受けて、中国ベンダーのiOS向け音楽配信アプリが削除され、ベンダーがアップし直すといったトラブルが起きている。民間レベルでは海賊版対策を行っていたが、国がようやっと動いたわけだ。

 こうした中で、7月15日には、国家版権局のもとで「QQ音楽」「酷狗音楽」「網易雲音楽」など主要サイトを含む音楽配信サイト25サイトが集まり、正規版音楽配信を目的とした「網絡音楽版権保護自律宣言」を発表した。

 8月になって海賊版配信で閉鎖されたサイトに関するニュースは聞かない。

「小米」が再びスマートフォン市場でトップシェアに

 IHS Technologyが発表した、今年4月~6月の中国スマートフォン市場シェアによれば、「小米(Xiaomi)」が18%、「華為(Huawei)」が16%、「Apple」が12%、「Vivo」が10%、「Samsung」が9%となった。

 QQSurveyが調査した「次に買うスマートフォンブランド」では、「Apple」が49.5%で最多。以下、「Samsung」が44.1%、「小米」が40.7%、「魅族」が21.0%、「Lenovo」が15.0%と続いている。

 中関村在線の2015年第1四半期における同サイト利用者の調査によると、関心のあるスマートフォンの7割が4G対応、画面サイズでは4.6~5.0インチ(37.4%)と5.1インチ~5.5インチ(35.3%)に集中し、5.5インチ以上(12%)の関心は高くなく、価格帯では1000元以下(27.6%)と1001~2000元(26.5%)、2001~3000元(21.0%)に集中している。

 なお、中国政府工業和信息化部の月例報告によると、6月末の4G加入者数は2億2546万、3G加入者数は4億4845万となっている。

携帯電話売り場から客が消えた。現在はネット販売が中心

中国ナンバー1のメールサービスがアップデートで利用不可に

 中国のメールサービスの代名詞的なポータルサイト「網易(NetEase)」のメールサービスが7月16日の夜に突然利用できなくなった。翌17日の朝、復旧した。網易は「システムのアップデートのため」としているが、ユーザーからは多くの不満が出る結果に。同社のメールサービスのユーザー数は8億弱。メールサービスは、中国のインターネットユーザーの3分の1強にあたる2億4500万人が利用しており、その多くが同社のメールサービスを利用している。

企業が抱える賄賂問題、解決まで道長く

 中国を代表するインターネット企業3社こと「百度(Baidu)」「阿里巴巴(Alibaba)」「騰訊(Tencent)」は、その企業規模と影響力から、社員の中には賄賂を要求する社員も出てきていて、すべての社員をクリーンにすることはなかなか難しいようだ。

 元騰訊の重要メンバーで現阿里巴巴の劉春寧氏は、同氏の部下が動画配信事業で賄賂をもらっているとして騰訊から通報されて現地警察に逮捕された。その騰訊においても今年4月に同社スタッフが賄賂をもらい逮捕され、百度においても今年5月に7人のスタッフが同様に逮捕されたことが報道されている。具体的な内容についてはないものもあるが、例えば騰訊の逮捕されたスタッフにおいては、数十万元の賄賂を贈ることでチャットソフトQQのアカウントを消去するという行為をしたことが報じられている。

中国のB2C ECサイト市場、堅調な伸び

 調査会社の易観智庫(Analysys)は2015年第2四半期のB2C ECサイト市場についての調査結果「中国網上零售市場季度監測報告2015年第2季度」を発表。同期におけるB2C ECサイトの市場規模は、前年同期比45.7%増の4670億元(約9兆3400億円)となり、過去の四半期での市場規模と比べても最大となった。これには、11月11日の商戦日同様、有力なECサイトが4月18日、5月20日、6月18日にセールを仕掛けたことと、春から夏に季節が変わる中で白物家電と服が売れたのが原因。

 サイト別では阿里巴巴の「天猫(Tmall)」が54.1%で首位。それに「京東」が24.8%と追い、「蘇寧」「Amazon中国」「当当網」「1号店」などその他のサイトのシェアが4%以下と大きく開く2強状態だ。

中国B2C市場シェア

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。