山谷剛史のマンスリー・チャイナネット事件簿

実質的に海外への回線速度を制限 ほか~2015年8月

 本連載では、中国のネット関連ニュース(+α)からいくつかピックアップして、中国を拠点とする筆者が“中国に行ったことのない方にもわかりやすく”をモットーに、中国のインターネットにまつわる政府が絡む堅いニュースから三面ニュースまで、それに中国インターネットのトレンドなどをレポートしていきます。

実質的に海外への回線速度を制限

 固定回線上海を管轄する中国電信系企業「上海電信」が、同社のFTTHサービス利用者(個人)を対象に、海外へのアクセスが高速化されるサービス「〓気瓶」(〓は気のメの部分が炎。窒素ボンベという意味)を正式にスタートさせた。3時間2元(約38円)、連続で24時間利用可能な海外サイトへのアクセス高速化サービスで、理論値で下り50Mbps/上り10Mbpsを実現するという。中国電信は以前から「国際精品網」というサービスがあるが、プロバイダー代とは別に1カ月200元(約3800円)かかり不評であった。

 中国国内のブロードバンド回線速度については、寛帯発展聯盟の発表によれば、2015年第2四半期において、ブロードバンドユーザーの平均ダウンロード速度は6.11Mbps、動画サイトに限れば5.98Mbpsとなっている。

 しかし海外へのアクセスについてはこの限りではなく、こと最近(6月という説が多い)、速度が遅くなったとヘビーユーザーからは不満であった。これはGoogleやTwitter、Facebook、YouTubeなどの中国からアクセスできないサイトへの壁越えが遅くなったという話ではなく、中国からのアクセスが禁止されていないサイトや、海外のオンラインショッピングサイト、海外のゲームサーバーなどの利用で遅すぎて利用できないという点で不満だとしている。上海だけでなく、他の地域でも回線速度は遅くなっている。ヘビーユーザーらは、海外へのアクセスをさせないようにする新しい手法だと不満を漏らしている。

天津大爆発への関心は非常に高まるも、すぐに無関心に

 8月12日に発生した天津での爆発事故は、付近の人々がスマートフォンで撮影し、微信(Wechat)や微博(Weibo)などで発信したことで多くの人に伝わり、また、中国各地の新聞紙でトップニュースになったことで、多くの人の目にとまることとなった。その事故のインパクトから、普段では滅多に見ない、中国全土から注目を浴びたニュースとなった。事故直後は百度で「天津 爆発」で検索すると、検索結果のページがカラーから白黒になるなど、大事故・大事件時の大手サイトの対応技術は向上しているようだ。

 しかし大爆発以降もどれだけの人的被害や産業の被害があるかなどについて、公式発表が小出しにされるだけであった。その一方で死者数の推測の記事や爆発現場でのレポートは、デマだとしてネット検閲により消され、関係各所が警告を発した。新しい情報が出ない中、天津大爆発の検索数は3日後には事故当日の検索数の5分の1程度に、1週間後には20分の1程度となり、関心がトーンダウンしていった。

 2022年の冬季五輪開催地に北京が選ばれたが、9時間後をピークに、1日を経たず関心はなくなっている。

天津大爆発の特集ページ。しかし、被害状況詳細が分かる報道はなかった
「天津大爆発」で検索すると、画面は白黒になる

1万5000人をネットの安全に危害を加えたことで逮捕

 8月18日、中国警察は1万5000人の「ネットの安全に危害を与えた」とした犯罪者を逮捕したと発表(期間に関しての表記はないが、年初からの数字であることが多い)。また、8月25日には、国家網信方は、半年間で300近い違法サイトを閉鎖したことを発表した。何で逮捕されたのか具体的な情報はなく、このニュースを目にしたハッカーやネットのヘビーユーザーは心配をしている。

発達するEC、ブランド力よりも口コミが購入の動機に

 CNNIC(China Internet Network Information Center)は、オンラインショッピングについての調査結果「2014年中国網絡購物市場研究報告」を発表した。

 これによると2014年末におけるオンラインショッピングユーザー数は3億6100万人で、前年比では6000万人弱の増加となり、インターネットユーザーの半数以上となる55.7%が利用している。購入頻度も購入価格も高いヘビーユーザーはこのうちの12.9%、残りがライトユーザーである。また、個人向けオンラインショッピング市場規模は2兆7898億元となった。この数字は前年比約50%増、2010年と比べて約5.5倍である。

個人向けEC市場規模の推移
モバイルでのEC利用者がこの1年で上昇した
EC利用者の実態。赤はヘビーECユーザー、青は一般ECユーザー
半年間でECサイトで購入した回数で見るヘビーECユーザーの実態
半年間でECサイトで購入した金額で見るヘビーECユーザーの実態

 オンラインショッピングユーザーが購入した商品ジャンルは「アパレル」(75.3%)が特別多く、以下、多い順に「デジタル製品」(37.5%)、「日用品」(34.4%)、「ゲーム用バーチャルマネー」(33.1%)、「家電」(26.6%)、「化粧品」(25.9%)、「(健康)食品」(25.4%)、「カバン」(24.9%)、「書籍、CD/DVD」(24.1%)、「航空券・ホテル予約」(18.7%)、「映画チケット」(16.8%)、「レストラン予約」(15.3%)となった。特に航空券や映画予約などの電子チケットと、平均価格の高い家電の利用が昨年に比べて高かった。

 前述のとおり、中国のオンラインショッピング市場規模は大きくなっているが、購入単価が上がったという理由から、平均利用回数は若干減少している。支払いには、88.2%が支付宝(Alipay)などのエスクローサービスを利用している。

生活の支出におけるオンラインショッピングの比率
個人向けECサイトでの総販売数と平均購入回数の推移

 あるサイトで商品を購入するときの決め手は「商品の口コミ」(71.1%)が「販売店の評価」(62.3%)や「価格」(58.1%)、「配送スピード」(57.3%)、「商品のブランド」(44.8%)、「販売店のキャンペーン」(38.4%)を上回り、口コミが一番大事という結果に。口コミについて、微信(WeChat)や微博(Weibo)など、SNS経由での商品販売の広告が混ざっていても、ほぼ半数弱がそれを受け入れ、4分の1が購入したことがあるという。

EC利用者が利用するSNS

 サイト別知名度では、阿里巴巴系の「淘宝網」(87.0%)、「天猫」(69.7%)が強く、「京東」(45.3%)が追う。以下、「唯品会」(18.8%)、「当当」(16.2%)、「蘇寧易購」(14.2%)、「1号店」(12.9%)、「アマゾン中国」(12.6%)、「聚美優品」(11.7%)が続く。

 また、中国ではトラブル対策として、7日以内なら無条件で返品できるが、2014年においては3割がこの無条件返品システムを利用し、利用した75%が常に返品に成功したとしている。

爆買いで注目の越境EC、普及の壁はまだまだ高く

 上述のCNNIC発表の「2014年中国網絡購物市場研究報告」において、越境ECについても触れている。2014年の越境EC利用率は、オンラインショッピング利用者の4.8%とまだまだ低い。人気の商品ジャンルは「服、カバン」(45.5%)、「化粧品」(35.8%)が多く、以下、「粉ミルク、ベビー用品」(23.1%)、「デジタル製品」(20.1%)、「健康食品」(17.2%)、「書籍、CD」(11.9%)、「ギフト」(9.7%)、「ぜいたく品」(9.0%)、「家具」(8.2%)、「腕時計、貴金属」(8.2%)となった。越境ECの平均利用回数は8回、消費平均金額は4948元(10万円弱)。

 越境EC利用者の購入した商品は、国別では「米国」(58.2%)、「韓国」(34.3%)、「日本」(30.6%)、「オーストラリア」(17.9%)、「英国」(11.2%)、「ニュージーランド」(10.4%)となっている。購入方法は「海外サイトで直接購入」(59.7%)、「中国の越境ECのサイトで購入」(56.7%)、「微信のグループ機能で購入する」(26.9%)となった。

 越境ECを利用する理由として「品質がいい」「中国はニセモノだらけだから」「価格が中国より安いから」「外国でしか売っていないものがあるから」が挙げられる一方、「配送時間が長すぎる」ということが不満として挙げられている。例えば中国の内陸の都市でも、沿岸部のショップで購入して3日程度で到着することを考えればスピード感が足りないことは分かるだろう。

認知されている中国国内向けECサイト

 さて、CNNICとは別に、淘宝網が10年間の同サイトを利用した越境ECについてまとめた「十年海淘報告」を発表している。それによると、この10年で見れば、販売数販売額ともに上海と北京での利用が圧倒的。商品については、2007年から香港の商品が、2009年から日本の商品が、2011年から欧米、2014年から北欧や南アフリカに注目が集まりだした。2007年にはぜいたく品や化粧品を、2008年には加えて粉ミルクやおむつが、これらに加え、2009年にはおかしが、2011年にはモバイルやデジタル製品が、2014年には運動靴や腕時計が、2015年には家具や年ごとに売れる商品ジャンルが増えた。この背景には口コミはあるが、加えて中国の毒粉ミルク事件に合わせて輸入粉ミルクが売れるなど、世相も反映したものとなっている。

年が経過するごとに興味ある海外の商品ジャンルは増える

三井物産と大手サイトが提携し、中国での日本の商品販売に進出

 爆買いニーズがある一方、上記のとおり、越境ECの利用者は非常に少なく、これからではある。こうした中、三井物産と中国の大手ポータルサイト「網易(NetEase)」が提携し、同サイトの越境ECサイト「考拉海購」(http://www.kaola.com/)で、中国市場向けに人気の日本商品の販売を行うことを発表した。

 日本の商品は経済特区内の倉庫でキープし、オーダーを受けたら網易が迅速に配送を行う。価格面ではそこそこ安い(最安ではない)が、それ以上に、2、3日で商品が到着するという迅速な配送をアピールする。迅速な配送はプラスだが、現段階では考拉海購は有名でないこと、最も安いわけではないことがマイナスではある。ただ、越境ECサイトはこれからなので、今後についてはサイトの知名度と評判次第だ。

考拉

関心を持つニュースジャンルに地域差

 中国製ブラウザー「UCブラウザー」は、特にモバイル向けでのシェアが高い。これを提供している「UC Web」が、同ブラウザーの利用実態についての調査レポートを発表した。

 コンテンツに関しては、多い順に「中国ニュース」(64%)、「時事」(58%)、「エンタメ」(47%)、「国際ニュース」(39%)、「ネットで話題の商品」(36%)、「健康」(30%)、「ハイテク」(27%)、「異性」(26%)、「経済」(24%)、「スポーツ」(22%)、「お笑い」(20%)、「科学」(20%)、「車」(18%)、「軍事」(17%)、「歴史」(17%)、「旅行」(16%)、「ゲーム」(16%)、「育児」(15%)、「仕事」(14%)、「食事」(14%)、「ファッション」(13%)、「不動産」(9%)となった(ただし、UCブラウザーの利用者は男性が多い)。

 エンタメはサイト訪問がとりわけ高頻度で、歴史やお笑いのコンテンツはサイトにとどまる時間が長い。地域差はあり、北京は政治に、上海では国際ニュースに、広州では健康に、深センでは経済に、重慶ではお笑いにそれぞれ関心が高いという傾向が見られた。読後のアクションで、コメントが多いのがエンタメと時事で、シェアが多いのが異性、お気に入りに登録するのがネットの人気商品や健康であった。

山谷 剛史

海外専門のITライター。カバー範囲は中国・北欧・インド・東南アジア。さらなるエリア拡大を目指して日々精進中。現在中国滞在中。著書に「日本人が知らない中国ネットトレンド2014」「新しい中国人 ネットで団結する若者たち」などがある。