誰もが起業できる世界を~もしも実藤裕史社長(後編)


アフィリエイトサイト「ウェブデパ」

株式会社もしも 代表取締役社長 実藤裕史氏。起業という夢に立ち返り、アフィリエイトサイト「ウェブデパ」を立ち上げたのが2004年、いまから5年前のことだ

 質屋の仕事を辞めることを決めたら、今度は他の質屋から、ネット事業部門の立ち上げを頼まれました。悩んで友達に相談したところ、「お前は雇われのままでいいのか」と怒鳴られました。目が覚める思いでした。

 そうだ、僕の夢は起業だ。自分の夢を思い出した僕は、起業に向けて、Webのデパートを意味するアフィリエイトサイト「ウェブデパ」を作り上げました。2004年のことです。

 ブランドショップをやっていた頃、ブランド品の紹介サイトを作っているアフィリエイターがおり、そこ経由での売上がかなりあったのを覚えていました。自分もいけるのではないかと思い、作ってみたのです。

 しかし、思ったようにはうまくいきませんでした。アフィリエイトは売上全体の1~3%しか収入として入ってこないので、ブランドショップとは収益モデルが違います。そのため、まったく収入につながらなかったのです。

 そんな時、カリスマ主婦アフィリエイターと知り合い、アドバイスを受けることができました。ポイントは、コンテンツを充実させて役に立つサイトにすることと、SEO対策をすること。そうすることでお客の数が増え、数カ月で効果が現れて売上が上がるようになりました。

 8カ月目くらいで売上が月100万円を超えるようになりました。そこで法人化し、「ウェブデパ」という会社を作りました。サイト作りと運営面で協力してもらったオイシックスで同期だった現もしも取締役の豊田啓佑や、学生時代の友達に集まってもらっての起業でした。

 アフィリエイト事業は波に乗りました。しかし、何とかなるだろうとSNS事業に手を出した結果、赤字に転落してしまったのです。自分の給料を15万円に下げても生活は苦しく、電話、電気、ガス、水道が次々と止められました。給料日前に従業員の給料をカードローンで借りるような生活。最大のピンチは、父に援助をお願いして何とか乗り越えました。その後は、徐々に売上が上がるようになっていました。

ドロップシッピングとの出会い

 ただ、限界も見えていました。売上を伸ばすことはできますが、やりがいが感じられない。僕らの作ったサイトを見てくれても、実際に買うのは他のサイトからなので、お客様の声も届かないし実感も湧きません。ECがやりたい。けれど、それにはお金もかかるし倉庫も必要になる。どうしたらいいのだろう―。

 そんなある日、「ドロップシッピング」を知ったのです。これなら、倉庫も仕入れもなしで、個人で値付けをして販売ができる。僕がやりたかったことにとても近かったんですね。どうせなら仕組みに乗っかるより、自分で仕組みが作りたい。

 社外取締役を勤めていた豊田に「ドロップシッピングがしてみたい」と相談したところ、「できるわけない」と言われて。倉庫も仕入れも必要だし、知識もお金もないしと。もっともだったのですが、どうしてもやりたかったので、裏で準備を進めていました。

出資、「もしも」誕生

 ネットプライスの佐藤輝英社長と出会ったのはその頃です。最初の印象は、「ごつくて怖い人がいるな」というもの(笑)。「ドロップシッピングがやりたい」と話したところ、ぽんと5千万円出資をしようと言ってくれたのです。

 出資を受けるため、事前調査(デューデリジェンス)を受けました。この時の登記変更をきっかけに、社名を変更することにしました。株式会社「もしも」の誕生です。新しい社名には、起業の応援と、社会との接点が少なくなっている人の応援という意味を込めました。みんなの「もしも…だったら」を応援したいと考えたのです。2006年6月のことです。

もしもドロップシッピング
http://www.moshimo.com/

起業の応援と、社会との接点が少なくなっている人の応援という意味を込めて社名を「もしも」に変更。みんなの「もしも……だったら」を応援したいと考えたという

反響、吹っ飛んだサーバー

 ドロップシッピングを始める。それにはシステムから作らなければいけないのに、うちにはプログラマがいませんでした。そこで周囲に聞いて回って、見つけると積極的に誘いました。何とか2人ほど見つけ出し、たった2カ月でシステムを作り上げていきました。

 2006年8月、テレビ東京の報道番組「ワールドビジネスサテライト」の取材申し込みがきました。取材申し込み時点ではシステムはまったく動かなかったものの、何とか放送には間に合わせました。競合他社もリリースは出していましたが、突貫工事のおかげでどこよりも早く始めることができました。「もしもドロップシッピング」のスタートです。

 「ワールドビジネスサテライト」で紹介された反響はすごくて、翌日は「やりたい」という電話が鳴りやまず、恐ろしい数のメールがきました。1通返事を返している間に2通来るという具合で、2日で3000通もの申し込みメールが殺到しました。

 サービス開始3日目のことです。サーバーにつながらないと思ったら、何とサーバーが壊れ、おまけにバックアップも取っていないという。頭が真っ白になりましたが、とにかく対応しなければいけません。記憶を頼りにプログラムを書き直し、スタッフ全員で48時間寝ずに直し続けました。無事復旧した時には、喜ぶ余裕もありませんでしたね(笑)。

つぶれかけてからの再決起

ニンテンドーDS用ソフト「SBIグループ監修 はじめよう! 資産運用DS」発売記念セミナーで講演する北尾吉孝氏(2008年、GAME Watch記事より)。「北尾さんがあのとき出資してくれなかったら、会社は確実に潰れていた」という

 競合他社も次々とドロップシッピングを開始し、比較サイトもできました。しかし、どこも「もしもが一番使いやすい」と評価してくれました。違いは、他社はBtoBの感覚で作っていたものの、僕には個人でビジネスをする人の感覚がわかっていたことです。法人では当たり前のことも、個人ではそうではないものです。

 もしもは、うちが販売責任者となり、問い合わせも引き受ける。返品のリスクもうちが背負うことにしました。リスクを全部引き受けたので、当初は売れば売るほど赤字でした。けれど、喜んでもらえるサービスでなければ繁栄はないと考えて、頑張りました。

 ショップ数は順調に増えたものの、売れれば売れるほど負担はかさみ、月に約1500万円の赤字が出ていました。1日50万円の損失が出ている計算になります。土日も休まずに働きましたが、資金はすぐに底を尽きました。資金調達のためにベンチャーキャピタルを回りましたが、まったく相手にしてもらえませんでした。10社のうち9社は話を聞いただけで終わりでした。

 そんな時、SBIホールディングスCEOの北尾吉孝さんを紹介されました。2005年のライブドアによるニッポン放送買収の際に、ホワイトナイトとして登場し買収を阻止した人です。当時、テレビにも何度も登場されたので、覚えている方も少なくないと思います。

 北尾さんにも一度は出資を断られかけたものの、懸命にお願いしたところ、「やり抜くなら出そう」と言っていただけたのです。優しい目をした人だなと思いました。後で知ったのですが、挑戦する人には優しい方のようです。その後、「北尾さんが出すなら」とさまざまな方が出資してくれることになりました。

 1週間後、「振り込んでくれると言ったけれど気が変わられたりしないだろうか」と、どきどきしながら口座を確認しました。はたして、無事1億6千万円が振り込まれていました。そのお金がなければ、確実に会社がつぶれていたところです。出資していただいたお金は、人材の補強、サーバー増強、倉庫と物流システムの移転や商品の拡充にあてました。おかげで、会社は無事軌道に乗り始めました。それからは、順調に伸び続けています。

ドロップシッピングで儲ける秘訣

 ドロップシッピングとアフィリエイトを混同している人は多いです。ドロップシッピングのメリットは利益率。アフィリエイトは売上の3%程度しか得られませんが、ドロップシッピングは売上げの平均20%が入ります。上級者ほど値段のつけ方がうまく、利益を上げていますね。

 ドロップシッピングで儲ける上で一番大事なことは、あきらめずに継続することです。特に、初めの半年間は黙って続けること。最初は売り上げるコツがわからないものですが、あれこれ試してうまくいったことを続けていけば、成功につながります。テクニックは「もしも大学」で教えていますが、人によって合うやり方が違うので、あきらめずに続けること、いろいろ試してみることが必要なのです。

子育て中の主婦も、空いた時間で家にいながらできるのが魅力。とはいえ、やるからには売上を上げたいのは当然だ。「もしも」では、メルマガやWeb講座のほか、セミナーも開催してサポートする商材も常に募集、拡充している。メーカーによっては売上の9割がドロップシッピング経由というところも

 ユーザーの声は、交流会で聞いています。恥ずかしくなるくらい誉めていただいたり、目に涙を浮かべて「このおかげで生活ができている」と言われたこともあります。起業した人もいるし、年間2億円のペースで売り上げている主婦の方もいます。

 職業別では、全体に主婦の方が多く、副業でやっている会社員の方も多いですね。2008年10月頃からは、不況の影響でドロップシッピングをやりたい人がさらに増えています。富士通などが副業を認めましたが、そうした影響もあり、利用者は増えています。

世界中の人の可能性を広げたい

「ドロップシッピングを経験した人は、誰もが『初めて注文があった時は本当にうれしかった』と言います」。実藤氏は、その喜びを、もっと多くの人に味わってもらいたい。世界中の人の可能性を広げるお手伝いがしたいと言う

 ドロップシッピングを始めたのは、多くの人たちにネットショッピングを楽しんでもらいたいからです。買い物は最高のコミュニケーションです。ドロップシッピングを経験した人は、誰もが「初めて注文があった時は本当にうれしかった」と言います。それをできるだけ多くの人たちに味わってもらいたい。

 サービスを開始してもうすぐ3年になります。これで生活している人もいるし、メーカーによっては売上の9割がドロップシッピング経由というところも出てきています。両者に喜ばれるこのサービスを、日本全国に拡大させたいですね。具体的には、年末までに商品50万点、ユーザー50万人を目指しています。

 海外展開も視野に入れています。今後、英語のサイトも作る予定です。ドロップシッピングは手元に商品がなくても作れるので、日本のものを中国に、米国のものを日本で売ることも可能です。まずは日本のショップのものを海外に売れるようにして、次に英語圏のものを他の国に売れるようにもしていきたいですね。

 いずれは世界の商品を世界中で売れるようにしたい。上場も視野に入れており、そのための準備もしています。遠くないうちに実現したいですね。

(おわり)


関連情報

2009/8/25 11:00


取材・執筆:高橋 暁子
小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三 笠書房)などの著作が多数ある。 PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っ ている。